勘違い系エリート秀一!!   作:カンさん

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こちらは本編の第33話と同時投稿しています。
本編を読みたい方はご注意ください。


ルート玉狛第二・第一話『最上秀一①』

 第二次近界民大規模侵攻。

 大きな分岐点を乗り越えた彼は、ぼんやりとその日のことを思い出していた。

 いつもよりも数の多い近界民(ネイバー)相手に独りで奮戦していたら、風間を倒した人型ネイバー、それもブラックトリガー持ちに奇襲され、辛くも勝利するもワープトリガー使いに拉致される。その後、何とか脱出するも、飛び出した先は遊真と激戦を繰り広げる老人と接敵。何とか遊真と協力して倒したものの、全てが終わった時感じたのは――悔しさだった。

 助けられなかった人が居た。第一次侵攻の時と比べると、被害はかなり抑えられただろう。しかし、彼は被害者が出たと聞いた時、とても胸の奥がざわついた。そして、金目当てでボーダーに入り、そこそこの実力があるにも関わらず、彼が出来たことは――とても少なかった。

 三輪は良くやった。お前は頑張ったと言ってくれたが、彼はそう思わなかった。

 この時初めて、彼は一人の力の限界を思い知った。

 

 どんなに力があろうと大局では意味が無い。

 もっと、役に立てる存在に――。

 

 それが、あの人との誓いなのだから。

 

 記憶に無い、あるはずの無い大切なことを無意識に思い出した彼は――一歩踏み出した。

 

 

 

 

 ――空気が重い。

 

 本部に呼ばれ、会議室に赴いた林藤支部長は突き刺さる視線に耐えながらそう思った。

 大規模侵攻を終え、被害がゼロとは言わないものの最小限に抑えたボーダーは、これからに向かって歩こうとしていた。そしてそれは彼も同じで、玉狛支部で色々と己にできることをしていた。

 そんな忙しい時に呼ばれた彼は何事かと思って来たのだが……。

 

『……』

 

 沈黙が痛い。

 というか、城戸派一同の視線が痛い。

 いつも鋭い目つきの城戸も心なしか、いつもよりも五割増しで眼光が鋭く体に穴が空きそうだ。鬼怒田と根付も面白くなさそうな顔をしており、明らかにこちらに対して不信感を抱いている。少なくとも、大規模侵攻を共に乗り越えた仲間に向ける物ではない。

 唐沢はいつもと変わらないように見えるが、灰皿にあるタバコの量から、彼がどう思っているのかが伺える。

 そしてなんと言っても意外なのが、忍田本部長だ。いつも中立を貫いている彼が、今回ばかりは城戸派の方に傾いており、林藤に……いや、玉狛派に対して厳しい視線を向けている。

 

 一体何が起きたんだ?

 

 そう思っていた彼に、城戸はゆっくりと、しかし力のこもった声で林藤に問いかけた。

 

「何を企んでいる、林藤支部長?」

 

 そう問いかけられて、真っ先に思い浮かんだのは先日捕虜となったヒュースだ。

 しかし、ヒュースの件はあの取引で解決したはずで、双方納得したはず。

 ということは別件だということになるが……彼には全く心当たりがない。

 そんな彼の態度を、惚けていると受け取ったのか、鬼怒田が机を強く叩き付けて怒鳴りつけた――林藤が唖然とする言葉を。

 

「――最上秀一が玉狛支部に異動届を出したことだ!!」

 

 思わず咥えていたタバコをポロッと落としてしまった林藤。

 しかし、そんな彼に構わず鬼怒田は続ける。

 

「貴様、どういう手を使った!? あの最上が何故玉狛に行く!?」

 

 近界民(ネイバー)を心底憎んでいる最上秀一。

 その復讐心から日夜トリオン兵を狩り続け、先日の大規模侵攻ではモールモッド789体、バンダー569体、バムスター612体、バド423体、新型トリオン兵ラービット11体を駆逐し、さらに単独でブラックトリガー持ちの人型近界民(ネイバー)を撃破し、その他の人型近界民(ネイバー)を退けさせた。加えて、一度拉致されるも、敵の遠征艇にダメージを与え、敵のトリオン兵の供給を止める等、様々な活躍をした。

 このように、彼は異常なほどの戦功を上げている。その原点には憎き敵を駆逐できるという暗く、しかし強い感情があったからこそだろう。そうでなければトリオンをぎりぎりまで酷使して近界民(ネイバー)を倒すはずがない。

