Infinite possibility world ~ ver Servant of zero   作:花極四季

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他ならない、という表現の為に30分悩んだ私はもう駄目かもわからんね。


第十三話

ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは夢を見る。

その光景は、幼き頃の自分が母のスパルタ教育に耐えきれず逃げ出した時のものだった。

魔法が使えないという理由で厳しく指導されていたにも関わらず、爆発に還元される魔法は改善されない。

二人の姉が魔法を使えることで比較される毎日。

そして期待に応えられない情けなさも相まって、私はお気に入りの池のほとりに小舟を浮かべて孤独に泣く日々。

ここなら誰に憚れることなく無様な姿を晒せる。

貴族として生まれたからこそのプライドが成す、せめてもの抵抗。

そんな光景を第三者の視点で見るのは、苦痛でしかない。

折角乗り越えたと、受け入れたと思ったのに。

結局それは幻想でしかないのだと、現実は何も変わってはいないことを、悪意を以て見せつけられた気分だ。

……いや、自分自身がまだ心のどこかで劣等感を抱えているから、こんなものを見てしまうのか。

 

「泣いているのかい? ルイズ」

 

聞こえる、懐かしい声。

声のする方へと視線を向けると、そこには過去の羨望の象徴がいた。

ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。幼い頃に互いの親同士が許嫁という関係を成立させ、その相手となったのが彼。

ゼロの私とは違い、優れた能力を持ち、こんな私に対しても優しく接してくれた。

勿論、嬉しかった。しかし、その感情は最早過去のもの。

今、私が映すワルドという存在には、昔ほどの輝きはない。

それは間違いなく、ヴァルディという掛け替えのない存在を見つけてしまったから。

ヴァルディが宝石ならば、ワルドはそこらにある石を必死に磨いて光沢をつけたぐらいの輝きしか感じられない。

簡潔に言ってしまえば、何の感慨も浮かばないのだ。

幼い頃の記憶であり、かつ何年も疎遠になっていたのだ。今更思うことがあるとすれば、懐かしさだけだろう。

その懐かしさも、ワルドという緩衝材に価値を見出せなくなった時点でただの苦い思い出でしかない。

 

まるで、演劇を見ているかのような気分で目の前の甘酸っぱい光景を眺める。

仕方ないこととはいえ、今ワルドと乳繰り合っている過去の私を見ていると、最早別人としか思えない。

そのお陰か、眼前の光景を見て燻っていた劣等感は消え去っている。

だが、あのワルドを見ていると、何というか――言いようのない不快感を覚える。

私に向ける笑顔。言葉にすれば同一のものなのに、ヴァルディのそれとは違うように感じる。

認識の違いから来る優劣なのか、それとも他に理由があるのか。

何にせよ、私はワルドに欠片も未練はない。会う機会も滅多にないだろうが、酒の席で結ばれた婚姻が未だに継続していたとしても、すっぱり断れる自信がある。

とはいえ、ワルドが嫌いな訳ではない。さっきの不快感を除けば、彼は私に良くしてくれた記憶のある数少ない人物。無碍には出来ない。

だから、言葉を選ぶのに悩むことはあるだろう。しかし、それだけの躊躇いに過ぎない。

 

物語が終局を迎えるであろう瞬間――世界は一変した。

何の予兆もなく、物語のページの間に全く別のページを挟み込んだかのように、平和な光景は地獄へと変わった。

そこに、ワルドも過去の私もいない。

あるのはメイジも平民の兵士問わず平等に死が蔓延する大地に、その地獄で必死に戦い続ける有象無象の命達。

私は、その光景を遙か高い場所から見下ろしている。

目を逸らしたくなるような光景だが、身体が動かない。

そして、まるでそれが必然であるかのように、視界に収まるひとつの影。

 

「ヴァル、ディ―――?」

 

思わず漏れる言葉。

私の使い魔であるエルフの青年は、その地獄の中を一騎駆けする。

まさに無双と呼ぶに相応しい立ち回りで敵を圧倒する光景は、まさに圧倒的とも言えた。

しかし、その強さ故に、誰もが彼に注目する。

地平線の彼方まで人間で埋め尽くされた光景。と言うことは、最低でもその半分は敵だと考えていいだろう。

半分といえど、単体が遙かに彼に劣るといえど、一度そのすべてに危険人物と認識されてしまえば、話は別。

最優先に倒す目標として認識されたことで、全方位から攻撃がヴァルディへと集中する。

ヴァルディはそんなことでは倒れない。傷ひとつつかない。

だけど、縦横無尽に襲いかかる敵が彼を休ませる暇を与えない。

兵士は消耗品の如くその命を散らしながらも、確実にヴァルディを消耗させていく。

確信する。このままでは間違いなく、彼は――――

 

