続き書けたで候。
では、どうぞ( *・ω・)ノ
ヒエンside
俺は赤髪のスーツの女性と対峙していた。
「またしても援軍ですか……一体何者です?」
「ただのお節介な魔導師だよ」
俺の後方では、こちらを驚きの目で見ている二人の少女に、腕の中で驚いている少女がいた。
なぜこんなことになっているのか、事態は数分前にまで遡る。
◆◆◆
「はぁ……」
俺達は夕御飯をご馳走になった後、少しゆっくりさせてもらってから地球の海鳴市へと戻ってきた。
そして俺は気晴らしにマンションの屋上へと来ていた。
あの後、フェイトからクロノがインターミドルに出るというカミングアウトと、実はティーダも出るという(悪い意味での)サプライズもあって俺は精神的にかなり動揺していた。
いやだって考えてみ?
クロノだよ?
ティーダだよ?
現役執務官に武装隊隊員だよ?
絶対二人とも上位に食い込んでくるに決まってるやん。
っていうか、そもそもあの二人インターミドルに出るキャラじゃねえじゃん。
ちくしょー!
どうすんだよ!?
ただでさえ個性の強すぎる都市本選常連組の選手達だけでも厄介なのに、それに加えてあの二人とかますます優勝が厳しくなったじゃねえかよう。
本当に前途多難だ。
ガチで。
マジで。
俺は屋上の端にある備え付けのベンチに座ると、ボーッと星を眺める。
今夜は満月らしい。
まあ、結局悩んでても仕方がないのだが。
もう少しで夏休みに入る。
夏休みに入るとすぐにインターミドルの予選、地区選考会が始まる。
地区選考会は、健康チェックと体力テスト、簡単なスパーリング実技がある。
その三つの結果で予選の組み合わせが決まるのだ。
普通の者はノービスクラス、選考会で優秀又は過去に入賞歴がある者はエリートクラスで地区予選がスタートする。
エリートクラスは、簡単に言えばシード権の様なものだ。
成績が優秀な者ほど、戦う数が少なくて済むのだ。
そして地区予選は勝ち抜き戦で行われ、地区代表が決まるまで戦い続ける。
地区代表が決まると、今度は都市本選が始まる。
都市本選は、地区代表20人と前回の都市本戦優勝者の計21人で開かれ、ここでミッドチルダ中央部のNo.1が決まる。
さらにその後の都市選抜で世界代表を決め、選抜優勝者同士で行う大会、世界代表戦で真の10代最強魔導師が決まるのだ。
(今、改めて考えてみたけど、道のりはかなり長いなぁ)
インターミドルの開催時期は、そんなに長くない。
だいたいかかっても二週間~三週間くらいで終わる。
まあ、並行世界から応援に来てくれる仲間達のためにも無様な試合はできない。
するといつの間にか、四匹のカラフル猫が俺の足元にいた。
なぜか心配そうに俺を見上げている。
なんでここにいるのだろう?
思わず言った。
「お前ら……暇なのか?」
「「「「ニャー!!」」」」
「ギャアアア!?」
すると四匹から爪でシャッと顔を引っ掛かれた。
何か四匹の琴線に触れてしまったらしい。
そのとき、ふと脳裏に強烈なイメージが湧いてきた。
『友達を傷つけた。それだけは絶対許せない!!』
ピンク色の衣装を纏った魔法少女が、赤髪のスーツの女性と対峙していた。
『弱くたって……出力が足りなくたって……戦い方はある!』
その魔法少女は相手との圧倒的な力の差があるにも関わらず、僅かな隙を見つけて反撃していた。
『せっかくクロが時間つくってくれたのにカード奪い返せなかった……けど、一枚だけ、せめてこの一枚だけは……絶対に渡さないから……!! 』
しかしスーツの女性の反撃に合い、倒れてしまう。が、たった一枚のカードを奪われまいと必死に抵抗していた。
それはかつて、異世界で共に戦った魔法少女の女の子の姿であった。
「イリヤ……!?」
イリヤと瓜二つの少女も赤い外套を纏いながら必死に攻めていくが、倒れてしまう。
そこに援護にやってきたもう一人の魔法少女、美遊も戦い善戦していたが、スーツの女性の驚異的な強さにやられてしまう。
周りを見る限り、戦える者はもういないようだ。
そして倒れている美遊がさらなる追撃を受けようとしていた。
それをイメージした俺は、咄嗟に心の中にいる相棒に呼び掛けた。
「相棒!」
