Infinite possibility world ~ ver Servant of zero   作:花極四季

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最近書くのに夢中になって4時寝になる。そして私は12000文字に愛されすぎだ。
もっと小分けした方が読みやすいんだろうけど、いかんせん区切る場所がないor思いつかない。


第十一話

破壊の剣飾、もといレイヴを手に入れてからゲーム内で数日が経過した。

ルイズちゃん達はミッション成功の証として、シュヴァリエという名前の称号を手に入れた、と思っていたが地味に違っていた。

正式にはその称号はまだ彼女達のものではなく、王女自らが与えることでようやく成立するらしい。

面倒だなぁと思いつつも、冷静に考えると、普通ならそんないち学院の長が与える称号にそこまで価値はないのだ。

称号とは、地位や身分を表す呼び名だ。国自らが賞状とかを手ずから与えないことには、上辺だけのものになってしまう。

普通のゲームみたく、クエストクリアしたら称号がもらえたよ!なんて展開になっても、実質その称号を持っているかどうかを第三者に伝える術はない訳で。

だから、その正式な手続きを行うべくして、王女が居るとされる王宮に足を運ぶことになったのだ。

キュルケは自国のゲルマニアで受け取るらしいから、途中で別れることになった。

因みに移動はタバサ先生便りです。何か最近親切なんだよなぁ。

 

王宮は学院で行われた舞踏会の会場よりも豪華絢爛たる雰囲気を醸し出している。まさに国の中心と言うべきか。

兵士の人や王宮にいる人達から訝しむような目で見られたけど、事情を説明すると成る程と言わんばかりに頷いて通してもらえた。

まぁ、ルイズちゃんのような如何にも貴族な感じな子はともかく、僕の姿は完全に冒険者のそれですから。そりゃ不審がられるわな。

 

そうして遂に、王女との謁見となる。

王女は、予想外に若かった。

後に聞いた話では、若くして前王女から地位を受け継いだらしい。大変だなぁ。

ルイズちゃんが頭を下げたので、見よう見まねで同じ姿勢を取る。

 

「おめでとう、ルイズ・フランソワーズ」

 

「この度は私めにシュヴァリエの称号を賜るという名誉を与えて下さり、ありがとうございます」

 

「貴方達は相応の活躍を果たしたのです。そんなに謙虚になる必要はありません。フーケこそ逃がしこそしましたが、城下を悩ませていた賊から宝を取り戻したという事実は、とても名誉あることなのですよ」

 

一度言葉を句切り、王女がこちらを向く。

 

「使い魔さん。貴方もありがとう。最初は人間が使い魔だと知り驚きましたが、ルイズが貴方を強く信頼しているのは、見ていればわかります。ルイズを護ってくれて、ありがとう」

 

「勿体なきお言葉」

 

エルフなんですけどねー、とは口が裂けても言えない。

 

「私の大事なお友達を護ってくれたのです。相応の礼をしたいのですが、何か望みがあればある程度の融通は利かせましょう」

 

「望み……ですか。まさか使い魔たる私めにまで褒美を与えてくれるなどとは微塵も考えておらず、何も考えておりませんでした。同時に、その慈悲深さを疑うような真似をして誠に申し訳ありません」

 

おうおう、よく口が回るよこの身体は。

だいたいは言いたいことを代弁してくれいるからいいんだけど、なんというか流暢に喋るなぁと思う。

僕ならこんな場所でお偉いさんにそんなこと言われたらどもる自信しかない。

 

「いいのですよ。確かに公式では、使い魔の義務はメイジに対する当然の働きとして、メイジが褒賞を一括して受け取る形となっています。ですが、これは私の我が儘のようなものですから。お友達を助けてくれたことへの感謝の証明、それは使い魔だからといって蔑ろにして良いことではないのですから」

 

……何この子。すっげぇ良い子。

なんて言うか、真摯かつ純粋。まさに汚れの知らない王宮育ちって感じ。

たまに我が儘姫に成長するパターンもあるけど、こっちでは王女ということもあってか凄く真面目だ。

 

「では――何か戦いに役立ちそうなものを見繕ってはもらえないでしょうか。今すぐに、という必要はありません。それと、ここからは私の我が儘となりますが、もし誰にも使い方が分からない武器や道具などがありましたら、拝見、良くて譲って貰えるように計らってもらいたいのです」

