最上隊、作戦室。
試合前のミーティングがヒュースを中心にして行われている。
本来なら隊長である秀一が指揮するべきだが、作戦を考えたのがヒュースな事と彼本人がヒュースから言えば良いと指示した為である。
「今回オレたちが戦うのはB級暫定一位、二宮隊。暫定四位、王子隊。暫定七位、東隊だ」
「我々は今六位だから、マップ選択権は東隊にあるな」
モニターにそれぞれの部隊メンバーが映し出される。
その中でも、二宮、東、にはDANGERの文字が加えられている。
つまり、今回の試合にてこの二人が要注意人物だという事だ。
「今回は東隊が仕掛けてくる。基本二人の部下に作戦の立案を任せているらしいが……」
東の存在はでかく、正直秀一も相手をしたくないと思っている。そもそも彼を見つけて倒す事が不可能に近い。今期のランク戦でも、三部隊に集中攻撃を食らって漸く落とされたのだから。
そんな彼を無理に狙う必要は無い。
「つまり、狙うのなら王子隊だ。以前ランク戦をしてみたが、オレと最上なら問題なく落とせる実力だった」
できるならば合流前に各個撃破したいが……。
「相手も分かっているだろうしな」
「む。そうなのかい?」
「……次に進むぞ」
唯我の惚けた顔にため息を吐きつつ、ヒュースはとあるデータを出した。
それは、秀一、唯我、ヒュース、月見の個人データ、そして部隊としての総合能力をグラフ化したものだった。
「まず、この部隊の弱点を確認する」
その言葉と同時に、唯我の顔が盛大に曇る。
「唯我だ」
「ぐぬっ」
「射程においては辻や東隊の攻撃手二人に混ざっているが単純に実力が足りない」
この試合に出る隊員たちのデータも出力されるが、確かに唯我は抜きん出て能力が低かった。
「ぼ、僕の力はチーム戦で発揮されて……!」
「それは今回の試合で分かる──お前が駒として動けるかどうか、な」
「っ……」
ヒュースの冷たい視線が唯我を貫き……。
──先輩は最上隊の隊員だ。別に駒では無い。
横から秀一が口を出す。それにヒュースが視線を向け……諦めたかのようにため息を吐いた。
これ以上は無駄だ、だと。
ならば試合に勝てるように動くのみだ。
その為に話を続ける。
「……ともかく、何もされず点を取られるのは避けたい。転送後、オレか最上どちらか近い方と合流する」
「そういう事なら異存はない!」
秀一も反対せずに頷いた。
本来なら、連携が苦手な秀一との合流よりもヒュースとの合流を優先したいが──点を取られるよりはマシだと判断したようだ。
「次に有利な点は、オレの存在だ」
「ふむ。どういう事だい?」
「オレは元々エンジニアで、戦闘スタイルを公にしてない。唯一晒してるのは弧月のみだ」
加えて、雷蔵の弟子だという噂が流れている為ヒュースの事はより攻撃手だというイメージが植え付けられる。
そこで機能するのが──ヒュースのトリガー構成だ。
ここでヒュースのトリガーの確認しよう。
メイントリガー。
・弧月。・旋空。・シールド。・アステロイド。
サブトリガー。
・エスクード。・バイパー。・シールド。・バッグワーム。
「攻撃手だと思っている相手には弾トリガーをぶつける。もし倒せないにしても隙は作れる」
「……その隙を作る相手が──」
「──そう、二宮だ」
ヒュースのトリガー構成は、攻撃手という先入観を植え付けてからの不意打ち以外に、対二宮戦を想定している。
さらに加えて……。
「確か、最上くんも今回トリガー構成を二宮さん対策にしているんだったっけ?」
唯我の確認に秀一は頷いて肯定した。
今回の秀一のトリガー構成は……。
メイントリガー。
・弧月。・旋空。・シールド。・アステロイド。
サブトリガー。
・バイパー。・アステロイド。・シールド。・バッグワーム。
このように、ヒュースと似た構成にしつつも射撃戦時の火力を上げている。理想としては、ヒュース、秀一による二対一で火力のゴリ押しを実行する予定だ。
その作戦に唯我が問いを投げかける。