「ガゥ!ガァオオオオ!!」
俺の意図を察した相棒がすぐに虹色のオーロラを前方に展開させる。
俺はそのままオーロラを潜り抜けようとしたのだが、なぜか猫達が俺の身体にしがみついてきた。
「「「「ニャ!!」」」」
「ちょっと邪魔なんだけど!?ええい!勝手にしろ!!」
俺は猫達をくっつけたまま、オーロラの中を潜り抜けた。
ヒエンside end
◆◆◆
第三者side
薄暗い地底にて目を閉じて腕を掲げ、呪文を唱える少女が一人。
「
魔術師:遠坂凛は、かつて調査の為に訪れた冬木市の地下大空洞にいた。
前回行った地脈
このとき、イリヤ達と全てのクラスカードを回収して既に二ヶ月が経過していた。
「
静かに詠唱する凛。
魔力を込めた宝石を、羊皮紙の上に掲げる。
「
宝石から指を放すと、宝石は淡い光を纏ったまま、紙の上へと落ちていく。
「
そのとき、一瞬の閃光が起こると羊皮紙の上に小さな炎がつき、歪な形で広がっていく。
まるで蛇のように動くそれは、何かを描いているようであった。
「これって……」
その様子を眺めていた凛は、ある一点を見据えて声をあげた。
「嘘でしょ……」
驚愕の言葉が紡がれる。
「まだ、終わっていなかったって言うの?」
────────
──────
────
凛は地下大空洞での調査を終えると、急いでエーデルフェルト邸へと向かう。
事態は一刻を争う。
下手をすれば、状況は既に最悪となっている可能性すらあった。
(まずいわね……時間が経ちすぎてる。あれから何日経った?二ヶ月弱……?もしも想像通りだとしたら、最早私達の手には負えないレベルかもしれない)
「とりあえず協会に報告、大師父の指示を……」
そしてエーデルフェルト邸の正面に立ち、門に手を掛けようとした時だった。
「!」
一瞬、違和感が走り、凛は思わず動きを止める。
「……………………なに?この空気……」
明らかに門の向こうから感じる重苦しい空気。
(かすかに魔力の残滓……)
「ルヴィア……?」
エーデルフェルト邸は見た目はただの豪邸だが、実際は魔術師が作り上げた工房·城塞である。
魔力が外に漏れないように入念な計算、認識阻害の結界もキチンと張られた上で建てられている。
それ故に、外にまで魔力が漏れる事は本来ならあり得ないのだ。
「…………」
凛の表情に緊張が走る。
門の向こう側では、確実に何か良くない事が起きている。
ルヴィアは?
美遊は?
オーギュストは?
果たして皆、無事なのだろうか?
そして凛は慎重に、もう一度、門に手を掛けた。
────────
──────
────
「え?なにか言った?」
突然、イリヤが何かに気づいたように顔を上げる。
「はい?なにが?」
《なんですか?》
クロとルビーが尋ねるが特に何もない。
イリヤは首を傾げる。
「……あれ?」
《空耳ですか、イリヤさん?》
「ボケるには早すぎるんじゃないー?」
「うぬぬ……」
イリヤに瓜二つの少女、クロはベッドに寝転びながら雑誌を読む。
「それより水着は決めたの?せっかく海で誕生会開いてくれるんだからニュー水着買うんでしょ?」
「んー、欲しいところだけどセラが買ってくれるかどうか怪しいところなんだよね……」
アインツベルン家には、メイドのリズとセラがいる。
リズはよく家でくつろいでいるのだが、セラがアインツベルン家の家事を一手に引き受けている。
当然、お金の管理もセラがしているためイリヤ達は彼女に頭が上がらないのだ。
「『では、それが誕生日プレゼントということでいいですね?』とか言いそう」
「あはは言うねー。セラってばメイドのくせにケチだから。ま、私はお小遣いで好きなのいくらでも買えるけどー」
「えっ!?ど、どういうこと!?なんでそんなにお金持ってるの!?」
「ちょっと前までお金持ちの家の子でしたからー?」
「ルヴィアさん!?」
「月のお小遣いとして十万円もポーンと渡してくれたわ」
「じゅうまんっ……!?」
「ミユはもっと凄いわよ。メイドの給料があるからね。もう三百万以上貯めてるんじゃないかしら」
「さんっ……!?!?」
イリヤはあまりの衝撃に頭を机に打ち付ける。
そして起き上がり、言った。
「私……ミユと友達になれて良かった」