 

「使い方が、わからない?」

 

「姫様。彼は武力もさることながら、知力にも長けており、私達が知らない知識さえも持っています。その知識のお陰で、今この場にいると言っても過言ではありません」

 

偶然の産物なんだけどね。まぁ、あっちからすれば知らない知識を持ってるスゲー!って解釈されてもおかしくないわな。

 

「成る程、わかりました。出来る限りの尽力は致しましょう」

 

「感謝の極み」

 

「……それと、実は貴方達にお願いがあるのです」

 

少しだけ深刻そうな表情で、そう話を切り出す。

 

「何でしょうか?」

 

「暫くの間、貴方達に街で暮らして欲しいのです」

 

……あぁん?何で?

 

 

 

 

 

トリスタニアのしがない服屋を出る。

今の私の服装は、どこからどう見ても平民だろう。それぐらい地味な服装をしている。

ヴァルディも服装をチェンジしているのだけれど……その美貌で平民とか、ないわーとしか思えない。

何というか、雑草の中に無理矢理薔薇をねじ込んだぐらいの違和感を感じる。

 

私達が姫様――アンリエッタ・ド・トリステインから与えられた任務。それは諜報活動だった。

一部の貴族が平民に不当かつ横暴な行いをしているらしく、それに疑念を覚えた彼女は私達に探りを入れて欲しいと頼まれたのだ。

周囲の者は貴族は平民の規範であり、そんなことは有り得ないと口を揃えるばかりでアテにならない。

以前、モット伯が平民の女性をメイドとして囲い侍らせているという問題が浮上していたらしく、その一件から鑑みても有り得ないことではないとのこと。

因みにその件に関しては、良く分からない内に解決していたんだとか。

噂ではどこかの傭兵がたった一人でモット伯を打倒し、女性達を解放したらしい。そこから噂が拡がり、検挙に到ったとのこと。

たかだか傭兵個人がメイジを打倒したなど眉唾ものだが、事実として問題は起きていたのだ。疑って掛かるのも当然といえた。

 

「諜報に必要な軍資金は頂いたけど、あまり多いとは言えないし、どうしましょう」

 

「探せば安宿だって見つかる。君には不慣れな環境になるやもしれんがな」

 

「……大丈夫、だと思う」

 

ヴァルディがいる手前、我が儘を言えるはずもない。

それにしても、彼はこういう環境に慣れているのだろうか。

何というか、服を買う際にも手際が良かったというか。必要以上の出費はしないように心がけていたのが行動の端々から伺えたし、意外と庶民的だったことに驚きだ。

 

「だけど、諜報活動と言ったってどうやってやればいいのかしら」

 

「それならば、酒場だな。ああいう場所には情報が集まると相場が決まっている」

 

「そうなの?」

 

「論より証拠だな。――いや、待ってくれ」

 

ふと、ヴァルディが自分の言葉を否定し出す。

 

「情報は集まるという点は否定しないが、貴族絡みの情報を素直に教えてくれるかが問題だ。平民の立場なら、その情報が相手に漏れたことで不利益被るなんて御免被りたいだろうしな」

 

確かに、ヴァルディの言い分は理解できる。

平民がメイジに勝てない、という真理が定着しているハルゲキニアで、誰が見ず知らずの相手を助ける為に自分が圧倒的不利益を被る発言を許すだろうか。

ましてや今の私達は、あくまで平民に紛れて活動しているのだ。同じ平民で貴族に対抗する、なんて話信じられる訳もないだろうし、口を割るなんてことはまず考えにくい。

 

「じゃあ、どうするの?」

 

「そうだな。――聞き出せないのなら、いっそ潜り込むか?」

 

 

 

 

 

我ながら、よくそんな発想に至ったな、と思った。

虎穴に入らずんば虎児を得ず、なんて諺があるけど、まさにそれだよね。

というか、逆に考えるんだ、って奴だな。いや、そこは重要じゃない。

そんなこんなで、酒場で雇ってもらおうという計画なのだが、調べた限りでは酒場は単体では存在しないらしく、『魅惑の妖精亭』という宿が酒場を兼用した造りだということを知り、訪れたのだが――

 

「いらっしゃぁ~い。お客様二名、ご案内しま~す」

 

