赤龍帝イッセーとリアスちゃんのベリーハード   作:超人類DX

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力を振るう。

その代償は『恨み』である。

※ちょっと直したり足したりしました。


報復心

 リアスちゃんの兄であるサーゼクスって魔王と色々あって暫く経つ今日この頃。

 

 相変わらず『奴等』は幅を利かせている様で、普通の人間は気付かないが、最早この街は奴等の完全な支配下に置かれてると云っても過言じゃなくなってる。

 何度も奴を殺すシチュエーションをドライグと一緒に展開させては失敗する未来が出て来て歯痒く感じる日々も何時もの通りだけどな…………ド畜生が。

 

 

「現実世界の安心院なじみは弱体化してる。

まったく、どこまで奴にとって都合の良い世界なんだか」

 

『一京もの膨大な数のスキルも20だか30しか使えないと聞いた時は、意味は無いがショックだったな』

 

「あぁ……まったくだ」

 

 

 この人だったらクソ野郎に勝てんじゃねーか? と思う程に果てしなき存在感と力を、夢の中とはいえ何度もドライグと一緒に見せ付けられただけあって、安心院なじみ本人から告げられた衝撃的事実は多少なりとも俺とドライグにショックを与えるに結構充分だった。

 

 

『今の僕じゃ逆立ちしてもアレに勝つのは無理だよ。

まったく……かつて球磨川君に封印された事もあったが、対処はいくらだって出来たから余裕顔できたけど、あの猿野郎の補正力による封印は対処が難しいんだよ。

正直、この僕がココまでイラ付いたのは初めてだぜ』

 

 

 戦っていた俺達の間に音もなく現れては入り、無意識に使ったドラゴン波(リアスちゃんedition)を掻き消した安心院なじみによって魔王との戦いは一旦停止となり、その後事情の説明を受けた時に本人から弱体化と聞かされた時はマジで『はぁ!?』ってなったもんだ。

 

 

『えっと……彼女は一体?』

 

『あ、うん、安心院なじみって何かとにかく凄い人。

死にかけてた俺に力の使い方を教えてくれた人でもあるんだけど、正直俺もよくわかんない』

 

 

 事情が掴めず困惑してるリアスちゃんに説明を挟みつつ話を聞いてみると、彼女も彼女でエラく歯痒い思いをしているらしかった。

 スキルの殆どを封印されたからは、どうやら自力でクソ野郎の在り方に疑問を持ったサーゼクスって魔王の元に実は密かに潜伏しているとの事で、最近は入り浸りになる頻度もこの魔王の妻が寝取られてからは更に多くなったとか何とか。

 

 

『グレイフィア……。

あの人なら大丈夫だと思っていたのに……』

 

『彼女だけなら二千歩譲って理解はしたよ、納得は絶対にしないけど。

けど最も許せないのは、多数の女性と既に関係を持ってる上でたらしこんだ事だ……僕はそれが一番許せず、出来ることなら――』

 

『お、お兄様……』

 

『ふふふ……あはははは!!

キミの信頼を裏切った僕にはおつらえ向きな末路かもね……笑ってくれて結構だよ。本当に済まなかった』

 

 

 あのクズ。既に大多数と関係を持ってるにも関わらず一人で自嘲してる魔王の嫁さんすらたらしこみやがったと聞いた時は呆れを通り越した何かを感じたものだ。

 

 

『思い通りになることに酔いしれてるだけ。まだ言彦や球磨川くんみたいなタイプが可愛いく思えるね』

 

 

 わざわざ現実に出て来て魔王の近くに居るって事は、どうも彼女は魔王を重宝しているらしく、あのクソ野郎についてを夢の中では決して見なかった『忌々しそう』な歪んだ顔で吐き捨てる様に話してる。

 途中で球磨川って誰なんだ? と俺もドライグもサーゼクスって魔王も疑問に思ったけど、聞ける雰囲気が今の彼女からは感じられなかった。

 

 

『一誠くんがあの転生者に嵌められて消さそうになったのが最初のチャンスで、リアスちゃんがその次……そして自力で奴に不信感を抱いたサーゼクスくんが必要なんだ。

奴を黙らせ、僕が僕に戻る為には』

 

 

