Infinite possibility world ~ ver Servant of zero   作:花極四季

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主人公の視点はギャグにしたいと思っていたのに、この始末。
次回はそうじゃないよ!多分。


第二話

コルベールに連れられ、私達は今学院長室に居る。

部屋の主であるこの学院の最高責任者、オールド・オスマンはヴァルデイを遠慮しがちに、しかし明らかに興味深げに眺めている。

彼もそれに気づきながらも、敢えて何も言わず無言で佇んでいる。

視線慣れしているのか、境遇を理解しているからこそ納得して無言を貫いているのか。どちらにせよ、肯定的に捉えられる背景は見えてこない。

私としても、これからずっと彼が奇異の目で見られ続けるのかと思うと、あまりいい気分はしない。それが、私のメイジとしての箔に繋がるとしても。

それに、彼には申し訳ないと思うが、エルフを召還したという事実――――それが順風満帆な未来を呼び出すとは到底思えなかった。

 

「……なるほど、確かにエルフのようじゃな」

 

オールド・オスマンは納得したように頷き、改めて私達を一瞥する。

 

「エルフ殿、お初にお目にかかる。儂はこの学院の長を務めている、オールド・オスマンと言う者じゃ」

 

毅然とした態度で、挨拶をする。

その様子に、少しだけ感心する。

召喚に成功したあの場で、エルフというだけで怯え、逃げる者ばかりだったにも関わらず、オールド・オスマンに限っては弱さを見せる様子はなかった。

政治は隙を見せたら負けと聞くが、学院のトップという立場上、こういった場慣れをしているのだろう。

正直な所、オールド・オスマンのことを目に見える形として敬える要素を今まで見る機会がなかったものだから、余計に良い方向に印象が変わった気がする。

 

「私はヴァルディという」

 

「ヴァルディ殿。この度は我らの儀式に巻き込むような形になって、申し訳ない。………その手のルーンを見る限り、契約は果たされているご様子。貴方はここの儀式の事情を知らないと思われるので、軽い気持ちで契約に応じたことだと思われるでじゃろうが、使い魔契約は、一生のもの。破棄をするにしても、それは契約の繋がりを持つどちらかが死ぬまで継続するものなのじゃ」

 

「……一生、だと?」

 

「その通り。貴方にとっては悪夢そのものである現実であるかもしれませぬが、どうかミス・ヴァリエールの使い魔として共に生きてもらえないだろうか?勿論、ヴァルディ殿が不自由なく暮らせるように最大限の努力はするつもりじゃ。だからどうか、頼まれてくれないだろうか」

 

オールド・オスマンの言葉に、手に顎を当てて思考に耽るヴァルディ。

使い魔契約の概念を、あの様子では知らなかった様子。

もし、ただの気まぐれで契約したとして、その現実が気に入らなければ、もしかすると私は、彼の手によって――

そもそも文化も違うであろう土地から召喚されたであろう彼に、契約をするという言葉ひとつだけで強引に行為に及んでしまったのだ。私が弁明をする余地は何一つないのだから。

ぶんぶん、と頭を振り最悪の結末を必死に振り切る。

今の今まで理性的な対応を見る限り、そんな直情的な判断はしない、筈。

 

契約によって刷り込みのような感情が使い魔に発生すると言われているが、人語を解する知識人相手にそれが通用するのかもわからない。

知性のある相手、しかも自分よりも優れているであろうと予想する存在が使い魔になるということは、絶対に動物相手にするような扱いはできないということ。

だからといって敬うのは関係の破綻に繋がるしで……正直、彼にどう接すればいいのか測りかねてしまう。

 

「具体的には、どのような援助をしてくれるのだ?」

 

オールド・オスマンにそう問いかける。

これで少なくとも彼が否定から始まるようなことはしないことがわかり、ホッとする。

 

「可能なことであれば、ほぼ何でも。使い魔としての本分を妨げない程度には、お主の自由を尊重するつもりじゃ」

 

