Infinite possibility world ~ ver Servant of zero   作:花極四季

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あけましておめでとうございます!
そして遂に旧版と話数が並びました!
今年もこんな拙い小説ですが、どうぞよろしくお願いします。


第十六話

ルイズちゃんの手を取り、ワルドの後に続く。

あの場にキュルケ達を残してきたことに、罪悪感を感じずにはいられない。

間違いなくこの心配は杞憂に終わる、なんて保証はどこにもない。

どこまで行ってもリアルなこの世界では、どんなキャラでも等しく死亡フラグがある可能性がある。

僕なんかよりも強い(ギーシュは例外)メンツなんだ。

そして一番の強敵であろうフーケには一度勝利している。これは勝ちフラグしかない。

そう分かっていても、最悪の可能性を考えてしまう。

そんな後ろ髪引かれる想いを断ち切りたくて、ついあんなことを三人に言ってしまった。

紛れもなく本心であることは確かだけど、ぶっちゃけ急いでるってのに悠長にあれを言うだけの為に時間取らせるとか、空気読めてないにも程がある。

でも、そのお陰ですっきりした。

 

「あ、あそこよ!」

 

ひたすらに走り続け、ようやく見えた先には――山をも凌駕する巨大な大木が雄々しく根を張っていた。

木の根もとから上に登る為の階段が作られており、あれを登った先に船があることは最早明白と言えた。

見上げると、木の枝に船らしきものがぶら下がっていた。

 

「急いでくれ。早くしないと追いつかれてしまう!」

 

先行していたワルドが、僕達を急かす。

僕達は船へ向けて必死に足を動かす。

 

「ま、まって……。私、息が……」

 

道中半ばと言ったところで、ルイズちゃんの体力が限界に達する。

ああ、そうだよね。冷静に考えれば、前衛の体力と後衛の体力が同じな訳ないよね。

使い魔である僕が、主を蔑ろにするなんて、これではいけない。

 

「掴まれ。私が運んでやろう」

 

「お、お願い」

 

そして、ルイズちゃんの手を取ろうとした瞬間。

黒い影が、ルイズちゃんを浚った。

 

「ヴァルディ!」

 

黒いフードを被ったそれは、間違いなく追っ手の一人だろう。

黒フードはルイズちゃんを胸元で抱きかかえており、このままではルイズちゃんを巻き添えにしてしまう。

そんなもどかしさを抱えていると、背後からワルドが杖を構え躍り出る。

一瞬で黒フードまで接近し、そいつの眼前で魔法を唱える。

 

「エア・ハンマー!」

 

その名の通り、圧縮された空気による打撃が黒フードだけを的確に捉える。

ダメージにより、黒フードはルイズちゃんを解放し、吹っ飛んでいく。

ナイスだワルド!ほんの少しだけ見直した!

ルイズちゃんのことは一旦ワルドに任せ、僕は黒フードの追撃に入る。

ここで何もしなかったら、キュルケ達に顔向けが出来ない。

 

「…………」

 

桟橋から降り、黒フードと向かい合う。

表情は仮面に覆われており伺えない。

エア・ハンマーによる一撃を食らっている筈なのに、まるで効いていないかのように悠然と立ちつくしている。

もしかして、こいつが黒幕か?

何を喋るでもなく、不気味だ。

攻撃を受けても痛がる訳でもなく、攻撃を受けたにも関わらずまるで最初から何もされていないと言わんばかりに汚れひとつ無い姿は、まるで――

 

「――幻影、か」

 

ふと、そんな感想を漏らす。

すると、身体を揺らし、初めて感情を乗せた反応を見せた。

もしかして、正解?

ということは、この黒フードを倒しても、操作している奴を倒さないと終わらないということか。

なら、コイツに構っている暇はない。

 

「貴様には早々に消えてもらう。そして、改めて相応しい舞台で決着をつけようではないか」

 

幻影を操っているであろう本体に向けて、宣戦布告する。

黒フードは、焦ったように杖を構える。

すると、徐々に周囲の空気が冷えていく感覚に苛まれる。

そして、黒フードの周囲が帯電する。

――嫌な予感がする。このままじゃ、謎の魔法を喰らってしまう。

ルーン・セイヴを使うことも考えたが、可能な限り手札を晒したくはない。

黒フードを打倒したとしても、情報を与えてしまっては意味がない。

なら、どうする?