 実際は金目当てだが。

 そんな風に思われている彼が、己と真反対の存在と言っても良い玉狛支部への異動を願う等、林藤か迅が何かしたと疑うに決まっている。

 現に、城戸司令達はこうして林藤を尋問しており、三門市の何処かでは鬼ぃちゃんが暴走して予知予知歩きしていた自称実力派エリートとジャンプ漫画のような熱いシーンを繰り広げている。

 それほどまでに秀一の行った行動は多くの者に動揺を与え、無駄に疑心暗鬼に陥れ、玉狛のツートップは何が何だか分からない、と混乱している。

 激しく問われても林藤は答えることができず、むしろこちらが聞きたいくらいだと反論した。

 

「オレだって、今知りましたよ」

「なんだと!?」

「そもそも、オレはあいつと接触をするのを控えている。迅もそんな大胆なことはできない」

 

 城戸派の鬼怒田と根付は信じていないが、少し考えれば分かる事だ。

 彼の過去を知るだけに、林藤は秀一と接触することはできない。

 そしてそれを理解している城戸と忍田は、だからこそ秀一の狙いに薄々気付いていて、だからこそ林藤を……玉狛を疑っていた。

 

「先日のアフトクラトルの捕虜は……このためか?」

「……? ――!」

 

 そして、林藤も城戸司令の言葉で、何故彼が玉狛に近づこうとしたのか理解した。

 

「その態度が演技かどうかはこの際どうでも良い。

 ――問題は、彼の復讐だ」

 

(そういうことか……!)

 

 今、玉狛はヒュースを捕虜として抱え込んでいる。

 ()()()()と違って生きた捕虜なので、玉狛支部に限らずボーダー全体として希少な価値のある近界民(ネイバー)だ。

 だが、そんなものは彼にとってはどうでも良い。

 今回攻めてきた近界民(ネイバー)の一人が、生きて玉狛支部に居る。

 ボーダーがどう思っていようと、どう考えていようと関係ない。

 近界民(ネイバー)は敵だ。仲間を殺した侵略者だ。仲間を攫って行った憎き敵だ。

 生かしておけない。

 ボーダーが殺さないなら、俺が――。

 

「林藤支部長……これは我々の推測に過ぎない。しかし、可能性の高いものだ。

 彼はあの近界民(ネイバー)を殺す気はないのかもしれない。

 彼はあの近界民(ネイバー)を知らないのかもしれない。

 どちらにせよ、この異動届を受理しなければ、彼に玉狛には何かがあると伝えるようなもの。下手に不信感を与えれば、彼の刃はボーダーに向く可能性がある」

 

 つまり、もう彼の玉狛行きはほぼ決まったも当然だ。

 無理矢理上から抑えたりすれば、周りが黙っていない。先日の戦いで、彼への注目度は大きくなっている。それに伴い、彼に憧れを抱く者、好意を持つ者も……。

 そんな時に、上層部が下手な行動をすれば、これから控えている記者会見にどのような影響を与えるか分からないからだ。

 

 そして、城戸たちは玉狛はこのことを見通していたと思っている。

 迅が未来視のサイドエフェクトを持っているだけに、余計に……。

 

「――最上秀一は本日付で玉狛支部に異動となる。林藤支部長……くれぐれも、彼の扱いを間違えないように」

 

 ――あ、胃が痛い。

 

 思わず、林藤は己の胃を抑えた。

 

 

 

 

 ――と、上層部一同が頭を抱えて悩んでいるなか、ここにもまた一人頭を抱えている者が居た。

 

「オサム、紹介します。新しい仲間のモガミシュウイチ君です」

 

 目を覚まして、色々な人が見舞いに来て、そして最後にやって来た相棒が連れて来たのは意外過ぎる人物だった。

 

 ――最上秀一。

 

 修が強くなるきっかけを作った人物の一人であり、そして自分とは正反対の位置にいる筈の人物。

 そんな人物が、遊真の隣に立って自分を見ている。

 彼は、修に頭を下げて自己紹介した。どうやら修のことをあまり覚えていないようだ。

 そのことに複雑だと思いながら、しかしそれも仕方の無いことだと納得させる。

 

「三雲修です……えっと、あの……」

 

 なんで自分たちのチームに?