「――ならば、仕事を斡旋して欲しい」

 

「仕事、じゃと?」

 

「別に日雇いの仕事を探せという訳ではない。例えばオールド・オスマン、貴方が立場上動けない状況でありながらどうしても為さねばならぬことがある時、その任を肩代わりするというようなものだ」

 

「つまり、何でも屋のようなものということでいいのかね?」

 

「そういうことだ。調達、討伐、護衛と内容は問わない」

 

「で、でもそれは――」

 

ヴァルディに反論しようとした時、オールド・オスマンと目が合う。

その目は、何も言うなとひしひしと告げていた。

理由はわかる。その程度の条件で縛れるならば、破格だからだ。

確かに使い魔の本分からかなり逸脱する可能性もある選択肢だが、見返りに要求したのが何故かこちらの利になることであるとすれば、頭ごなしに否定することはできない。

それに私自身、彼を四六時中拘束できるなんて思ってはいない。

むしろこの条件ならば、斡旋がオールド・オスマンが行う以上、拘束はできずとも居場所を調整、限定することも可能だ。それはつまり、限定的な拘束に繋がるということ。

でも、彼の主である私からすればあまり喜ばしくない流れだ。

ほぼ間違いなく、私は使い魔を御せないメイジという風評で汚されていくだろう。

こればかりは欠片も嘘がないので甘んじて受け入れられるが、だからといって批評を大人しく受け入れられるほど大人ではない。

 

「――――あいわかった。しかし、あまり彼女から離れすぎるようなことだけは避けてもらいたい。使い魔が傍にいないという理由で、あらぬやっかみを受けることも多いのじゃ。特に彼女の場合――いや、ここで話すようなことではないな」

 

「――――ッ」

 

オールド・オスマンが敢えてぼかした内容は、間違いなく私が魔法を使えないことに関してだろう。

私の目の前ということもあって、敢えて伏せたのだろうけど、その心遣いが逆に私の心を抉る。

だからといって、自分でその真実を話す勇気もないのだから、彼を咎める権利は私にはない。

どうせいずればれることなのに、その日まで私は逃げ続けるのだろうか。

 

「わかっている」

 

「信用しているぞ。……ともあれ、それだけが条件かの?」

 

「今思いつく限りではな」

 

「まさか、今後何かを追加するつもりなのかのう」

 

「さて、な。余程の事情で無い限り自分でなんとかするつもりだが、場合によっては頼らせてもらう」

 

「ふむ……了解じゃ。立場上頭を下げることはできんが、彼女の使い魔になってくれたことに感謝する」

 

「気にする必要はない。これはこれで、悪くない」

 

ヴァルディの何気ない一言が、私の耳朶を打つ。

彼はどういう思いで私と共に在る決断をしたのだろうか。

一生が関わることなのに、彼の表情に陰りは見えない。

その在り方に、言いようのない不安を感じてしまう。

本当に私は、彼と契約が成立しているのだろうか?と思わずにはいられなかった。

 

「では、お主にはこれを渡そう」

 

そう言ってオールド・オスマンからヴァルディへと指輪が渡される。

 

「これは?」

 

「魔法の効果を永続させるためのマジックアイテムじゃよ。あまりこういうことは言いたくないのじゃが、エルフという種族は儂らからすれば恐れの対象なんじゃ。だから、表立ってエルフが行動していると知れれば、いらぬ混乱が起こってしまう。それは互いにとっても不利益じゃろう?だから、フェイス・チェンジの魔法でエルフの象徴であるその耳を隠すことができれば、街に赴くようなことがあっても気兼ねなく行動ができるということじゃ」

 