 聞けば安心院なじみはその途方もない次元に位置するが故に、世界を飛び出して気儘に生きていただけだった。

 そして本当なら俺やサーゼクス・ルシファーと出会うことも無かった。

 

 だがある時突然『スキル』が封じられ、この世界に閉じ込められてしまった。

 そしてその原因が他所から入ってきた『癌』のせいだと知ったけど、その癌はまさしく癌の如く世界を蝕み、そして理不尽な力を不相応に身に付けており、安心院なじみ一人では手出しが出来ない存在になっていた。

 

 

『僕が閉じ込められた原因は恐らく奴を転生させた何者かが当て馬として……もしくは都合の良い性欲処理女にさせるつもりでこんな下らねー事をしたのかもしれないな』

 

『貴様をか? その何者かとやらは自殺願望でも持ってるのか?』

 

『さぁな、油断してたせいであっという間に閉じ込められちまったから何とも言えないぜ』

 

 

 故に彼女は奴に悟られないように地下へと潜り、俺達のような存在の出現を待った……という事らしい。

 自力で気付いたとはいえ、サーゼクス・ルシファーに対して『恐怖』を拭いきれないリアスちゃんも聞きながら『そ、そんな理不尽な……』と呟いてたが、俺も大いに同意だ。

 

 善悪の判断がおぼつかない餓鬼に星を破壊する力を持たされたらヤバイのと殆ど一緒っつーか、事実俺もリアスちゃんも――ついでに奥さん寝取られたサーゼクス・ルシファーも嫌になるほど思い知ってるんだから。

 

 

『しかしまさかあの女が魔王の餓鬼の所に居たとは。

夢の中の存在だとてっきり……』

 

「おう、彼女が信用してる辺りあの魔王は多分敵じゃあ無いんだろうよ。

つってもリアスちゃんまだ複雑みたいだけど――――っしゃあ! 晩飯取ったどー!!!」

 

 

 そんな訳でそれからは怪我も無く隠れ家に戻され、安心院なじみとサーゼクス・ルシファーは冥界に帰った。

 その際サーゼクス・ルシファーはリアスちゃんに最後まで謝ってた訳だが、朝飯および晩飯確保の釣りの暇潰しに話していたドライグとの会話内容の通り、リアスちゃん自身はまだ心の整理がついていない様子で、怯える様に俺の手を終始握っていた。

 

 魔王本人も自業自得でこうさせた自覚はあるようで、元の関係に戻るなんて図々しい事は言わないと言ってたけど……。

 

 

「せめてクソ野郎を始末したら、ちょっとくらいアシストはしてやるかー……。あの魔王かなり強かったし」

 

 

 ほんのちょっとだけ……修復の手伝いぐらいはしてやらんこともねーかなー――なんて。

 

 

『ところで一誠よ。

この妙に色合いがカラフルな魚は食えるのか? どう見ても身体に良くないような……』

 

「大丈夫だろ、焼けば何でも食える。

まあ、念の為にリアスちゃんにはこっちの鯉とか鮎だけどな」

 

 

 呪いの祖山なんつー変な噂が立てられて人も悪魔もその他も誰も寄り付かない山中の湖で大量にげっつした晩飯片手に、俺は急いでリアスちゃんが起きてない事を祈りつつ隠れ家へと帰投するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではサーゼクス様。私は少し席を外しますので……」

 

「あ……う、うん」

 

 

 今日もグレイフィアはおめかしして人間界……か。

 最近は隠そうともしなくなったし、僕を見る目も結婚前の敵対していた頃のそれになってる気がするよ。

 

 

「行ってらっしゃい、彼によろしく言っておいてくれると助かるかなー……なんて」

 

「はぁ、かしこまりました……」

 

 

 無理に止める事も出来なくもない。

 けどそんな事をしたら不機嫌になって、それを敏感に感じ取るミリキャスが怖がってしまう。

 最早僕とミリキャスなんてどうでも良くなってるのが分かってしまってるが故に、見送るしか出来ない僕は本当ならズタズタにして殺してやりたい『彼』に対して敵意は無い風を装いながら、一人となった自室で大きなため息を漏らしてしまう。

 

 

「情けない……ホント情けないや」

 

 