 先ほど言われた遊真の言葉をまだ信じられない気持ちで居ながら、修は彼に聞いた。

 すると、彼は何処か照れた様子で――と言っても、ほとんど無表情なので遊真たちは気が付いていないが――次のように述べた。

 

 今回の大規模侵攻の際に己の力不足を実感した。

 それを補うためにも、そしてアフトクラトルに攫われた人たちを救うために最も適していると思ったチームが玉狛第二だった。

 

 そんな彼の本心を聞いて、修は自分が彼のことを勘違いしていたことを実感した。

 

(……冷たい人だと思っていた。でも実際は――)

 

「シュウイチってさ、意外と熱い奴だよね」

 

 遊真はそう言って笑みを浮かべた。

 その言葉を受けて、彼は頬を掻いてプイッと視線を逸らした。

 流石の二人も彼が照れていることが分かったのか、思わず笑ってしまった。

 そして修は痛みを感じて蹲る。

 それを見た彼が修を心配し、

 

「いてて……だ、大丈夫だ」

 

 修は、徐々に彼のことを知る。

 近界民(ネイバー)が嫌いだからと言って、三輪のように冷血な人だというわけではない。優しい人間だっている。

 

(いや……違う)

 

 優しい人間だからこそ、家族を奪っていった近界民(ネイバー)を憎んでいるんだ。

 三輪だって本当はそうだ。

 優しいからこそ、敵であるはずの近界民(ネイバー)と親和を望んでいる玉狛を嫌悪している。

 修は腹部の痛みよりも、今理解した痛みが一層気になった。

 

 

 

 

 修の見舞いを終えた遊真と彼は、近くのファミレスに寄った。

 ファミレスが初めての遊真はきょろきょろしており、友達と一緒に居ることで気分がハイになり正常な判断ができなかった彼はきょどきょどしている。

 彼はぼっちだった。ゆえに、人と接するのが苦手で外食をする際も、注文はいつも祖父に任せっきりだった。三輪たちとの焼肉会の時は、いつも米屋が注文を取るのでする必要が無かった。

 一度三輪と二人で行った――行く事になってしまった――時があったが、その時は追加注文をお互いせず、すぐに帰るという妙なことになった。

 

「ふむ……ここはどういう場所だ? 本部の食堂に似ているけど……?」

『どうやら一般向けに展開されている食堂のようだ。お金を渡す代わりに自分の選んだ料理を食べることができるらしい』

 

 こっそりと遊真はレプリカからファミレスの情報を得る。どうやらインターネットで色々と調べているようで、このファミレスのことも習得済みらしい。

 遊真はメニュー表を手に取って、難しい顔をして唸る。

 

「見たことがある食べ物と見たことが無い食べ物が一杯だ……」

 

 未知の食べ物を食すか、それとも無難に知っているものを食べるか。

 以前『かこちゃーはん』なるものを食べた時、遊真はトリオン体が崩れたかと思うほどの衝撃を受けた。何でも、時々出るアタリのようで、その時のことをあまり覚えていない。

 その後、しばらく食堂で炒飯が規制され、堤が二回くらい大地に沈むとか。

 ともかく、遊真は二択に迫られていた。

 

(このドリアっていうのとカレー……どっちにしようかなぁ)

 

 悩んでいた遊真は決めきれず、目の前の彼に聞くことにした。

 

「シュ……――!?」

 

 しかし、最後まで彼の名を呼ぶことができず、視線を横にズラして思わず硬直した。

 メニューを見つつ頭の中でテンパっていた彼は、しばらくして固まった遊真に気が付いて顔を上げた。そこには珍しく驚いた顔をしている遊真がおり、彼は遊真の視線を辿って――同じく固まった。

 

「……なにしてんの、あの人たち」

 

 窓ガラスに顔面を押し付けて遊真を睨み付けている三輪と、そんな彼を必死に背後から羽交い締めしている迅。

 ざわざわと周りの客に見られている先輩たちにドン引きしながら、彼は遊真の言葉にこう答えた。

 

 こっちが聞きたいと。

 

 

 

 

 

「おい、ネ……空閑。貴様、秀一に何をした」

「いや、何もしていないよ」

 

 ファミレスの中に入り、秀一たちと相席することなった三輪と迅。というよりもさせた。

 秀一の隣に座った三輪は、オムライスをもぐもぐと食べながら遊真を問い詰めていた。

 今回の大規模侵攻で落ち込んでいた迅は、急に自分に掴みかかって来た三輪にため息を吐いてスパゲティを食べる。

 

「嘘を吐くな。この馬鹿が玉狛に行くのには何か理由があるはずだ」

「ああ、うん。そうだけどさ」

「やはり何か企んでいるな、ネイバー!!」

 

 ネイバー? と隣で聞いていた秀一が三輪に聞く。

 すると、興奮して立ち上がっていた三輪はストンと座り……。

 

