援軍が来た時彼は心底ほっとし、しかし次の瞬間それが遊真だと知ると心底驚いた。
何故彼が此処に居るのか。
そう疑問に思っていると、何と彼は玉狛支部に所属しているらしい。
いつの間に? と疑問に思い、それと同時に少し寂しく思った。
風刃の訓練でほとんど家に帰っていなかったが、それでも何度か顔を合わせていた。その時に教えてくれても良かったのに、と。
そんな彼の考えが通じたのか、遊真は何処か申し訳なさそうな顔をして後で話すと言った。そう言われてしまっては彼は何も言えない。
それよりも気になることがある。彼はチラリと遊真を見る。
彼のトリオン体時の服装が、何処となく旧ボーダーの物と似ている。確かに白い服よりも黒い方が良いよな、と旧ボーダーの訓練生服を着ている彼は、勝手に共感していた。遊真の服は何処となく改造されているが。
というか、彼のトリガーは見たことが無い。米屋から玉狛のトリガーは本部の物と違うと聞いていたが……遊真もそうなのだろうか、と彼は風刃を振り抜きながら思った。
「くそ! チビチビオレばっかり狙いやがって!」
彼はなるべく前に出て風刃の能力を使っていた。遊真が来たことによって精神的に楽になり、射程ギリギリの所から攻撃できるようになったからだ。
それに、彼は遊真が
というよりも、新人をこんな激戦区に送るなよ、と彼は少し本部に対して思う。具体的に言うともっと援軍を下さい。
「
しかし、それを忘れてしまうほどに遊真は強かった。
背後から援護射撃が放たれ、彼はそれと追従する形でヴィザに接敵する。
軌道上を走るブレードが彼を襲うが、遊真の鉛弾によって速度の落ちた状態では彼を捉えることはできない。
彼はヴィザに接近しつつ風刃でヒュースに向かって遠隔斬撃を放つ。
「ちっ!」
防御したのを見て彼は心置きなくヴィザと斬り合う。
遅くなった世界でもヴィザの剣筋は速く鋭い。
疾風迅雷状態でなければ、こうして斬り合うこともできないだろう。
彼の剣とヴィザの剣が斬り結ぶ度に、空間に遊真の鉛弾が効果を発揮する。
彼の鉛弾はエネドラが撒き散らしているガスに反応している。そこから月見が風向きとトリオン反応でエネドラのガスの位置を特定し、視覚支援で安全圏を教えている。
『しかし、それでも中々崩せないな』
「厄介なのはあのジイさんだな。今はスピードで誤魔化しているけど、シュウイチの剣が読まれ始めている」
『それに、彼もトリオンを使い過ぎている。加えて、あのトリオン体の異常も気になる――あまり時間はかけられないぞ』
「だな」
彼が斬り結んでいる最中でも、ヴィザの展開しているブレードは走り続けている。
遊真をそれを避けつつ、相手の右へと回り込んだ。
「
角度を取って遊真は比較的素早い攻撃をヴィザに向けて放つ。
それと同時に彼は後方へと退いて、遊真の射撃の被害から逃れる。その際に遠隔斬撃を放つのを忘れない。
変則的な十字攻撃だ。前からは斬撃、右からは射撃。並みのトリガー使いなら腕の一本や二本取れる場面だが、相手は
そしてヴィザは彼の斬撃をブレードを足元に再展開させることで防いだ。
「
しかし、連携が拙い。それでは意味がありませんぞ?」
遊真は一度彼の元に下がった。彼が下がった以上、不用意にヴィザの近くに居れば
「ジイさんの言う通りだな。連携出来ないのなら、バラして戦うのが良いんだけど……」
『向こうはそれに乗る気は無い。どうしてもシュウイチを仕留めたいらしい』
内部通信で遊真にそう語るレプリカのその言葉は正しく、もし分断しても彼らは遊真を無視してでも彼を殺す気だ。
その証拠にアフトクラトルの
ゆえに、仕方なく連携して攻め立てているのだが……。
「シュウイチ、お前強いけど連携が本当に下手くそだな」
遊真の言葉に彼は酷くショックを受けた。
しかし、彼はぼっちなのだから仕方の無いことだ。真面目にチーム戦をしたのも半年以上も前のことだ。その時も連携と言うよりも自分の仕事をこなしていただけ。
