「先制点を取ったのは最上隊! 村上隊員を追い込んだ生駒隊を奇襲!」
「おー、上手く獲ったなー最上隊」
国近の実況と共に、当真が感心したような声を出す。観覧席からは全部隊、全隊員の動きが見えており、それ故に最上隊の狙いが理解できた。
犬飼が笑みを浮かべる。
「元々最上隊は全員屋上に集合する予定だったみたいだね。そして、上から狙える駒を全員で獲りに行く」
生駒隊の二人が村上に奇襲をかけた手を、最上隊は元々行おうとしていた。
バッグワームを展開し、屋上に登ろうとし……生駒を発見。
そこで急遽唯我のみバッグワーム展開を取り止め、あたかも最上隊がレーダーから消えたように見せかけ──生駒隊の奇襲を利用した。
(その辺の作戦立案は月見さん……いやヒュースくんかな)
犬飼の予想は当たっており、ヒュースが指示した行動だ。
これにより、生駒隊奇襲後の分断に成功しヒュースは生駒と、秀一と唯我は村上と対峙している。
この展開は最上隊に有利だ。
鈴鳴第一、生駒隊共に合流をしようと動きを変えている。
それまでの間、各エースがどれだけ時間を稼げるかが……この試合の行く末を決めるだろう。
『イコさん! 離脱してください!』
水上の通信越しの撤退宣言と、ヒュースが鋭く斬り込んでくるのは同時だった。
その剣捌きは並み外れた技を持っており、自分と互角かそれ以上と判断する生駒。
通信でやり取りしながらヒュースの剣撃を受け止め、衝撃を流す。
『確かにこれはアカン。時間経てば経つほどやられる』
『離脱するなら一気に離れてくださいよ。ヒュースにはバイパーがあります』
『壁の向こうからの不意打ちも気をつけやぁ。最上くんからのバイパーや旋空来るかもしれん』
ヒュースの弧月だけでも意識を持っていかれ、さらにそれ以外の攻撃を警戒しなければならない。
生駒隊にとってはかなり苦しい状況だ。エースアタッカーである村上を獲れず、それどころか水上が不意打ちでやられ、厄介なヒュースに足止めされている。
『……すんませんイコさん。読み外しました』
『気にしてもしゃーない。切り替えて行こ』
可愛い可愛い可愛いマリオちゃんと一緒に援護、頼むで。
そう言うと生駒はヒュースの相手に集中し、水上はポリポリと頭をかいて一言「はい」と短く答えた。
一方、エスクード越しには村上と秀一・唯我が激戦を繰り広げていた。
秀一が前に出て弧月とスコーピオンによる二刀流で襲い掛かり圧力をかける。
弧月とスコーピオンを同時に使う者は、秀一と王子くらいだろうか。
この試合の前に王子と模擬戦をし、秀一の香取との個人ランク戦のログを見て、そして以前のランク戦の学習をしている村上は余裕を持って対処している……本来なら。
唯我が、両手に持った拳銃を村上に向ける。
村上が、それに一瞬気を取られる。
「──」
その隙を見逃さず、秀一の鋭い一閃がレイガストに切れ込みを入れる。弧月を持った手に力を入れてその場に固定し、モールクローが村上の右足を突き刺した。
「っ……」
村上が反撃の一閃を返す時には、既に秀一は一歩下がり回避する。
その光景をモニター越しに見てた当真が口を開いた。
「良い銃の使い方だな、唯我」
現在、唯我は一発も撃っていない。
「銃口を向ける事で『撃つかもしれない』と思考の何割かを奪えば、最上がそこを突く」
「でも角度的に援護は厳しい筈だけど?」
「それでも棒立ちで突っ立ってるよりはマシだろ」
彼の部隊の隊長である冬島は常々言っていた。
ちょっとしたブラフでも、相手はそれを警戒し行動を制限する。その結果、仲間の援護になり勝つことに近づく事がある。
しかし、それも長続きしない。
「鋼くんも流石に学習していると思うよ。距離、角度、実力的に唯我くんの援護が無いのは分かっている」
時間が経てば、サイドエフェクトで秀一の動きを学習している村上が押し返す。
そうなれば、唯我を狙うなりして秀一の動きを制限して離脱することも可能だ。
三人の実力を理解している故に犬飼はそう判断し、
「……ん〜、どうだろう」
そして。
「前回負けてから唯我くん、気合入っているからね〜。分かんないと思うよ?」
唯我の影の努力を知っている国近もまた別の見方をしていた。
それに応えるように、モニター内の彼らの動きに変化が現れる。
犬飼の言う通り、唯我からの援護が無いと判断した村上は意識のほとんどを目の前の秀一に向けた。立ち位置、銃の向け方、速さから、もし撃たれても捌く事ができると判断したからだ。
ならば、最も厄介なこの男を倒そう。
弧月をレイガストで受け止め、弧月とスコーピオンがぶつかり合い、火花が散る。
手数を用いてサイドエフェクトで見切り、その隙を突く。
それが分かっているからこそ村上は堅実に構えて隙を埋める。
だが。
そもそも前提が間違っていたら?