「聞き間違いだ。うめぃなァと言ったんだ」

 

 そう言って彼はオムライスを一口食べた。

 

 いや、ああ、うん。かなり苦しい。

 しかし大して気にしていないのか、秀一はそれ以上の追及をせず、頼んだステーキセットを食べ進める。

 三輪は、彼に遊真が近界民(ネイバー)であることを黙っているつもりのようだ。

 それは、まあこちらとしても有りがたい。しかし、それなら遊真のことを近界民(ネイバー)だと叫ばないでほしい。そもそも、さっきの行動のせいで周りの客がこちらにチラチラと視線を向けている。

 

「ねえ、あれって修羅場?」

「あの無表情な子を巡って、白い小さな子と目つきの悪いマフラーが争っているんだわ! きっと!」

 

 しかもなんか腐っている人たちが居る。トリオン兵よりも厄介かもしれない。

 彼女たちから見れば、そういう風に見えるみたいだ。

 しかし、そんなことなど露知らず、今度は遊真が三輪に問いかけた。

 

「そんなにシュウイチが玉狛に入るのが不満なの?」

「当たり前だ」

「……じゃあ、今からでも取り消す?」

「それじゃあ秀一が可哀想だろうがあああ!!」

「……えぇ」

 

 どっちみちキレるんかい。というかキャラ崩壊しているぞ秀次。

 そう突っ込みたかった迅だが、迂闊な発言はできない。

 というか帰りたい。何故なら……。

 

「修羅場、美味しいです」

「無表情っ子がちょっと涙目になったの可愛い」

「禁断の三角関係ですね、分かります」

「いや、あの変なサングラスの人も居れて総受――」

 

 ――迅は、強制的にシャットダウンした。

 これ以上聞いたらやばいと本能で言っていたからだ。

 サイドエフェクトが無くても分かる。

 チラリと視えた腐った未来に食欲を無くしつつ、どうやってこのブラコンを止めようかと考えて――そんな未来は無いことにため息を吐いた。

 

 

 

 

 防衛任務のため、三輪と別れた彼たちは玉狛支部に向かっていた。

 未来視でこれから起きる騒動に笑いつつ、そして林藤に合掌する迅。どうやら、未来視で林藤の胃にダメージが入ることは知っていたようだ。

 

「ここが玉狛支部だ」

 

 玉狛支部に到着した彼は、ポカンと口を開いていた。

 水の上に建っている支部に驚きを隠せないらしい。

 迅は説明しつつ、少し前に訪れた修たちのことを思い出していた。

 彼の反応は修たちと似ており、思わず笑ってしまったのだ。

 

「さあ、入ってくれ」

 

 中を案内するため、扉を開く迅。

 彼が玉狛に入る未来は確定している。しばらくしたら林藤が帰って来るため、それまでに何とかあの三人を納得させる必要があるからだ。

 

「あら、おかえり迅、遊真……」

 

 迅たち三人を迎え入れたのは、小南だった。

 お菓子のどら焼きを食べつつ迅たちを迎え入れ、そして続いて入って来た秀一の姿に頭を傾げた。

 

「……だれ?」

 

 コテンっと首を傾げる小南。

 その可愛らしい動作に異性に慣れていない――それどころか同性も――彼は、うっすらと顔を赤くさせる。

 そのことに気付かず、迅はポンッと彼の頭に手を置いて――。

 

「実は、遊真のお兄さんだ」

 

 さらっと嘘を吐いた。

 遊真と彼は「何言っているんだこの人」と呆れた目を向けていた。しかし、二人の考えは違う。彼はそんな嘘に騙される人なんていない、と。そして遊真は――。

 

「――え!? うそ!?」

 

 あっさりと騙されることを知っているが故に。

 彼は信じられない目で小南を見ている。これほどまでに騙されやすい人間を、彼は見たことないからだ。祖父が居れば苦笑して「お前が言うな」と言うだろうが。

 小南は、彼と遊真の顔を見比べる。

 

「う~~~ん……確かに何処となく似ているわね」

 

 疾風迅雷モードの時の彼だったら、髪の色と目の色が同じなのでそう思えるかもしれないが、今の彼は平時の時そのものだ。

 迅の嘘にすっかり騙された小南の目には、二人が兄弟に見えるようだ。

 単純というか純粋というか。

 