今回の戦闘でも、なるべくお互いの攻撃が当たらないようにし、基礎的な動きしかしていない。そしてそれも敵であるヴィザから指摘されるほどの拙さである。
彼はヴィザたちを見ながら言葉少なく弁解する。
今まで真面にチームを組んだことがなく、三輪隊から少し教えて貰った程度ではこれが限界だ。
正直ボーダーに入隊した頃と比べると随分と改善されたくらいだ。
「なるほど、
『環境も悪かったのだろう。聞いた話によると彼と波長の合う同期が居なかったようだ』
「で、波長の合う奴は大体チームを組んでいる、と」
遊真の脳裏に三輪の姿が思い浮かぶ。
彼は今何をしているのだろうか。遊真が彼と共に戦っていることは既に知っていると思うが……。遊真は、次に三輪と会う時は気を付けようと考える。隊務規定違反をしてでも自分を殺してきそうだからだ。
まあ、そう易々と殺される気は無いが。
遊真は牽制で
「何だったら、おれたちのトコに来るか? 実は遠征部隊を目指していてね」
頭の中で作戦を立てつつ、遊真は軽口を言った。
遊真の言葉を聞いた彼は言葉を復唱しつつ怪訝な表情で視線をチラリで向ける。
「ああ。おれのチームメイトが目指していて、それを隊長とおれが手伝う。でも、A級は曲者揃いだし、エースは何人居ても良いかなって」
修を圧倒した風間。慣れていなかったとはいえ、6対4で遊真に勝った緑川。イルガーをノーマルトリガーで斬り裂いた太刀川。そして彼に戦う知恵を授けた三輪隊。
彼らと戦うには、遊真含めてあまりにも戦力不足だ。修と千佳は単純に実力不足で、遊真はボーダーのトリガーにまだ慣れていない。その点、A級の面々と常日頃からぶつかり合っている彼なら、これ以上ないほどの戦力になるはずだ。
(――まっ、流石に無理だろうけど)
と、提案した遊真自身がそう思った。
彼は
彼が
――それも良いかもな。
「……え?」
しかし、そんな遊真の予想とは違い、彼は意外なことを言った。
驚いたせいで遊真は一瞬足を止めてしまい、その隙を突こうとヒュースが
「……いや、何でもない」
遊真はそう言うと、改めて敵を見据える。
しかし、思い出してしまうのは先ほどの彼。
あの時の彼の言葉には嘘は無く、それどころか一瞬見えたあれは――。
(――後にしよう。どっちみち、こいつらを倒さないと意味が無い)
――遊真に誘われた時、彼は笑っていた。
まるで、救われた者が浮かべる……そんな笑みを。
◆
ハイレインに加え、二十数体のラービットが千佳たちC級隊員に襲い掛かった。
どうやら、基地周辺に出現したラービットが空間転移のトリガーによって転送されてしまったらしい。加えて、基地西部の天羽から逃れたトリオン兵が基地南西部に流れてきたようだ。
しかし、そんな過剰とも言える戦力を前に玉狛第一は優勢に戦っていた。
「はああああああ!!」
小南桐絵のトリガー『双月』は、オプショントリガー『コネクター』によって連結することができる。連結された双月は斧状に変化し、その威力は装甲の厚いラービットを一撃で葬る力を得ている。しかし、その分トリオンの効率を無視しているために長期戦には向いていない。
(あの女の戦い方……映像で見た
最も警戒するべきはトリオン能力が高く、遠距離攻撃のできる木崎レイジだ。
彼の放つアステロイドは連射性能が高く、
さらに、ハイレインは知らないが彼らには奥の手がある。
次に警戒すべきなのは東春秋。
彼は洞察眼に優れ、戦況を良く見ている。前に出ている小南のフォローを村上と東隊の二人に命じ、他のメンバーでラービット以外のトリオン兵を削っている。その結果ボーダー側には未だに被害は無く、確実に基地西部に向かっている。
(それに、前に出ようとする度に金の雛鳥をチラつかせるのが厄介だな……)
彼女は撃ってこないが、それだけで牽制となる。
そしておそらく東はハイレインの狙いが千佳であることを知っている。
現に彼は常に彼女を近くに置いて、何時でもフォローできるようにしている。
