赤龍帝イッセーとリアスちゃんのベリーハード   作:超人類DX

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続き。
まるでどっかのコントを思わせる関係な二人のやり取りです。



一誠くんとリアスちゃんのこの日

 生命力というものは存外馬鹿に出来ない。

 死に瀕する環境に放り込まれてしまおうが、生物は時間と共にその環境に適応できてしまう。

 それは悪魔とて同じ……いや、人間との地力の差を考えれば死にたくても死ねないといった方が正しいのかな? と俺は思う。

 

 だからこそ俺は彼女に無償で手を貸してしまうのかもしれない。

 頑張りを踏みにじられ、たった一つのミスの為に全てを喪った可哀想な悪魔さんを自分と重ねてしまってるんだろう。

 

 何故なら俺は思ってしまったんだもの……。

 

 

 俺と同じ人が現れて良かった。

 仲間になってくれて嬉しい。

 

 

 何故か俺に全てを教えてくれた不思議ちゃんこと安心院なじみ曰くの転生者くんにはある意味で感謝してるよ。

 テメーの勝手都合で陥れた相手からの倍返しの恐怖をより鮮明に教えてやれると思えば、殺された父さんと母さんの仇を討とうとより強くと決心できるんだから。

 

 もっと強く、奴を完全に捻り潰せるだけの力を永遠に俺は頑張らないといけない――なんてカッコつけ続けるさ。

 え、復讐の後? それはその時になったら考える さ……まだティーンだし俺。

 

 

 

 

 

 

 全てを失う直前、転生者によって奪われる直前の僅かな刹那で真実と覚醒を遂げて再臨した兵藤一誠は、関わるつもりも助けるつもりもそんなに無かった筈である悪魔の少女に手を差し伸べて、行動を共にするようになってからの生活がある意味変わっていた。

 

 それは別に、復讐を止めて静かに生きるとかではない。

 補正と強大な力を持つ転生者を叩き潰す気持ちは今でも全くぶれてないし、それに於ける鍛練も毎日毎日続けている。

 

 では何が変わったのか? それは見るに見かねて追手の悪魔をぶちのめして助け出した悪魔の少女との、決して普通ではないサバイバルな生活を送るソレが理由だった。

 

 

「ホントに……本当に帰って来る?」

 

「だ、大丈夫だって!

只の日払いのアルバイトに行くだけだから……ね?」

 

「ホントにホント?」

 

「ホントにホントさ!」

 

 

 悪魔の少女を助けてから数ヵ月が経つある日の朝。

 住所不定で、誰も発見して無い天然の地下道を長年掛けて改造して家にした一誠宅(仮)に響く泣きそうな少女の声と、慌てた少年の声。

 何やら少女がバック片手の軽装の少年の手をがっつり掴み、何度も何度も確認する様なやり取りである様だが……。

 

 

「残業も断れたら断るし、定時でさっさ上がって寄り道もしないでちゃんと帰るからさ……ね?」

 

「…………」

 

 

 この二人こそ、転生者に全てを壊された者同士である人間・兵藤一誠と、悪魔・リアス=グレモリーであり、数ヵ月前の出会いと決して楽じゃないサバイバル生活を共にする内に、肉親含めた全てを信じられなくなったリアスが唯一信じる様に――そして依存心を一誠に示すようになった訳だが、その依存心は正直言うと異常なまでにアレだった。

 

 

『おい一誠、そろそろ行かないと遅刻だぞ?』

 

「わ、わかってるよ。でもリアスちゃんが……」

 

「うぅ……」

 

 

 まず単なる依存では片付けられない程に、リアスは一誠が近くにいないと泣き出す。

 それこそ食料の調達に一誠が外に出ようとするだけで不安に押し潰されてしまうレベルであり、生活の為にと履歴を偽装してまで登録した日雇いのバイトで半日住み家を留守にしようものなら大泣きする程だった。

 

 

『この娘の面倒を見ることになってからずっと調子だが、一誠は甘すぎる。こういう時は心を鬼にすべきだ』

 

「お、おう……。

よしリアスちゃん……今度こそバイト行ってくるからね?」

 

「う……うん……」

 

 

 この時も、一誠の中に宿る赤い龍ことドライグがバイトに遅刻すると忠告し、それを分かってる一誠がさっきからずっと離さないリアスの手をそっと離して二三歩離れ様ものなら……

 

 

「……い、行ってきま――。(よ、よーし……これで――

 

「いっせぇ!」

 

「はいはいはいはい! 俺はココだよ! はい!」

 

 

 手を離し、一メートルも満たない間隔しか開いてないのにも拘わらず、捨てられた子犬みたいな表情とすがりつくような声で一誠の名前を呼ぶもんだから、ほぼ反射的にリアス元へと戻り、その手を握る。

 

 

「あは、一誠……!」

 

「そうだね、不安だよな……うんうん」

 

『……。おい時間がケツカッチン』

 

 

 分かってる。

 解ってはいる。

 しかし理屈じゃどうにもならないくらい一誠に依存してしまってるリアスは最早片時も傍に一誠が居ないと不安で狂いそうになってしまう。

 それをたった数ヵ月とはいえ身をもって知る一誠としては、彼女が受けた屈辱や絶望を考えると非情にはなれなかった。

 

 

「仕事――リアスちゃんと俺のご飯の為の仕事だから。

ほんの半日……夕方の6時にはちゃんと帰るからね?」

 

「うぅ……わかってるけど……迷惑になってるってわかってるけど不安で……」

 

「うん、そりゃ俺も分かってるよ……うん」

 

「もう独りは嫌なの……」

 

「そうだよな、独りは辛いもんな?

