※ちょっと直し。
赤龍帝を匿ってから暫く経ち、現状の実力もある程度把握出来た。
手合わせのつもりで戦ってみた結果、サーゼクスの妹共々予想以上に強かった。
戦い方は粗削りでラフファイトばかりだが、その力の底は未知数であり、匿ってから暫く経っている今でもその力は更に増幅している。
聞けば小僧には赤龍帝とは違う何かを持っているとの事らしく、その何かによって小僧自身を際限無く成長させている……らしい。
その前から俺が囲っていた今代の白龍皇もまた類を見ないセンスを持ってるが、小僧も小僧で歴代達とは一線を画すものを持っている。
「………」
「どうしたんだアザゼル? そんな難しい顔をして?」
「え? いや……別に」
だが、それでも奴を殺すには足りない。
ただ強いだけなら今頃俺がとっくに殺してやる。
奴の力……
その力は例え赤龍帝の籠手や白龍皇の光翼等全ての神滅具の力を合わせても……どうにもならない。
「そうか? 最近疲れてる様な顔ばかりしている様だが……」
「お前が俺の心配って、そんな性格してたか?」
「……。最近ますます嫌な事ばかりでな。
バラキエルやシェムハザ……お前以外の堕天使は皆口を揃えてアヤセカズマだなんだと」
だから俺は力とは別の方向から奴の神器の力を出し抜く方法を考えるのだが……現状はどん詰まり状態であり、その焦りの気持ちがコイツにも――今代の白龍皇であるヴァーリにも伝わってしまっていたのか、戦闘狂らしからぬ心配する声を掛けられちまった。
「バラキエルにしてみれば、アイツの嫁さんを蘇らせたアヤセカズマは正に神なんだろうよ……」
「だが奴は同胞であるコカビエルを……」
「もうアイツ等はコカビエルを忘れちまってるよ。
見れば分かるだろ? コカビエルを殺した相手にあんな態度なんだ……俺は正直アイツ等を同胞とは思いたくなくなってる」
「…………」
……。親友だった男。
その男はただ強く在りたいが為に、戦争が無くなっても毎日毎日自分を鍛えていただけの馬鹿な奴だった。
そのせいで周りから『戦争を続けたがる戦争狂』と煙たがられたとしても、アイツは何時だってニヒルに笑いながら気にしなかった。
『研究がしたければしろ。
俺はそんなお前等の為に強くなって盾役にでもなるさ……』
純粋に……。
ただ純粋に俺達同胞の為に強く在り続けようとしただけなのに……。
俺はあの日を絶対に忘れやしない。
『神羅万象の器の使い手……だ……。
か、かはは、お前に頼まれた調査の為に行ったつもりが、後ろから急にやられたよ……くく、ごほっ!?』
『コカビエル! そ、そんな……何で……!』
『さ、さぁな……。
使い手のガキ曰く『聖剣に取り憑かれた哀れな奴と共にとっとと死ね』……らしい。
全くもって何の事だか解りゃしないのに……』
『っ、し、死ぬな!! 今ヴァーリがありったけの薬を――』
『いや、無理だ……俺はもう助からん。
そんな事よりアザゼル……俺が死んだら後は頼むぞ……?』
『おいふざけんな!! お前が死んだら俺はっ……! それにガブリエルはどうするんだよ!!』
『お、お前から伝えてくれ……『約束は果たせそうにない』とな……。
ふ、ふふ……強くなるだろうあの女と戦えなくなるのは残念だが……悪く無い生……だ……っ………た……』
親友が殺されたあの日の事を、俺は忘れやしない。
笑って逝った親友は最後に冷たくなり、黒い羽を散らして逝った……アイツの顔も、抱いた憎悪と怒りを、俺は何が何でも報いを受けさせる為に忘れない。
「俺はアヤセカズマが嫌いだ、あんなものは強さなんかじゃない。強い力を振り回してるだけの小物だよ。
あんな奴のせいで俺に戦い方を教えてくれたコカビエルは……くそっ!」
「落ち着けヴァーリ。今のお前や俺ではどうする事も出来ない」
「っ……」
戦い方と戦闘狂の精神をコカビエルから受け継いだヴァーリもまたアイツを慕っていた。
故にコイツは奴を嫌っており、俺と同じく復讐を抱いている。
「大体どいつもこいつも何故自分の仲間が殺されているというのに、ヘラヘラ笑っていられるんだ! 俺はアヤセカズマもそうだが、奴等の薄情さに腸が煮えくり返る……!」
「ヴァーリ……お前」
「ふん、俺はコカビエルの生き方に憧れてた。その強さも紛れもない本物で、何時か追い抜いてやろうと思っていたんだ。
それを……訳も分からず力だけの屑に……くそっ!!」
同胞達が奴の力に飲み込まれていった中、コイツだけは俺と同じく奴を敵と認識していた。
いや、コカビエルを忘れてアヤセカズマに与しようとしてる堕天使達にもその矛先は向けられているのが今コイツの見せる表情でよくわかる。
「もっと強くならないと……あんな奴に……!」
その気持ちは俺も解る。
今の俺は堕天使総督なんてやっては居るが、正直な話グリゴリ――いや他の同族に対して見限りの気持ちすら覚えているからな。