 全て後手。

 気付けば虜にしていく彼を妬むしか出来ない自分の無力さに腹が立ち、何となく手に持ったペンを思わずへし折ってしまう。

 

 

「やれやれ、辛いことを言うようで悪いけど、もう彼女は戻れないだろうよ。あれだけどっぷりと浸かってるしな」

 

 

 グレイフィアが去った瞬間に音もなくその場に現れた協力者さんの一言が余計にリアリティーを重ねさせてしまい、僕はますます心が沈んでいくのが解る。

 

 

「あれ、ミリキャスの所に居たのでは?」

 

「ミリキャスちゃんがキミを心配しててね。僕に話し相手になって欲しいんだとさ」

 

「そうでしたか……はは、幼い我が子にまで心配させるなんて親失格ですねこれじゃあ」

 

 

 そんな協力者さんこと安心院なじみさんは、数年前に突如として僕の前に姿を見せ、何れ脅威となる存在――つまり綾瀬和正について警告してくれていた。

 でも当時は『そんなことはありえない』と根拠も無い自信があったせいで無視をしてしまい、結果このザマへと落とされた。

 ある意味で自業自得……。

 

 

「年の割りにはしっかりしてる子だ。僕はああいう子は嫌いじゃないよ、何か凄い懐いてくれるし」

 

「貴女には頭が上がりませんよ。

本来なら母であるグレイフィアがああなってしまってショックと寂しさで押し潰される筈だったのが、貴女のお陰で抑えられたんですから」

 

 

 両親やグレイフィア……そしてグレモリー家に仕える者達は彼女がココに入り込んでいる事すら気付かず、また彼女の存在を知らない。

 知ってるのは僕と、さっきまで遊んでもらっていたミリキャスだけだったりするんだけど――今その話は置いておこう。

 

 どうやらグレイフィアが出ていったことで僕が心配になったミリキャスが不安になって安心院さんを僕の様子を見に来させたみたいで、安心院さんは、ちょっと前まではグレイフィアと一緒に使っていたベッドに腰掛けながら、情けない顔になってる僕をじーっと見てる。

 ――――あはははは、自分の子にまで心配されるなんて本気で情けないや。

 

 

「それに比べて僕はこの体たらく。

本当に何が魔王だ……最初(ハナ)っからそんな資格僕には無かったのに」

 

「………」

 

 

 リアスを裏切り、グレイフィアを止められ無かった。

 挙げ句人間の子供にリアスは陥れられ、グレイフィアは寝取られた。

 残ったミリキャスだけは絶対に守るにしても……今の僕じゃあ――

 

 

「あ……ごめんなさい愚痴っぽくなっちゃって。

えっと、折角なんで何か飲まれますか?」

 

 

 悔しい……その気持ちは確かにけど、その気持ちを糧に実行へと移す意欲が湧かない。

 安心院さんは僕を『お仲間』なんて言ってるけど、今の僕じゃ足手まといにしかなれないと思う。

 ましてや神羅万象だなんてふざけた力を持ってる彼を消すなんて……。

 

 

「良いでしょうこれ? 最近人間界に行った時にヘソクリで小型冷蔵庫を買ってみたんですよ。

これさえあればお部屋でも冷たい飲み物が飲めて……飲めて……」

 

「……」

 

「は、はは……は……ハァ」

 

 

 そんな弱気な心を誤魔化すように作り笑顔を浮かべながらじーっとずっと見てくる安心院さんに何か飲むかと言いつつ、前に人間界で衝動買いしたミニ冷蔵庫を開けようとしたそのタイミングだったかな。

 

 

「あのさ、女を寝取られた男の気持ちは生憎僕には解らない」

 

「へ?」

 

 

 じーっと無言で……内面がまるで読めない表情で見てた安心院さんが唐突に――そして僕の心にちょっとチクッと来るような事を、耳触りの良い声で聞かせると、そのまま続けた。

 

 

「そして僕は他人に恋をしたこともねーし、本気で愛してやった事もない」

 

「は、はぁ……。な、何となく貴女らしいですねと言いますか……」

 

 

 寧ろこの人に愛されたら色々大変そうな気がしないでも無いような――とは口が裂けても言えずに思わず笑ってしまった僕だが、安心院さんはちょっとだけ目を細めている。

 

 

