Infinite possibility world ~ ver Servant of zero   作:花極四季

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肉体的ゆとりはあれど、精神的ゆとりはない。そんな近況。


第十二話

複雑な心境を胸に抱えながら、闇夜を裂く勢いで馬を走らせるロングビル。

彼女はフーケとして破壊の剣飾を盗み、それを売ることで資金を得ようと画策していたが、まさか敗北の果てに身元バレもなく、自身もフーケから破壊の剣飾を取り戻した功労者として扱われるなんて、誰がそんな都合の良い未来を想像できたであろうか。

とはいえ、それが現実になってしまった以上、その状況を利用するのが賢いやり方と言える。

貴族の肩書きを剥奪された私に与えられた褒賞は、大量のお金だった。

しかもその額は、破壊の剣飾を質屋に売りさばいて得られるであろう予測額を遙かに上回るものであった。

はっきり言って、これだけ稼げれば学院でちまちまと小金を稼ぐ必要はない。

オールド・オスマンには一時の帰省という名目で学院から永遠に去る算段でいた。

要望は療養も兼ねてあるということで、あっさりと通った。

何もかもが都合良く進んでいる。それこそ不気味なぐらいに。

盗賊なんてケチがつく職なんかすっぱり止めて、帰りを待つ妹の傍にいてやりたい。そんな夢が叶う、筈だった。

 

「土くれのフーケだな?」

 

どこからともなく聞こえる、男の声。

夜の静寂を抜きにしてもとても良く響くそれは、彼女の意識を逸らすには充分すぎた。

馬を止め、周囲を見渡すと、仮面をつけたメイジと思わしき風貌の男が悠然と佇んでいた。

 

「ええ、と。どちらさまでしょうか?」

 

しらを切るロングビルだが、意に介した様子もなく男は続ける。

 

「悪いがそっちの事は調べがついている。煙に巻くなんてことは考えるだけ無駄だぞ」

 

仮面の奥に光る双眸がロングビルを――否、フーケを射貫く。

フーケは観念したと言わんばかりに大きく溜息を吐く。

彼女の甘い理想は、過去の経歴によって瞬く間に塗り潰されていく。

一度悪に手を染めた者は、決して光に当たることを許されないという現実。

それを嫌という程見せつけられたフーケは、苦虫を噛み潰したような表情で男に向かい合う。

 

「……その名で私を呼ぶってことが、どんな意味を持つかわかってるのかい?」

 

「仕事を依頼したい。いや、正式には勧誘、と言うべきか」

 

「勧誘?」

 

「そうだ。アルビオンの――君の故郷の為に働くというのも悪くないと思わないか?マチルダ・オブ・サウスゴータ」

 

マチルダと呼ばれたフーケは、目を見開く。

それは、彼女の真の名。貴族としての地位を失った時点で、この名を呼ぶのは妹だけだと思っていた。

同時に、その名を知るという事実が仮面の男の情報網――背後の大きさが伺える。

名前を知っていると言うことは、その背景さえも余すことなく知られている可能性は大と見ていいだろう。

 

「……そこまで知っているなら、私が王族の為に働くと言うと思っているのかい?」

 

「君の意思は重要じゃない。ここまで暴露してしまった以上、君に与えられる選択肢は二つだけだ」

 

「取り込まれるか、消すか。かい?」

 

「その通りだ。どうするかね」

 

事実上の一択のみの問題だというのに、いけしゃあしゃあと男は問いかける。

戦って男を倒す、という選択肢は勿論ある。だが、こっちは相手の事を何も知らないのに対して、相手はこっちを知り尽くしている。

土メイジの戦闘は、錬金によって頭数を揃えることを前提としたものが殆ど。つまり、攻勢だろうが守勢に回ろうが、丸腰の状態から始まる場合ディレイが他の魔法に比べてかかってしまう。

当然相手はこっちの手を知り尽くしている以上、あらゆる行動を封じられると考えていいだろう。

戦闘になるであろうことを考慮してこの男を派遣したと考えると、男の強さもスクウェアクラス、相性を加味すると風メイジである可能性も高い。

一度牙を剥けば、仮に仮面の男を倒したとして、第二第三の刺客が現れる可能性だって否定できない。そうなればいたちごっこだ。

そして最悪、ここで断ることで妹にまで被害が及ぶことを考えると、首を横に振るなんて事はできない。

結局、詰んでしまっているのだ。どうしようもないぐらいに。

 

「……わかったよ。アンタらの仲間になる」

 

「賢明な判断だ。あと、訂正しておくが私達は王族関係ではなく、その王族に反旗を翻す者だ。何も懸念することはない」

 