つまり、少し語弊はあるがあれは対人用の魔法に対する固定化のようなものなのだろうか。

魔法は基本的に攻撃用のものを例外とすれば、人間を対象にするものは少ない。

そしてそういったものは総じて、効果が継続する時間は使用者の技量によって変化するとされる。

あのマジックアイテムは、程度の差こそあれそういった技量の問題をカバーしてくれる優秀な道具だということだ。

逆に言えばそんな高価そうなものを渡すぐらい、エルフの知名度は悪い方向に向いているという証拠でもある。

 

「ありがたく受け取らせてもらう。だが、流石にここにいる時までその魔法の効果を付与されるのは勘弁願いたい。私はこの姿が気に入っている。それに四六時中姿を偽るのは息が詰まる」

 

「む……しかしそれは」

 

「それにエルフを恐れていると言われていても困る。それはそちらの事情であり、私が君達をどうこうするつもりがない以上、そんな風評で肩身が狭くなるのは先程言った自由の尊重を害するものでしかないのではないか?」

 

「そ、それは確かにそうじゃが」

 

「別に外にまで私の我が儘を持っていくつもりはない。ただ、主である彼女がここで暮らしていくのであれば、どんなに情報を規制しても噂の中心である私がこの場に居続ける以上、存在は嫌でも認知されてくるだろう。ならばいっそ最初から隠し立てせずに堂々としていた方が、周囲からの評価も上がるのではないか?私としてはこの学院の者達とも良い関係を築きたいと思っているし、それなのに私自身が隠し事をしていては誰も受け入れてはくれない。違うか?」

 

ヴァルディの言葉に、とうとうオールド・オスマンは黙り込む。

彼の発言は紛れもなく正論であり、先を見据えたものだった。

それならば、言葉を挟む余地はどこにもない。

私達は、彼の存在を出来る限り秘匿することばかり考え、一方的な意見を押しつけるばかりだった。

それでも彼は理性的な対応を取り、譲歩の中で自分ができることを見出そうとしている。

そんな彼に比べて、私達のなんと情けなきことか。

オールド・オスマンもコルベールも、その事実を噛み締めているのか、渋い顔つきになっている。

 

「――――わかった。こちらも外部にお主の情報が漏れぬように助力は惜しまぬ。だから自由にしたまえ」

 

「感謝する」

 

「では、ミス・ヴァリエール。ミスタ・ヴァルディ。これから良き関係を築くよう、頑張っていきなさい。もし問題や不安があればいつでも頼ってくれて構わんからの」

 

「はい、ありがとうございます」

 

話を終えた私達は、学院長室から出て自室へと戻っていく。

これから少しずつ彼のことを知っていかなくてはならない。

一生のパートナー、運命共同体。そんな文字通りの関係になれるのは、いつになることだろうか。

不安は胸の内に燻って消えず、ただ私を急かしていた。

 

 

 

 

 

「やれやれ……年長者の立つ瀬がないのう、あれでは」

 

「仕方ありませんよ。外見こそ青年とはいえ、オールド・オスマンよりも人生経験豊富でもおかしくない種族なのですから」

 

ルイズとヴァルディが学院長室から去ってから、気の抜けたように肩を撫で下ろす二人。

政治的交渉のためあくまで毅然とした態度を崩さずにいたが、内心は冷や冷やものであった。

エルフ召喚というイレギュラー、それが魔法を扱えない劣等生が為したというだけでも大事だというのに、そこから最悪彼の逆鱗に触れる可能性もある対話を試みる必要があったとくれば、正直命が幾つあっても足りない。

しかし、思いの外流れは終始安定していき、何事もなく終えることができた。

それもヴァルディが理性的な青年であったことが大きい。

エルフという種族が何を以てメイジ十人分の戦力となるかは不明だが、その理屈で言えばこの場にいたメイジだけでは圧倒的に戦力不足だ。その気になれば暴力を以て事を為すこともできたかもしれないというのに、それでも彼は交渉に応じてくれた。しかも、割合で言えば彼の方が不利益を被っている示談でだ。

長命であるエルフにとって、人間にとっての一生は枷にならないのかもしれない。だが、拘束することに変わりはない。

 