考えている暇はない。ならば、これしかない。

 

「貴様には、思考させる暇も与えん」

 

 

 

 

 

「ヴァルディ!」

 

突如として現れた謎の覆面に攫われた私は、使い魔に助けを請う。

しかし、私を盾にするように抱きかかえられているせいで、攻め倦ねている。

――まただ。また私は邪魔にしかなっていない。

これで何度目かも分からない、情けなさと悔しさで一杯になる感覚。

私はいつまで、このままなのだろうか。

 

「エア・ハンマー!」

 

ワルドの魔法が、敵に突き刺さる。

その反動で身体が宙に飛ぶも、ワルドが受け止めてくれた。

ヴァルディは、敵を追撃せんと桟橋から躊躇なく飛び降りていった。

 

「大丈夫かい?ルイズ」

 

「え、ええ。ありがとうワルド」

 

「例には及ばないさ。――しかし、彼は大丈夫だろうか」

 

私達は桟橋の上から見下ろすように、下にいる二人の様子を伺う。

一触即発の雰囲気の中、ヴァルディの口元が微かに動くのが見えた。

そしてそれと同時に、ワルドが身体をビクつかせた。

 

「どうしたの?」

 

「い、いや。なんでもないよ」

 

妙な違和感を感じつつも、それどころではないと改めて様子を見守る。

いつの間にか、敵の周りには小さな光が点灯するように纏われていた。

 

「不味いな。あれはライトニング・クラウドだ。喰らえば余程のことがない限りは死に至るぞ」

 

「そ、そんな!どうにかならないの!?」

 

「駄目だ。魔法の射程外だし、何よりもう詠唱が終わっている」

 

無慈悲なワルドの言葉と共に、光がヴァルディを襲った。

見ていられなかった。だから、私は急いで桟橋を降りた。

 

「ヴァルディ!」

 

煙のせいで視界が遮られており、状況が掴めない。

どうか、無事でいて。そう祈ることしか出来ないでいた。

煙が少しずつ晴れていき、影が映る。

 

――――そこに立っていたのは、先程の覆面を被った敵だった。

しかし、その姿は無惨に変わり果てていた。

黒のフードは見る影もなくボロボロに変わり果てている。

ボロ切れとなったフードの隙間から、夥しい数の刃傷が露わになる。

そして、まるで今し方攻撃されたことに気が付いたかのように、敵はゆっくりと膝をつき、地に伏した。

同時に、その背後に立っていたであろうヴァルディの姿が視界に入る。

対するこちらは、傷ひとつついていない。

 

「ヴァルディ!……よかった」

 

慌ててヴァルディの元へと駆け寄る。

 

「心配掛けたようだな」

 

「心配したに決まってるじゃない!もう……馬鹿」

 

思わず、ヴァルディの胸を小突く。

我ながら変な反応だと思う。

だけど、今は安堵感ばかりが先走り、身体が思考に追い付いていないのだから、仕方ない。

 

突如、敵が宙を舞い、自然の段差に隠れるように落ちていった。

 

「これで流石に起き上がってはこないだろう。それにしても、凄いな使い魔君。あの一瞬でどうやって倒したんだい?」

 

それは私も気になった。

ライトニング・クラウドが放たれてから十秒程度。

煙に紛れてよく分からなかったけど、少なくとも魔法が発動してから今に至るまで、戦闘らしき動きは見受けられなかった。

互いに一撃必殺の立ち回りをしたのは明白だが、問題はあの敵がこさえた傷の数々。

十、いや、百に近い数の刃傷は、如何にヴァルディの身体能力が優れていようとも十秒程度で作れるものではない。

それに、あの大剣で攻撃したにしては、あまりにも傷が浅い。

何より、あんなもので切られたらただの一撃で身体が吹き飛んでしまう。

それなのに、敵はライトニング・クラウドを放ってから一歩も動くことなく、そのまま倒れた。

一体、何がどうなっているのだろう。

 

「それは――企業秘密とさせてもらおう。どこで監視されているかも分からないからな、味方といえど手札を安易に晒したくない」

 

「そうか……。まぁ、仕方がない。とにかく今は船だ」

 

そうして、私達は再び船へと向けて歩みを進める。

今度は、私はヴァルディに抱えられて。

恥ずかしかったが、先程の二の舞になってはいけないので羞恥を呑み込み受け入れた。

しかし、そのお陰で先程の疑問を考察する時間が出来た。

 

