Infinite possibility world ~ ver Servant of zero   作:花極四季

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前回から間が空いてしまいましたが、決してあれからすぐに風邪を引いたせいでモチベが下がったからとか、FF14のログインオンラインっぷりに入れるときに入らないととか考えていたから、完成間際だったのに放置していたなんてことはありませんよー。


第三話

学院長室から出て、今は自室に戻ってきている。

戻る過程の廊下は不気味なほど静かで、現状が如何に異常なのかを如実に物語っていた。

戻る間終始無言を貫いていたヴァルディに話しかけることもせず、ただそんな不気味を生んだ責任から逃げるように、早足で部屋へ足取りを向かわせていた。

 

ドアの締まる音がしんと静まりかえった部屋に響き渡る。

二人きりの空間。しかも男女一組が。にも関わらずそういう雰囲気は一切沸き上がらない。

主と使い魔だからとか、そういうのではない。

私はヴァルディとの距離を測りかねているから。ヴァルディはそもそも私をそういう対象として見ていないのだろう。

エルフは長寿な種族だと聞く。実年齢を聞くつもりはないが、私なんかよりも遙かに年上なのは想像がつく。

人間の寿命と成長の関係がエルフにも該当するのであれば、エルフの寿命の長さに比例して成長にも影響が出る筈。

仮に千年ぐらい生きるとして、人間にとっての十年での成長がエルフにとっては百年に相当するのであれば、青年と呼べる肉体を持つ彼は二、三百は下らない年月を生きていることになる。

そもそも、その条件が合っている保証がない上に合っていたところで何の意味もないことは確かだ。

たかだか十数年の命とは比べるのも烏滸がましい人生を送っていることだけは確かなのだから。

 

「……ヴァルディ。貴方に使い魔の役割を教えるわ」

 

沈黙を破ったのは、そんな事務的な内容だった。

我ながら馬鹿だと思う。重要なことは確かだけど、もっと他に言うべきことはあったのに。

こんなんじゃ、いつか愛想を尽かされてしまう。

とはいえ、言い出した以上言い直すわけにもいかず、説明は続けられることとなる。

 

使い魔としての恩恵の中には、五感共有というものがある。

言葉としては、目となり耳となるというものだから、全部の感覚を共有できるのではないのかもしれない。

ともかく実験してみたところ、ヴァルディの視界を見ることはできなかった。

私が未熟だからなのか、本来有り得ない契約故に発生した問題なのか、判断しかねるところである。あまり自虐的になりたくないから、安易な方向に走らないだけともいう。

次に、秘薬の素材集めの仕事があることを伝えるが、当たり前というべきかここらの地理に明るくない彼では採集は困難だという結論に達する。

採集したところで作れないのであれば意味がないのだから、別段問題はない。

 

そして、一番重要な主人を護るという行為。

この話をするにあたって、聞いておくべきことがあった。

 

「ヴァルディ。貴方って強いの?」

 

疑問とは裏腹に、内心では心配していなかった。

メイジ十人を下す実力を持つとされているのだ。火のないところに煙は立たないと言うし、仮に誇張だとしてもそれに準じる実力を持っていたと考えるのが自然だ。

 

「――――俺は弱いよ」

 

しかし、彼の口から告げられた言葉は、酷く消極的なものだった。

それに、気のせいか彼は自分のことを私ではなく、俺と言ったような。

 

「――嘘」

 

「嘘じゃない。私は弱い。少なくとも今は」

 

濁りのない瞳が私を捉える。

彼の言葉に嘘偽りは感じられない。

果たして事実なのか、謙虚に構えて心の底からそう思っているだけなのか。

その真実を知るには私達の絆はまだ、浅い。

 

「だから、強くなるためにも私は自由になることを求めたんだ。経験を積み、君のことを護れるようになりたいと思ったから」

 

「え――――」

 

予想外の言葉に、一瞬思考が停止する。

言葉を咀嚼していく内に自分が何を言われたのかを理解し、みるみる顔が紅くなっていく。

柔らかな笑みと共に告げられたことも相まって、どんどん恥ずかしさは加速していく。

 

「そ、それなら仕方ないわね。その件に関しては不満もあったけど、ご主人様を護ることに繋がるというなら、許してあげなくもないわよ」

 

「ありがとう」

 

