勘違い系エリート秀一!!   作:カンさん

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続きは明日のこの時間帯に投稿します。


第48話

「――ゲート発生。北東よりレーダーに反応あり。距離400!」

 

 いつもと違うその反応に、しかし動揺する者は居らず。

 迅の予知で予め情報を得ていたボーダーは、既に臨戦態勢に入っていた。作戦室には林藤を除いた上層部が揃い、モニターに写されたトリオン反応を静かに見据える。

 沢村の報告を聞いた忍田は、落ち着き払った声で指示を出す。

 

「敵軍団は真っすぐこちらへと向かっています」

「よし、予知通りだ。

 南の柿崎隊、西の弓場隊はそのまま現場に残り、それ以外の外の戦力は作戦通り迎え撃つ。現場の指揮は東に取らせる」

『柿崎隊、了解』

『弓場隊、了解』

『東、了解』

 

 指示の元、ボーダー隊員たちはそれぞれの所定の位置に向かう。

 スナイパーたちは本部屋上に陣取り、レーダーに映ったトリオン反応の正体を視認した。

 

「あれは……人型?」

「なんや、見たことないタイプやな」

 

 戸惑いの表情を浮かべる日浦の隣で、生駒隊狙撃手の隠岐孝二は思わず呟いた。しかしそれは、視認したスナイパー全員が思い浮かべたことで、自然と警戒レベルが上げられていく。

 

「射程圏内に入ったな――各員、迎撃開始!」

 

 東の号令の元、スナイパーたちは一斉に狙撃を開始した。

 いくつもの弾丸がトリオン兵の軍団に降り注ぎ――彼らの耳に聞こえたのは硬い何かに阻まれた時の鈍い音。

 

「なんだァ!? 生意気にもシールド重ねてガードしてやがる!」

「……連携するトリオン兵、か」

 

 当真の叫びの通り、彼らの弾丸はトリオン兵が展開したシールドによって防がれていた。しかもただ展開するだけではなく、複数体のトリオン兵が身を寄せ合って重ね掛けしている。その特異性に絵馬は面倒くさそうに目を細めた。

 

「と、止まんないっす! どうしましょう!」

「焦るな太一。――各員、一体ずつ確実に仕留めろ!」

「なるほど、了解!」

 

 連携しボーダーの攻撃を防ぐトリオン兵たちは悠々と本部基地の外壁へと近づいていく。その光景に焦りを浮かべる者も現れるが、東は冷静に指示を出す。

 彼の指示を聞いたスナイパーたちは早速行動に移った。それぞれ左右から順番に狙い撃ちにし、シールドを撃ち抜いて被弾させていく。

 そこに嵐山、諏訪率いるガンナー組が侵攻するトリオン兵の側面からスナイパー組の援護に入る。

 

「側面から崩す! 狙撃組の援護だ!」

『了解!』

 

「数が多いな……前に出すぎんなよ」

「ケッ。だったらゾエのメテオラで纏めて吹き飛ばせば良いじゃねーか」

「いや、今回メテオラ使えないから。カゲ、作戦ちゃんと聞いてた?」

 

 ノーガードの横っ面に弾丸を浴びせられ、トリオン兵たちの歩みが一瞬止まり――次の瞬間、何かが地上から本部屋上に向けて放たれた。

 その放たれた何かは空中で四散し、スナイパーたちに降り注ぐ。咄嗟にシールドを展開、または回避しようとするが……敵の狙いはこの次だった。

 敵の放った謎の弾丸は床に突き刺さり、そのままゲートを発生させる。するとその中から犬型のトリオン兵が現れ、スナイパーたちに襲い掛かった。

 

「――! 木崎! 荒船!」

「はい!」

「了解!」

 

 東の指示に従い、レイジはレイガストで、荒船は弧月を展開し、ゲートから飛び出したトリオン兵たちを次々と撃退していく。両者共にマスタークラスまで上り詰めているだけはあり、新型にも関わらず余裕を持って対応し、確実に数を減らしていく。

 しかし、数が数だけに、二人だけでは限界がある。そして、屋上からの狙撃が無くなった今、次に危ういのは地上のガンナー組だ。

 お返しと言わんばかりに、人型トリオン兵たちは反撃の弾丸を浴びせていく。

 