 しかし、小南は中身がいささか残念だが、見た目は完全な美少女。

 そんな美少女にジッと見つめられた彼は、視線をあちらこちらと忙しなく動かして、赤面し、鼓動が早く鳴る。

 彼の妙な態度に小南が首を傾げ、他の二人はニヤニヤと笑みを浮かべる。

 どうやら彼の異常に気付いたようだ。そのことに気が付いていないのは当人たちのみ。

 

「どうしたんですか?」

 

 小南の声が聞こえたのか、部屋の奥から烏丸が出て来た。

 ちなみに、レイジと千佳は修の見舞いに行っている。

 

「あ、とりまる! あのね、此処に遊真のお兄さんが来ているのよ!」

「遊真のお兄さん?」

 

 小南の言葉に疑問符を浮かべながら、烏丸は彼へと視線を向け――一瞬目を細めた。

 しかしすぐに表情を戻すと、迅のした行為を瞬時に悟っていつものように彼女に嘘を吐く。

 

「ああ。この前迅さんが言ってた空閑秀一さんですか。確か、小南先輩と同い年の」

「え、うそ!?」

 

 迅に合わせるどころかさらに嘘を被せて来た。

 これには迅さんもにっこり。

 小南はさらに騙される。

 

「う~ん……でも背が小さいような……あ、でも遊真も小さいし……」

「……なんか、あれだな。おれがシュウイチの弟だってこと疑っていないことに腹が立ってきた」

 

 同い年なのに。

 

 友だと思っているからか、それとも背が小さいことを気にしているのか、遊真は静かに怒りを覚えていた。

 その感情を感じ取った彼は苦笑いを浮かべるしかない。というか着いて行けない。

 

「でも、遊真のお兄ちゃんの名前、どっかで聞いたことあるような……」

「そりゃあそうですよ。だって、彼は遊真の兄ではなく、最上秀一……同じボーダー隊員なんですから」

「……え? じゃあ遊真のお兄ちゃんって言うのは――」

「はい。嘘です」

「――」

 

 そして烏丸はあっさりと嘘である事を彼女に明かした。

 小南はビシリと固まり、最初に遊真の兄だと宣った迅を見た。

 

「いやー、まさか信じるとは。この前も同じ嘘吐いたし、流石に騙されないかと」

「迅さん、つまんない嘘吐くね」

 

 果たして、その嘘はどっちのことだろうか。

 全てを理解した小南は、プルプルと震えて怒りを充電し……。

 

「だ~ま~し~た~な~!!」

「はっはっはっは」

 

 ガジガジと迅の頭を噛んで怒りをぶつけていた。

 しかし予めトリオン体になっておいた迅は痛みを感じず、そのままされるがまま。

 未来視のサイドエフェクトはやはりズルい。

 

 じゃれ合う二人を置いて、烏丸は彼の前に立った――固い表情で。

 

「で、何故彼が此処に居るんだ?」

 

 烏丸は小南と違って彼の噂のことを知っているのだろう。

 先ほどの様子とは打って変わり真剣な表情だ。

 

「おれたちのチームに入ることになった」

「本当にそれだけか?」

 

 ――何か別の目的があるのではないか?

 

 暗にそう言う烏丸。彼のことを知っているだけに、遊真の言葉を信じ切ることが出来ないでいた。

 近界民(ネイバー)親和派の玉狛の監視にやって来たのではないか。

 それとも……。

 

「今のところは大丈夫だよ、京介」

 

 彼のことを疑う烏丸を止めたのは迅だった。

 優しい笑みを浮かべて烏丸を真っ直ぐ見ていた。

 ここ最近見ていなかった迅のそんな顔を見て、烏丸は驚いた。

 

「迅さんのサイドエフェクトがそう言っているんですか?」

「いいや。おれ自身がそう思って、おれ自身がそう言っているんだ」

「……」

 

 絶対の自信を持って言われたその言葉に、烏丸はしばらく沈黙して――肩の力を抜いた。

 

「……そういうカッコいいことは、小南先輩を振りほどいてから言ってください」

 

 未だに噛みつかれている迅に向かって、烏丸は呆れたようにそう呟いた。

 




Qこの世界のモガミンはクロノスの鍵って認識されていないの?
A運良くされていませんが、エネドラをノーマルトリガーで倒す手腕を見込まれて拉致される。しかし自力で脱出してヴィザ翁を遊真と倒したりとある意味本編よりも凄いことしてる。
結果

かなり危険な男(Byワープ女)
そうとうヤバい男(Byジェットゴリラ)
ぶっちぎりでイカれた男(By根暗軍師)

と認識されており、本編とそこまで相違ないのかもしれない。

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