「良いから黙って聞けサーゼクスくん。

グレイフィア・ルキフグスさんを奴に寝取られた辛さなんて僕は知らねーし、正直『何時までもウジウジしやがってこのヘタレ野郎』とかほんのちょっと思ってる」

 

「あ、あははは……」

 

 

 あ、あれ……? どうしよ……ちょっと泣きそうなんだけどな僕。

 けど端から見れば今の僕はそう見えても仕方ないんだろうな……あははは。

 

 

「いや……僕なりに本気で愛してたのでショックがですね」

 

「そんなにショックなら取り返せば良いだろ? ここで萎びていても彼女は取り戻せない」

 

 

 解ってる。解ってるけど……仮にもし彼を始末出来たとしても、グレイフィアが元に戻るなんて保証は何処にも無い。

 それを考えれば余計に凹んでしまう訳で……こればかりは安心院さんには分からないよ。

 

 

「初めて頼る相手の一人がこんなだと困るぜ……全く仕方ねーな」

 

 

 そんな、物凄い沈んだ気分でも何とか笑って誤魔化そうとする僕に、無表情気味な安心院さんはベットから立ち、フッと笑みを見せて言った。

 

 

「スキルがほぼ使えない搾りカス状態の僕は、昔なら『忘れさせて』やってから駒として使い潰してやったが、今はそれも出来ない。

まあ、仮に出来たとしても今の僕の心境的にそんな事はしないけど――とにかくだ」

 

 

 昔のニホンの女性が――リアスの元女王が着てた様な紅白衣装に身を包む安心院さんがゆっくりと棒立ちしてる僕へと笑みを浮かべ、優しい声色を聞かせながら近付いて来る。

 僕はその意図が解らずただそのままボーッと近付いて来る彼女を見てたんだけど―――

 

 

「え……?」

 

 

 何だろ……一瞬何をされたのか僕には理解できなかったというのかな。

 気付いたらそうなってましたというか何というか……。

 

 

「ココで腐るほどキミはまだ完全に死んじゃいない。そうだろ、サーゼクス?」

 

 

 僕は……何故か安心院さんに抱き締められながら、凄い優しい声で元気付けられてたんだよね。

 うん……これには僕ビックリ。

 

 

「え、あ、あの……安心院さん?」

 

「何だよ? どうせグレイフィア・ルキフグスさんより胸なんかねーよ。けどそこら辺を何とかスキルも使えないんだからしょうがないだろ、我慢しろ」

 

 

 あ、いえ……そういう事じゃないというか……。

 胸より女性特有の良い匂いがするというか……あ、僕貴女の胸に顔埋めてるんだね……。

 だから前が見えなかったのか……。

 

 

「ったく……やっと出来たお仲間の為とはいえらしくねーな僕も」

 

「ええっと……」

 

「っ……おい、喋ると息が掛かって擽ったいんだけど。

今の僕は下に何も付けてねーんだぜ?」

 

「は、はぁ……」

 

 

 僕の手を掴み、引き寄せ、抱き締めたらしい安心院さんの擽ったそうな声に僕はどうしたら良いのか……。

 

 イマイチわからないけど、久々に僕の心は安心しているのが感じた……安心院さんだけに。

 

 

「サービスでこのまま頭も撫でてやるよ。キミが史上初だぜ、僕にこうさせたのは」

 

「ど、どうも……。

あれ……何だかフワフワしてきました……」

 

 

 凄い人なのは分かってたけど、こうされてみると実に女性らしい柔らかさというか…………ほんの少しだけグレイフィアにされるより安心するなー……とか思ったのは内緒にしよう。

 そんな事を思いながら僕は史上初らしい安心院さんの抱擁に身を委ねていくのだった。

 

 

 

 

 安心院なじみって人によって一誠と兄の戦いは止められ、そして思いもよらない話を聞かされた私は、それでもまだ兄を怖いと思ってしまう。

 

 けれど、それとは別に一誠に頼るだけでは駄目だと私は出来る限り自分を鍛え直している。

 足手纏いになって一誠を困らせたくないから……。

 

 

『おい一誠よ。

仕掛けてた盗聴機材のマイクからまた雌共の喘ぎが聞こえてきて耳障りなんだが……。

ちなみに聞こえる雌の数はざっと5・6匹以上で、あの魔王の嫁とやらと――――今度はあの女魔王だ』

 