……うん、どこからどう見てもオカマです。本当にありがとうございました。

紫のタンクトップのようなものを着た剛毛のおっさんが、声高に客商売をする姿は、果たして集客する気があるのかと問いただしたくなる。

 

「いや、私達は客ではない。実は――」

 

取り敢えず、オカマに短期間の間住み込みで雇って欲しいという旨を伝える。

 

「あら、そういうこと。いいわよ~」

 

「いやにあっさりしているな。こちらとしては有り難いが」

 

「ウチはいつでも忙しいから、人手は幾らあってもいいのよん。特に貴方、よく働いてくれそうだしね。そっちの子も可愛いから、お客の受けも良さそうだしね」

 

そう言ってウィンクをする。

というか、いいわよって言うことは彼が店長なのか。

……大丈夫か、この宿。

 

「それじゃあ、ついてきてね~ん」

 

身体をくねくねさせながら歩く店長。

ルイズちゃんも渋い顔をしている。店長のあんな姿込み、仕事への不安込み、と言ったところか。

……なんて言うか、めちゃくちゃ失敗する未来しか見えないなぁ。大丈夫かな。

 

「それじゃあ、えっと――」

 

「私はヴァルディ。彼女はルイズと言う」

 

「私はスカロンよ、よろしくね。さて、ルイズちゃんは着替えの準備があるからついてきて頂戴。ヴァルディ君は、お皿洗いを担当してもらうから、厨房に入ってジェシカ――長い黒髪の子の指示に従って頂戴」

 

「了解した」

 

一時の別れを告げ、厨房に入る。

さーて、頑張りますかね。皿洗いぐらいなら家でやったことあるから、全然平気だしねー。

……自分で提案したことながら、まさかゲームの中で皿洗いするなんて夢にも思わなかったけどさ。

 

 

何だかいつもより騒がしいと思ったら、どうやら新人が二人入ったらしい。

兄妹での雇用らしいが、一目見た瞬間から思ったね。そんなわけないと。

明確に証明できる材料がある訳じゃないけど、兄妹にしては似ていないなー、と思ったし、何て言うか二人とも雰囲気が違うんだよね。

片や洗練された剣のような美麗の男に、片や如何にも貴族って感じの少女。

服装こそ平民のそれだが、雰囲気が二人とも平民らしくない。

見た目が似てない、という点は義理の兄妹って線もあるし、何よりここで店長をやってるスカロン。あれ、私の父親だし。

あれを見た後では、血縁だからって外見が似通るなんて保証がないことは嫌でも理解できる。

どういう関係なのか。何のためにここに来たのか。

興味の尽きない話題は幾らでもあるが、ひとまずは仕事だ。

少女の方は、案の定接客に回されたので、必然的に裏方は私と彼との二人きり。

 

「今日からここで働くことになったヴァルディだ。よろしく頼む」

 

「私はジェシカ。よろしく」

 

第一印象は、お堅い感じ。

凄く格好いいけど、その張り付いたような無表情は好みじゃない。私はもっとこう、感受性豊かな子の方が好みかな?

取り敢えず、時間も押していることだし早速皿洗いを始める。

仕事ぶりに関しては、そこそこ手慣れていると言ったところか。

雰囲気的に、こういう事しそうにないと思ってたんだけど、良い意味で予想は裏切られた。

 

「ねぇ、貴方達兄妹なんだって?」

 

「そうだが」

 

「ふ~ん。全然似てないわよね」

 

「外見が似ていれば兄妹、なんてことはあるまい」

 

軽い揺さぶりを兼ねた会話をしてみるも、感情に一切の揺らぎがない。

動揺して口を滑らせる、なんてことは恐らくないだろう。

つまらない。けど、諦めるつもりはない。

それに、ここまで徹底して無感動を貫いているなら、どうにかして揺さぶってやりたいと思うのが人間というものだろう。

 

「……何やら騒がしいな」

 

彼の言葉に釣られて、ホールの方へと視線を向ける。

何やら彼の妹が問題を起こしたのか、彼女を中心として喧噪が拡がっている。

お父さんが介入し、そのままあの子はどこかへと去っていった。

何があったかは知らないが、余程変態的な要望をされたとしても、平民ならば処世術の一環としてそういった相手への対応技術も持っているのが当たり前だ。

そうしなければ、生きていけないから。

感情的に物事を進めても許されるのは、余程世間を知らないだけの子供か、生まれながらの権力者だけ。

許される、というと少し語弊があるけど、そういう我が儘を通せる立場って事を言いたかったのよ。

まぁ、ここまでくれば私の予想もだいたい当たっていると踏んで良いだろう。

 