「貴方、それ今言うには最低のセリフよ」
《魔法少女にあるまじきゲンジツ主義ですね》
イリヤのセリフに、ついツッコミを入れるクロとルビー。
「はぁ、まぁいいや。ルヴィアさん家のお金持ちっぷりは今に始まったことじゃないし。水着はセラの機嫌がいい時におねだりしてみる方向で」
「殊勝なことねー。まぁ頑張りなさい」
クロはイリヤのベッドでゴロゴロしながら話す。
それを見ていたイリヤが注意する。
「それよりクロ、貴方、人の部屋でゴロゴロしてるけど宿題はやったの?」
「人の部屋っていうか私の部屋でもあるんだけど」
「まだ言うか……」
「宿題ならホラ、イリヤが今やってるし」
「写させないからね!」
「あーあ、口うるさくてドケチ……ぶー」
「な……なんですと!?もう!ちゃんとしてよね!クロが怒られる時ってなぜかいつも私もセットにされるん……だ…から……」
「?なに??」
そのとき、イリヤは何かに気付く。
「やっぱり聞こえた……!変な音!!」
「は?何も聞こえなかったわよ?また空耳……」
ズンッ
「…………これって」
「……ルヴィアさん家から…………?」
微かに振動音が向かい側のエーデルフェルト家から聞こえた。
イリヤとクロは顔を見合わせると、急いで正門の方へと走った。
────────
──────
────
イリヤとクロがエーデルフェルト家に様子を見に行く数分前……
屋敷の中では激しい戦いが行われていた。
「
ルヴィアは投げ捨てられたソファーをかわしながら宝石魔術を使用する。
向けられた宝石は淡い光を放ちながら、赤髪のスーツ女性に向かっていく。
しかしスーツの女性は高速で移動し、かわす。
すると両手にナイフを構えた執事オーギュストが立ちはだかるが、正拳突きで吹き飛ばされてしまう。
「ぬうっ……」
「オーギュスト!!」
「抵抗は無意味です。貴女方では相手にならない。大人しくカードを渡しなさい。これ以上、怪我はしたくないでしょう?」
「……ずいぶんと無作法ですこと。自分から
(冗談じゃないわ……なぜ……今になって…………!!)
ルヴィアは歯噛みする。
「あいにくそういった教育は受けていません。私には不要なものです」
(バゼット·フラガ·マクレミッツ……魔術協会一線級の戦闘屋、封印指定執行者……!!)
ルヴィアの前に執行者バゼットが立ち塞がる。
凛はその様子を物陰から見ていた。
(……どういうこと?
そう。
本来クラスカードの回収任務は、凛とルヴィアが魔法使いキシュア·ゼルレッチ·シュバインオーグから課せられた任務である。
(それを今さら横取りしようってわけ……?まともにやり合って勝てる相手じゃない。ルヴィアには悪いけど……囮になってもらうわよ)
「しかし、いささか拍子抜けですね。貴女にはゼルレッチ卿から特殊魔術礼装を渡されたと聞いていたのですが。使わないのですか?それとも……使えないのですか?」
「…………フン。必要ない……が正解ですわ」
「……なるほど。エーデルフェルト家の娘は誇り高い。ですが、私に言わせればそれはただの驕りです」
そして再び戦いは開始される。
────────
──────
────
「あれー?なんともないね……」
イリヤとクロは門の格子からエーデルフェルト邸を覗く。
しかし何の変化も見られなかった。
「気のせいだったのかな?」
首を傾げるイリヤ。
「……いえ、確かこの家には認識阻害の結界が張られているから、外からじゃ分からないわ。中で何か起こっても、普通は外の人間に気付かれる事はないの」
しかしクロがその可能性を一蹴する。
「じゃあさっきのは……」
《想定以上の「何か」が起きた……ということでしょうか》
「「……………………」」
ルビーの言葉に二人は息を飲む。
「開けるよ」
クロが恐る恐る門に手を掛ける。
息を呑む一同。
門がゆっくりと開かれる。
その向こうでは、想像を絶する光景が広がっていた。
豪華な造りで、見る者を圧倒していたエーデルフェルト邸がそこにはなかった。
街路樹はなぎ倒され、敷き詰められていた通路のレンガはえぐられ、吹き飛ばされている。