「一体彼は何を思って、交渉に応じたのじゃろうか」

 

「それはわかりません、が――――少なくとも、言うほど悪い方向には傾かないと思います」

 

「それは同感じゃ。それよりも、彼の存在がミス・ヴァリエールにどう影響をもたらすのか、それが気になって仕方ないのう」

 

「ですね。……彼なら、彼女の魔法が使えない原因を解明してくれるのでしょうか?」

 

「高望みはできんが、儂らが手を掛けてどうにもならなかった以上、彼に縋るしか道はない」

 

学院の教師も、彼女の母親である烈風のカリンでさえもどうすることもできなかった問題を、部外者に託すというのは恥もいいところだが、最早外的要因による刺激がなければ前進はないとオスマンは感じていた。

 

「――――さぁ、気落ちしている暇はないぞ。これから箝口令を敷くのに忙しくなるからのう」

 

「そうですね。今まで彼女のためにしてやれることがなかった分、これで汚名返上といきたいところですが」

 

遠見の鏡で儀式の顛末を覗いていたため、エルフが召喚されたことはすぐに情報として伝わっていた。

その為、予めミス・ロングビルを初めとした教師には動いてもらい、生徒をなだめる作業に徹してもらうよう根回しはしていたのだ。

だが、今回の決定も踏まえ新たに情報を広めなければならない。彼らには悪いが、もう少し頑張ってもらわねばな。当然、儂も尽力を惜しまぬつもりだ。

 

「――――それにしても、彼女がエルフを召喚したのは、果たして偶然なのじゃろうか」

 

コルベールが部屋から出て行くのを眺めながら、ぽつりと呟く。

何気ない疑問は、ただ空気を震わせるだけだった。

 

 

 

 

 

気が付くと、場面転換していたでござる。

どこか昔の洋風な造りを思わせる部屋の中には、自分を含め契約者である少女と傍にいた中年の男性、そして如何にもお偉いさんであろう髭長の老人が机越しに座っている。

少女は僕の隣に、中年男性は壁際で老人と僕達の間に立つように立っている。

 

「エルフ殿、お初にお目にかかる。儂はこの学院の長を務めている、オールド・オスマンと言う者じゃ」

 

「私はヴァルディという」

 

オールド・オスマンと名乗る老人と挨拶を済ませ、早速本題を切り出してくる。

 

「ヴァルディ殿。この度は我らの儀式に巻き込むような形になって、申し訳ない。………その手のルーンを見る限り、契約は果たされているご様子。貴方はここの儀式の事情を知らないと思われるので、軽い気持ちで契約に応じたことだと思われるでじゃろうが、使い魔契約は、一生のもの。破棄をするにしても、それは契約の繋がりを持つどちらかが死ぬまで継続するものなのじゃ」

 

「……一生、だと?」

 

え、この契約ってそんな重い設定なの?

いやでも、決して不自然な展開ではないか。契りなんだからそう簡単に破棄できること自体おかしいんだし。

 

「その通り。貴方にとっては悪夢そのものである現実であるかもしれませぬが、どうかミス・ヴァリエールの使い魔として共に生きてもらえないだろうか?勿論、ヴァルディ殿が不自由なく暮らせるように最大限の努力はするつもりじゃ。だからどうか、頼まれてくれないだろうか」

 

……ここで一度整理しよう。

まず、契約者である少女、ミス・ヴァリエールのこと。

このゲーム、『Infinite possibility world』はNPCがPCに相当するAIを持つことで有名なMMORPGである。

しかも巧みなゲームシステムによってPCとNPCの区別ができないようにしている。これはせっかくのリアリティを損なわないようにとの措置であるとされている。

だけど、ある程度の推測はできる。

 