「前回の試合の幻踊は使わないのかい? あの二宮さんと相討ちした一手ではないか」
「相討ちだからこそだ」
ヒュースは彼の問いを切って捨てた。
「虚をついたからこそ届いた──つまり二度目は対応される。相討ちなら、一手二手早く撃てば殺してくる。戦場で同じ手は通じない」
「ぬぐぐぐ……」
「……だが、警戒させる事はできる。最上、アステロイドはギリギリまで使うな。できれば、接近戦を仕掛けると見せかけて、オレと角度を取れ」
二宮相手に注文が多いと思いつつも、秀一は了解とただ一言返した。
まるでそれができて当然だと言わんばかりに。
その反応に唯我は思わず笑みを浮かべ、ヒュースもまた満足そうに頷いた。
「だが、東隊は深追いする必要はない。現状のオレたちではリスクの高い相手だ」
ヒュースの言葉に、全員異論はなく首を縦に振った。
できれば撤退させれば良いが……。
しかし誰もが思っていた。あの男を倒すのは難しい、と。
◆
東隊、作戦室。
(おそらく最上隊は王子隊を狙いつつ二宮対策)
そして自分は
二宮隊以外の三部隊のポイント差、ヒュースの情報を元に彼はほぼ最上隊の思惑を読み切っていた。
しかし、その事を部下達には伝えない。
伝えれば確実に勝てるが、成長には繋がらない。
そう考えながら、二人の作戦会議を見守る。
「当たりたくない相手は二宮さん、最上、そして雷蔵さんの弟子のヒュースだな」
「そんなに強かったのか、ヒュースって人」
奥寺の言葉に、実際に戦いコテンパンにされた小荒井は激しく頷いた。
「そりゃあもう! 確かにあの実力があれば最上隊に入れるって感じだった!」
「だったら、ヒュースの実力は最上と同等かそれ以上と見れば良いかもな」
「そのヒュースって子は純攻撃手なの?」
人見の問いに小荒井は答える。
「おそらくそうかと。雷蔵さんの弟子って話ですし」
「だからって決めつけるのは良くないぞ。もしかしたら弾トリガーも使うかもしれない」
「けどさぁ、弾使いながらトップランカー並みの剣使えるか? って話」
「それもそうだけど……」
小荒井の考えに、奥寺もうまく反論出来ず押し黙る。
しかし、可能性はない訳ではない為、頭の隅でヒュースの事を気にかけることにした二人。
それを見ながら議題を進める東。
「他に分かっている事は?」
「狙うなら唯我、王子隊、後二宮隊の二人ですね」
奥寺が即答し、小荒井が頷く。
「当然オレと奥寺が合流して、東さんの狙撃アリですけど」
「後各個撃破を確実にして、なるべくその場に留まらないようにするのが前提ですね」
補足されてしまえば、鬼のように追いかけてくる奴らがいる。
二人の脳裏に秀一の姿が浮かび上がり、ブルリと震えた。
秀一は足が速く、気がつけば首を飛ばされているという事もあり得る。
二人の方針を聞いた東は、納得して話を進める。
「他には?」
「それと、近・中距離において負けているのが不利な点かと」
「唯我と樫尾には落とせるけど、多分合流しようとするからなぁ……」
樫尾にいたっては、ハウンドを持っている為持ち堪えられて増援が来る可能性もあると小荒井は苦い表情で言った。
故に……有利な点を使って点を取りに行く。
「でも狙撃手が居るのは
「東さん、スナイプよろしくお願いします!」
「結局東さん頼り?」
「いや、そういう使い方なら問題ない。二人で考えて俺を駒として使うのなら」
その言葉に二人は嬉しそうな表情を浮かべる。
そんな二人に苦笑しつつ、作戦会議のまとめに入る。
「そうなると、相手はどう動く?」
「そうッスねぇ……二宮隊は二宮さん、二人に分かれるか合流して動くと思います」
「理由は?」
「単純にそれするだけで勝てるからですね」
全員がマスタークラスなだけにそうなってしまう。
東も分かっているのか追及も指摘もせず次を促す。
「王子隊は合流一択でしょう。部隊の地力としては一番低いですし、最も落とされやすい所です」
「走って索敵するってのは、東さんを警戒してしないかなぁと」