それは、フーケ討伐後すぐのことだった。

彼は、あの大剣――テンコマンドメンツを十の顔を持つ剣だと評した。

そして、爆発を促す朱色の剣を、第二の剣・エクスプロージョンとも呼んでいた。

もしかすると、先程の刃傷も、十の顔の内のひとつなのかもしれない。

証明する手段はないが、そうとしか考えられない。

考えられるとすれば、身体が軽くなるとかだろうか。

異常とも呼べる速度での攻撃も、一撃が軽かったのも、そう考えるとある程度の納得は出来る。

しかし、ライトニング・クラウドによって発生した煙が彼の動きによって巻き上げられない程の速度なんて、有り得るのだろうか。

つまりそれは、人間どころか自然現象すら騙す程、その時の彼は速かったということになる。

有り得ない。有り得ては、いけない。

それが現実だとすれば、彼にとってメイジは何人束になった所で関係ないことになる。

そんなことになれば、彼はますます戦いの渦中に呑み込まれていくことになってしまう。

夢の中の光景が、現実になってしまう。

そんなの、嫌だ。

 

「……どうした?」

 

「……なんでも、ない」

 

無意識に、彼の胸に強く寄り添っていたことに気付く。

いつもの私なら、ここですぐさま離れていたことだろう。

でも、今だけは違った。

ヴァルディを失うかもしれないという恐怖。そしてこの優しい温もりが消えてしまうかもしれないという不安が、私を素直にさせている。

どこか遠くへ行ってしまわないように、肌と肌を合わせて、存在を確かめる。

そうでもしないと、すぐにでも消えてしまいそうだから。

船に辿り着くまで、私は一秒でも長く彼の温もりを堪能し続けた。

 

 

 

 

 

現在、僕らは船に乗っている。

え、過程はどうしたって?

簡潔に言えば、ワルドが貴族の立場を利用して無理矢理乗り込みました。

緊急事態だったから仕方ないとはいえ、申し訳ないことをしたと思う。

とはいえ、スヴェルの夜を無視しての出航だった為、船の動力源らしい「風石」の出力が足りないらしく、ワルドがその動力の補助に回っている。

そういえば、エア・ハンマーとか言ってたね。今の今まで魔法使ってる姿見てないから、気付かなかったよ。

あと、なんかこの船には硫黄が積んでいるらしい。

硫黄と聞けば温泉のイメージが強いけど何に使うんだろう。

 

後、さっきの黒フードとの戦いだけど、ルーンセイヴは切り札だということで出し惜しみした結果使ったものは――音速の剣・シルファリオンだった。

これの所有者もかなりの頻度で使用していた、あらゆる速度が上昇する剣だ。

持っているだけで身体が軽くなり、剣を振ることだろうが移動速度だろうが何だろうと例外なく、素早い行動を可能とする。

その分一撃が軽くなるという欠点を持ち合わせているが、それを補う手段もあるということで何ら欠点にはなり得ない優秀な形態と言えた。

……問題は、僕がその力を制御しきれていない、という点だ。

半ば使えるであろう、という安易な思考で初の形態変化を、まさかの実戦でやったこともあり、勝手を理解出来ていなかったということもあるが――何あれ、怖い。

何だろう。某オサレな死神漫画で使われる移動みたいなのが、一歩踏み出すだけで勝手に発動する、みたいな?

一歩踏み出す→ブレーキ→ブレーキの反動でまた移動→以下無限ループ。ってことを延々と繰り返してたよ。

もうね、視界が尋常じゃないほどに動くもんだから、あそこまで行くと酔うとかそういうレベルを超えて、視界が常に真っ白になるのよ。

ようやく収まったと思ったら、なんか黒フードは知らない内にボロボロだし。

多分、僕が移動制御に苦戦している間に、シルファリオンが黒フードに当たりまくっていたんだろう。

切った感覚が分からないほど軽いとは、予想外だったよ。

あと、よく身体同士衝突しなかったな、とも思った。

 

まぁ、そんなことよりも、だ。

空飛ぶ船なんて初めての体験で、内心テンションフルマックスだったりします。

飛行機にも乗ったことない僕は、高い景色を見る機会といえばせいぜいジェットコースターぐらい。

高いところは好きでもないけど、嫌いでもない。

でも、景色は綺麗だと思う。

雲ひとつ無い夜空が、星々の瞬きをより彩らせている。

星なんて在り来たりな風景でしかない筈なのに、視点が違えばこうも違って見えるものなのか。

 

「綺麗……」

 