「どうでも良い猿共の宴会芸なんざ聞きたかねーよ。

ったく……ていうかあのクソ野郎は魔王の嫁と寝るとか頭イカれてんじゃねーか? 普通なら確実に打ち首獄門だろ」

 

『それがどうとでもなるのが奴なんだろう。

っ…………ホントに煩いな』

 

 

 グレイフィア――そして信じられないことにセラフォルー様までもがあの男に堕ちたなんて信じられなかった。だってあんなにグレイフィアは兄と仲が良く、セラフォルー様は妹のソーナ一筋だったのに……。

 でも現実は一誠があの男の動きを把握するために仕掛けた盗聴機材のマイクに、耳を塞ぎたくなるかつての仲間や幼馴染みの声を――そしてグレイフィアやセラフォルー様のも拾ってしまっており、認めたくない私を非情な現実へと引きずり落とす。

 

 

「私達が使ってた部室が見事に逢引き部屋になっちゃってるわ……」

 

「あーもう切る。吐き気がしやがるぜゴミクズが」

 

 

 でも皮肉にもそれがあるから、兄があの男に不信感を抱いている事を信じられる訳で……。

 私は複雑な気持ちだったのと同時に、もしあの男に理由もなく嫌われてなかったら、今頃仲間入りしていたのかと思うと寒気がする。

 

 

「大丈夫? 嫌な雑音を聞かせちゃったね……」

 

「大丈夫……うん……私は大丈夫よ」

 

 

 だからこそ、私は一誠に助けられた事を幸せに思える。

 私の顔を覗き込むようにしながら頬を撫でてくれる一誠と生きている事が、例え贅沢な環境じゃなくとも胸を張って幸せだと言える。

 

 

「嘆いていても解決にはならないから……。私に出来るのは少しでも一誠の足手まといにならないこと……だから――」

 

 

 強くなる。

 独りになった私を損得無しで傍らに置いてくれた一誠の邪魔にならないように。

 そして私自身がこれまでグレモリーの悪魔として積み重ねてきたツケに決着を付ける為に。

 

 

「一誠の背中に隠れて怯えてる訳にはいかないから――本気でお願い……!」

 

「オールオーケーだぜリアスちゃん。

ふふ、たった数ヵ月で心をよくそこまで持ち直せたものだよ」

 

『これで奴は完全なる『致命的なミス』を犯したな』

 

 

 私は強くなる。

 負けない為に……一誠の背に追い縋るのでは無く、並んで歩む為に!

 

 

「心なしかだけど、心が持ち直ったリアスちゃんを見てると『俺自身』も強くなってる様な気がする。フフフ……これが進化って奴かな?」

 

 

 

 サーゼクス・ルシファーとの小競り合いから一ヶ月経った。

 言った通り、あの戦いから一切リアスの前へ現れる事が無かったサーゼクスだったが、一誠の手元には彼直筆の手紙が届いていた。

 その内容は冥界内の近況と、奪われた妻経由で仕入れた綾瀬和正の情報……そして。

 

 

「サーゼクスが言っていた赤龍帝・兵藤一誠だな?」

 

「…………。うす」

 

「…………」

 

 

 綾瀬和正を完全にこの世から抹殺する為の足掛かりと、強くなる為に必要な環境の提供だ。

 

 

「なるほどなるほど……神羅万象(オールアブソリュート)を殺す刃か……」

 

「あの……」

 

「おっと紹介が遅れたな。俺はアザゼル……堕天使だ」

 

 

 リアスと出会う事で、綾瀬和正を始末する具体的な手段における滞りが少しずつ消えていく中、サーゼクスからの手紙によって繋がる新たな復讐への道。

 それこそが、現状サーゼクスが『ある意味』信用出来る相手だと推す堕天使アザゼルとの接触。

 

 

「サーゼクスの妹は俺の事をある程度知ってるだろうから、詳しく楽しく自己紹介は簡略するぜ?」

 

「………」

 

 

 人間で測れば20代半ば辺りか……。

 金と黒が前後に別れた髪を持ち、ちょっと悪そうな容貌のアザゼルが意味深な笑みを、心を持ち直したとはいえまだ影があるリアスに――そして一誠に向ける。

 