僕の見立てでは、この場にいる自分を除く全員は――――NPCだ。

まずヴァリエールちゃんだが、PC同士をこういう関係で縛るというのは、設定の名目があっても流石に問題があると踏んだからである。

何かをするにしても、常に二人三脚を強要するのは不都合がありすぎる。足並みを揃えられるリアフレ同士の繋がりならともかく、見ず知らずの相手とそうなるとなればその限りではない。

だから恐らく、彼女のポジションは名目上と逆――つまり、設定上の関係ではこっちがペットポジだけど、システム的には彼女がペットポジなんだろう。ぶっちゃければ、立場と呼び方が逆みたいな。

あくまで推測の範囲内でしかないけど、だいたいあっていると思う。

身も蓋もない話だけど、中年男性とオールド・オスマンに関してはどう考えてもNPCっぽい立場だし。

 

ストーリーの流れはヴァリエールちゃんが軸になっていくと予想してみる。

何の意味もなくこんな関係を序盤から強いるとは思えないし、恐らく彼女の存在が後々大きな鍵になっていくのではないだろうか?

そういった意味では、彼女はペットキャラというより、ヒロイン的立場であると言った方が合っているのかも。

MMORPGとしては珍しい設定だけど、これはこれで斬新だし悪くはない。

そもそもオンラインゲームのストーリー自体、主人公が軸になるのではなく大きな輪の一部として行動するケースが基本だ。無数に存在するプレイヤーに主役級の場面を与えていたら、ストーリーに違和感が出てしまう。

少なくとも、勇者の末裔だのそんなコテコテな設定を一介の冒険者が平然と持っている訳がないのだから、この方が自然なのだ。

無数の世界観が存在する『Infinite possibility world』では、従来のMMORPGとは違う新しい展開を模索しているのかもしれない。だから如何にもな重要人物を一介のプレイヤーの傍に置いたのかも。

別に自分が特別だなんて思ってはいない。これもひとつの展開の形であり、世界観を楽しむためのスパイスの一環であり、他のプレイヤーも似た感じなのだろう。

 

「具体的には、どのような援助をしてくれるのだ?」

 

取り敢えず、境遇は概ね理解できた。

オールド・オスマンの言った援助は、彼女の使い魔として行動するための交換条件として掲示されたものである。

この情報から察するに、僕というプレイヤーが召喚されたことは、事故のようなものだったのではないだろうか。

一生を賭した契約というのは、人間ひとりに課せるにはあまりに重い。

古今東西、召喚で呼び出されるのは幻獣とかそういうモンスターの類だ。

稀に人間が呼び出されるケースもあるが、そういう場合は基本的に勇者のような特別な力を持つ存在が呼び出されるのであって、僕のような一介のプレイヤーの場合は該当しないだろう。

動物だから許される、という安易な事は言わないが、少なくとも人語を解する相手よりも都合がいいのは確かだ。

残酷な話になるが、その契約が命によって繋がっているならば、彼女を殺めることで契約を切ることも可能なのだろう。

正直そんな残酷なことはしたくないし、そもそもできるのかさえわからない。

だからこちらとしては、オールド・オスマンの提案に損はないことになる。

 

「可能なことであれば、ほぼ何でも。使い魔としての本分を妨げない程度には、お主の自由を尊重するつもりじゃ」

 

使い魔の本分が何を指すかはわからないけど、イメージ通りならば主である彼女をサポートすることが絶対条件に入るだろう。

ふと思い出したが、召還された広場には他にも二人いた。

ヴァリエールちゃんと同じ服装をしていたということは、あれは制服なのだろう。

制服を着ているということは、ここは学校かそれに準ずる施設であることは想像できる。

学校へ通うということは、そう頻繁にこの場を離れることができないということに繋がる。

彼女が主である以上、使い魔である自分もそれに従わざるを得ないだろう。

そうなると自ずとやれることも限られてくる。

自由度を売りにするオンラインゲームでそんなミスをする筈がない。だから先程のような抜け道を用意したのだろう。

だから、大抵の要望なら受け入れられる筈。

 