隣に立つルイズちゃんが、髪を靡かせて呟く。

ぶっちゃけ、いつ隣に居たの、って感じです。さっきまでいなかったのに……。

内心では驚いたけど、表情には出さない。それがヴァルディクオリティ。

 

「ああ、そうだな」

 

取り敢えず、何でもない風に返す。いや、勝手にそうなるんだけどね。

こういう時に、君の方が綺麗だよ、とか言うのを聞いたことがある。

ギーシュとかは普通にやりそうだなぁ。僕には無理だ。

 

「この先で戦争が起こっているなんて、とても思えないわ」

 

「しかし、現実に起こっているからこそ、姫殿下の依頼があった」

 

「分かってるわ。噂が何度も耳に届いていたし、ここまでくれば現実だって嫌でも思い知らされるわ。――でも、それで納得できるかどうかは別問題よ」

 

強く自分の身体を抱き締めるルイズちゃん。

その弱々しい姿を見る限り、心から戦争を嫌悪しているのが分かる。

 

「戦争は、嫌い。大切なものを奪うから」

 

「……戦争を経験したことがあるのか?」

 

「ないわ。ないけど、似たようなものかしら」

 

要領を得ない回答だったけど、あまり深く聞き出すような話でもないし、これ以上の言及は控えておいた。

 

「ねぇ……貴方のこと、聞いてもいい?」

 

ルイズちゃんが、いきなりそんなことを言い出した。

 

「いきなりどうした?」

 

「いきなりも何も、私は貴方のことを全然知らないって思ったから。私の使い魔になってくれてからもう何日も経っているのに、貴方は自分のこと何一つ語らないんだもの」

 

……うーん、困った。

まさかこんな質問をされるとは思ってもいなかったので、言い淀んでしまう。

やましいことは無い。ただ、どう答えるべきなのかが分からないだけだ。

当たり前のことだが、僕=ヴァルディではあるが、そのすべてが当てはまる訳ではない。

僕の人生はこの世界で培ってきた訳ではない。しかし、ヴァルディとしての人生はこの世界で培ったものだ。

当然、ルイズちゃんが知りたいと思っているのは、ヴァルディとしての人生であり、僕のものではない。

しかし、僕にとってのヴァルディとは、ルイズちゃんに召還されたあの日から始まった、言わば生まれたてほやほやの赤ちゃんのような存在に過ぎない。

とはいえ、肉体だけ見ればリアルの僕よりもずっと大人だ。しかもイケメン。

それなのに今ここで僕は貴方に召還された時に生を受けましたなんて言って、誰が信じる?

少なくとも、僕は信じないね。

 

まぁ、言いたいことは分かっただろう。

つまり、この状況を脱するにはなんて言えば良いのだろうか、ということで絶賛お悩み中な訳ですよ。

 

「私には、言えないこと?」

 

うんうん頭を悩ませていると、悲しそうな表情でそう問いかけてくる。

うぅ、悲しませるつもりは微塵もないのに、そうせざるを得ないというジレンマ。

 

「……私のことなど、聞いてもつまらないだけだ」

 

「それを決めるのは、私よ」

 

……どうしよう。

煙に巻きたいけど、遺恨を残さない言い訳を言える程話術に優れていない。

同時に、全く身に覚えのない武勇伝を捏造することも出来なければ、それを厚顔無恥に語れるほど面の皮も厚くない。

外の人であるヴァルディはリアル面の皮厚いタイプだけど、今回ばかりは少し表情筋が動いているようだ。

ヴァルディが顔に出すぐらいだ。僕は相当動揺していることが分かる。

 

「教えて、お願い。――それとも、私なんかには、話せない?」

 

捨てられた子犬のような表情で見上げるルイズちゃん。

――――あー、もう!やってやんよ!この出来損ないの頭で乗り越えてやんよ!

支離滅裂だろうが何だろうが、ルイズちゃんがこれ以上悲しむよりは何倍もマシだ。

 

「――私が始まったのは、主に召喚されたあの日からだった」

 

「そうじゃなくて、私に召喚される前の――」

 

「違う。私という存在に意味が与えられたのは、あの日からであり、それ以前の私は無価値だった。故に、語ることがないのだ」

 

抽象的に表現しているけど、これはヴァルディのことを説明しています。

召還されてからがヴァルディの人生の始まり=存在に価値を与えられた。

それ以前にはヴァルディという生命は存在していない=無価値。

という感じを意識して答えた、んだけど――予想以上にヴァルディが厨二っぽく言ったもんだからかなりちんぷんかんぷんになってるだろうね。

それはそれで好都合ではあるんだけど。

 