芝生にはところどころクレーターができており、あれだけ立派だった家屋も、まるで震災にでもあったかのように、天井から叩き潰され、無残な姿になり果てていた。
思わず絶句するイリヤとクロ。
そんな彼女達の視線中に、つぶれた屋敷を背に、ゆっくりとこちらに歩いてくる女性の姿があった。
髪をベリーショートに切りそろえ、ピシッとしたスーツ姿をした男装の麗人。
その姿は、精悍さすら感じられる。
だがその身より発せられる雰囲気が尋常ではなかった。
「……侵入者の警告音が鳴りませんね。見たところ子供のようですが、貴女達も関係者のようだ」
硬い声で告げられる言葉。
殺気すら伴ったその声に、思わずイリヤ達は身を竦める。
「援軍だとしたら、一足遅かった」
次の瞬間、女は地を蹴って一気に仕掛けてきた。
いち早く反応したのは、クロであった。
「
短い詠唱を唱えると、クロの手に現れる干将·莫邪。
繰り出される連撃の拳を、クロは両手に構えた黒白の剣で防ぐ。
女が繰り出した拳を、クロはどうにか弾く事に成功するが……
「……ッ!?素手……!?」
「ほう」
両手に感じる凄まじい衝撃に、思わず息を呑む。
そして同時に理解する。
この女は、強い。
一瞬でも気を抜くと、すぐにやられると。
鋭い声と共に、
「イリヤ!ボサッとしない!こいつは敵よ!!」
「うっ、うん!ルビー!!」
《…………》
「……ルビー!?」
イリヤはルビーに呼び掛けるが、ルビーは戸惑っているのか、返事をしない。
その間にもクロと女の戦いは続く。
クロは双剣で斬りかかる。
女はクロの鋭い剣閃を拳の連撃で逸らしつつ、同時に鋭い蹴りを繰り出す。
「くっ!?」
双剣でなんとか受け止めるクロ。
その間にも女は攻勢を仕掛ける。
連撃で繰り出される拳。
クロも干将·莫邪で対抗するが、防戦一方であった
女の拳の速さと、重さが桁違いなのだ。
「こいつッ!!」
クロは起死回生の一手として強引に反撃に出る。
右手に構えた莫邪を横なぎに繰り出したのだ。
しかし、女はクロの攻撃を手のひらで受け止めると、カウンターを入れる。
「なっ!?」
驚愕するクロ。
実は女のグローブには硬化のルーン魔術がかけられており、並大抵の攻撃では傷一つつかない強固さを持っているのだ。
しかし、クロも黙ってやられるつもりはない。
女が繰り出した拳に合わせ、足を蹴りつけ空中で宙返りすると同時に、大剣を数本を投影して射出する。
女の眼前に突き刺さる大剣。
しかし、それも一瞬の事であった。
女は右手を無造作に横なぎに振るう。
すると、大剣は一瞬にして砕け散る。
まるでバターを切るかのように、簡単に砕いていく。
これだけでもこの女の戦闘力がどれだけ桁違いであるかが、良く分かる。
だが、クロが狙ったのはその一瞬であった。
砕け散る欠片の向こう側に、弓を構えた少女の姿があった。
「バイバイ」
そう言い放つと同時に、魔力が込められた矢が放たれた。
並の人間が食らえば、一溜まりもない威力であった。
矢は唸りを上げて女に向かっていく。
対して真っ向から矢を見据える女。
そして一言、呟いた。
「その戦法は
その瞬間、誰もが驚愕した。
何と女は、クロが放った矢を命中直前に、己の眼前で掴み取ったのだ。
「デタラメ……すぎるわ」
一体どれだけの修練をこなせば、そのような事が可能になるのか。
凄まじい技量、凄まじい技術、凄まじい才能であった。
「返しましょう」
そして女は、飛んできた矢を投げ返す。
クロに着弾すると同時に、強烈な爆炎が起こった。
「クロ!!」
悲鳴を上げるイリヤ。
その手が、相棒のステッキに伸びる。
「ルビー!ルビー!どうしちゃったの!?早く転身してクロを助けなきゃ!!ねぇってば!?」
「
女は拳を鳴らしながら話す。
それは一種の脅しのようなものであった。
「なぜ貴女が持っているのか分かりませんが……抵抗しなければ身の安全は約束しましょう」
「貴方は一体……」
《……彼女の名前はバゼット·フラガ·マクレミッツ。魔術協会に所属する封印指定執行者で、私達がやってきたカードの回収任務……その前任者です》
「前任者……って?」
《不思議に思ったことはありませんか?私達が回収任務を始めた時、最初から手元に二枚のカードがあったでしょう?『アーチャー』と『ランサー』……それを仕留めたのが彼女です》