「――ならば、仕事を斡旋して欲しい」

 

「仕事、じゃと?」

 

「別に日雇いの仕事を探せという訳ではない。例えばオールド・オスマン、貴方が立場上動けない状況でありながらどうしても為さねばならぬことがある時、その任を肩代わりするというようなものだ」

 

キャラ作りの設定のせいで回りくどい言い方をしているが、要はクエストをここで受けられるようにしろ、ということである。

もしかしたら言わずともできたのかもしれないが、念には念を入れてである。世界観を壊したくないから、メタなことは言いたくないしね。

クエストがないゲームとかゲームじゃねぇ!とまでは言わないけど、オンラインゲームとクエストは切っては切れない関係だ。というか、それがないとやることが一気に減る。

レベル上げするにもお金稼ぎするにも、クエストに走るのは決して安易なことではない。

 

「つまり、何でも屋のようなものということでいいのかね?」

 

「そういうことだ。調達、討伐、護衛と内容は問わない」

 

「で、でもそれは――」

 

ふと、無言を貫いていたヴァリエールちゃんが声を上げるも、それ以上は何も告げることはなかった。

彼女の立場としては、あまり容認できないことであることは想像がつく。

一時的とはいえ離れるようなことは、使い魔としての本分を捨てているにも等しい。何も言わずに身分が低い立場である自分を放し飼いするだなんて有り得ない。

とはいえ、これを通さないというのもマズイからこうして抵抗の意思を見せた。

 

「――――あいわかった。しかし、あまり彼女から離れすぎるようなことだけは避けてもらいたい。使い魔が傍にいないという理由で、あらぬやっかみを受けることも多いのじゃ。特に彼女の場合――いや、ここで話すようなことではないな」

 

「――――ッ」

 

オールド・オスマンの言葉に明らかな動揺を見せるヴァリエールちゃん。

これは、何かあるな。そして恐らく、それが物語の軸になるのではないだろうか。

 

「わかっている」

 

「信用しているぞ。……ともあれ、それだけが条件かの?」

 

「今思いつく限りではな」

 

馬鹿ですいません。パッとはこんなもんです。

 

「まさか、今後何かを追加するつもりなのかのう」

 

「さて、な。余程の事情で無い限り自分でなんとかするつもりだが、場合によっては頼らせてもらう」

 

多分その案も通るんだろうけど、あまりにリアルな応対をしてくれるオールド・オスマンに申し訳なさを覚えずにはいられない。これでNPCだというのだから詐欺だねホント。

 

「ふむ……了解じゃ。立場上頭を下げることはできんが、彼女の使い魔になってくれたことに感謝する」

 

「気にする必要はない。これはこれで、悪くない」

 

ロールプレイの醍醐味は、その世界に順応し与えられた立場になりきること。

使い魔だなんて特異な立場、そうそう体験できるものではない。ならばこの不自由さも存分に楽しんだもの勝ちという奴だ。

 

「では、お主にはこれを渡そう」

 

オールド・オスマンから如何にも重要な指輪を受け取る。

 

「これは?」

 

「魔法の効果を永続させるためのマジックアイテムじゃよ。あまりこういうことは言いたくないのじゃが、エルフという種族は儂らからすれば恐れの対象なんじゃ。だから、表立ってエルフが行動していると知れれば、いらぬ混乱が起こってしまう。それは互いにとっても不利益じゃろう?だから、フェイス・チェンジの魔法でエルフの象徴であるその耳を隠すことができれば、街に赴くようなことがあっても気兼ねなく行動ができるということじゃ」

 

どうやらこの世界でエルフは肩身の狭い立場らしい。

迫害とかではなく恐怖の対象として扱われるのは、果たして幸か不幸か。どちらにせよ面白い話ではない。

第三者の立場ならあまり気にならなかった問題だけど、いざ当事者となると、ね。

だからフェイス・チェンジという露骨な名前の魔法で変装をすれば、困った事態にはならない。

なるほど、確かに道理は適っている。

 