「すまない。ルイズの所に行ってくる」

 

「ええ、わかったわ。だけど、仕事サボった分は明日に回すからね」

 

「わかっているさ」

 

足早にヴァルディはこの場を去っていく。

……彼らが本当の兄妹かはともかく、それ相応に彼女を大事にしている、ってことは本当のようね。

ますますどんな関係なのか、気になるなぁ。

 

 

 

 

 

それからの出来事は、基本的に単調だったので纏めて説明する。

ジェシカという少女の指示に従いながら厨房での仕事をこなしていたんだけど、やはりと言うべきか、貴族であるルイズちゃんが接客業なんて出来るはずもなく、色々とやらかしてくれていた。

女性が接客することを絶対としている(スカロンはいいのか?)為、交代する訳にもいかず、一日の仕事を終えるまで失敗を繰り返していた。

あと、なんかチップレースっていうのが今週の企画であるらしく、一番チップを貰えた人には特別ボーナスの他に、魅惑の妖精亭の家宝であるビスチェっぽいものを一日着用する権利が与えられるとか。

良く分かんないけど、あれ着ると相手を魅了できるらしい。恐ろしいな。

多分、それを目当てにルイズちゃんも張り切りすぎたせいで、あんな感じになってしまったんだろう。

お金を稼ぐことが本命ではないからいいけど、お皿の割れる音が聞こえる度に申し訳なさが募る。

あ、因みにここでは僕とルイズちゃんは兄妹ってことで通している。そうすれば色々と面倒がなくて済むしね。

 

そして、今僕達は宛がわれた部屋にいる訳だが――

 

「ルイズ、そう落ち込むな」

 

「だって、だって……」

 

半ば涙声で枕に顔を埋めるルイズちゃん。

どうやら皿割りの他にも、客からのセクハラもあったらしく、かなり落ち込んでいる。

とはいえ、それだけでこんなに落ち込んでいるのではなさそうだが。

 

「すまない。私があのような提案をしなければ……」

 

「違うの。ヴァルディは悪くない」

 

「しかしだな」

 

「……貴族だからって言い訳はできない。今まで他人任せで生きてきたしっぺ返しがきただけだもの。でも、やっぱり……知らない誰かに仕事だからって身体を触らせたりするのは、嫌だ。嫌だ、けど――私の我が儘で姫様にも、ヴァルディにも迷惑は掛けられない」

 

身体を起き上がらせ、枕を胸元に抱えるルイズちゃん。

表情は変わらず暗いまま。

 

「だけど、きっと明日も同じ間違いを繰り返しちゃう。生理的な問題だから、意識ひとつでどうにかなるものじゃないもの」

 

枕を抱く腕に力が籠もるのがわかる。

未知の体験。それもあまり倫理的に良いとは言えない出来事となれば、本来投げ出していても不思議ではないのだ。

ましてや蝶よ花よと育てられたであろうルイズちゃんならば、免疫がないのも当然だ。

 

彼女の苦しみも、悲しみも、設定という名の幻想でしかないとしても、僕には紛れもない現実にしか感じられない。ならばそんな概念になんの意味があるというのだろうか。

まさにこの世界は、僕にとって第二の地球なのだ。

そして、僕にとって彼女は――何なんだろう。

 

「だけど……もしヴァルディが、私が眠るまで頭を撫でてくれたら、明日も頑張れるかもしれない」

 

上目遣いで、そんなことを言い出す。

 

「撫でるぐらい、幾らでも」

 

その答えに、ルイズちゃんは笑顔になる。

そんな姿を眺めていると、こっちも優しい気持ちになってくる。

そして望み通りルイズちゃんが眠るまで撫で続けた。

女の子との接触経験がない自分だが、彼女に関してはいつの間にか緊張とかはしなくなっていた。

やはり、いつも一緒にいるからだろうか。異性というよりも、家族――それこそ、妹のような目で見ているのかもしれない。

兄妹設定で潜り込んだのが、まさか本当に相手を妹と認識する切っ掛けとなるなんて。

現実では一人っ子だったから、何だか嬉しい。

それじゃあ、可愛い妹の為に、明日も身を粉にして働きますか。

……はやく諸悪の根源こーい。

 

