――二宮隊の場合。
なんだかホストみたいだ。
三輪の紹介で無事二宮隊に入ることができた秀一。試験と評して二宮と十本勝負を行ったが……まさか二本も取れるとは思わなかったと少しだけ己に自信を持つ。
そんな彼だが、現在新たなデータを加えたトリガーを起動しているのだが……少々戸惑っていた。
ボーダー隊員の隊服はそれぞれの部隊で異なる。一貫して市民に要らぬ威圧を与えないようにデザインされているが……果たして自分が着ている
改めて鏡を見ると、そこには黒いスーツを着込んだ自分が居た。ぶっちゃけホストみたいで、なんだかコスプレみたいだ。常々ボーダー隊員の隊服はコスプレみたいだと思っていたが……これはそれ以上だ。ものすごく、スタイリッシュです。
比較的話しやすい犬飼にこのことを聞いてみると……。
「ああ。二宮さんコスプレを嫌ってこのデザインにしたんだけど、逆に浮いちゃってコスプレみたいになっちゃったんだよねー。あっ、本人このこと気づいていないから内緒ね?」
と言われてしまった。
最初は魔王の如く怖い人と思ったが……案外天然なのか? と彼は黒スーツを眺めつつそう思ったのであった。
【天然コスプレスーツのおかげで親密度アップ! しかし隊長はそのことに気づかず】
◆
影浦隊の場合。
「ったく、二宮の野郎。邪魔しやがって……」
ジュージューと目の前のお好み焼きを焼きながら愚痴を零す隊長を見つつ、彼はハフハフと熱々の豚玉ソバ入りのお好み焼きを口に含んだ。
少し前までは目の前の隊長が愚痴を零す度にビビり、それを感じ取った影浦がウザったいとキレて模擬戦をし、その理不尽に彼もキレて大喧嘩。それを何度かしているうちに、隊の中限定だが、彼は他人に対して怯えなくなった。荒療治だが、彼にとっては効果的だったようだ。
で、目の前の隊長は何をイライラしているのだろうか? と考えるもすぐに理解した。おそらく先日行われたB級ランク戦ラウンド4のことだろう。確か、あの時影浦は玉狛の空閑と遊ぶと言っていた。しかし実際は……。
「てかおい秀一! テメエ東のおっさんはどうした!? 今度こそ仕留めるって言ってたじゃねーか!?」
そう言われても……と彼は影浦から目を逸らす。
彼も何度か補足はしたのだが、結局討つことができずそのままタイムアップとなった。あの人がガチで隠れたら見つけるのはムリゲーなのである。それに、二宮に見つからないようにしていたというのもデカい。
それよりも――。
彼は一つ気になったことがあった。
それはチームメイトである絵馬ユズルが試合中に行った、とある行為についてだ。
彼は聞いた。何故玉狛を助けたのか? と。結果的には犬飼を倒せたから良かったものの、ベイルアウトされたことを考えると、あの時撃つべき対象だったのは玉狛の狙撃手だったのではないか?
「……別に。ただ二宮隊が嫌いなだけだよ」
彼の問いに対して、絵馬はそう答えた。
絵馬と二宮隊。彼らに何があったのかを秀一は知らない。本人たちが話そうとしないし、彼も無理矢理聞こうとも思わないからだ。
そして今言った言葉は嘘ではないだろうけど……本当の理由は別にある。
目の前の少年はそういう奴だ。
「まぁまぁ。勝ったから良いじゃないの。久しぶりに一位になっちゃったし、このままAに上がっちゃう?」
「興味ねえ」
「別に良いよ」
右に同じ、と彼も素っ気なく返した。
以前は給料欲しさにA級を目指していた彼だったが、影浦隊に入隊して充実な日々を送っている今、金よりもこうして遊んでいる方が良い。
それに、目の前の隊長が根付メディア対策室長を殴りつけて降格してしまっている以上難しいのではないだろうか? 上に睨まれると出世できないのは何処も一緒か。
「ちょっとちょっと。もう少しやる気だそうよ皆。他の隊だって頑張っているんだし」
「あー、うるっせーなー。他所の隊のことなんか知るかよ。オレァ楽しめりゃあそれで良いンだよ」
……まっ、この隊なら大丈夫だろう。
【充実な日々を送っているが、『カゲガミコンビはやばい』と裏で囁かれている】
王子隊の場合。
「どうしてなんだ、最上……!」
王子隊作戦室で一人の少年の悲痛な声が響いた。
その声に込められた感情はとても強いものであった。理解してもらえないという悲しみと理解してくれないという悔しさ。しかしそれは彼のことを仲間だと思っているからこそ抱いている感情だ。そこに相手に対する悪感情はない。
対して彼もまた珍しく感情を表に出して王子に真っ向から反発していた。
一人で居るところを半ば無理矢理王子隊に入れられた時は戸惑っていたが、今にして思えばそれは正しかったように思える。頼りになる先輩や友と呼べるくらいに親交を深めたチームメイトを彼は手に入れることができた。そしてそれができたのは目の前に居る自分の隊長だ。もし入らなければ、彼はずっと独りで居たのかもしれない。三輪隊には良くしてもらっているが、それでも彼は三輪隊にはなれないのだから。だから、そのことは本当に感謝している。しているからこそ