「やめて、ヴァルディ!戻って、戻ってきなさい!」

 

張り裂けんばかりの叫びも、戦争が放つ狂気が阻んで届かない。

そして、そんな叫びも虚しく、視界が白に染まっていく。

その時、これが夢の光景であることを思い出すが、それでも叫ぶことを止めない。

夢だからという理由で安堵できない何かがあったからこそ、意識を手放す瞬間まで叫び続ける。

 

「ヴァルディ――――――!!」

 

夢の中でも、最後まで私は無力なままだった。

 

 

 

 

夢から覚めた私は、まず安堵する。

地獄から帰ってきたこと。ヴァルディが五体満足で私の前に現れてくれたこと。

それが嬉しくて、同時にあの夢は所詮夢なのだと見切りをつけることもできた。

お陰で、日常生活に支障を来すことなく、いつも通りの一日を過ごせる。筈だった。

 

コルベール先生が突如として授業中の部屋へと入りこんで来たかと思えば、アンリエッタ姫殿下がこの学院に来訪するという報せを届けてきたのだ。

その鶴の一声により、学院は大騒ぎ。歓待の準備に皆がせわしなく動く羽目になる。

私はその報せを聞いた後、すぐにヴァルディに会いに行くことにした。

ヴァルディは授業中は基本的に自由に行動している。彼の気分次第で行き先は変わる為、そう簡単には見つからないと思っていたけど……案外早く見つかった。

彼はシルフィードと戯れていた。遠巻きだから詳細は分からなかったけど、多分そうだった。

近くに寄ると、シルフィードが逃げていく。

それを期と見た私は、彼に向けて名前を呼ぶ。

 

「ヴァルディ!」

 

振り返った彼の姿は、相変わらず絵になる。

何でもない日常を背景にしている筈なのに、彼が居るだけでどうしてこうも違うのか。

 

「どうした」

 

「姫殿下がこの魔法学院にいらっしゃるのよ!!」

 

「姫――ああ、君の友人の」

 

「昔の話よ。今では身分も違いすぎるし」

 

そう。友人と言っても、所詮幼い頃のお目付役程度の意味合いしかない関係。

ヴァリエール家は名門であるが故に、王家ともそれなりに近しい関係を築いている。

それでも立場は圧倒的に違うが、ただの貴族のそれと比べれば雲泥の差。

大人同士が勝手にそう仕向けただけで、その時期子供だった私達はそういったしがらみとは無関係に友情を築いていた。

だが、それもまた昔の話。

過去に培った絆も立場が出来れば無意味となる。失うことはないだろうが、それを表に出すことが出来ないのであれば、無いのと違わないのではないだろうか。

 

「それでも、彼女は君をお友達と呼んでいた。公私云々は抜きにすれば、昔と何も変わっていないように見えるが」

 

そんな私の考えとは違い、素直な感想を口にするヴァルディ。

確かにそうかもしれないが、社交辞令という言葉だってある。

安易にそう思いこんで裏切られるなんて虚しい結末を迎えるぐらいなら、いっそ最初から期待しなければいいだけのこと。

 

「そんなこと――って、そういう話をしたいんじゃないの!とにかくそれで授業は中止。姫様をお迎えする準備があるから、私と一緒に居て欲しいの」

 

「別に構わないが」

 

「ありがとう。じゃあ私達の部屋に戻りましょう」

 

あまり深く考えたくない話題ということもあり、即刻話題を変えて用件を伝える。

それからはあれよあれよと話は進む。

ヴァルディにフェイス・チェンジを掛けたり、身なりを整えたりとあまりやることはなかったけど、やはり王家に縁のある者が訪問するとなれば色々と慎重になるのも仕方ない。

 

着々と準備を終え、いざ歓待の時が訪れる。

煌びやかな馬車に質の良さそうな護衛をこさえて学院の門を潜るその様は、如何にも高貴な身分の方が乗っていると嫌でも証明している。

アンリエッタ姫が馬車から降りてくると、歓喜の悲鳴が上がる。

そんな喧しさに続くように、アンリエッタ姫の手を取り降りてくるひとつの影。

――そこにいたのは、今日夢に出たばかりの男だった。

 