素直な返答に、またもや反応に困る。

まくし立てるように吐き出された言葉は、尊大な言葉。

しかしそんなこと気にしていないと、ヴァルディの表情は変わらない。

普通なら嫌悪のひとつもするであろう態度。自分でも嫌気が差す、貴族の典型的なそれ。

そんな態度を相手に変わらず接してくれたことで、ルイズという存在が受け入れられたような気がして、嬉しかった。

 

「……忘れてたわ。私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。あの時は一方的に名前を聞いただけだったから」

 

「ならば、ルイズと。そう呼んでも構わないか?」

 

「好きに、しなさい」

 

一瞬主と使い魔という関係に相応しくないと渋りそうになったが、実際それは事実であり、たとえ言葉で取り繕ったところで現実は変えられない。

確かに契約はしたし、ルーンも刻まれた。だが、それだけ。

自分も含め、誰がどう見ても私と彼では釣り合ってないと思うだろう。

お情けで契約してもらったとか、周囲からは間違いなく否定的に捉えられるに決まっている。

……そうすればいずれ、私が魔法を扱えない劣等生だという事実も彼の耳に届くことだろう。

彼は少なくとも私のことを、メイジとしての最低限の能力を持っているものだと認識している筈。サモン・サーヴァントに成功している以上、そう考えるのは自然なこと。

あれ以降一度も魔法を行使していないから断言はできないが、あれは所謂偶然の産物という奴だったのではないかという不安が、私の中で消えない。

 

ルイズという少女は理想を夢見ることは多々あるが、それ以上に現実主義者である。

魔法が使えないというメイジとしての規格の外にいる彼女は、一般のメイジと比較してもブリミル信仰に熱が入っていない。

魔法が使えないのは自分が未熟だからだと言い聞かせ、あくまでブリミル信仰に穴はないと信じ続けてきた。

しかし、意思とは揺らぎ易いもの。魔法が使えないということで、魔法を絶対とする信仰に対しての意識が希薄になってしまうのは時間の問題だったといえる。

現実主義者となった理由も、そういった過程があったからこそである。

信じても何も変わらないのならば、それはただの概念でしかない。

見下され、軽蔑され、そんな悪意から逃げるために縋った祈りの強さが、貴族の片隅にもおけない存在に劣るというならば、それは最早信ずるに値しない。ブリミル信仰は彼女にとって、やがて路頭の石程度の価値しかなくなっていた。

 

それでもトリステインの民として、それを表に出すことはなかった。

ただでさえ魔法が使えないことで味方が少ないというのに、これ以上敵をいたずらに作るような愚行は犯せない。

だから、上辺だけでも貴族らしく振る舞った。

その結果貴族の下である平民に苦行を強いることになっても、輪の中から外れたくないという孤独な祈りを成就させるためには、致し方ない犠牲だったのだと見て見ぬふりをした。

現実主義者であるが故に、平民の大事さは理解していた。

メイジは確かに個で優れた力を行使することはできる。

だが、本格的に戦力となるのはトライアングル寄りのラインからだとルイズは考えている。

 

ドットメイジの中でも優秀とされているグラモン家の三男、ギーシュ・ド・グラモンという男がいる。

彼は土の魔法、錬金でゴーレムを生成することができる。

個人で小隊を形成できるという点では、確かに優秀なのは納得できる。

だが、その操作を十全に発揮するには、ドットの実力では足りないと推測している。

剣で攻撃するタイプ、盾で本体を護るタイプと、多岐に渡る戦術を個人の意思ひとつで操作するというのは、簡単なことではない。

一度発動してしまえば済む放出系の魔法と違い、ゴーレムの操作は継続しなければ意味がない。

故に、他のドットメイジと比較してギーシュは優秀だと言われているのだろう。

だが所詮それも、今の彼の限界でしかない。

 

ギーシュという男は軽薄であり、自分の能力に自信を持っている。

これだけの情報でも、彼が如何に人間として出来ていないかがわかるだろう。

そんな男だから、自分を美化するためにあらゆる動作に無駄なものを付与してしまう。

ワルキューレと名付けた女性型ゴーレムを彼は愛用している。

女の形を精巧に再現する能力は評価できるが、それがゴーレムの性能を著しく低下させていることに気付いていない。

メイジにとって魔法は神の奇跡そのもの。だからこそ、自分の力が打破されないものだと信じて疑っていない。

これはギーシュに限らず、ドットやラインのただ魔法を使えるだけのメイジに共通した驕りだと思う。

特別な力を使える自分は特別だ。だから魔法を使って敗北なんて有り得ない。極端すぎるかもしれないが、そういう考えが完全に失せているなんてことはないだろう。

だから、成長しない。現状に危機感を持たず、あっけらかんとそこそこの努力で頑張ったところで、実になるのはいつになることか。

ドットからラインに上がる努力をとまでは言わないが、女型という耐久力や弱点の剝き出している構造などを改善しないと、下手をすれば一介の傭兵にすら負ける可能性だってある。