ルイズちゃんの寝息が穏やかになった頃、小さくノック音が鳴る。

扉越しに声掛けしてルイズちゃんが起きたらマズイので、無言でこちらから扉を開ける。

 

「こんばんわ。ちょっといいかしら」

 

そこにいたのは、ジェシカだった。

仕事場での格好とは違い、寝間着姿である。

 

「こんな夜遅くにどうした」

 

「ちょっと話でも、なんてね。妹さんは寝ているようだし、私の部屋で……ね」

 

うーん、これは一体何フラグ?

しかもこんなタイミングでなんて、何かあるな絶対。

ジェシカに手を引かれ、彼女の部屋へと辿り着く。

流石に宿のいち部屋とは比べものにならないぐらい整頓されている。当たり前だが。

 

「適当に掛けて」

 

「ああ。――それで、話とはなんだ?こんな時間を選んだのも、ルイズの目を気にしてのことではないのか?」

 

ベッドに腰掛け、本題に入る。

あの都合の良すぎるタイミング、マンツーマンでの会話を前提としていると解釈していい筈。

事実、この判断は正しかったらしくジェシカはバツが悪そうに頬を掻いている。

 

「あはは、バレてたか。……貴方達二人は、どうしてここに来たの?」

 

「資金調達と宿の確保の為だ」

 

「違うわね。いや、違うって言うか、それは本命ではないんじゃない?」

 

探偵のように探りを入れ始めるジェシカ。

ここでバレたらアウトとかってあるのだろうか。

どんな可能性も否定できない以上、知らぬ存ぜぬを貫くしかない。

 

「……だとすれば、何だと言うのだ?君には関わり合いのないことだろう」

 

少し突き放すような言葉で牽制する。

しかしそんなの気にしていないと言わんばかりに、ジェシカは言葉を続ける。

 

「まぁそうなんだけどさ、人間気になりだしたら止まらないものじゃない。それに、別に当てずっぽうに言ってる訳じゃないのよ?」

 

「ほう」

 

「まず貴方達二人は、兄妹と言うには距離関係が微妙な感じなのよね。貴方はそれっぽいんだけど、あの子が貴方に向けている視線は、何か違うって言うか……。だからといって恋人って感じでもなさそうだし、これに関しては有力情報にはならないか」

 

「その言い分だと、まだあるようだな」

 

「ええ。これは結構確実だと思うのよね。……あの子、貴族でしょ?」

 

「……根拠は?」

 

「平民なら出来て当然のことが出来ていなかったってのが大きいわね。あれは不器用とかそういうレベルじゃなく、根本的に知識に欠けている部分があったしね。あと、普段は直ぐさま会話は切り返すのに、一瞬でも言葉に詰まった貴方を見て、かな」

 

鬼の首を取ったと言わんばかりに嫌らしい笑みを浮かべるジェシカ。

ルイズちゃんの仕事ぶりに関して言われたら、ぐうの音も出ない。

今時子供でもあれぐらいの家事手伝いをしたことないなんて人、滅多にいないだろうしね。

それに、ここでの平民と貴族の差を明確に知らない僕としては、反論する材料がない。少なくとも、その辺りに知識に関しては彼女に分がある。

出任せでどうこう出来るとも思えない。だって、何か妙に鋭いんだもん。

 

「その様子だと、当たりっぽいね。あの子が貴族って事は、貴方は騎士?大きな剣なんか持っちゃってたし、そうなんでしょうね」

 

「それがわかっていて、何故そこまで近づこうとする?貴族など、平民からすれば圧政の体現、つまりは悪でしかない筈だ。仮に私が今の君の事を彼女に伝えれば、幾らでも不条理を押しつけて最悪この店さえも潰す結果になるかもしれんぞ。そこまでして知的好奇心を満たしたいというのなら、君はただの愚か者だ」

 

少し言い過ぎただろうか。というかここまで強く当たるつもりはなかったんだけど、これも全部ヴァルディがいけないんだ。辛辣に翻訳し過ぎやでぇ……。

言い過ぎたことを謝罪しようと思ったが、ジェシカの言葉が遮る。

 