「……ワルド」

 

ぽつりと呟かれた男の名は、歓声にかき消される。

ワルドは昔の記憶と違い髭を生やしていた。

それだけの年月が経っているという何よりの証拠。

……何故、今になって現れたのか。

今日見た夢も相まって、まるで運命めいた流れを感じる。

はっきり言って、そんなもの今の私には余分でしかない。

今の私と彼に大きな接点はない。今回だってあくまで彼は姫の護衛として同伴しただけであって、私は何の関係もない筈だ。

……だというのに、何故か苛々させられる。

言いようのない感情の揺らぎの根源を抱えたまま、歓待は恙なく終わりを告げる。

 

姫が滞在されているということもあり、不必要な外出を控えるよう指示を与えられた私達は、部屋で待機する。

閉鎖的な環境に押しやられた私は、考えたくもないワルドのことを考えてしまう。

それに追従するように、あの夢の後に出てきたヴァルディの姿も脳裏に焼き付いて離れない。

ワルドが夢に出たら、ワルドが現実にも現れた。

なら、あの光景もまた、現実になる可能性がある――?

顔を必死に横に振り、想起した不吉な光景を振り払う。

そんな都合の良い展開が二度も続くなんて思えないが、昨日の今日よりも短いスパンで訪れた流れを思うと、不安を拭い切れないでいる。

 

ふと、ノック音が部屋に響く。

それにより思考を現実に引き戻される。

突然の訪問者に警戒するも、ヴァルディは特に躊躇う様子もなくドアを開く。

ヴァルディの影になって良く分からないが、ドアの前にはフードを被った何者かが立っていた。

私が何者かに対して口を開こうとした時、それを遮るように何者かが口を開く。

 

「お静かに。どこに目が光っているのかわかりませんから」

 

ディテクト・マジックの魔法反応を察知する。

それに、今の声……聞き覚えが。

 

「その声、もしかして――」

 

「はい。数日ぶりですね、お二人とも」

 

フードを取ったその先には――アンリエッタ姫殿下がいた。

 

「何故貴方がここに」

 

「そうですよ。護衛もつけずに、不用心すぎます」

 

ヴァルディが私の思いを代弁してくれる。

すると、アンリエッタ姫は深刻そうな表情で語り出す。

 

「護衛をつけない理由があったからこそ、です。……それを踏まえて、お二人にお話があるのです。――私、結婚することになりました。ゲルマニアに嫁ぐ形で」

 

「――ゲルマニアに、ですか?」

 

その言葉は、あまりに予想外なものであった。

ゲルマニアと言えば、トリステインに限らずガリアやロマリアと言った魔法を尊ぶ国から総じて卑下されている。

魔法ではなくそれ以外を以て繁栄を為そうとするその有り様は、魔法至上主義のこの世界に於いては異端と言われても不思議ではない。

とはいえ、魔法を蔑ろにしている訳でもなく、あくまで魔法以外の技術も同じぐらいに尊重しているだけなのだろう。

一昔前の私は、周りのメイジ程で無いにしても、魔法を卑下するようなゲルマニアに対して否定的な感情を持っていた。

だけど、ヴァルディとの出会いで短絡的な発想は控えるようになり、そのお陰で大分視野が広がった気がする。

まぁ、だからといってキュルケに対する評価が変わる訳ではないけど。アイツは敵だ。色んな意味で。

 

「あまり、驚かないのね」

 

「驚いていますよ。ただ、昔の私ならここで狼狽していただろうってだけで」

 

驚いていないことはない。

内容はともかくとして、昔からの顔馴染みが結婚するなんて聞かされたら、誰だって驚く。

それを差し引いても、昔の私を知っている彼女からすれば、ゲルマニアに嫁ぐ発言でここまで冷静な反応を示した時点で私がどれだけ心境の変化に晒されたのかが分かる。

事実、姫殿下も声には出さずとも明らかに驚いている。

そしてその後すぐ伏し目がちになり、どこか哀愁漂う雰囲気で語り出す。

 

「……成長したのね。羨ましいわ。……貴方が成長したのに、私は昔のままなんて甘えたことは言っていられないわね」

 

その言葉は一体何に対しての答えなのか、それは分からない。

だけど、私の変化が彼女にも変化を与えたということであれば……少し嬉しいかもしれない。

 