 

とはいえだ。魔法は必ずしも戦闘のために使う訳ではない。

ドットメイジの錬金の精度にしては他と比べて洗練されているのを見れば、才能がない訳ではないのはわかる。

あまり見たことはないが、ワルキューレを動かす精度も中々のものだった。

あれでランクが上がれば、戦いに用いずとも日常生活で自由な手足が複数扱えるようになることを目指すのであれば、あれはあれでいいのかもしれない。

現状、学院内のドットなら彼に敵う相手はいないだろうし、決して弱い訳ではないしね。

……誉めたいのか貶めたいのかわからないわね、これじゃ。

 

平民はメイジに絶対に勝てないと聞くが、ならば何故メイジ殺しという言葉ができたのだろうか。

単純な話、魔法は万能ではないからだ。

メイジとて平民と肉体構造は一緒。眉間に矢を射られれば共通して死ぬのは明白。

扱う存在が同じ人間ならば、絶対なんてことは有り得ない。

なのに何故そんな公式ができあがったのか。それは間違いなく、ブリミル信仰を絶対のものとするべく意図的に拡げられた風潮だからだ。

メイジに太刀打ちできる平民なんてたかがしれている。だからこそ、その言葉は重みを持ち、次第に平民にとっての枷となり、思考停止に到らせる毒にすらなった。

魔法が弱いなんて事は口が裂けても言えないが、平民には数の暴力という特性がある。平民が一致団結して武器を持てば、メイジ側もただでは済まないだろう。

平民を恐怖で縛るのは、平民が国の石垣で、歯車であるからだと一部のお偉方が理解しているからであり、同時にいざ徒党を組んで反抗されれば国の流れがそれだけで狂ってしまうからだ。

 

メイジが如何に優秀でも、数では平民に劣る。

更にメイジの中でも優秀な者をふるいに掛ければ、もっと減る。

メイジとして国家に貢献できるほどの価値がある存在など、一握りだ。

更に、そのメイジを個人で圧倒するエルフという存在もいる。

それなのに何故、あそこまで優越感に浸れるのか。理解に苦しむ。

 

――――あまりにも脱線しすぎたので戻そう。

 

ルイズという少女は従来のメイジとは違う目線で世界を見ている。

メイジの風上にも置けない奴らでさえ使える魔法に信用なんか置いていないし、使えるようになってもその考えは変わらないと思っている。

魔法が使えないという事実が、皮肉にも貴族らしさとは何かを考える切っ掛けを与えることとなった。

感謝はできないけど、もし私が魔法を使えていたら一生そんなことを考えることはなかったと思うと、蔑ろにできる問題でもない。

 

魔法を使えないことは未だにコンプレックスだが、今は昔のように居場所を求めるために魔法が欲しいとは思っていない。

いや、究極的には同じなのかもしれない。

だってその居場所とはヴァルディのことであり、彼に失望されたら居場所を失うのと同義なのだから。

失望の理由となる魔法が扱えるかどうかの問題で執着するのは、結局は昔も今も変わらないままなのか。

だから、まだ彼に事実は打ち明けられない。時期を早めれば、それだけで可能性を絞る羽目になる。

卑怯だとは思う。だけど、居場所を求めて足掻こうとすることが罪深いことだというのなら、私は罪人でいい。

 

「なぁ」

 

「……何?」

 

「誰か来る」

 

「え?」

 

突然のヴァルディの言葉に、思考が追いつく間もなく、ドアが開かれる。

鍵は掛けていたから、アンロックの魔法を使われたのは予想できる。

しかし、普通は部屋主の所在を確かめるべくノックのひとつはするだろう。

そしてこの問答無用といったノリで部屋を訪れる招かれざる客の正体に、ひとりだけ心当たりがある。

 

「はーい、ヴァリエール。お邪魔するわよ」

 