「王族に反旗を翻し、アルビオンが出てきたってことは、まさかアンタらは――」

 

仮面の男の口元が歪む。

 

「そう。ようこそ『レコン・キスタ』へ。マチルダ・オブ・サウスゴータ」

 

 

 

 

 

最近は、凄く平和だった。

ゲームの中だというのに、ファンタジーな世界観なのに、日長一日ぶらぶらしたりいつものメンバーとお話したりばかりで、刺激になるような出来事は何も起こらなかった。

たまにはそういうのもいいかな、と思って何も考えずに動いていたけど、そろそろ変化が欲しいところ。

 

この世界を第二の現実と認識し、ルイズちゃんを妹のように思うようになってから、この世界を見る目線が変わった。

以前は何事もゲームの概念に引っかけて物事を考える節があったが、最近は形を潜めている。

ただの世間話すら、認識が変われば新鮮に感じる。

最初からあまり意識してはいなかったけど、相手も同じ人間なんだって強く思えるようになってからは、一層彼らを見る目が変わった気がする。

 

そんな僕は、今日もルイズちゃん達の授業中の暇つぶしをしている。

使い魔同伴という形で授業に参加してもいいんだけど、普段から落ち着きのない性格の自分は、大人しく授業を受けるという行為は合わない。

魔法の勉強だから興味深い内容なんだろうけど、使えないのならば覚えたところで、ねぇ。

最初の頃は楽しいかもしれないけど、一回参加してからは二回、三回とずるずると参加する羽目になろうものなら、かなり辛い。なまじ使えない分、尚更。

ノーと言えない日本人の一人だから、多分逃げることはできないだろうしねぇ。

どの世界に居ようとも、勉強は嫌なんですよ。実益に繋がるならまだいいんだろうけどさ。

勉強しても役立つかどうか分からないという意味では、現実のそれと遜色ないね。人間四則計算できれば生きていけるって。

 

そんな益体もないことを考えている自分ですが、現在シルフィードと戯れていたりします。

タバサ先生の使い魔であるこの子には、彼女共々お世話になりっぱなしなので、偶然学院付近で待機している姿を発見し、今に至るという訳である。

こうして撫でたりしてみると、何というか、凄く……いい。

もふもふする訳でも抱き締めたくなるという訳でもないけど、凄くかいぐりかいぐりしたくなる。

大人しいし、顎を撫でると鳴いてくれるし、凄くやりがいがあると言いますか。とにかく、可愛いんだよぉ!

流石に人様のペット?なので、過剰な行動は取れないけど、そうじゃなかったらどうなってたことやら。

そんな感じで癒しを堪能していると、ふと学院の方が騒がしくなってきた。

同時にシルフィードはどこかへと飛び立ってしまう。ああ、僕の癒し……。

 

「ヴァルディ!」

 

しょんぼりする暇もなく、ルイズちゃんの声に振り返る。

 

「どうした」

 

「姫殿下がこの魔法学院にいらっしゃるのよ!!」

 

「姫――ああ、君の友人の」

 

「昔の話よ。今では身分も違いすぎるし」

 

「それでも、彼女は君をお友達と呼んでいた。公私云々は抜きにすれば、あの時の反応からして昔と何も変わっていないように見えるが」

 

「そんなこと――って、そういう話をしたいんじゃないの!とにかくそれで授業は中止。姫様をお迎えする準備があるから、私と一緒に居て欲しいの」

 

「別に構わないが」

 

「ありがとう。じゃあ私達の部屋に戻りましょう」

 

ルイズちゃんの指示で、僕達はアンリエッタ姫の歓迎会の準備に向かう。

とはいえ、実際に僕が何かするといった訳ではなく、ちょろちょろすんな大人しくしてろってことだったらしい。

立場としては正統なんだろうけど……駄目な兄貴って感じで申し訳ありません。ぐすん。

いや、こっちが勝手にルイズちゃんを妹って認識してるだけで、あっちからすれば一介の使い魔でしかないんだけどさ。

……べ、別にお兄ちゃん!なんて呼ばれたい訳じゃないんだから!