イリヤは目を見開く。
以前戦った黒化英霊達は皆、どれも強力な者達ばかりであった。
イリヤ達はルビーやサファイアの力で、更には凛やルヴィア達の協力、全員の力を合わせることでようやく全ての黒化英霊を倒したのだ。
だがバゼットは、その内の二体を単独で撃破している。
恐るべき実力者だった。
ちなみに封印指定執行者とは、魔術協会が【奇跡】と認定した存在を貴重品と認定し【保護】する存在である。
魔術は時と共に衰退していく物が多く、それらの保護は重要な任務なのだ。
しかし実際には保護と言うのは名目で、対象になった存在は、実質的には幽閉、監禁に近い扱いを受けた状態で奇跡の維持に努めることになる。
ひどい時には脳髄を引き出され、そのまま容器で保管されるなど、人道的にもあり得ない手段が用いられることもある。
また魔術師と言う存在は、自らの御業を次の世代に継承する事を旨としているため、封印指定を受けると、次の世代への継承ができなくなる。
それ故に、封印指定を受けた魔術師は、魔術協会の手から逃れるために逃亡する。
しかし逃亡した魔術師が、その逃亡先で何らかの重大な犯罪行為に走る事が多々あるため、そうなった場合、強制的に封印指定を行うべく派遣されるのが、封印指定執行者なのだ。
当然、封印指定執行者は、第一級の戦闘力を持つ魔術師が認定される。
つまりバゼットは、魔術協会におけるジョーカーともいえる存在なのだ。
「そう、カード回収の任務は私が請け負っていました。ですが、回収開始後まもなくゼルレッチ卿が介入。私は任を外されました」
《任務は凛さんとルヴィアさんが正式に引き継いだはず……それがなぜ今になって貴女が出てくるのですか?》
「上の方でパワーゲームがあったと言う事です」
魔術協会の上層部ではいくつもの派閥に分かれ、権力争いが常に行われている。
どうやら今回の騒動は、その関係で生じたものらしい。
「……すでにこの屋敷からは四枚のカードを回収しました。しかし、足りません。残りのカードを持っているのなら渡しなさい。抵抗するならば強制的的に回収を執行します」
その言葉に、身構えるイリヤ。
《……クロさんとの戦いを見ましたね?彼女は素手で英霊に匹敵する正真正銘の怪物です》
「ルビー、転身お願い」
《正直言って今のイリヤさんに勝算はありません!彼女の目的がカードだというのなら素直に渡すのが──》
「ルビー!!」
そのときイリヤが叫ぶ。
「今まで何度も危ない戦いがあったよ。ミユなんか一人で死地に残ったこともあった。私達は命懸けでカードを集めたんだ。それが前任者だか知らないけど、勝手に持っていかれるなんて納得いかない」
《イリヤさん……》
「でもそんなことより……」
《やれやれですね》
そしてイリヤの姿が閃光に包まれる。
カレイドルビーで変身する魔法少女、プリズマイリヤの参上だ。
「友達を傷つけた。それだけは絶対許せない!!」
イリヤの姿を見たバゼットは呟く。
「……先程の少女の力、あれは間違いなく
グローブをはめ直すと、バゼットは言う。
「さぁ、始めましょうか」
その言葉が戦闘開始の合図だった。
バゼットはスタートダッシュを切ってイリヤへと向かい、イリヤはバックステップで下がりながら攻撃を開始した。
「
放たれる魔力弾。
しかしバゼットは拳でそれを弾き飛ばし、更にイリヤに接近を図る。
対して、イリヤも攻撃の手を緩めない。
「
無数の魔力弾が、バゼットへと迫る。
しかし、元は威力より手数を重点的に置いた攻撃であるため、バゼットへの足止めにすらならなかった。
イリヤは三度目の攻撃に入る。
ステッキを勢い良く、振り抜く。
「
続いて放たれる一閃。
これにはさすがのバゼットも足を止める。
しかし、ルーン魔術で強化された腕で、魔力斬撃を消し飛ばす。
「うそ……!?」
そのままバゼットは攻撃を繰り出す。
イリヤは咄嗟にステッキを前に出すことで、バゼットの攻撃をガードする。
あまりの強さに吹き飛ぶが、攻撃を防ぐことに成功した。
「うひゃああああ」
「なかなか良い反射だ」
「あっぶな……!」
(攻撃が全く通じない!この人やっぱり……強い……!)