そこには怨敵であるキュルケが、我が物顔で私の部屋へと侵入する姿があった。

 

 

 

 

 

これから拠点となるであろうヴァリエールちゃんの部屋で、使い魔の役割について説明をされた。

五感共有・素材採集・護衛の三つの役割があるらしいが、五感に関してはあってもなくても判断のしようがないし、残り二つに関してはこれから頑張っていくしかない。

素材採集は、合成か何かで消費するんだろうけど、合成の知識が無い今では優先度は高くはない。

目下の目標は、クエストをこなしながらのレベル上げになるだろう。

取り敢えず、強いのか?という展開的に仕方ない質問に正直に答えておく。

あと、今更だけどヴァリエールちゃんの本名を聞かされたので、呼びやすいルイズという部分を採用することにした。

そんな感じで話を進めていると、誰かの足音が聞こえる。

耳が長いぶん聴力に優れているのか、壁が薄いのか知らないけど、気付いていないルイズちゃんにそのことを伝えると、間髪入れずにドアが開かれた。

 

「はーい、ヴァリエール。お邪魔するわよ」

 

気さくそうな声と共に現れたのは、あの時確か広場にいた褐色の女性だった。

 

「何勝手に入ってきてるのよ。これだからツェルプストーの血は。礼節が欠けているったらないわ」

 

「その様子なら、気に掛ける必要もなかったようね。今頃何をすればいいかわからないと涙を浮かべていたんじゃないかと心配していたのよ~?」

 

「お生憎様、いつもの私よ。わかったなら出て行きなさい」

 

「つれないわねぇ。私に彼を紹介してくれる甲斐性ぐらい見せてもいいんじゃない?」

 

「アンタに紹介しようものなら色々面倒なことにしかならないなんてわかりきっているのに、なんでそんなことしなくちゃならないのよ!」

 

こっちの存在そっちのけで、いきなり口論を始め出す。

二人の関係が知り合い以上なのは最早言うまでもなく、所謂こういう会話を日常茶飯事的に行う関係だということもなんとなく予想できる。

 

「名乗るぐらい構わんだろう。どうせこの場で言わずともいずれ広まる」

 

「そうよ。彼は時の人なんだから、意地張ったところで結果は変わらないわよ」

 

「そういう問題じゃない!アンタにいちいち紹介するってこと自体が気にくわないの!」

 

「やれやれ、子供ねぇホント。あんな子供は放っておいて、お名前を伺ってもよろしくて?」

 

「ヴァルディだ」

 

ルイズちゃんがぎゃーぎゃー抗議の声を張り上げているが、話が進まないので無視。キャラ濃すぎだろルイズちゃん。

 

「私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。キュルケでいいわよ」

 

差し出された手を握り返し、握手が成立する。

それにしても、二人は同学年設定なのだろうか。結構親しそうだし、二人のやり取りからは年齢差を感じさせない。

制服のリボンとかで学年が分かれているのかもしれないが、生憎と比較対象がないのでこの場では確かめようがない。

だから全く同じデザインの制服を着ている=同学年という結論で今は落ち着こう。

そもそも何故そんな疑問を覚えたのかというと、二人の外見があまりにも同学年には見えなかったからである。

とはいえ、リアルだとこんな凹凸コンビはそうそう見られるものではないが、ゲームだと意外とデフォだったりするし、気にするようなことではないのも事実。

まぁぶっちゃけ、気にするだけ無駄と。

 

「それにしても、貴方がエルフを召喚ねぇ。ホントどう間違ったらそうなるのかしら」

 

「間違いじゃない!これが私の実力なのよ!」

 

「実力、ねぇ。……ま、潜在して持ち腐れになっている感はあるけど」

 

「ぬぐ……」

 

「そんなことは今はいいのよ。……で、ヴァルディだったかしら。お話を聞かせてもらってもよろしくて?」

 

「内容にもよるが」

 

「貴方、どうしてヴァリエールの使い魔になったの?この子の潜在能力云々の話を抜きにしても、貴方ならあの場から逃げおおせるぐらい容易かった筈。少なくとも、使い魔として一生を彼女のために捧げるような真似はしなくて済んだのに、何故?」

 

「……何故、か。そもそも契約の段階で私は契約による誓約を知らなかった故、リスクは考慮に入れていなかった。とはいえ、すべてを知った上でも後悔はしていないが」

 