と思ったら、耳を隠さないといけないのを思いだし、ルイズちゃんが言っていた準備とは、これも含んだことだったらしい。浅慮でごめんなさい。

なんてアホなことを考えながらルイズちゃんの後をひたすらついて回っていると、いつの間にかあらかたの工程を終えていざ歓迎すべく待機している状態まで進んでいた。

 

「そろそろね」

 

「まさかこんな短いスパンで再び彼女とまみえることとなろうとはな」

 

一応王女なんだよね?なんか自由過ぎる気がする。

流石に遊びに来た、なんて理由で外出出来る筈もないだろうし、何か大きな事件でも起こりそうな予感。

 

「来た」

 

いつの間にか近くに居たタバサ先生の合図を皮切りに、皆が直立不動の体勢を取る。

煌びやかに装飾された馬車が正門を潜る。

馬車を引く馬は、まさかのユニコーンだった。やべぇ、かっけぇ。

その周りには如何にも騎士ですって風体の人達が取り囲んでおり、更には上空にはグリフォン?っぽい幻獣が歩幅を合わせて護衛している。

その光景を前に、アンリエッタ姫って本当にやんごとなき人なんだなぁと思い知らされる。

あまりにも初邂逅が自然だったものだから、勘違いしてたよ。

アンリエッタ姫が、馬車から降りると共に沸き上がる歓声。

周囲に笑顔を振りまきながら歩むその後ろで、馬車から更に降りてくる影。

それはまるで赤魔導士みたいな装備の、髭が似合わない男性だった。

なんで髭生やしているの?剃ったらイケメン間違いないのに、なんで?ないわー。

もうね、見てらんなかったから即刻視線をアンリエッタに戻したよ。ジャンパーのチャックが噛み合わないようなもどかしさは望んで味わいたくはない。

 

そんな予想外な不快感を味わう羽目になった以外は、何事もなく終わった。

アンリエッタが滞在しているという理由で必要最低限の行動しか許されない状況に置かれた僕達は、必然的に部屋に籠もるしかなくなり、暇を持て余す。

ふと、ルイズちゃんの様子がおかしいことに気付く。

どこか複雑な表情で思案する様子は、どこか不安げにも見える。

どうしたのか問おうとした時、ノック音が部屋に響く。

夜遅くになり、かつ行動を制限された今、誰が来るというのか。

わからないながらも、近所迷惑を避けるべく音を立てないようにドアを開ける。

そこに居たのは、フードを覆った何者かであった。

身長差がありわかりにくいが、フードの人は人差し指を口元で立てる。

 

「お静かに。どこに目が光っているのかわかりませんから」

 

そう言って杖を振るフードの人。そしてそのまま僕を押し退けるような形で部屋に入ってくる。

 

「その声、もしかして――」

 

「はい。数日ぶりですね、お二人とも」

 

フードを取り払うと、そこにいたのは――まさかのアンリエッタだった。

 

「何故貴方がここに」

 

「そうですよ。護衛もつけずに、不用心すぎます」

 

そう言った意味では、僕達は用心してたね。

いやー、お偉いさんが滞在しているって理由でフェイス・チェンジをそのままにしておいて良かったよ。

しかしこれ、いつまで効果続くんだろう。

 

「護衛をつけない理由があったからこそ、です。……それを踏まえて、お二人にお話があるのです」

 

ルイズちゃんに差し出された椅子に腰掛けたアンリエッタは、一呼吸置いて話し始める。

 

「私、結婚することになりました。ゲルマニアに嫁ぐ形で」

 

「――ゲルマニアに、ですか?」

 

「あまり、驚かないのね」

 

「驚いていますよ。ただ、昔の私ならここで狼狽していただろうってだけで」

 

「……成長したのね。羨ましいわ。……貴方が成長したのに、私は昔のままなんて甘えたことは言っていられないわね」

 

遠巻きから話を聞いているが、結婚かぁ。しかも政略結婚っぽいし。

政略結婚かぁ。愛がない、とは言わないけどお見合いも然り、理想の流れとは言い難いよね。

結局始まりは利害の一致からくるものなんだから、愛情が挟む余地は結婚の後にしかない訳で。

現代人の考えだから、どうしても偏見も入っちゃうけど、やっぱり結婚は恋愛あってこそだと思う。

 

「大きな声では言えませんが、トリステインは他国に比べて国力に劣ります。有数のメイジを排出する国という評価はあれど、数人程度の実力者で国家が回る訳でも護れる訳でもない以上、戦争になればどうしても後手に回ってしまうでしょう」

 

「それは……」

 

「アルビオンが今レコン・キスタを名乗る貴族派によって制圧されようとしています。それが完了次第、次に狙われるのはほぼ間違いなくトリステインでしょう。私はトリステインを護る橋渡し役として、ゲルマニアと同盟を結ばなければならないのです」

 

「そ、そんな……」

 

部屋全体に重い空気がのし掛かる。

モニター越しでは気にならなかったであろう空気も、今の僕には現実同然に襲いかかる。

だけど、僕はそれを破る為の言葉を持ち合わせていなかった。

 