「そんなことを目論むような人が、平民に紛れて仕事をするなんて思えないけどね。それこそ、貴方の言うような圧政の体現者が、仕事の為とはいえ平民と同じ格に一時的にでも落ちるなんてことするなんて思えないわね。貴族のプライドがそんなに安かったら、私達はここまで苦しんで生きてはいないでしょうね」

 

「……随分と信用しているんだな」

 

「信用、とはちょっと違うかな。信用出来るほど貴方達と関係があった訳でもないし。強いて言えば、自分を信用しているのかな。自分の持つ根拠を、意見を、勘をね」

 

ここまで言われたら、最早何て言おうが無駄なんだろうな、と悟る。

だけど、言うわけにはいかない。

我ながら意固地だな、と思う。だけど、ここでバラして任務が失敗に終わったら、折角頑張ろうと意気込んでいるルイズちゃんに申し訳が立たない。

 

「君が自分を強く信頼しているのはわかった。だが、こちらとて事情があることに代わりはない。故に、何も語る気はない」

 

ばっさりと切り捨て、話は終わったから帰るよ、という雰囲気をダシながら部屋から出ようとする。

 

「待って。ねぇ、貴方にとって、あの子は何なの?」

 

「……何か、か。そうだな、一言では言い表せんが、強いて言うならば、掛け替えのない存在だろうか。最早彼女が隣にいない生活など、考えられんよ」

 

この世界に来てから、ルイズちゃんが欠けた日常は一度として無かった。

ふと思い出せば必ず隣には彼女がいた。つきっきりとは言えないが、それでも彼女と一緒に居た時間が圧倒的に多かったことは事実。

パートナー、半身、相棒。色々呼び方は色々あるけど、掛け替えのない存在という意味では、同じだ。

 

「そっか。ごめんね、引き留めちゃって。おやすみなさい」

 

「おやすみ」

 

挨拶を済ませ、部屋を出る。

それと同時に、別の場所の扉が強く閉まる音が聞こえた。

何だろう、と思いながらも自室に戻り、一回ログアウトする。

一瞬見えたルイズちゃんの顔が妙に赤かったけど、布団被って暑かったのかな。調整ぐらいしてあげたら良かったかも。

 

 

 

 

 

昨日は、良く眠れなかった。

それもこれも、ヴァルディのせいだ。

ヴァルディが撫でてくれたお陰で安心できた私だが、いざ眠りにつく直前といったところで、扉が開く音がする。

目を開けたら、ヴァルディは部屋の中からいなくなっていた。

彼のことだから散歩だろうと普段は気にしないところだったが、その時は何故か後をつけたくなったのだ。

出だしが遅れたせいで見失ってしまったが、所在はすぐに掴めた。

微かだが、夜の静けさもあり、部屋から漏れる声に彼のものが含まれているのに気付く。

そっと耳を当てて、何を話しているのかを探ろうとした。

 

「ねぇ、貴方にとって、あの子は何なの?」

 

女の声。

誰だろうと思ったけど、恐らく一緒に皿洗いをしていた女だろう。

それ以外に彼がここで女性に接点を持っている様子はなかったし。

自分でも驚くぐらい冷静だな、と思う。ここでの会話はいわば男女の密会だというのに。

やっぱり、彼への信頼が強いからだろうか。

……言ってる自分で恥ずかしくなる。

 

「……何か、か。そうだな、一言では言い表せんが、強いて言うならば、掛け替えのない存在だろうか。最早彼女が隣にいない生活など、考えられんよ」

 

そんなことを考えながら耳を欹てていると、私の思考を停止させる発言がヴァルディから発せられた。

ヴァルディが、私の事をそのように評価してくれている。

……嬉しい。これ以上適切かつ直接的な表現が浮かばない。

不安は無かったと言えば嘘になる。彼の口から何度私を肯定する言葉が出ても、自己の劣等感が彼の言葉を額面通りに受け取ることを拒んでいた。

信頼しているからこそその信頼が幻想ではないのかと怯え、そんな自分を嫌悪する。

しかし、その憂いも今消え去った。

私の知らないところで語られた、彼の本心であろう言葉。

隣にいない生活が考えられないって、それってまるで、伴侶に対する言葉のような――

そこまで考えて、顔が真っ赤になる。

は、はは伴侶だなんて、そんな。有り得ない、有り得ないけど、いいな、なんて――じゃない!