「……。ヴァーリ、お前に言ってなかった事がある」
ならもうコイツに隠す必要は無い。
「何だ? まさか白旗を上げるつもりとか言わないよな?」
「違う、白旗なんざ上げたら俺がガブリエルに殺されちまうよ。
そうじゃなくて、お前の修行を捗らせる環境についてだ」
本来なら殺し合う宿命である赤と白の力を結合させるこの話を……。
「……。お前の宿敵を見つけ出した」
「!?」
同じ目的を持つ龍帝の男の存在を俺は驚愕の表情で固まるヴァーリに話した。
最近ドライグが難しそうに唸っている事が多くなった。
しかも何かブツブツと『白いのが近くに感じる……気のせいか?』という独り言付きだ。
何の事だかよく分からず聞いてみても『俺の話だし、お前は気にせず鍛練を続けろ』と言うだけで話してくれない。
まあ、ドライグもドライグで何かあるし、話したくない事もあるだろうから深く聞く真似はせず、言われた通り力を高める修行をしている。
「にしても実際に直面して初めて自覚する事って多いよね……これ然り」
さて、話しは変わるが、つい最近までまともな家で生きてなかった俺は、アザゼルさんから借りたお家に住み始めてから一つ気付いた。
それは……。
「ベッドじゃ寝られない……」
普通のベッドで眠れない……という話だ。
どうもあの洞窟での生活が長すぎたせいが、こうして壁に背を預けて床に座りながら眠る方が全然熟睡できるのだ。
ぶっちゃけそれだけならまだ良い……だって個人的た話だしな。
だが今の俺は一人じゃないのだ……それがどういう意味かは……もう解るだろう。
「リアスちゃん? 別に俺の真似しなくても良いからね?」
リアスちゃんまでも俺と同じ眠り方をしているのだ。
もっと具体的に言うと、洞窟暮らしと同じく俺に引っ付く感じの。
今もわざわざベッドのある部屋があるというのに、部屋の片隅で丸まってる俺にくっつきながら一緒になって丸まってる。
「あ、ごめんなさい。
私もこの感じが慣れちゃったから……」
俺とは違って元々はお嬢様だったリアスちゃんまで、こんな悪癖を感染させる訳にはいかんので、もぞもぞと密着した状態でするリアスちゃんに話し掛ける。
けど、ちょっと罰の悪そうにそう言ってくっつくリアスちゃんに俺は瞬時に何も言えなくなってしまった。
「あ、そう……ならしかたないよね」
というのも、考えてみたら知り合って心を開いてくれた時からこんな感じだったし、慣れてしまったからと言われてしまったら……俺もぶっちゃけ慣れてしまってる。
「や、やっぱりいい加減ダメ……?」
やっぱり人間の餓鬼で男だな……と実感する事ひとつ。
そんな小動物みたいな顔して言われて駄目だなんて言える訳が無いというか、リアスちゃんからそんな事を言われて駄目だなんて少なくとも俺は絶対に無理。
他の知らん女の人なら刹那で『やめて』と言える自信あるけど、リアスちゃんには無理なもんな無理だ。
「駄目じゃないね全然」
「ホント? ありがとう一誠……」
だから正直このまんまでも良いかなーなんて思う所存でござりまする。
途端に嬉しそうな顔をして胸元辺りに顔を埋めてくるリアスちゃんの頭を撫でたり、リアスちゃんの良い匂いとか感じてると特にそう思ってしまう。
が、しかしだ……。
「ただちょっと……その……」
「ちょっと……?」
慣れたものの、やっぱりリアスちゃんは女の子である事に変わりは無く、ましてや初めて異性として意識した相手だ。
そりゃ当然こんなに密着されてると段々アレになる訳で、その都度テメーでテメーの制御を怠るなと戒めつつ悶々としちゃうんだ。
故に予め……まるで言い訳の如く俺はリアスに言っておくんだよ。
「リアスちゃんって目が覚める程の美人さんで……そのだからさ……たまに『あ、やばい』ってなっちゃうんだよ」
ムラッとしますハイ……みたいな。
「? それで?」
「いや、だからその……」
正直教養もない、学校教育なんて受けたこともない馬鹿な俺がこんなかわゆい子とこんな密着出来るなんてと何度思ったかわかりゃしない。
リアスちゃんが……その、自惚れてるみたいでアレだけど、俺を好いてくれてると解った時なんて思わず外に飛び出して大騒ぎしたくなったくらい嬉しかった。
けどその……だからといってそれに託つけて大人っぽい事を何度もするのはよろしくない訳で……あぁ、そんなキョトンとしないでよリアスちゃんやい。
『要するに自分の制御が効かなくなってお前に欲情してしまうんだと』
「え?」
「ばっ!? そ、そんなドストレートに言うなよドライグ!」
イジイジとした態度の俺に見かねたドライグがぶっちゃけたせいで、俺は意味もなくテンパってしまった。
もっと遠回しに言って欲しかったよ。
『そもそも馬鍬っておきながら何をお前は初な餓鬼みたいな事を言っている』