「王族として生まれたからには、そういう運命もあると覚悟してきたつもりです。ですが、それを阻害する問題があります」

 

「それは?」

 

「大きな声では言えませんが――お恥ずかしながら、現アルビオン皇太子ウェールズ・テューダーと私は、将来を誓い合った間柄なのですよ。勿論、正式な婚姻が結ばれた訳ではなく、それこそちょっとした遠距離恋愛をする恋人のような関係でしたが。そして、そんな関係の彩る日常の一ページに過ぎない行動が、今トリステインの危機の引き金となっています」

 

「それは、一体?」

 

「……恋文です。公式のものではないとはいえ、もしそれが貴族派に行き渡れば、ゲルマニアとの同盟はご破算になる切っ掛けを与えてしまうことになる。いえ、それだけで済めばいいかもしれません。使い方によっては、色々な悪用方法があるでしょうし。兎に角、それを避ける為にも手紙を破棄するなり回収するなりしなければならないの」

 

そこでアンリエッタは口を閉じ、膝の上で強く拳を握り締める。

 

「……ここに来たのも、土くれのフーケを退けたとされる貴方達にその任を受けてもらう為です。身内の問題は身内で解決すべきなのは重々承知しています。ですが、トリステインも一枚岩で構成されている訳ではありません。貴族は利権に固執する者が多い傾向にある為、扱いやすいのと同時に信用も出来ない。貴方達も、先の一件で身に染みて実感したでしょう?」

 

平民に対して横暴を行っていた貴族をとっちめる任務のことだね。如何にも小物って感じだったね。

少なくとも、絶対の信念を持ってあんな行動をしていたとは欠片も考えられないぐらいには、小物だったね。

 

「一歩間違えばすべてが終わってしまうであろう状況で、関係者というだけで信用するなんて安易な行動は取れない。それこそ、心から信頼できる相手に縋るしかない程に、今の私に選択肢はないの。……軽蔑したかしら?お友達なんて言っておきながら、そのお友達を死地に送ろうとしているんだもの」

 

自嘲気味に微笑むアンリエッタの姿は、痛々しくて見ていられない程だった。

国のために友人を戦場に送り込む。それがどれ程辛い決断なのかなんて、本人にしか分かり得ない。

だけど、彼女の表情を見れば嫌でも理解してしまう。

王女だなんだと言っても、まだルイズちゃんと同い年ぐらいでしかない。それなのに、精神力に明確な差が出るとは思えない。

いや、立場上なまじ半端に現実を理解してしまっているからこそ、自分の言葉の意味も理解してしまい、苦しむ羽目になっている。

生まれ育った環境が違うだけで、ここまで残酷な運命にまで発展するなんて、平和な日本で生きていた自分には考える余地さえも与えられなかった。

そんな僕が、彼女を慰めたところで上辺ばかりの薄っぺらい言葉にしかならない。

だからその役目を担うのは、僕じゃない。

 

「……確かに、姫の発言はとても重いです。その立場上、貴方の言葉に逆らえるトリステイン国民は極僅か。そうともなれば、嫌でも実感せざるを得ないでしょう」

 

「ッ――――」

 

「ですが、私は嬉しかったです。頼ってくれたこともですが、あのままだったら私は無知なまま、姫の嘆きを知らぬまま漠然と事実を受け止めるだけに終わっていました。私なんかをお友達と呼んでくれた姫様が、私の知らないところで傷ついていることを知らないまま生きていくなんて、そんな悲しいことはありません。だから――手紙奪還の任、受けさせていただきます」

 

「ルイズ……ありがとう。私の過ちだというのに、貴方にすべて任せてしまう形になってしまって」

 

「私もトリステイン国民ですから、無関係なんてことはありませんよ」

 

どうやら、万事解決したらしい。うーん、この空気っぷり。

それにしても、いつの間にかアルビオンって所に行くことになっている。場所はわからないけど、雰囲気的に遠出になりそうだ。

本格的に世界が拡がっていきそうな予感。オラわくわくすっぞ。

 

「ヴァルディ殿」

 

ふと、アンリエッタに声を掛けられる。

 

「どうか、ルイズを――私のお友達を護ってあげてください。無力な私に代わって、どうかお願いします」

 

「心配なされずとも、その大任、見事成し遂げてみましょう」

 

「ありがとう。それと、貴方が言っていた特殊な道具に関してですが、マジックアイテムを研究している機関に問い合わせてみたところ、該当する物がありました。ですが、今回は状況が状況ですので、持ってくることが出来ませんでした。ですので、帰ってきた暁にはそれをお譲りすることを約束します」

 