私とヴァルディはメイジと使い魔、そういうのじゃない!

ぶんぶんと頭を振り、思考を正常化する。でも、先程の想像の余韻が頭から離れないでいた。

それから別れを告げる言葉が聞こえたので、慌てて部屋に戻った。

幸いヴァルディにはバレていないようだから良いものの、分かってたら気まずいなんてもんじゃない。

彼は気にしなさそうだけど、それもそれで何か嫌だ。

 

今日も今日とて接客行為に四苦八苦していると、ふと耳障りな笑いが聞こえてきた。

見てみると、そこに立っていたのは貴族の中年男性だった。それも、典型的な下卑た感じの。

……まさかコイツが、私達のターゲットだったりしないわよね?

取り敢えず様子を見ていると、スカロンが低姿勢で貴族に接客している。あの対応を見る限り、常連のようだ。

じっと貴族の方を見つめていると、目が合ってしまう。

 

「おい、そこの娘。酌をしろ」

 

「……はい」

 

滅茶苦茶嫌だったが、ここで断ってヴァルディに迷惑を掛けることはしたくないので、素直に要望に応えることにする。

貴族の嫌らしい視線も、無視を決め込む。

 

「ふんふん。……身体は貧相だが、この尻は悪くない」

 

そう言って、あろうことかこの男は私のお尻を撫でたのだ。

気が付けば私は、貴族を全力で蹴り飛ばしていた。

 

「触ら……ないでっ!」

 

「なっ、貴様、貴族の私を足蹴にするなどと!」

 

「五月蠅い!私の身体はねぇ、アンタに触らせる為にあるんじゃないのよ!」

 

口論していると、取り巻きが集まってくる。

 

「ふん、この私に手を挙げたこと、後悔させてやろう!」

 

「後悔。ふむ、それはどのような方法でしょうか」

 

勝ち誇った貴族の男が、何事かと表情を歪める。

私達の間に割って入ってきたのは、ヴァルディだった。

 

「なんだ貴様。貴様も私に逆らうのか!?」

 

「至極真っ当な意見を申させていただきますが、そもそも貴方が彼女の身体を撫でたことにそもそもの原因があります。貴族として、いや紳士としてその様な振る舞いは己の格を下げる行為になるのではないでしょうか」

 

「格だと?私は貴族だ!その時点で貴様らより格は上なのだ。何故格下の貴様らに対し遠慮する必要があるというのだ!」

 

……格下、ですって?

その言葉が、私の沸点を著しく下げていく。

私自身に向けられたことに対する怒りじゃない。ヴァルディが、こんな男より下と言われた現実が、許せなかった。

我慢の限界が、二重に訪れた。

 

「アンタが格上?違うわね。私達が上、アンタが下よ!」

 

ありったけの現実を、調書と一緒に叩きつける。

王室発行の身分証明書であり、今回の問題提起及び解決に携わる立場であることが記されているものだ。

 

「そ、それは!」

 

この紙の価値を相手が理解した瞬間、皆揃って土下座の体勢である。

権力を盾に横暴を振るう輩は、総じてそれ以上の権力に弱いのだ。

 

「し、失礼しました~!!」

 

そんな情けない言葉を残し、貴族達は今までの横暴により得ていた金を置いて去っていった。

やれやれ、と溜息をひとつ。

振り返ると、店にいる人達が皆、私達を見つめていた。

そりゃあそうだ。私がここに来た目的も意味も、そして立場も。すべてバレてしまったのだ。もうここにはいられない。

そう思ってヴァルディの手を引き、去ろうとした時、スカロンがパンパンと手を叩く。

 

「――――はいはい!妖精ちゃん達、お客様を放って何しているの?ルイズちゃん達を見てたって、魅惑のビスチェは着れないわよ?」

 

スカロンの言葉を聞き、慌ただしく元通りの活気が戻っていく。

それを満足げに見つめたスカロンが、こちらへと近づいてくると、一言。

 

「私達は何も見なかった。執政官を追い出す権力者なんて知らないし、ここにいるのは頑張りやな女の子だけ」

 

「店長……」

 

「や~んもう、ここではミ・マドモワゼルって呼んでって言ったじゃない?」

 