「――それでも、いい。どんな些細な事でもいいから、貴方のことが知りたいの」

 

……何この殺し文句。

妹宣言してなかったら、完全に惚れてますわこれ。

とはいえ、どうしよう。

結構食いつくもんだから、生半可な言葉選びじゃあ納得してくれそうにないのは嫌でも分かる。

どうしようどうしようと悩んでいると、助けが舞い降りた。

 

「あ、そろそろアルビオンが見えるわ」

 

ルイズちゃん自身が話を逸らしてくれたので、それに全力で対応する。

 

「あれが、アルビオンか……」

 

文字通り、アルビオンは浮遊大陸だった。

大陸の終わりからは滝のように水が下へと流れ落ち、その余波によって霧が発生している。

それにより、大陸の下半分は雲と霧で完全に見えなくなっていた。

 

「綺麗よね。白の国と呼ばれるに相応しい景観を誇っているでしょう?」

 

「そうだな」

 

こんな光景、リアルではせいぜいナイアガラの滝ぐらいしか似たもの無いよね。

しかもアルビオンは更に浮遊大陸ときた。

リアルでは決して有り得ない、想像の産物ならではの美しさを、テレビ越しではなく擬似的とはいえリアルのように体験できるなんて、幸せ者だよなぁ。

 

「こんな綺麗な場所で戦争が起こっているなんて、考えたくもないわ」

 

「戦争を仕掛けるような輩が、風景を楽しむなどといった風情を持ち合わせている筈もなかろう」

 

戦争は、破壊によって創造を為す行為だ。

失ってもそれによって得るものがあるせいで、人は戦争行為を強く否定することができない。

しかし、否定しないだけで誰もが嫌悪しているのは考えるまでもないことだろう。

とはいえ、嫌悪するのも自分に不利な条件となった場合ぐらいのもので、そうでなければ知らぬ存ぜぬを貫くのが人間というものだ。

結局の所、自分にお鉢が回りさえしなければ、戦争だろうが何だろうが自由にして下さい、っていう考えの人が多いから、戦争はなくならないんだろう。

僕は戦争肯定派ではないけど、そもそも平和な国で生まれたこともあって本質的に戦争に対して抱く恐怖も嫌悪感もないというのがあるから、いまいち感情移入出来ないというのが本音だ。

せいぜいゲームや漫画でキャラクターが戦争や紛争によって暗い過去を持っていたりすると、それで感情移入出来るってぐらい。

僕の我が物顔で語ったセリフも、それの副産物に過ぎない。

 

「アルビオン側の敗北は、時間の問題だって聞いたわ。この土地が賊のものになるって思うと、悔しくてたまらない」

 

「……こればかりはどうしようもない。私達が仮に足掻いたところで、結果が僅かにでも好転するなんてことは有り得ない。人ひとりの力とはそれだけちっぽけなのだよ」

 

「それは、ヴァルディでも?」

 

何故僕を引き合いに出す?

僕だって例外じゃないよ。

ヴァルディが如何にハイスペックでも、中身が伴っていないというのもあるけど、個人の力で変革を為せるほど、世界は狭くないってことだ。

 

「無論だ」

 

「……そう。そう、よね」

 

それ以降、ルイズちゃんは黙りこんだ。

ルイズちゃんは優しいから。どうにかしてこの戦争を止めたいと考えているのだろう。

こればかりは、無理だと声を大にして言いたい。

だけど、そんな現実を突きつけたところで彼女は止まらないだろう。

だったら、せめて彼女に危機が迫らないように、僕が頑張るしかない。

使い魔として、彼女の兄として。

 

少しだけ湿っぽくなってしまった。

気持ちを新たに切り替えようと思った瞬間、船が大きく揺れた。

 

「何?何なの!?」

 

「落ち着け。――どうやら砲撃のようだ」

 

ルイズちゃんが驚き戸惑っている間に周囲を見渡していたら、如何にも敵ですよって雰囲気の船がこっちに大砲を向けていたのを発見した。

アルビオンは目の前だっていうのに、そう簡単には行かせてくれないらしい。

さて、これからどうなることやら。

 




新年ジャストに合わせるべく作業を急いだ結果、何とも微妙な場所で、何とも微妙な切り方で終わりましたね。
次回はルイズちゃん視点での船での内容から始まり、ワルボッコ前夜祭辺りまで進む予定。予定だからね?

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