「ありがたく受け取らせてもらう。だが、流石にここにいる時までその魔法の効果を付与されるのは勘弁願いたい。私はこの姿が気に入っている。それに四六時中姿を偽るのは息が詰まる」

 

だが、これだけは譲れない。

折角設定したアバターを完全に無為にするような行為を受け入れられる訳がない。

まだ僕はこの世界に降り立ったばかりなのだ。この身体で何もしていない。

それなのにそれを捨てるだなんて、とんでもない。

真面目に捉えすぎかもしれないけど、リアルな空気に中てられているせいかどうしても気持ちがそう傾いていってしまう。

うーん、これではいけないな。もう少し余裕ある心を持たないと、ゲームとして楽しめなくなっちゃいそうだ。

 

「む……しかしそれは」

 

それでもやはりというべきか、遠慮しがちに抗議の声を上げる。

トップ的立場であろうと予想するオールド・オスマンからしても、僕の存在は厄介なものでしかない。

いらぬ騒動を巻き起こせば、学校にまでトラブルを持ち込む羽目になる。それは立場上よろしくないのは語るまでもない。

 

「それにエルフを恐れていると言われていても困る。それはそちらの事情であり、私が君達をどうこうするつもりがない以上、そんな風評で肩身が狭くなるのは先程言った自由の尊重を害するものでしかないのではないか?」

 

でもぶっちゃけた話、そんな都合は知らない。

エルフがこの世界で肩身の狭い思いをしているからといって、それに縛られ続けなければいけない、というのは違うと思う。

NPCとはいえ、PCに相当する感情の起伏を取り入れている以上、それは最早ただのデータとして扱うには難しい域に入っている。

だから、そんな彼らに奇異の目で見られるということは、同じ人にそう見られることと同義。

しかし逆に考えれば、従来のNPCのように融通が利かないなんてことはないのだ。

僕の頑張り次第ではエルフの偏見を覆すことができるかもしれない。

――なんて。そこまで高望みはしていないけど、それでも自分の周囲の人達ぐらいの認識ぐらいは変えられればいいな、と思っている。

そもそもこの妄想が現実になるかどうかなんてわからないんだけどね。

 

「そ、それは確かにそうじゃが」

 

「別に外にまで私の我が儘を持っていくつもりはない。ただ、主である彼女がここで暮らしていくのであれば、どんなに情報を規制しても噂の中心である私がこの場に居続ける以上、存在は嫌でも認知されてくるだろう。ならばいっそ最初から隠し立てせずに堂々としていた方が、周囲からの評価も上がるのではないか?私としてはこの学院の者達とも良い関係を築きたいと思っているし、それなのに私自身が隠し事をしていては誰も受け入れてはくれない。違うか?」

 

なおも引き下がらないオールド・オスマンに対し、思いついた正論をべらべら並べてみる。

リアルならば舌が回らないかもしれない長文だけど、この身体のスペックは結構凄いらしく突っかかることはなかった。

 

「――――わかった。こちらも外部にお主の情報が漏れぬように助力は惜しまぬ。だから自由にしたまえ」

 

「感謝する」

 

どうやら納得してくれた様子で安心安心。

 

「では、ミス・ヴァリエール。ミスタ・ヴァルディ。これから良き関係を築くよう、頑張っていきなさい。もし問題や不安があればいつでも頼ってくれて構わんからの」

 

「はい、ありがとうございます」

 

ヴァリエールちゃんの感謝の言葉を最後に、お開きとなる。

自分はできることをやった。後はこれからをどう楽しむかだ。

 




文字数一万超えかぁ。もう少しコンパクトに纏められるといいんだけど。

新規として新を投稿している訳ですが、以前のものはもう削除すべきでしょうか。ややこしいという意見をもらいましたので。

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