「チッ。ウザッてーな」

『全員、一旦退け。そのままでは数に呑まれるぞ』

 

 シールドで敵の攻撃を防ぎながら、ガンナー組は後退していく。すると、必然的に敵に選択肢を当ててしまうことになり……彼らが行動すると同時に、作戦室で視ていた天羽が警告した。

 

「まずいね。人型トリオン兵の中に、違う色の奴が居る」

「なに!?」

 

 破壊せず、本部の分厚い壁をすり抜けた三体のトリオン兵――否、近界民たちはその偽りの姿を捨て本来の姿へと戻った。

 

「第一段階はクリア――さあ、次だ」

 

 

 ◇

 

 

 ガロプラは、ロドクルーンから大量に受け取ったトリオン兵を用いて、見事ボーダー本部に侵入することに成功した。外では人型トリオン兵――アイドラが敵戦力を抑え込んでいる。しかし彼らは、得たデータからまだ出てきていない戦力が居ることを理解していた。

 時間はない。ガロプラ遠征部隊の隊長――ガトリンはある()を取り出した。それは、黒く染まっており、見る者に不気味な印象を与える。

 トリオンが注ぎ込まれ、その卵にヒビが入る。そしてパキパキ、と音を立てて中から飛び出すのは――一体のラッド。

 だが、そのラッドは通常のラッドとは違い、上半分は赤、下半分は黒と異様なデザインが施されており、そして最も目につくのは額から伸びている二つの()だった。そのラッドはガトリンの手から飛び降りると、その大きな一つの目をジロリと周囲に向けると……。

 

『どうやら、無事に侵入できたようね』

 

 流暢に言葉を発した。それも、機械的な物ではなく、まるで人のような……感情が宿っているかのようにはっきりとしたものだった。

 ガトリンに向ける目もいちトリオン兵のそれではなく、自分たちガロプラに無理な命令を下してきた上の者が向ける冷たいものだった。

 

「さっさと始めてくれ――M」

『――(ゲート)、展開』

 

 基地がトリオンを用いて作られているのは、以前の大規模侵攻で分かっていた。

 ゆえに、それを利用するのは必然であり、Mと呼ばれた変異体ラッドは周囲からトリオンを吸収して三つのゲートを作りだす。

 そして、そこから飛び出したのは三体のラービット。変異体ラービット同様額に角が生えており、こちらも人のように体を動かす。

 

『ケッ。やっと出番かよ』

『……』

『Eではないが……オレも待ちくたびれたぞ』

 

 液体、砲撃、磁力、それぞれの特色を帯びたモッド体は各々口を開く。

 そんな彼らを見るガトリンの目は、やはり冷たいものだった。

 

(やり辛いな……)

 

 目の前のトリオン兵を通じて、その向こうに見える()()に対して、ガトリンの胸に浮かぶのはその一言に尽きる。

 ゆえに、彼は自分の部下を連れて淡白に指示を出した。

 

「俺たちは作戦通りターゲットに向かう。後は頼んだぞ」

『誰に口聞いてんだテメエ!?』

『まぁ、そう逸るなE』

『……』

『……では三人とも。彼らがしっかりと仕事できるように――玄界の兵士たちと遊んできなさい』

 

 Mの言葉を最後に、ラービットたちは動き出した。

 そして、その反応をボーダー側は察知し、作戦室では沢村の報告と忍田の指示の声が飛び交っていた。

 

「人型近界民「3」、ラービット「3」。それぞれ別方向に進行中!」

「隔壁閉鎖! C級隊員と一般職員に近づけさせるな!」

「了解」

 

 忍田の指示の元、隔壁を下ろす冬島だが彼らにとっては障害にならない。

 人型近界民は基地に侵入する際に使用した壁抜け用トリガーで、ラービットたちはMのゲートですり抜けるだろう。そのことを危惧した根付が意味が無いのでは!? と焦燥の声を上げる。

 

「防げないにしても、誘導はできますよ。それに、あの壁抜けやゲートだって無制限って訳じゃないだろうし。もしそうなら、敵さんは狙っている何かに一直線だと思いますよ。ねえ、室長?」