くねくねと相変わらずの雰囲気に戻るスカロン。

ふと、ヴァルディの顔を覗き見る。

気のせいか、少し嬉しそうだった。

それが何を指してのものかはわからなかったが、嬉しいのは私も一緒だ。

貴族だってわかっても、ここにいる皆が私をただのルイズとして接することを止めなかった。貴族だからって理由で、遠ざかるようなことはしなかった。

その事実が何よりも、今回の任務で得た報酬だったのかもしれない。

 

それからの事だが、チップレースは私の勝利に終わった。執政官が置いていった金が大逆転の一手となったのだ。

正式に働いた結果ではないから、魅惑のビスチェは受け取れないと拒んだのだが、誰もが頑なにそれを拒否し続けた。

仕方ないので、着てみることにした。

見せる相手は、ただ一人。

 

「……ヴァルディ」

 

「……それが、例のものか」

 

部屋のベッドに腰掛けていたヴァルディに、私の姿を見せる。

私の格好は、接客時のそれよりも扇情的なものとなっている。

スカート、丈が短すぎる。普段ならこんなもの絶対に着ないんだけど……彼にならいいかなって思ったから、今に至るのだ。

 

「どう?似合ってる、かな」

 

自分でも分かるぐらい弱々しい声で、そう問いかける。

するとヴァルディは、初めて見るぐらいの優しい表情で、

 

「ああ。とても」

 

私が望んで止まなかった言葉を、告げた。

顔が赤くなるのがわかる。聞き耳立てていた時よりも、熱い。

その熱に中てられたせいだろう。私は大胆にも、彼の隣に移動し、座る。

 

「……ありがとう。今日、庇ってくれたでしょう?」

 

「いらぬお節介だったがな。結局、何もできなかったのと同じだ」

 

「そんなことない。それは結果論でしかないわ。……私ね、嬉しかった。庇ってくれたこと。その事実だけで、私は胸一杯よ」

 

普段ならば胸の内に仕舞うであろう恥ずかしい言葉も、今なら素直に言える。

酒に酔った勢いのようなものだ。なら仕方ない。

正当化を自分の中で済ませ、意を決して私は彼の腕に抱きついた。

彼の表情に、変化はない。

 

「こんな私だけど、これからも一緒にいてくれる?」

 

「何を今更。当たり前だろう」

 

彼の本心を聞いた今なら、いつも通りに聞こえる言葉も素直に受け取ることができる。

彼の身体に寄りかかる。暖かく、安心できる私だけの空間。

どうせ明日になれば、こんなことは出来なくなる。だったら、この瞬間を楽しもう。

 

 

 

 

 

そんなルイズの心境を欠片も知ることのないヴァルディはと言うと。

 

『アイエエエエ!ルイズ=サン!? ルイズ=サンナンデ!?ルイズ=サンのビスチェ姿カワイイヤッター!とか思ってたら、こんな状態なんだもん!このままでは僕の理性が爆発四散してしまう!ヤメロー!ヤメロー!ルイズ=サンは誘惑のタツジン過ぎる!妹に誘惑される兄がいるか!エセ兄貴死すべし、イヤーッ!オタッシャデー!グワーッ!』

 

案の定混乱していた。

 




ワルドに直行せず、アニメ準拠の流れに。
寄り道した理由は、主人公にゲーム世界の感覚を味わわせるには丁度良い展開だなーと思ったのと、他にもちょっとした伏線を張りたかったってのもある。メイジを圧倒する騎士……一体何者なんだ。
原作ではまだ先のことだから、アニメだといきなりデレてる印象があったけど、こっちだったら違和感ない、かも?
本格的にルイズがデレてきた。そして相変わらずのヴァルディの中の人。
ジェシカはそういう対象にはしませんでした。出そうと思えば出せるが、ヒロイン化するには空気レベルが高い。

これからもレイヴ以外にも色々投入していきたいな。
装備だけとはいえ、多重クロスはあんまり受け入れられないんだろうなぁ。
私も書くぶんにはいいけど、読むだけとなればわからん。

次は何書こう。ワルドでもいいし、惚れ薬でもいいんだけど、後者はネタにすると色々と面倒なことになるんだよなぁ、マジで。

次回はリアル事情で遅れる可能性大。むしろ最近の私が異常なだけなんだよ。新ロロナもやりたいお……。

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