Infinite possibility world ~ ver Servant of zero   作:花極四季

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ぶっちゃけこの話単品で読む価値ないと思う。だって肝心の勘違い要素ないし。


第五話

厨房でお食べなさい、というお許しを得られたので厨房に向かっているのだが、場所シラネということに気付く。

とはいえ、食堂と厨房が離れている訳がないので適当に歩いていれば見つかるだろうと適当に歩いていたら、それっぽい場所を発見した。

我が物顔で入るのは流石にこのゲームでは気が引けたので、ちらちらと遠巻きに確認していると、早朝に外で会った女の子が甲斐甲斐しく調理の手伝いに勤しんでいた。

朝の時とは違い、素朴な衣装からメイド服に変わっている少女の姿は、まさにデザイナーGJと言わざるを得ない。

 

「すまない。急に失礼する」

 

僕の一声に、厨房にいる人達の大半が振り返る。

その中でいの一番に反応してくれたのは、あの子だったのが嬉しかった。

作業を止め、ぱたぱたと僕の方に歩み寄ってくる。

 

「あ、貴方は朝の――」

 

「また会ったな」

 

「そうですね。それで、何故こちらにいらしたのですか?」

 

「ああ、それは――」

 

「ん?なんだお前さんは」

 

野太い声が厨房に響く。

巨躯を揺らしてこちらに近づいてくるのは、コック長と思わしき人物。

 

「マルトー料理長。彼が先程教えた――」

 

「おお、お前さんがシエスタの言っていた例の男か」

 

「ヴァルディだ。よろしく頼む」

 

「おう、こちらこそ」

 

人当たりの良い笑みで歓迎してくれるマルトー料理長。

よくある仕事では厳しいけど、心根は優しいタイプの中年男性といったところか。

 

「お前さん、話では人間じゃあないらしいが、シエスタが信用しているんだ。その辺りの事情は気にしねぇよ。部下にもそう伝えてある」

 

「こちらとしてもそれは有り難い。ただでさえ異分子ということで肩身が狭いからな、少しでも早くこの場に順応したい身としては貴方のような人が一人でも多く居ることを望むところなのだが」

 

「お前さん、期待を裏切るようで悪いがそりゃあ無茶ってもんさ。ここにいる貴族の殆どはプライドに縛られるだけの愚者ばかりだ。平民に圧政を敷くのが当然という頭の造りをしている奴が、簡単に余所者に心を許すだなんて思えん」

 

「貴族と平民の関係は、聞いた限りでは穏やかではなさそうだな」

 

「酷いなんてもんじゃねぇさ。魔法が使えない平民はそれを扱える貴族に力で支配される。杖さえあれば瞬く間に俺達の命なんて消し飛ぶもんだから、誰も逆らおうなんて考えもしない。話によるとメイジ殺しだなんて称号を持つ平民もいるらしいが、どこまで真実やら怪しいもんだな」

 

理屈は不明だが、この世界では貴族という職業=魔法使い的な位置づけにあるようだ。

そして、ここが魔法が圧倒的優位として成り立つ世界だということ。

これは予想以上にアウェーな感じだったり?

 

「シエスタにも言ったが、何か困ったことがあれば協力はしよう。とはいえ、使い魔としての身分に身を置く以上、どこまで自由でいられるかは不明だがな」

 

「……その申し出、有り難く受けとっとくよ。だが、貴族連中には逆らわん方がいい。お前さんは剣を扱うのか知らんが、そんなんじゃ勝てるとは思えねぇしよ。それに、お前さん自身だってその貴族様の使い魔だって話じゃねぇか。立場が悪くなるような真似だけはしないほうがいいぜ」

 

「ご忠告、痛み入る。しかし必要なことだからな」

 

どうやら、世界観的に見ても魔法を使えるというアドバンテージはかなりの優位性となっているようだ。

この様子では、前衛職業はあまり優遇されていないと思っていいだろう。

それに、ここまで畏れられるということは従来の魔法の概念とは全く異なる可能性すら有り得る。

ランダムでワールドを選択した弊害とはいえ、都合が悪くなったら変更なんてことはしたくない。

 