改めて確認しても、バゼットの強さは常軌を逸している。
転身したイリヤが全力で攻撃しても、足止めにすらなっていないのだ。
「ううん、っていうか……」
そして、
「私が弱いんだね!分かってたけど!!」
《いやー、まったくもって出力が足りてません。原作主人公にあるまじき弱さですね!》
涙目のイリヤに、ルビーが能天気に告げる。
クロとの分離によって出力がかなり落ちてしまった今のイリヤの魔力では、バゼットの相手をするのは不可能に近かった。
《しかしある意味好都合です》
「へ?」
《彼女に対して、『大技』や『切り札』といった類の攻撃は絶対にしてはいけません!》
「えぇ!?それってどういう……!!」
ルビーの意味深な言葉に、イリヤが問いかけるが、ルビーが答えるよりも前に、先にバゼットが仕掛けてきた。
《説明している暇はないですね。とにかく応戦を!》
「応戦って言ったって……!」
バゼットはイリヤの背後に回り込み攻撃を仕掛ける。
「やっ……!!」
だが物理障壁によって食い止められる。
「速っ……拳が……全方位から……!?」
バゼットはそれに対応するようにイリヤの周囲を素早く動き回り、激しく攻撃することで、障壁を破ろうとしていた。
《全魔力を防御に回してます!ですがこのままではいずれ……!》
全魔力を防御に回してなお、バゼットの攻撃を防げない。
あのルビーまでが焦っているのだ。
その証拠に障壁はもうすぐ破られようとしていた。
そしてバゼットは追い撃ちをかける。
「まるで亀だ……ならば」
バゼットは手刀を作ると、グローブにルーン文字が浮かび上がる。
それは鋼鉄やダイヤモンドすらも素手で打ち砕く圧倒的な一撃。
放たれる強化された手刀。
それは辛うじて保っていたイリヤの障壁を、一撃で打ち砕く。
《破られました!イリヤさ……》
「終わりです」
ルビーが悲鳴を上げる中、バゼットはトドメを刺すべく、手刀を振り上げる。
その手刀が、イリヤを貫かんとした次の瞬間……
バゼットはそのまま障壁を破壊していくが、イリヤまでは届かない。
イリヤは障壁を多重展開する事で、バゼットの強烈な手刀を防いだのだ。
《なんとまー……!》
「悪あがきを……ッ」
ルビーとバゼットが驚く。
まさかこのような手段で対抗してくるとは思わなかったからだ。
だがイリヤ自身、まだ満足していなかった。
(これじゃダメ……まだ……
更に攻撃態勢に入るべく、
その瞬間を、イリヤは見逃さなかった。
狙うは、バゼットの振り上げた
そこに、障壁を作り出した。
「これはっ!?」
思わず、驚愕の声を上げるバゼット。
障壁で拘束された腕は、ピクリとも動かない。
イリヤは更に障壁をもう一枚展開し、一方の腕も拘束する。
これでバゼットは、完全に身動きが取れなくなった。
《物理保護による拘束……!任意座標への展開をここまで精密に……!》
ルビーも感嘆したように叫ぶ。
防御に使うべき障壁を攻撃に使う。
それは頭の柔らかいイリヤの想像力があればこそ、成せる技であった。
「弱くたって……出力が足りなくたって……戦い方はある!」
そしてイリヤは魔力を収束させた。
「
威力を高めた魔力砲がバゼットに放たれる。
決まった。
誰もがそう思った。
が、次の瞬間……
バゼットはその攻撃を避けた。
目を見開くイリヤ。
なんとバゼットは拘束していた魔力障壁を力技で粉砕し、脱出したのだ。
必殺の魔力砲は、僅かに彼女のジャケットをかすめていくにとどまった。
「避けた……!?あの状態から……!?」
「拘束が二重だったら、貴女の勝ちでした」
「ならっ……!!もう一度……!!」
イリヤはもう一度、バゼットを拘束しようと試みる。
だが……
「二度も同じ手は食いません」
その瞬間バゼットは、自分の足元の芝生に指を突き入れる。
そして、地面そのものを抉るように持ち上げてしまった。
まるで畳返しを地面でやるように。
「ちょっ──」
思わず硬直するイリヤ。
その直後、バゼットは持ち上げた地面を貫くようにして、イリヤの胴体へと拳を叩き込んだ。
悲鳴を上げる事も出来ずに吹き飛ぶイリヤ。
そのまま背中から地面に叩きつけられる。
《イリヤさん!!》
(直撃……!これはちょっとやばいですよ……!)
ルビーが悲鳴を上げる中、イリヤは激痛で身を起こす事も出来なかった。
そこへ、ゆっくりと歩み寄るバゼット。
「……やはり、貴女もカードを持っていたようですね」
その手がイリヤの太ももに伸び、そこに装着されていたカードホルダーを掴み取った。
「あっ……」
そのまま持ち上げられるイリヤ。
バゼットはランサーのカードを奪い取る。
「『ランサー』、これで残り二枚……!!」
が、呟いた次の瞬間、バゼットの背後から迫る小さな影があった。
「先程の少女……!もう復活しましたか」
気絶していたクロであった。
「もう少し寝てたかったのに、誰かさんのボディブローで叩き起こされたわ」
クロはそのままバゼットを吹き飛ばす。
「クロ……!」
「カードを拾ってイリヤ!一枚もこいつに渡さないで!」
「させません!」
クロは投影魔術で剣を数本生み出し、バゼットへと射出する。
その間にイリヤはカードを回収しようとするが、ダメージがあるため思うように動けない。
這ってなんとか動ける状態だ。
「うくっ……!カードを……今のうちに……カードを拾わなきゃ……」
《ダメですよイリヤさん!まだ受けた傷が癒えていません!》
(これは治癒に専念しないと命取りになりかねませんよ……!)