「感謝します」

 

僕に対する話は終わったようだし、折角友人同士気兼ねなく話せる状況なんだ。お邪魔虫は退散しよう。キュルケかタバサ先生の部屋辺りに。

そう考え、静かに部屋から退散すべくドアに手を掛ける。

 

「…………ん?」

 

ドアが重い。しかしその重さも一瞬のもので、軽くなった途端ドタドタと騒がしい音が廊下に拡がる。

そのままドアを開けると、そこには尻餅をついたギーシュが僕を見上げていた。

 

「何をしている」

 

「え!?あ、いや、その、これは」

 

何かテンパってて要領を得ない。ていうかここ、一応女子寮的な場所だよね?なんでいるの?

 

「ギーシュ!?あんたなんで――」

 

「待って、ルイズ。事を荒立てる訳にはいきません。ヴァルディ殿、彼を部屋に入れて下さい」

 

「分かりました」

 

相変わらず腰の抜けたギーシュを無理矢理立ち上がらせ、部屋に引きずり込む。

 

「あ、アンリエッタ姫殿下!本日もご機嫌麗しゅう――」

 

「挨拶はいいです。それよりも、何故このような場所に貴方のような方がいるのですか?少なくとも、偶然あの場に居たなんて都合の良い展開は有り得ないと思いますが」

 

そりゃそうだ。男子が女子寮にいる時点でね。あ、僕も男子か。

 

「そ、それは。フードを被った謎の人物を視界の端に偶然捉え、正義感から尾行などしてみたりしたのですが、まさかその正体が姫殿下などとは思いも依らず、つい出来心でこの場に留まっていたという次第です……」

 

「それはつまり、先程この部屋で行われた会話の顛末も盗み聞きしていた、と捉えても?」

 

「……はい」

 

「正直ですね。美徳だと思います」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「ですが、その言葉が真実だとすれば、私は貴方を大人しく帰す訳にはいかなくなりました」

 

「そのことですが、その密命、このギーシュ・ド・グラモンにも仰せ付け下さい!」

 

「グラモン、もしかしてグラモン元帥の」

 

「息子です」

 

元帥とか、なんか格好いいな。

というか、グラモン家って結構凄いのな。ギーシュはあれだが。

 

「成る程、軍人の家柄の貴方ならば、申し分ないでしょう。わかりました、許可します」

 

「姫殿下、そのような浅慮を――」

 

「ルイズ。戦力が多いに越したことはありません。それに、どこに目があるか分からないとはいえ、まさか彼ほどの年齢の者にその疑惑があるとは思えません。特に、こうも簡単に口を割り、尾行バレをするような者ならば尚更そう思いませんか?」

 

笑顔で毒を吐くね、姫。まぁ、ルイズちゃんとかならいざ知らず、赤の他人に恋文がどうのって会話聞かれたら、嫌な気分にもなるよね。

ギーシュも何か変な表情になってるし。コイツならご褒美だとか言いかねんが。

……あれ、そうなると僕も悪印象?

 

「兎に角、明日からアルビオンへと発ちます。昔の話ですが、姉たちとアルビオンへ旅をしたことがあります故、地理には明るいかと」

 

「そうですか。ウェールズ皇太子はニューカッスル付近にいるものと思われます。貴方達の目的が貴族派に知られれば、旅は困難なものとなるでしょう」

 

「問題ありません。私にはヴァルディがいます」

 

「……そうですね。よろしくお願いします」

 

「私も、私も粉骨砕身の思いで望ませていただきます!」

 

出しゃばるなぁ、ギーシュ。下心丸見えだよ。

 

「それと、この手紙と水のルビーを身分証明の証として持っていって下さい。皇太子に見せれば、これ以上とない身分証明になるでしょう。場合によっては、ルビーは売却して旅の資金としても構いません」

 

「わかりました」

 

明日から、本格的な旅が始まる。

ギーシュというイレギュラーもいるものの、まぁなんとかなるよね。

そんなことより、馬に長時間乗りそうだから、お尻が大変なことになりそう。そっちのが心配だよ。

 

 




アンリエッタが原作よりも大人びているのは、意識の違いですね。
ルイズが成長している、と理解したことで自分も昔のままではいられない、という考えに到った結果です。
そんな簡単にいくか?って感じもしますが、原作でも結構多感で移り気が激しい傾向にあるから、簡単に影響されそうではある。よって問題なし。

ギーシュの扱いは一貫してこんな感じになりそう。興味のないヤロウの描写なんて面倒でたまらん。(ギーシュファンの人には)すまんな。

次回はルイズ視点8割ぐらい?残りは未定。

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