「あ、あの。私も何かお手伝いできることがあれば、何でもします。ですから、無理だけはしないでください」

 

シエスタの笑顔、プライスレス。

いや、金取っていいレベルだねこれ。彼女の頼みだったら無償でも引き受けちゃうぞー。

 

「ありがとう。それより、ここに来たのは別の理由なんだが……食事を恵んでもらいたい。使い魔は食堂には入れないらしいから、ここに行くよう指示されたのだが、出来るか?」

 

「恵んでって、随分と腰が低いな。そんな言い方せずとも、幾らだって食わせてやる!とは言っても、貴族に配るそれとは違って賄いになるがな」

 

「贅沢を言える立場ではないし、むしろ感謝しているぐらいだ」

 

「――お前ら、とっとと用意してやれ!賄いとはいえ、貴族連中に配るそれに劣らぬもんを用意しろ!」

 

厨房に張り裂けんばかりの統一された声が響く。

なんか大事になってる気がするけど、ただご飯を食べるだけなんだよなぁ。

盛り上がった空気でご飯を待つ間、この世界でのご飯のことを考えていた。

VRMMOでの食事はプレイヤーの満腹中枢を刺激するだけではなく、味もしっかり際限されているらしい。

だけど、味覚の善し悪しなんて人それぞれなんだし、料理の味は安定した素朴なものに一貫されているってのが漫画とかでのお約束パターンだけど、色々と技術の進化を見たこの世界では、妄想を超越した結果を出してくれるだろうと結構期待していたりする。

 

「お待たせしました」

 

そう言ってシエスタが運んできたシチューやパン。

賄い、確かにその通りなぐらい平凡で質素な食事。

だけど、そんな平凡な食事が当たり前な家庭で過ごしてきた自分からすれば、シチューも普通にごちそうだ。

 

「いただきます」

 

恒例の挨拶をひとつ、下品にならない程度にシチューに口をつける。

 

「……美味い」

 

思わず口に出してしまう程、それは美味だった。

何というか、ここが第二の現実だと言われても納得できるぐらい、味はリアルかつ美味。

これはここに一生住もうとする人が出ても不思議じゃないわな。

まぁ実際にはお腹ふくれないんですが。

 

「確かに貴族の魔法は凄え。だがよ、俺達がこうやって作る食事だって一種の魔法だと思わねぇか?」

 

「確かに、言われてみればそうかもしれないな」

 

こうして当たり前のように食べているご飯だけど、幾つもある材料を絶妙な分量で組み合わせ、加工し、完成させるのは決して当たり前のことではない。

白米をただ握るぐらいの調理方法しか出来ない身の癖して、それがどれだけ凄いことなのかを今まで考えることさえしなかったのは、親が居て護られているという保証が自分の目を曇らせていたからに他ならない。

ログアウトしたら、お母さんに感謝の言葉を贈ろう。そうしよう。

 

「それだってのに、ほんの例外を除いてここで出された食事の殆どは誰の腹にも入ることなく捨てられるんだぜ。飯ひとつ作れない甘やかされた奴らが我が物顔で利権を握っているって現状は、料理人からすれば侮辱なんて言葉じゃあ済まされないもんだ。ブリミルに感謝すれど、料理人には欠片も感謝しないと来たもんだ。それだけでも聞けば、平民がどんな立場かってのは理解できるだろうよ」

 

「そこまで酷いのか……」

 

マルトー料理長の言葉を完全に信じるのであれば、これはまさに平民なんて名ばかりの奴隷ではないか。

ルイズちゃんも同じとは思いたくないが、もしそうだったなら、僕がどうにかして変えていかないといけない。

そんな育成ゲームみたいな仕様がまかり通るのかは不明だが、色々試してみる価値はある。

黙々とそんなことを考えている内に、食事は恙なく終わる。

食事の最中ずっとシエスタがこっちをずっと見てたのが気になったけど、指摘するのもアレだし気付かないフリをしていたけど選択としては合っていたのかな。

気を逸したらもうできない、なんてクエストが公式イベント系を除いてあるとは流石に思えないけど、まだこのゲームの仕様をきちんと把握しきれていない以上、断定すると後悔するかもしれないしね。