ルビーがイリヤに無理をせぬよう進言するが、イリヤは取り合わない。
「治癒なんて……待ってられないよ……!みんなで……命懸けで……集めたカード……クロが足止めしてるうちに……」
なんとか進む。
《イリヤさん……!》
「一枚でも……!」
そして一枚のクラスカードを取った。
だがその瞬間、バゼットにその手を踏まれてしまう。
「い…………ッ……!!」
「──子供ながらよくここまで持ちこたえたものです」
バゼットの手には四枚のクラスカードがあった。
クロは吹き飛ばされたのか、身動きが取れないようだった。
「ぐっ……うッ……!」
「クロ……ッ!!」
《無理もありません。イリヤさんが受けている激痛をクロさんも共有しているんですから。あれだけ動けたのが異常なんです》
クロは訳あってイリヤと痛覚を共有している。
ただそれはクロだけがイリヤの痛覚を一方的に共有しているだけであり、逆にイリヤがクロの痛覚を共有することはない。
「……カードから手を離しなさい」
「……ッやだ!!」
イリヤはカードを握る力を強める。
バゼットは踏む力を強める。
「手加減をしてあげているのがまだ理解できませんか?その気になれば貴女の手首ごとカードを奪うことだってできます。……意地を張るならこのまま骨を踏み砕きましょうか?」
「……ごめんなさい」
イリヤは呟く。
「…………渡す気に……」
だがそれはバゼットにではなかった。
「ごめん……ごめんね
「!」
「せっかくクロが時間作ってくれたのにカード奪い返せなかった……けど、一枚だけ、せめてこの一枚だけは……絶対に渡さないから……!!」
「───……いいでしょう。ならば覚悟を決めなさい!!」
そしてバゼットはイリヤの手首を踏み潰そうとしたとき、吹き飛んでしまう。
咄嗟に防御の姿勢を取るバゼット。
「……くっ!!次から次へと……!!」
バゼットの背後から美遊が攻撃を繰り出したのだ。
「あはは……やっと来たわね……こわーいお姉ちゃんが」
クロは苦笑いする。
「イリヤ」
美遊は吹き飛んだバゼットを一瞥すると、イリヤへと話しかける。
「負けちゃった……私もクロも、たぶんルヴィアさん達も……けど……」
「……うん」
イリヤは死守したカードを美遊へと渡す。
美遊はそのカードを受け取ると、バゼットへと向ける。
「大丈夫、あとは私に任せて。イリヤは──私が守る!」
そのカードは「
「
美遊が叫ぶ。
バゼットは咄嗟に防御の姿勢を取る。
その時、強烈な衝撃が彼女を襲う。
周囲一帯を衝撃波が薙ぎ払った。
「一体……何が起きているの……?」
「やっぱり使えるんだねミユ、セイバーだけじゃなく……」
「桁違いの突進力……そうか、それが……クラスカード『ライダー』の真の力……!!」
イリヤ、クロ、バゼットの三者が驚く。
そこには白き翼を雄々しく広げた勇壮な白馬、ペガサスの姿があった。
そしてその手綱を引いている少女美遊は、露出の高い衣装を纏い、双眸を眼帯で覆っていた。
「
ギリシャ神話に謳われしゴルゴン三姉妹の末妹。
そして、目にしたもの全てを石に変えてしまうという恐ろしい怪物であり、反英雄に相当する。
ちなみに反英雄とは、その存在を悪とされながらも、結果的に多くの人間を救った存在のことを言う。
《以前、異世界でヒエンさん達と戦った時とまんま同じですねー。ライダーの英霊、やはりその真価は、幻獣の召喚と騎乗だったようですね。いやはやー、イリヤさんの初戦の相手がまさかこんな隠し球を持っていたとは。あの時、使われていたら完全にデッドエンドでしたよこれは》
「どういうこと?何か知ってるのルビー!?」
《知りませんよ?……いえ、むしろイリヤさんの方が知っているのでは?──礼装に英霊の武具を宿すのではなく、自身に力を宿し英霊と化す。……過去に二度、イリヤさんが『
「…………わ、わかんないよ。あれは……クロがやったんだもん」
そして美遊は再度、突撃を開始する。
バゼットに圧倒的な衝撃が襲い掛かる。
「ぐっ!?」
バゼットは苦悶の声を出す。
ガードしつつも吹き飛ばされ、地面に弾き飛ばされる。
美遊は天馬の翼を器用に操り、雄々しく広げて飛翔する。
クラスカード「
その圧倒的な戦闘力は、他の英霊に比べる間でもなく、高い。
他の並行世界では聖杯戦争で
三度突撃する美遊。
天馬は閃光となりて突進する。
対して、今度はバゼットも、大きく後退する事で突進を回避する。
「……仮説はありました」
バゼットはジャケットを脱ぎ捨てながら話す。
「礼装を媒介として英霊の力の一端を召喚できると判明した時……ならば人間自身をも媒介にできるのではないかと。しかし、カードに施された魔術構造は極めて特殊で複雑。協会はいまだ解析には至っていない。それを、いとも容易く……」
「ひとつだけ答えて」
対して、美遊もバゼットへと話しかける。
「ルヴィアさん達の姿が見えない。……どこへ行ったの?」
「…………」
「答えて!」
「そこの瓦礫の下です」
バゼットの答えに絶句するイリヤとクロ。
そして美遊は……
「…………そう。なら、手加減はしない!!」
両目を覆う眼帯を取り払った。
この眼帯の名は
メデューサの内に作用する対人宝具である。
この眼帯によって、強力なもう一つの能力を封じているのだ。
そしてその封印が今、解かれた。
美遊の双眸に睨みつけられたバゼットは、自身の体が一気に硬化していくのを感じた。
「これはまさか……魔眼!?」
(しかもこの干渉力……黄金……いや宝石級か!?