「しょ、しょうがねぇだろ。
つい数ヵ月前まで女の人と関わる事なんて無かったんだから……」
『ふんアホらしい。俺は引っ込むから後はお前等で盛り上がってろ』
そう呆れた声で言ったドライグは本当に奥に引っ込んでしまった。
リアスちゃんが嫌にジーッと超至近距離で見てくるせいで余計緊張しちゃった俺は、それを誤魔化すように深呼吸しながら声に出して理性が外れるのを押さえ付ける。
「平常心……平常心だ平常心。
あのクソ野郎とは違うんだ俺は……」
「あの男と一誠は違うわよ。あの男は見境無いだけだし……。
それに私は……一誠がそうしたいのであれば良いのよ?」
「そんな事言われたら幸せ過ぎて死んでしまいそうだよ……」
うぅ……今ので余計にアレになっちゃったよリアスちゃん……。
一誠はあの男……綾瀬和正と違いと主張したいみたいだけど、それはドライグも私も最初から違うなんて解っている。
明らかに快楽の為に複数の女性と寝る様な男と、私が我が儘を言って受け入れてた一誠は全然違う。
だからそんなに気を張る必要だって無いと思うし、ブツブツと言う一誠に抱き着く形で大きなタオルケットにくるまってる私は、そわそわと身体を揺すっているその手を握ってハッキリと言った。
「だから自分をそんな風に言わないで一誠……」
小さく、でもちゃんとハッキリと言った私はそのまま大好きな男の子の抱き締める。
何時も甘えさせてくれる一誠だけど、今日は逆に私が……なんて。
「一応私の方が少しだけ年上だし、たまにはね……?」
「あーぅ良い匂いがして……うぅ……」
考えたくは無いけど、あの男を倒す為に生きてるということは、本当に何時死んでもおかしくない。
こうして今は当たり前の様に一誠を抱き締められるけど……もしあの男に――
「へ、リアスちゃん?」
「ん……」
考えては駄目なのは分かっているけど、そう思ってしまうと不安になり、もっと一誠と一緒に居たいと思ってしまい、その想いが私を動かしていく。
「好き……大好きよイッセー」
「っ……!?」
その困った様な表情も、何もかも全部が好き。
どうしようもなく……この心も身体も何もかも好きにして欲しいと思う程に。
「え、え……お、おう……!
俺も好きだけど……そ、そんなチュッチュされると……あわわわ……!」
「良いの一誠。好きにしても良い……。
私自身の意思でアナタと……だから」
困った様に目を逸らす一誠を逃がさないと、私ははしたないと解りながらも、何度も何度も一誠にキスをする。
「うー……リアスちゃんのキスいいなー」
「ん……んっ……は……ぁ……」
繋いだ手を互いに強く握り締めながら……。
ずっと離れたくないという気持ちを確かめ合う様に、私は一晩中一誠を感じる事に夢中になった。
「ご、ごめんリアスちゃん。そ、そのー……いい?」
「うん、来て……」
そしてやっと初めての時の様に、真っ直ぐになった目で……でも口調はおずおずとした言葉に身体が更に熱くなりながら私は頷き、優しく抱き締めながら額をくっ付けた一誠に静かに目を閉じて受け入れた。
「……………。ねぇ、奴の事とか全部終わったらさ……あの、そのーほら……アレしないアレ?」
「あれって?」
「いや、その……と、父さんと母さん的なー……みたいな」
「うん?」
「ご、ごめんやっぱまた今度言うよ…………な、何言ってんだよ俺は」
続く
補足
転生者のおかけで完全にハーレム王思考が消し飛んでるせいで、ある意味他人の女性に対してドライです。
というか前にも説明しましたが、ほぼ確実にリアスさん一筋なんで、例えリアスさん以外の女性がいかに美女やら美少女で真っ裸で迫ろうとも、無表情で『あ、結構なんで』と突っぱねます。
………。逆にリアスさん本人から同じ真似されたらテンパりまくってワケわかんない事になったり、年相応に悶々したりしますけど。
更に加えると、リアスさんの元下僕悪魔に対しては嫌悪感すら向けてます。
多分、躊躇なしで顔をズッタズタにしてやるくらいは容赦しないかも……。
ヴァーリさんは故コカビエルさんの……謂わばちょっとした弟子でした。
故に転生者を嫌悪してます。
つーか、この世界のコカビエルさんもまた鳥猫クラスのスペになれそうになってましたが、原作知識万歳脳の転生者に殺られて……こんなことに。
そして同じくガブリエルさんともそんな感じでしたが……違いがひとつ。
しょっちゅう会っては立場を越えて互いに高めあっていた。
ガブリエルさんはコカビエルさんを想ってるのは同じですが、コカビエルさんもそれに気付いて満更でもなかった。
……。つまり立場を越えた……サーゼクスさん&グレイフィアさんみたいな大恋愛に発展しそうになってまして、コカビエルを奪われたガブリエルさんは天使で唯一明確に転生者を嫌悪どころか堕天覚悟で憎んでます。