 

「ごちそうさま、美味かったよ」

 

厨房が沈んだ空気に満ちていたので、頃合いだと席を立つ。

 

「おう。お前さんならいつでも歓迎だから、気兼ねなく来い。俺らの料理を美味いと言ってくれた奴に悪人なんざいねえってことぐらい、分かりきったことだしな」

 

何とも信用されたものだと思う。でも、逆に考えればそれだけここでマルトーさん達の料理が評価されていなかったと言うことにも繋がる。

良くも悪くも、世界観を知る一端の情報としては有益だった。

 

一礼して厨房を去った僕は、食堂前へと足を運ぶ。

すると偶然にもルイズちゃんも食事を終えたらしく、入り口付近で鉢合わせする。

 

「ヴァルディ。もう少ししたら授業があるから、貴方も参加しなさい」

 

そして前触れもなく、そんな事を言い出す。

少しだけ考えて、自分の意見を言う。

 

「ただでさえ話題の中心である私が生徒の輪に入ろうとしようものなら、授業にならないのではないか?」

 

「うーん。一理あるんだけど、使い魔の儀式の後の授業は使い魔を披露するって名目もあるから、本当は絶対に連れて行くべきなんだけど――」

 

そこまで口に出し、口を閉ざす。

僅かの間を置き、どこか不安を煽る表情を滲み出しつつも、絞り出すように次の言葉を口にする。

 

「――いえ、やめておきましょう。貴方の言うとおり、いらぬ混乱を招くのは教師側としても避けたいでしょうし、何も言わずとも意図を汲んでくれるでしょう。でも、貴方はその間どうするつもりなの?」

 

「授業時間という人通りの少ないタイミングを利用し、学院内を散策する」

 

「そう。あまりこういうことは言いたくないけど、問題だけは起こさないでよ」

 

「承知している」

 

自分の行動がどんな結果をもたらすかもわからない現状、カルマがマイナスになりそうな行動は避けたいのはこちらとて同じ。

念を押すと言うことは、つまりゲーム側としてもそれを懸念しているということだろう。

 

「じゃ、お昼にまたここで会いましょう」

 

その言葉を最後に、互いに別の道へと進む。

当てもなく彷徨うつもりとはいえ、そろそろ何かそれっぽいイベントが起きても不思議じゃないんだけどなぁ。いや、オンラインゲームならこんなもんか。

それにしても、さっきの思わせぶりな態度はなんだったんだろう。何かのフラグ?

 

「…………」

 

そんな事を考えて歩いていた僕は、最後まで背後から刺さる視線の存在に気付くことはなかった。

 

 

 

 

 

教室に入った瞬間、視線が私に集中する。そして、彼がいないと気付くと直ぐさま視線を外す。

誰もが総じて同じ反応を繰り返すものだから、嗤ってしまいそうになる。

そんな中、そんな空気に呑まれずに平然と近づいてくる影がひとつ。

 

「朝ぶりね、ヴァリエール。彼はどうしたのかしら?」

 

「……キュルケ」

 

「愛想でも尽かされた?まぁ、その性格で魔法もアレじゃあ、ね」

 

「尽かされてなんかない!」

 