「大きな声では言えませんが、トリステインは他国に比べて国力に劣ります。有数のメイジを排出する国という評価はあれど、数人程度の実力者で国家が回る訳でも護れる訳でもない以上、戦争になればどうしても後手に回ってしまうでしょう」

 

「それは……」

 

トリステインは、狂信的なまでに魔法を信仰しており、

 

「アルビオンが今レコン・キスタを名乗る貴族派によって制圧されようとしています。それが完了次第、次に狙われるのはほぼ間違いなくトリステインでしょう。私はトリステインを護る橋渡し役として、ゲルマニアと同盟を結ばなければならないのです」

 

「そ、そんな……」

 

貴族として、政略結婚――家の為に嫁ぐという行為の重要性は強く教えられてきた。

だが、やはり一人の女として、結婚するなら幸せになりたいという願望は誰しもが持っているものだ。

政略結婚で愛が育まれるかどうか、なんて博打に付き合えるほど人生捨ててはいない。それは、彼女だって同じ筈。

姫殿下も淡々と告げてはいるが、手が震えているのが分かる。

 

王家に生まれたが故に、女としての幸せを棒に振る。

平民が聞けば贅沢な悩みだと憤慨するだろう。

だが、それも所詮立場の違いから来る見解の相違だ。

どちらの意見も間違いではない。ただ、どちらの立場にもなれない以上、どちらも納得できる答えは出せない。

王家としての立場と貴族の立場もまた違うのだから、誰も彼女の力になることは出来ない。王家側が実行犯である以上、実質彼女の周りは敵しかいないようなもの。

――――なんて、悲しい運命だろうか。

 

「王族として生まれたからには、そういう運命もあると覚悟してきたつもりです。ですが、それを阻害する問題があります」

 

「それは?」

 

「大きな声では言えませんが――お恥ずかしながら、現アルビオン皇太子ウェールズ・テューダーと私は、将来を誓い合った間柄なのですよ。勿論、正式な婚姻が結ばれた訳ではなく、それこそちょっとした遠距離恋愛をする恋人のような関係でしたが。そして、そんな関係の彩る日常の一ページに過ぎない行動が、今トリステインの危機の引き金となっています」

 

「それは、一体?」

 

「……恋文です。公式のものではないとはいえ、もしそれが貴族派に行き渡れば、ゲルマニアとの同盟はご破算になる切っ掛けを与えてしまうことになる。いえ、それだけで済めばいいかもしれません。使い方によっては、色々な悪用方法があるでしょうし。兎に角、それを避ける為にも手紙を破棄するなり回収するなりしなければならないの」

 

恋文、か。それならば余計に辛いだろう。

子供の頃の誓いとはいえ、その時抱いていた感情は間違いなく本物だった筈。

これだけは確信して言える。姫殿下は、今でもウェールズ皇太子を愛している。

そうでなければ、恋文を回収なんてリスクある行為を万が一でも口にする訳がない。

 

「……ここに来たのも、土くれのフーケを退けたとされる貴方達にその任を受けてもらう為です。身内の問題は身内で解決すべきなのは重々承知しています。ですが、トリステインも一枚岩で構成されている訳ではありません。貴族は利権に固執する者が多い傾向にある為、扱いやすいのと同時に信用も出来ない。貴方達も、先の一件で身に染みて実感したでしょう?」

 

先の一件とは、モット伯と酒場での件だろう。

どちらも貴族が平民に対して不当を働いているにも関わらず、他の貴族は貴族の名を傷つけたくないが故に知らぬ存ぜぬを決め込む。

実績も何もない成り上がりの王女だからって嘗められているのは明白。

そしてそれは、彼女も自覚している。

 

「一歩間違えばすべてが終わってしまうであろう状況で、関係者というだけで信用するなんて安易な行動は取れない。それこそ、心から信頼できる相手に縋るしかない程に、今の私に選択肢はないの。……軽蔑したかしら?お友達なんて言っておきながら、そのお友達を死地に送ろうとしているんだもの」

 

……倫理的観点で言えば、確かに彼女の判断は個人に対して辛辣なものだ。

だが、そうしなければならない程に、現状が切羽詰まっていると考えれば、安易に彼女を怒る事は出来ない。

それに、彼女はそれを自覚して尚、私に縋ってきた。罵倒されることを、こき下ろされることを覚悟した上で、彼女は言わなくても良い事も話してくれた。

その思いに答えず、保身に走り、他の誰かが犠牲になることで現状が良くなることを座して待つ。そんな事、本当の貴族になりたいと願う者の立ち振る舞いではない。

 