「ああ、そうじゃ。トリガーは万能ではない。何かしらの制限はあるはずじゃ」

 

 そして、トリガーを使って対処するのは何時だって人間だ。

 防衛施設によって誘導されたラービットたちは開けた空間に出た。登録されている角に蓄積されている記録に従い、警戒レベルをあげる一同。

 レーダーの制度を最大にまで上げて――トリオン反応が現れる。

 

『バイパー!!』

 

 三人分の少年少女の声が響くと同時に、物陰から、天井から、ラービットたちに向けて無数の弾丸が不規則な軌道を描いて殺到した。それをトリオン兵たちは、高速移動による回避、液体化による素通り、磁力を帯びたトリガーで反射、シールドで防御と各々で対応し、バイパーを無効化させる。

 

『――上よ!』

 

 だが、彼らはそれだけで終わらせない。

 Mに搭載されたレーダーに一つの反応が上から現れる。それは、アフトクラトルが入手した唯一無二の存在。()()のために、彼らはガロプラに預けられたのだから。

 ラービットたちが上を見る。果たして、そこには――彼らの真の敵が一本の刀を手に、ギラついた目で己が標的を捕らえていた。

 

『――こいつが、クロノスの鍵!』

 

 歓喜の声を上げて前に出るのは、砲撃型ラービット『R』。

 腕に展開したシールドで秀一の弧月を受け止める。

 甲高い音が鳴り響き、トリオンとトリオンが鬩ぎ合いバチバチと音を立てる。

 Rは背中に装備したブースターに火をつけて、秀一に向かって突進する。

 体格差、空中に居たということもあり、秀一はRにそのまま壁まで押しやられ、勢いよく激突した。轟音が鳴り響き、彼のトリオン体に衝撃が走る。

 

『まずは挨拶だ――喰らえ!』

 

 ガバッと口を開き、トリオンを集中させるR。

 秀一の目の前に眩い光が発生し……。

 

「――!」

 

 彼はダンッと壁に片手を叩きつけた。すると、そこに冬島隊のエンブレムの紋様が現れると、彼は一瞬でRの目の前から、二階のギャラリーに予め待機していた仲間の元に転移した。

 

「――ナイス誘導、最上」

「――合わせるわ、出水くん。最上くん」

 

 隣の出水と反対側に居る那須が二つの弾丸を合成し、それを見た秀一もメインサブに入れている弾丸トリガーを起動、展開させて合成させる。

 彼らが組み合わせたのは変幻自在の魔の弾と全てを破壊する炸裂弾。

 その合成弾の名は……。

 

『――トマホーク!!』

 

 左、右、真正面から迫りくる合計24の弾丸。一つ一つに必殺の威力が込められており、シールドで耐えることは不可能だった。

 このまま蹂躙されて、機能停止に追い込まれる。

 もし、この場にMが居なければ。

 

『――(ゲート)、展開!』

 

 Rに内蔵されている彼女のマーカーとMの転移機能がリンクし、Rは発生した(ゲート)の中に背中から沈み込むようにして入り込む。

 そしてトマホークが炸裂し、それと同時にRがMの頭上の(ゲート)から飛び降りた。

 

『ふー。危ない危ない。いきなり再起不能(リタイア)するところだった』

『テメエが先走るからだろうが』

 

 ズズンと音を立てて着地しながらRは焦りの言葉を吐き出し、それをEは一蹴りする。その声からは、Rのことを全く心配しておらず、かと言って信頼しているわけでもなく、やられても別に良い……そんな軽い感情が読み取れた。

 しかし……。

 

『が、好きにさせんのも腹立つ――な!」

 

 相手に対する苛立ちはあり、Eの体から零れ落ちた黒いスライムが秀一たちを下から襲う。それに合わせるかのように、磁力を操作し鉄の欠片を棘の付いた車輪を形成すると、Eとは別の相手を狙う。

 床ごと貫通させようと迫る槍とアスファルトを真っ二つに裂く車輪がボーダー隊員たちを襲う。

 

「おっと、撃ってきた!」

「……!」

 

「熊ちゃん!」

「分かってる!」

 