……少なくとも、今は。

でも所詮、その理由をひた隠しにし、そうなるように仕向けているからに過ぎない。

食堂前での会話。あの時、本来ならばもっと彼をこの場に連れて行くことに抵抗するつもりだった。

しかし、この場に連れてくれば私が魔法を扱えないという事実に近づいてしまう。そのことに咄嗟に気が付いた私は、彼の意図を素直に呑む方向に直ぐさま変えたのだ。

……我ながら馬鹿なことをしている。

私が如何に抵抗したとしても、二歩三歩と軽快に進む現実を押し返す程の力が無い以上、気付かれるのは時間の問題だというのに、こうして逃げに徹している。

ヴァルディは、多少なり私を信頼してくれていると思う。そうでなければ、私の染みついた不遜な態度に憤慨のひとつでもしてもおかしくはないのだ。

自惚れかもしれないが、それはつまりそれを踏まえて私という個なのだと納得し、その上で付き合ってくれているということになる。

そして、私はそんな彼の信頼に泥を塗っている。

それが幼い頃から染みついた呪いに対する対策だとしても、彼に対しては本来例外の筈なのだ。

知らないからこそ今の関係があるのではという疑念が、最悪な自分をさらけ出すことを躊躇させている。

 

「ヴァルディだっけ?彼の話題でみんな落ち着き無くって、それ以外の話題で盛り上がりそうにもないからつまらないのよね。何故かタバサもいないしで、だからこうして貴方に会いに来てあげたのよ?」

 

「余計なお世話よ。話しかけないで」

 

「つれないわね。――あら、先生が来たから戻るわ。じゃあね」

 

最後まで飄々としたまま去っていくキュルケ。それに続くようにシュヴルーズ教諭が教壇の前に立つ。

私もそれに倣い自分の席に着席し、始まりを待つ。

 

「皆さん。この度の春の使い魔の儀式、お疲れ様でした」

 

シュヴルーズはそこで一度言葉を切る。

 

「……皆さんも知っておいででしょうが、今回の儀式においてミス・ヴァリエールがかのエルフを召喚したという事実。あれは紛れもない真実であり、現にここにいる大半の者は現実として目にしていると思います」

 

シュヴルーズの言葉に、静かに喧噪が拡がっていく。

まさかこのタイミングで生徒にカミングアウトするとは思っていなかったので、驚きだ。

 

「静粛に!――それでですが、そのエルフの彼、ヴァルディと言うらしいのですが、彼は学院内の者達に対して友好的な関係を築きたいと申したらしく、その第一歩として皆さんが何か困ったことがあった時は助力をしたいとのことです。これはオールド・オスマンとの対談時の内容らしく、虚偽は一切含まれていないとオスマン殿も申しておりました。ですよね?ミス・ヴァリエール」

 

「は、はい。ですが使い魔としての本分を逸脱しない程度の内容に制限させていただきます。こればかりは譲れません」

 

オールド・オスマンが気を利かせてくれたのだろう。こうして情報を統制しないと都合の良いデマが流れてしまう恐れがある。

オールド・オスマンの名を出した以上、もし今の言葉に偽りとなる情報が出回れば、問題となるのは間違いない。

ただでさえ立場が危ういのに、他人の悪戯程度の悪意で何もかもが壊れてしまうなんて馬鹿げたこと、許せる訳がない。

 

「はい。その辺りのこともきちんと説明されておられました。ですので何か頼むようなことがあっても、あまり込み入った内容ではなく、ちょっとした事ぐらいに留めておくように。それでは、授業に入ります」

 

再び騒がしくなるであろう前に切り上げ、授業に入る。

結局授業中にも静かになるなんてことはなく、ひそひそ話が絶えずシュヴルーズに注意される生徒が多数見受けられ、授業がまともに進むことはなかった。

 




久しぶりの投稿でありながら話が一切進まず、それでいて勘違いネタを一切仕込まないとか、もうダメだな私。

しばらくは主人公がハルゲキニアのエルフと勘違いされる、という下地をじりじりと掘り下げていく感じになりそうです。
いわゆる戦闘時のマイナスの行動がプラスに発展するような、意図しない行動による勘違いのような、瞬間的な盛り上がりの要素は期待しないで下さい。
自分で勘違いものとして作品を作っておいてなんですが、しばらくはそういった系の盛り上がりは少ないと思います。ごめんなさい。


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