「──」
唯我が銃を向ける。村上は視線を向けず、射線を確認する。
通っていない。撃っても村上に当たる前に、秀一に被弾する。
プラフだと認識した。
こっちに意識を向けていないと理解した。
唯我は、試合前に三輪に言われた事を思い出した。
「お前はまだ鉛弾を当てる程の技量を得ていない」
ラウンド5を終えて以降三輪の元で鍛錬を続けていた唯我だったが、卒直に言って次の試合に間に合わなかった。
攻撃手の間合いで相手の攻撃を回避、防御しながら弾速の落ちた鉛弾を当てる。
元々玄人向けのこの技能を短期間で習得する事自体無理な話であり、半人前以下である唯我が自分の物にする事が出来るはずもなかった。
「ええ!? じゃあ今回の試合では使わず、次の試合で……?」
「そうしたいが……半端なお前にそれができると思えん」
唯我に才能がなく、鉛弾の習得に難航していればスッパリと諦めれば良かった。
唯我に才能があれば、使い所を教えれば良かった。
しかし今の唯我は鉛弾の撃ち方を知っており、その癖も体に染みつき始めている。
だが、当てる技量が無い。
「じゃあどうすれば……」
「……俺も考えた。現状できるのは──」
唯我が構えた二つの銃の内、右手に持った銃が黒く染まる。そして放たれるのは鉛弾。
飛び出した一つの弾丸の行き先は……秀一の背中。このままでは彼の背中にヒットし、重しが彼の行動を阻害するだろう。
攻撃手と銃手の連携で起きる凡ミス。それが今まさに起きようとしていた。
だが。
この男は普通ではない。
優秀なオペレーターによりタイミングを知っていた秀一は、サイドエフェクトで視界に広がる世界がゆっくりと進む中、三輪の言葉を思い出した。
──最上、お前が援護しろ。
側から見れば、村上と斬り結ぶ秀一の援護を唯我が行なっているように見える。
しかし実際は、前に出た秀一が唯我のたった一発を当てる為に援護していた。
村上の意識は完全に秀一に向いている。鉛弾射線も彼の体に隠れて見えない。
秀一は、スコーピオンを解除すると同時に体勢を崩し鉛弾を避けて──。
ガキンッと重い音が廊下に響いた。
◆
「最上隊はつえーが、それも短所になっちまってるな」
解説席の当真が口を開く。
「唯我はともかく、最上とヒュースが単機で点を取れるからな。自然と優先して倒そうと狙われる」
放置しても相手をしても厄介な敵。
必然的な事だった。
「んで、合流してるとどんなエースだろうが喰われる。こうなると他の隊は面白くない。仲間がやられるのも、点を取られるのもな」
──さて、そうなるとどうなるのだろうか。
「まぁ利害の一致って奴だな──最上隊は有利に動き過ぎた」
◆
唯我の鉛弾は──弧月で受け止められてしまっていた。
「──!」
「なっ!?」
驚愕の表情を浮かべ硬直する二人。
何故? タイミングはバッチリだった筈だ。
二人の中で疑念が浮かび上がる中、村上は弧月を破棄しながら後ろに下がる。
それを見た秀一が流さないとばかりに追いかけようとし──すぐさま唯我を庇うように前に立ち、弧月を振るう。
すると甲高い音が響き、狙撃弾が弾かれる。
早い、と秀一は思った。
弾丸がではなく──合流が。
「鋼さんお待たせっス!」
「無事なようだね。鋼」
村上の背後には来馬と太一が揃っていた。
しかしそれはおかしい事だと秀一は思った。
レーダーを見る限り、彼らは交戦していた筈だ。その事を考慮し、合流される前に倒そうとしたのだが……。
秀一の疑問は、背後から明かされる。
分断の為に使われていたエスクードが突如解除される。ヒュースが解いたのだ。
予定とは違う行動に秀一が視線を背後に向け──ヒュースの行動に納得した。
「お、まだ向こうも生きてる!」
「そら見逃したからなぁ。それで点取られたら大損や」
隠岐、海もまた生駒の援軍に間に合っていた。
──生駒隊は、鈴鳴第一への攻撃をやめた。膠着状態を脱した……否、放棄した二つの部隊はすぐに合流に急いだ。
それにより鈴鳴は最短距離で向かい、その穴を使い生駒隊も続いた。
結果、エースを各個撃破しようとしていた最上隊は挟まれる形となった。
この状態に秀一は焦りを覚える。
しかし状況はまだ動き続ける。
『──全員、すぐに離脱しなさい!』
月見の突然の警告。その言葉を瞬時に理解したのはヒュースのみで、しかし離脱は不可能だと判断しエスクードを発動しようとし……間に合わなかった。
──次の瞬間、彼らは轟音と爆風に煽られ……下へと落ちて行った。
新年明けましておめでとうございます
これからもワートリよろしくお願いします