「ふむ、なるほど……」
王子隊には他にできる動きがあるが、情報を増やしても仕方ないと判断し言葉に出さない東。
そして最後に上がるのは最上隊。
「普通に考えれば唯我とどっちかが合流しますが……」
「最上がなー。ホントあいつ何なんだよ……一人だけで上位に行くし……」
二人からすれば、最上の存在がネックなようで動きが読み辛いらしい。
唯我を囮にすると思うし、唯我に敵が迫っているのを見捨てて近くの敵を殺しに行くとも取れる。
つまり、最上自身に合理するメリットが無い。ただ単に唯我が落とされるデメリットがあるだけだ。
「それとヒュースも未知数です。唯我と何らかの連携を取るのかも……」
「唯我はチャンスポイントと考えるだけで良いと思うぞ」
「またそうやって油断して……」
「けどよー」
「──二人の見解は分かった。なら、今度はどう動くか、だ」
初めから負けると想定して建てた作戦ほど失敗してしまう。
勝てる試合にする為には思考を止めてはならない。
その教えを今日まで、いや明日以降にも自分たちの力にしていく二人は答える。
「それは考えてます!」
「今回選ぶマップは市街地A」
ノーマルなマップにする事で不確定要素を無くし、東を活かす為にこのステージを選んだとの事。
そして最上隊のランク戦経験の少なさも考慮に入れている。
「できれば、二宮さんと最上を食い合わせてる間に、浮いてる駒を獲りに行く!」
「どうやって?」
人見の言葉に小荒井は……。
「その辺は摩子さんと東さんに手伝って貰って……」
「曖昧ね〜……」
「二人が考えた作戦だ。協力は惜しまないさ──さて、勝てる試合にしよう」
◆
王子隊、作戦室。
「改めて見ると凄いですね……」
過去のデータを見ながら樫尾は思わずといった風に驚いた。
特に前回の二宮との試合は記憶に新しく、これから戦うとなると気後れしてしまう。
「合流されると面倒だな」
「そうだね。だから狙うべきなのはソロQだ」
モニターに唯我を示すアイコンが現れる。鬱陶しい前髪に鬱陶しい表情。浮かべたミニカーだ。
「と言っても無理に獲りに行く必要は無い。ヒューストンやジャンボが待ち構えている可能性もある」
さらにカナダの国旗にヒュースの顔を押し込んだようなアイコンと、アイス菓子のパッケージと化した秀一も追加される。
唯一見える弱点も秀一相手だと「罠なのでは?」と考えてしまい、一歩踏み出せなくなる。
加えて……。
「東さんも厄介だし、二宮隊は格上だ。はっきり言って狙われるのはぼくたちだ」
「一番取りやすい点から取る……ですね」
悔しそうな表情を浮かべる樫尾。 同年代である秀一が二宮と並んで警戒されているのもあり、色々と思うところがあるのだろう。
それを見た蔵内がフォローする。
「気にするなとは言わんが、考え過ぎるな。俺たちで出来ることをしよう」
「蔵内の言う通りだ。そして、ぼくたちの今後の動きは……」
パチンッと示すのは東、二宮、そして秀一だ。
「この三人は狙っても仕方がない。場所を確認次第スルーしよう」
「ヒュースはどうする?」
「うーん……戦ってみた感じまだ隠してるけど……囲んでようやく獲れる、感じかな……」
弧月
「とりあえず合流が優先。その後は浮いた駒を獲りに行く。場合によっては敵部隊同士を食い合わせて、取れる点を取ろう」
「取れそうなのは……唯我、小荒井、奥寺か」
「犬飼先輩、辻先輩たちは合流前に遭遇しないようにした方が良いですかね」
蔵内と樫尾の確認に王子は頷く。
「取れる点を取れた後は撤退するのが理想かな。それと開幕バッグワームをして隠れるのも忘れずに」
「それと東さんの狙撃にも注意しないといけないわね」
橘高の追加の発言を最後に、王子が締める。
「正直厳しい戦いになると思う。でも点差が開いてないから、場合によっては順位が上がる──臆さずに行こう!」
◆
二宮隊、作戦室。
「──時間だ、行くぞ」
「辻、了解」
「犬飼、了解」
──ラウンド5夜の部・開始。