魔女メデューサには、見る者を石化させる伝説がある。
この魔眼は、その伝説を再現したものである。
この眼に睨み付けられた者は、強制的に動きを封じられるのだ。
いかにバゼットと言えども、抵抗は不可能であった。
そして、美遊は勝負に出る。
手綱に魔力を込め、天馬の力を最大限に開放する。
《天馬の力が倍加しました!!》
「光の手綱……あれがライダーの宝具……!?」
「
「
光を纏い、バゼットへ突撃する美遊。
《いけません美遊様!!彼女相手に宝具は……!!》
サファイアは美遊に警告するも、それを無視し、バゼットに襲い掛かる。
対して、バゼットは焦る様子もなく、鋭い視線で突進してくる天馬を睨みつけていた。
(この瞬間を待っていた)
するとバゼットが荷物として持ち込んだ細長い筒が、彼女の魔力に反応して振動する。
そして蓋が開き、大きな球体が出現する。
それはバゼットの方へと一直線に向かい、彼女は拳でそれを受け止めた。
と同時に、球体から刃が出現する。
(強化のルーンを組んだ
その間にも、美遊が近づいてくる。
だが、それでバゼットが怯む事はない。
彼女は真っ直ぐに美遊を見定める。
そして拳を振りかぶった。
「
そのとき、一つの閃光が天馬を貫くと同時に、全てが停止していた。
流星の如きまばゆい燐光も……
大地を抉った暴風も……
突進の慣性力すらも……
まるで、
次の瞬間、動きを止めた美遊にバゼットが接近し、渾身の力で殴り飛ばした。
「うっ……」
あまりの威力に美遊は地面に転がる。
それと同時に
ルビーが話す。
《敵の切り札より後に発動しながら、
「…………」
《通常攻撃は通用せず、宝具を使えば必ず負ける……これは最初から詰んでいる勝負だったんです。もうこれ以上は……》
逆光剣
それはケルトの光神ルーより伝わりし剣。
「回答者」「報復者」という意味を持ち、その一撃は鎧で止めることは不可能であり、さらに、どんな鎖も切り裂くことができるとされる。
敵の攻撃より後に発動しながら、時間をさかのぼり敵の攻撃を「無かった」事にした上で、自らの攻撃を先に発動し、相手の心臓を抉る因果逆転の魔剣である。
「……な、何が起こったの?」
《あ……危ないところでした……!使用者自らが振るうタイプの宝具だったら、心臓を貫かれていたのは美遊様の方です……!》
焦った声を上げるサファイア。
普段は冷静な彼女も、さすがに今回ばかりは肝を冷やした。
対して、美遊は起き上がる事が出来ずにいた。
バゼットの攻撃によるダメージが、体に響いているのだ。
だが……
「ミユ!後ろ……!!」
「あ……っ!?」
クロの警告に、ハッと顔を上げる美遊。
次の瞬間、バゼットが美遊の足首を掴まえる。
頭上高く振り上げられる美遊の体。
そして地面に叩きつけられるかと思ったそのとき……
「させるか!!」
横から強力な衝撃を浴びたバゼットが吹き飛ぶ。
咄嗟に受け身を取り、体勢を立て直すバゼット。
「ぐっ……一体何が」
彼女が目を向けた瞬間、そこには一人の少年が立っていた。
額に炎を灯した少年が立っていた。
「またしても援軍ですか……一体何者です?」
「ただのお節介な魔導師だよ」
額に炎を灯した少年は、鋭い眼光でバゼットを睨み付けるのだった。
次回はvsバゼット。
では、また(・∀・)ノ