 それを四人ともジャンプして回避し、一階に飛び降りることで撃墜を免れる。

 ずっと那須の傍に居た熊谷は、彼女を守るために前に出て弧月を構える。それに並ぶように秀一も前に出た。

 前衛に守られている後衛二人は、敵を警戒しつつ情報を整理する。

 

「……どう思う?」

「どうもこうも、強化されているでしょアレ。あの角付き、明らかに普通のトリオン兵と違う」

 

 プログラムに従って動いているというよりも、相手の動きや能力、戦況を見て判断しているように見えた。

 機械を相手にしているというよりも、人型を相手にしている感覚だった。言動が人間臭いのも拍車に掛けている。

 そして、その原因は額にくっ付いている角だというのは分かり切ったことだった。

 モニターでその様子を見ていた鬼怒田が口を開く。

 

「奴ら、自分たちの角に刻み込まれているデータを移植しよった」

「鬼怒田開発室長。それって……」

「ああ。ワシ等がしたことと同じじゃ。

 ……いや、向こうにデータがある分、より精細に再現しておるのかもしれん」

 

 実際、アフトクラトルには膨大なデータがある。角のデータを元に前任者よりも優れた者に黒トリガーを与えることができるくらいには。

 そして今回、アフトクラトルはそのデータを元にラービットを強化した。

 砲撃型ラービットにはランバネインの、磁力型ラービットにはヒュースの、液状型ラービットにはエネドラの、それぞれの能力を最大限活かせる人格を与えられていた。

 

 Eの構成するトリオンが気化し、室内を満たさんとばかりに広がっていく。

 そのトリオン反応の動きを見て気づいたオペレーター陣が、すぐさま警告を出す。

 

『全員、退きなさい! 少しでも吸ったら終わりよ』

「性格悪い攻撃だなぁ……!」

 

 Eのガスブレードから逃れるため、後ろに退がる四人。

 射程範囲外……つまり十分距離を離れたのを確認すると、Mは三機に指示を出す。

 

『全員散開するわよ。クロノスの鍵を確認できたことだし』

『ならば、オレを此処に残させてくれ! クロノスの鍵と戦り合ってみたい!』

『ダメよ。あなたは作戦通りに陽動』

『く……仕方ない』

 

 Mの命令を聞いた三機は、それぞれ動き出した。

 Eは全身を液状化させると排気口に入り込んで移動し、Hは背中に鉄の羽、廊下にレールを形成すると猛スピードで飛んでいき、Rは背中のブースターを起動させて天井を突き破りながら上へと昇っていく。

 そしてMは……。

 

『ふふふ……じゃあね』

「待て!」

 

 (ゲート)の連続展開と高速移動で離脱するM。あっと言う間に離脱した敵を、出水たちは急いで追いかける。

 

「忍田本部長、ラービットが……!」

『ああ、分かっている! すぐに他の部隊を向かわせる!』

 

 散り散りになったラービットは他の者に任せることにして、彼らはMを追いかけた。

 しかし、熊谷は疑問に思ったのか先頭を走る出水に向かって問いかける。

 

「出水くん、なんであのラッドを? 追うなら他のラービットの方が……」

 

 普通に考えて、戦闘能力の高いラービットを追った方が良いのではないのか。

 A級隊員ですら、単独で挑めば返り討ちにされてしまう……それ以上の力を先ほどの三機は持っていた。

 だからこそ、出水がMを優先することに疑問を抱いた。

 それに対して、出水は簡潔に答える。

 

「確かに強さなら、あの三機が上だ。だが、脅威度で言えばあのラッドの方が段違いだ!」 

「どういうこと?」

(ゲート)だよ! アイツ、基地のトリオン吸いまくってバンバン使ってやがる! もし大量のトリオン兵を吐き出されたらやべぇんだ!」

「……!」

 

 そんなことになれば、いくら基地内部といえども対処しきれない。

 

「加えて、あの角付きレーダーに映らねえ!」

「バッグワームみたいな機能を持っているってこと……?」

 

 もし見失えばおそらく……。

 その最悪の事態を引き起こさないためにも、彼らは必死に足を動かした。

 それが敵の狙いだということを知らずに……。

 


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