(やはり、戦力を分散できなかったのが痛いな。こうも徒党を組まれると厄介だとは)
そしてその原因はクロノスの鍵である最上秀一だ。
当初は彼にエネドラを殺して貰い、その隙を突いてヴィザが首を獲るのが作戦だった。しかし彼がブラックトリガーを得た結果、散らせたトリオン兵のほとんどは失い敵の戦力を分散させることに失敗。さらにヴィザたち三人を相手に時間を稼がれ、未確認だったブラックトリガーと合流される。そして運良く金の雛鳥である千佳を見つけたと思えば、トップクラスであろうトリガー使いに阻まれる。それどころか、各地の雛鳥を捕らえることができていない。
任務失敗を前提に作戦を立てていたとはいえ、こうもしてやられると流石の彼も苛立ちを覚える。
(仕方ない……金の、いや雛鳥の回収は諦めよう)
じっくりとやれば彼らを下し、ハイレインは目的を達することができるだろう。
しかし、ミラから聞かされた秀一の異変を考えると時間が無いのは明らかだった。
(どうもクロノスの鍵に振り回されているな――だからこそ、確実に仕留める必要がある)
ハイレインは通信を繋げる。
「ミラ、金の雛鳥は諦める。当初の目的通りエネドラを始末する」
それを聞いたミラは、同時にヒュースを手放すことを理解した。
次の神候補である千佳を手に入れることができない以上、彼の主であるエリン家当主が神の生贄になるからだ。そうなるとヒュースはハイレインたちに牙を剥くことになる。
「ランバネインは?」
『少しお待ちを……どうやら、手練れと交戦中のようです。連れ戻しますか?』
「いや、後で良い。だが、決着が着き次第向かわせろ」
『了解。では、窓を開きます』
ミラがそう言うと、ハイレインの背後に大きな空間の穴が開いた。
それを見たレイジたちは警戒し、アタッカー組は距離を取るべくその場から離れた。
「……今回は我々の負けだ。だが――」
――クロノスの鍵は、壊させてもらう。
その言葉を最後に、ハイレインはその場から姿を消した。
修はこの時、言いようの無い不安を覚えた。
頭の奥で警報が鳴り響く中、突如上空に幾つもの
「あれは……イルガー!?」
「ということは、何処かにラッドが!?」
どうやら、アフトクラトルは今回持ってきたトリオン兵の傾きを変えていたようで、バンダーやモールモッドを減らしてイルガーを増やしていたらしい。
そして、その数は二桁に及ぶ。
「不味いぞ……」
「え?」
「あいつら――市街地に突っ込むつもりだ」
それを聞いた修は顔を青くさせる。
そんなことをされれば、生身の人間が無事で居られる訳が無い。
早く墜とさないと――。
民間人を守るために動こうとした彼らだったが、ふと一体のイルガーの動きに違和感を覚える。
「まさか……C級隊員はこの場から離れろ!」
――あのイルガーは、此処に特攻するつもりだ。
そんなことをされれば、
逃げるC級隊員たちを急かしながら、修は先日の事件を思い出していた。
あの時は遊真のブラックトリガーで何とかなったが、今回は彼は居ない。
そして、修にこの状況を打破する方法は無い。
(マズイ……マズイ!)
「エスクード」
しかし、そんな彼らを守るように眼前に巨大な壁がせり上がる。
それはディフェンストリガーの『エスクード』。しかし、とある男がこの日のために
イルガーは、エスクードによって顎を打ち上げられて動きを止められ、装甲と装甲の間の比較的斬りやすい部分をスコーピオンで斬り裂かれる。
「目標撃破――全く、未来変わり過ぎでしょ」
「迅さん」
かつてのライバルと同じようにイルガーを斬った男――迅は、笑みを浮かべて地上に降り立った。
六巻と十二巻を見る時、いつも上下逆さまにしてしまいます。
なんで逆さになるんねん(半ギレ)
でも木虎も那須も可愛いから許す(マジギレ)
原作よりも大規模侵攻編が早く終わりそうです。
そして思ったよりも大規模侵攻編が長くなりました。
最低でもアフト戦が二、三話。後日談的なのが一話ですかね
もし良ければこのまま着いて来てほしいです……。