「理解できないわね、その考えは。私だったら一生を見知らぬ他人のために捧げるなんてまっぴらゴメンよ」

 

「そうだろうな。それが普通なのだろう。だが、君の使い魔だって同じ気持ちかもしれんぞ。契約関係の何たるかを相互理解した上で契約をしているなら何も言うことはないが、理解できないと発言した上で理不尽を強要したというのであれば、関心はできんな」

 

「…………」

 

「とはいえ、その使い魔も私のような考えかもしれんし一概に君を否定することはできん。だが、少しでも使い魔と良き関係を築きたいのであれば、腹を割って話すぐらいはした方がいい」

 

言い終えてから思う。……何言ってるんだ、自分。

どうもこのキャラが壁一枚で隔てているせいか、リアルなら遠慮して言えないことも簡単に口に出せてしまう。

それこそ、思ったら自然と口に出しているのだ。その言葉が相手に対しどう捉えられ、どのような反応をするかとかを考える暇もないままに。

ポジション的に彼女がNPCだろうという事実はどうでもいい。

ここまでリアルな反応をしてくれる相手に、初対面であんな発言をしたという事実だけが許せなかった。

 

「――すまない、失言だった。知った風なことをべらべらと、何様だか私は」

 

「いえ、いいのよ。……まさしくその通りだしね」

 

うわ、明らかに引いてるよ。人間らしいAIを積んでいるのだから当然の反応なのはわかるけど、恥ずかしいったらありゃしない。

この場に真の人間は僕しかいないとはいえ、開き直るなんて無理だ。

 

「とにかく、私は現状に不満を感じていない。使い魔としての責務も可能な範囲で享受するつもりだ」

 

「だってさ、ヴァリエール。良かったじゃないこんなに献身的でいてくれるなんて、普通有り得ないわよ?彼に感謝することね」

 

「……わかってるわよ」

 

感謝ってなんぞや、と言う疑問は矢継ぎ早に紡がれる二人の会話の波に消されていく。

僕は黙ってそれを聞くだけの状態で収まるのを待つ。

 

「――ま、取り敢えずいつも通りで何よりだわ。ヴァルディ、これから長い付き合いになるでしょうし、よろしくしましょう」

 

「しなくていい!出て行きなさい!」

 

ぐいぐいとキュルケを部屋の外に押し出すルイズちゃんと、余裕そうな表情でウィンクを僕に向けて放つ。

押し出し終わり、ぜぇぜぇと息を吐くルイズちゃんに先程思った疑問をぶつける。

 

「何故彼女を目の敵にする?見た限り人格に問題があるようには思えんが」

 

「私とキュルケの家柄の関係はね、穏やかなものじゃないの。簡単に言えば、私達の祖先の恋人を奪ったのよ。それも一回だけじゃなく、何回も。それだけでもう並々ならぬ関係だってわかるでしょう?」

 

「確かに穏やかな関係とは言えんな。だが、それは君達には関係ないのではないか?」

 

「関係ないなんて、そんな訳ないじゃない!私達は屈辱を受けたの、それこそ何十倍返しで済むかどうかわからないぐらいに!」

 

「憤る気持ちはわかるが、私の見立てでは彼女は君にそのようなことをするとは思えんが」

 

さっきも明らかに心配しているような発言を零していたし、ルイズちゃんが気付いていないだけで明らかにキュルケは敵対意識を持ってはいない。

何かするにしても、せいぜい友人をからかう程度の匙加減をルイズちゃんが過剰に捉えているだけなんじゃないだろうか。あくまで予想だけど。

 

「とにかく!もしキュルケが貴方に対して色目を使ってきても、絶対に反応しないこと!」

 

「それに関しては最初からそのつもりだ」

 

仮に反応しても、このキャラ設定じゃ表に出ないだろうしね。

とはいえ、セクシーなあの格好で近づかれたら男の子としてはもうなんというか、たまらんですばい。

 

「そう、でもまぁ貴方なら大丈夫よね」

 

「その信頼には、別の形で応えてみせよう」

 

「うん。……じゃあ、私疲れたから寝る。着替えるから出て行って」

 

「ああ」

 

着替えとか、そんなところまでリアルなんだなぁと思いつつも素直に従う。

部屋から退出し、再び呼び戻されるまでの間、僕は今後の動き方について考え続けた。

 




繋ぎ程度の無難な内容だけど、怒らないで下さい!何でもしますから!

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