「……確かに、姫の発言はとても重いです。その立場上、貴方の言葉に逆らえるトリステイン国民は極僅か。そうともなれば、嫌でも実感せざるを得ないでしょう」

 

「ッ――――」

 

「ですが、私は嬉しかったです。頼ってくれたこともですが、あのままだったら私は無知なまま、姫の嘆きを知らぬまま漠然と事実を受け止めるだけに終わっていました。私なんかをお友達と呼んでくれた姫様が、私の知らないところで傷ついていることを知らないまま生きていくなんて、そんな悲しいことはありません。だから――手紙奪還の任、受けさせていただきます」

 

思いの丈を吐き出すと、姫殿下は身体を震わせながら言葉を紡ぐ。

 

「ルイズ……ありがとう。私の過ちだというのに、貴方にすべて任せてしまう形になってしまって」

 

「私もトリステイン国民ですから、無関係なんてことはありませんよ」

 

……こうして話していると、昔を思い出す。

あの頃は、貴族とか王家の人間とか、そういった垣根もなく、一人の人間として純粋な気持ちで互いに接することが出来ていた。

大人になるに連れて、何をするにしても立場が邪魔をするようになる。王家の人間だった友人は、手の届かない存在になってしまうし、この頃から魔法が使えないことが周知の事実となり、必然的に友人と呼べる存在はいない時期を過ごしてきたせいで、我ながら棘のある性格になってしまったと思う。

だからだろうか。友人という存在に対して、一種のコンプレックスを抱いているように感じるのは。

失うぐらいなら、いっそそんなもの必要ない。

誰もが私を知れば離れていくというのであれば、最初から信用しなければいい。

歪んだ立場が歪んだ環境を生み、やがて歪んだ心を育んだ。

そんな負の連鎖を幼少時代に体験すれば、人間不信になるのも仕方ないことだろう。

だけど、そんな歪みはヴァルディの存在によって矯正されつつある。

 

公私云々は抜きにすれば、何も変わっていない、か。

まるで見てきたかのようなヴァルディの言葉だったけど、確かにその通りだったのかもしれない。

ただ、私が頑なに壁を造り、姫殿下の――アンリエッタの思いから目を逸らしていただけだったに過ぎない。

 

「ヴァルディ殿。どうか、ルイズを――私のお友達を護ってあげてください。無力な私に代わって、どうかお願いします」

 

アンリエッタが、ヴァルディへと頭を下げる。

 

「心配なされずとも、その大任、見事成し遂げてみましょう」

 

それに対し、淀みなく答えるヴァルディのなんと頼もしいことか。

彼と共に居るだけで、万人を相手にしても生き残れる自信がある。

――一瞬、夢の中の光景がちらつくが、所詮夢だと頭を振る。

 

「ありがとう。それと、貴方が言っていた特殊な道具に関してですが、マジックアイテムを研究している機関に問い合わせてみたところ、該当する物がありました。ですが、今回は状況が状況ですので、持ってくることが出来ませんでした。ですので、帰ってきた暁にはそれをお譲りすることを約束します」

 

「感謝します」

 

ここで、私達の話は実質上の終わりを告げる。

その後、直ぐに盗み聞きしていたギーシュをヴァルディが発見し、罰を与える代わりに奪還任務に同伴することになった。

正直、折角のヴァルディとの二人旅に水を差されたようで不快でしか無いが、他ならないアンリエッタの要望だ。私情で断れる筈もない。

 

ともあれ、すべては明日からだ。

アンリエッタの幸せを掴むための任務ではない、ということに不満はあるが、彼女も国民の為に自分を呑み込んだのだ。その思いに答えてこそ、友人だろう。

……だが、その任務の大半もヴァルディがいるからこそ達成できると言えるのであって、私だけならまるで話にならないのは語るまでもない。

そう考えると、この決意も安っぽいものに感じてしまう。

虎の威を借る狐が、偉そうに戦果を報告する姿のなんと浅ましいことか。

今の私は、それと同じだ。

――欲しい。護られるだけじゃなくて、誰かの為になるぐらいの力が。そう、思わずにはいられなかった。

 




相変わらず話が進まないね。ごめんね。
姫殿下→アンリエッタに変わったよ!やったねルイズty

身内にはデレ、それ以外にはツン。使い分けは大事。
あー、次回はワルドか……。どうやって料理しようか。

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