いい加減、そのネーミングセンスがベイルアウトしたあだ名で呼ぶのを止めろ。
――戦争が始まった。
「どうしてだい? なんでそこまで『ジャンボ』が気に食わないんだ!?」
そう言ってモニターに写されるのは彼と某アイスが謎融合を果たして謎の生命体EXへと変化したナニカ。王子の発言からするにどうやら彼のことを示しているようだが……その時点で彼の怒りはメテオラ状態だ。バイパーでハチの巣にして爆破したい。
しかし彼は成長したのだ。ここは冷静になって自分が嫌だと思っている理由を5W1Hを使って懇切丁寧に目の前のプリンスの頭に叩き込まなくてはならない。
「僕は今回君のために一週間かけて考えたんだ! 最上→最中→モナカ→ジャンボと連想してデザインもエンジニアの人たちと相談して――」
それ他の人にも言ったんかい!? と目を見開いてぶち切れた。今まで何とか外に漏れないようにしていた彼の努力は無駄に終わったようだ。明日にも米屋辺りが弄ってきそうだ。その後重石を叩き込まれるだろうが。
とりあえず彼は弧月を抜いて王子を訓練室へと誘う。ひさびさに切れちまったらしい。
「良いよ……! 僕も君とは本気で語らないといけないようだ」
そう言って二人は闘気をお互いにバチバチとぶつけ合って訓練室へと向かった。
そんな二人を見送ってため息を吐くのは彼らとチームメイトの蔵内、樫尾だ。
ここ最近見慣れた光景にいい加減飽き飽きとしているらしい。
「この後防衛任務なんですけど……気づいているんですかね?」
「好きにさせるしかないさ。遺恨を残した状態で戦場に立ってもらっても困る」
と、言うものの蔵内たちはそこまで気にしていない。何故なら気づいているからだ。アレは彼らなりのコミュニケーションだということを。
もし本当に嫌だったら王子も止めているし、彼だってああまで煽るように言わないだろう。互いの意固地によって始まったこのじゃれ合いだが、意外とチーム内の仲を取り持つのに役立っている。
だがそれでも……。
「仲裁しないと止まらないってのも……」
「困ったものだな……」
十五分経ったら迎えに行こうと決めた二人はそれぞれくつろぎ始めた。
【イケメンかつジャンボ呼びをしてくる王子は彼にとっては天敵。それでも基本優しいので仲は良い。なお上記のやり取りはランク戦の作戦会議の度に起きる模様】
鈴鳴第一の場合。
鈴鳴に入ってからだろうか。彼が常時トリオン体で居るようになったのは。
それを見た周りは常に戦闘状態で居て、
「おーい! 最上―!」
鈴鳴支部に向かう途中、突然背後から声をかけられた彼はビクリと体を震わせた。
他人に急に声をかけられたか――ではない。自分の名を呼んだ声に聞き覚えがあったからだ。そしてその声を聞いた彼は冷や汗を流してゆっくりと振り返った。
その際に両手をフリーにするのは忘れない。
「こんなところで会うとは奇遇だね! 一緒に行こう!」
遺書? 一生? と何故か目の前の先輩――別役太一の言葉が物騒な単語に聞こえてしまう彼。しかし彼はその理由を知っている。理屈ではなく直感で。理性ではなく本能で!
そしてそれは今の太一の状態を見て確信に変わった。
「へへへ。今日は寒いからコンビニでおでんを買ってきたんだ~。あっ! そう言えば昨日話していた最上のお気に入りのゲーム持ってきた? 確か今日支部の皆で遊ぶんだよな! あ、でもその前に最上の報告書を終わらせないといけないんだよな。それにしてもお前も良いやつよ。わざわざ自分の報告書を後回しにして俺が書かないといけない重要書類を書いてくれるなんて……だから今日はそのお礼に手伝ってやるよ! あっ、それにサービスで大根一個あげる!」
やめてくれ……やめてくれよ……(絶望)。
マシンガントークもそうだが、何故出会ってフラグを幾つも建てるのだろうか。加えて相乗効果を起こしてより悲惨なことになりそうだ。いや、なる(確信)。未来視のサイドエフェクトはないが、未来が見えて絶望する彼であった。
とりあえず心の準備はできたので、彼は半ば諦めた状態で支部に行き……。
そこからはひどかった。
来馬たちが居ないので先に報告書を片付けようとしたところ、案の定太一がミスをして五つあるストックが一つ減った。お詫びにと差し出した大根が落ちてさらにストックが一つ減った。急いで片付けようとして器を倒して一気にストックを三つ減らして彼の報告書は
「な、な、な、な……なによこれー!?」
大 惨 事。
太一の本物の悪とそれを止めようとトリオン体で動いた彼によって、支部のリビングルームは嵐が来たかのように荒れに荒れていた。辺り一面おでんの具と汁が撒き散らされており、頭に昆布を乗せた彼はため息を吐いた。
「太一! 最上くん! さっさと片付けなさい!」
「ひー!? ご、ごめんなさーい!」
――誰か弁護士を呼んでくれ。
某最弱A級隊員のように呟きながら、トリオン体で居て良かったと現実逃避をした。
匂いが付かなくて済む、と。
【本物の悪×コミュ障=究極の闇。彼らが過ぎ去った後に残るのは破壊の痕とその対応に追われる鈴鳴三人の姿のみ……】
本編も更新