 

「サーゼクスから話は聞いた。

神羅万象(オールアブソリュート)使いを殺すなんて無謀な所業をしようとしてるともな」

 

「………」

 

「だから俺はお前達をサーゼクスの頼みとは云え、迎え入れる気になった。俺も奴には利子付きで返したい借りがあるんでね」

 

「そ、それってあの……朱乃の――」

 

「朱乃っていうとバラキエルの娘か? 残念ながらバラキエルは『綾瀬和正』を全面的に信じてるぜ。

何せ、人間の嫁さんを『この世に復活』させて貰ったそうだからな」

 

「なっ……!?」

 

「蘇生って……。

ケッ、やっぱそんなもんまであったかクソッタレ、想定していたとはいえ、これで暗殺が更に容易じゃ無くなったぜ」

 

 

 かつての女王が悪魔へと転生した理由の大半が無かった事にされているという事実にリアスは絶句し、一誠は忌々しげに顔を歪めつつ、人を食うような笑みをいつの間にか引っ込めたアザゼルの話に引き続き耳を傾ける。

 

 

「実を言うとお前達は部下には秘密にして迎え入れるつもりだ。

大半の堕天使は奴の力を畏怖してるか、勝手に信仰してるからな」

 

「なるほど……」

 

「あ、朱乃のお母様が生き返ってるなんて……」

 

 

 わざわざ隠れ家に一人だけでやって来た訳を納得した一誠だが、それでもまだ警戒は怠らずに距離を数メートル離しながら何時でも動けるようにと神経を集中させる。

 サーゼクス経由とはいえ、初対面相手には警戒しない理由は無いのだ。

 

 

「部下に内緒なのは――俺自身が奴に借りを返したいからだ。

強くなる事が好きってだけの親友(ダチ)を、訳も分からず殺しやがったその仇の為にな」

 

「っ、アンタも……」

 

 

 だがこの言葉が、親友を殺された……という辺りで冷たい目となるアザゼルに、一誠は自分自身の過去と重ねて納得した。

 

 

「よく人間は『復讐は良くない』と言うかもしれないが、俺は違う。

どんな理由があったにせよ、仲間を――親友を殺されておきながら許そうなんて考えはねぇ。

例えそれが神を超越する力を持った存在の仕業だろうが報いは必ず受けさせる……それが俺だ」

 

 

 要するに同じなのだ。

 かつて一誠が両親を奪われた様に、このアザゼルもまた親友を奪われた。

 そのツケをのうのうと快楽的に生きる転生者へ払わせる為に命を燃やしている。 

 

 

「赤龍帝とサーゼクスの妹――いや、兵藤一誠とリアス・グレモリーよ、俺と組んでくれ。

奴に借りを返せるのであれば用い得る手段を全て使ってお前達の安全を保証する……絶対にだ」

 

「「……」」

 

 

 その為なら子供相手にすら頭を下げる。

 その『覚悟』の片鱗を垣間見た一誠は――そして悪魔であり堕天使とは敵対関係でもあったリアスは無言で頷く。

 

 

「騙してたらマジギレするんでよろしく……。

あとリアスちゃんに変な事したら羽むしって魚の餌にするんでよろしく。仲間増えて微妙に嬉しいっすヨロシク」

 

「えと……よ、よろしくお願いしますアザゼル殿」

 

「……。お、おう……別にお前の女を取らねぇから安心しろし」

 

 

 ペコペコ頭を下げるリアスに『あ、あれ? サーゼクスの妹?』と変なギャップを感じつつ、横でかなり物騒な台詞を吐いてる一誠に戸惑いつつ、アザゼルは個人で所有する隠れ家に二人を招待する為、転移の陣を展開させるのだった。




補足

堕天使陣営……じゃなくてアザゼルさん個人とパイプを作りました。

他の堕天使の様子は本編通りで、唯一親友を殺されたアザゼルさんだけが正気を保ったまま……というべきか。


その2
ここでやっと話に食い込めますが……転生者により『崩れてる』為に、少なくともアザゼル&サーゼクス以外はある意味転生者を中心に仲は良いです……ある意味ね。


他の世界線のサーゼクスさんがこのサーゼクスさんを見たら血涙流して吠えるでしょうね……

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