だからちゃんと帰ってくるさ……」

 

 

 けれど生活の為。

 自分はどうとでもなるが、流石にリアスにそこら辺で狩ってきたバッタやら何のか分からない虫の幼虫を焼いて食わせるなんて出来ないので、16の頃からバイトして溜め込んだ蓄えを切り崩して来た訳だが、一年にも満たない蓄えじゃ全然足りるわけがない。

 だからこそ、経歴をあまり突っ込んでこない弛い派遣のバイトをしてる一誠は、小さく震えながら抱き着くリアスの頭を撫でながら優しく諭し、再び離れようと……今度こそと外に出ようとするのだが――

 

 

「ぅ……ぁ……あぁ……いっせぇ……いっせー!!」

 

「っ……オーケーオーケー!! もうこんなバイトなんて辞めてニートになるわ俺! そうすれば一緒だしな!!」

 

『………………おい』

 

 

 今の全てを失って久しいリアスの精神常態からして説得なんて無理と判断した一誠は、このまま行ったらリストカットでもしかねないリアスの元へと直ぐに戻り直し、正当な稼ぎ方を断念する事にした。

 

 中からドライグのシラーっとした声が聞こえるが、何度も謝りながら抱き着くリアスを見てるとどうしても非情にはなれないのだ。

 

 

「……。(昼間の仕事は無理だから、年齢誤魔化してリアスちゃんが寝静まる夜の内に出来る仕事を探すぞドライグ……)」

 

『それで解決できるとは思えんぞ。やはりお前は甘いな……お前らしいけど』

 

 

 兵藤一誠。

 頼られる事に慣れてない為、そして初めての友達のせいで非情に成りきれないの巻。

 

 

 

 

 差し当り、リアスという女の子の面倒を見る事により、今までは腹が減ったらそこら辺の動植物を――それこそ土を掘ったら出てくるミミズですら焼いて食う程の悪食極まりない……いやワイルドな食生活をしてきた一誠はここ最近久々に悩んでいた。

 

 それはお察しの通り……リアスに食べさせる食事についてだ。

 

 

「ど~すっかな~

いくら俺でもリアスちゃんに虫やらそこら辺の草を食わせる訳にはいかないだろって思う程度の常識は持ってるつもりだけどよ……これは久々に困った。

まさかドブ川の魚を釣って食べさせるわけにはいかんし……うーん」

 

『だがあの娘があの調子な以上、それしか無いぞ。

お前は(ムゲン)ばかりで(ムゲン)の方はまるで制御出来てないしな……』

 

 

 元が頭に付くものの、リアスはグレモリー家のお嬢様だった悪魔だ。

 逃亡生活してる時に雑草で飢えを凌いだ経験があると、弱りきった姿で言ってたのを一誠は聞いてたが、だからと云ってそのまま彼女にそんな食生活を味合わせたくは無かった。

 そもそも衣食住を保証するといっておきながら虫やらドブ川で捕る様な衛生面最悪な魚を食わせるのは一誠的に遠慮したい所が多いし、例えリアスがそれでも良いと言ってこようが、一誠は断固としてリアスには普通のご飯を食べさせたいと思っている。

 

 

「米の備蓄はまだあるけど、それだけじゃ侘しすぎるし……」

 

『お前はそれでも平気だったじゃないか。何が悪いんだ?』

 

「いやだから俺はそこら辺の土掘ったら出てくるミミズでも焼けばそれで食えるけど、リアスちゃんはそうはいかねぇだろって話だよ」

 

 

 が、しかし、半年前からコツコツと貯めてきた貯金も雀の涙程度しか無く、最近はリアスの傍から離れられない為全く仕事が出来ないので、このまま行くと真面目に危ういというのが非情なる現実だ。

 なので一誠は、自身の中に宿る赤い龍ことドライグと、大まかに言えば楽して金が入るいい方法は無いかと話し合いつつ、ろ過した水をドラム缶に並々注ぎ、その下に火を起こして空気を送る作業に勤しんでいた。

 

 

(こんなことならリスクを無視して無理してでもう一つの制御を完璧にしとくべきだったぜ……)

 

『今更後悔しても仕方ない。

そもそもお前の持つスキル二つは反則じみてるんだぞ……無い方が当たり前なんだよ』

 

(そりゃそうだがね……野郎に勝てなきゃあんまり意味ねーじゃん?)

 

 

 ドライグとの会話の中で出て来た『裏技』じみた力を使えばある意味解決はするが、生憎一誠は正のカテゴリに入る力は磨いてたが、負と呼ばれる方の力は文字通りマイナスに作用して自身に降りかかるが故に押さえ込んできてしまったので、制御という面で使いたく無い……いや使えない。

 

 

「ふー! ふーっ! ごほごほ……んっ……リアスちゃん、湯加減どう?」

 

 

 結局良い案は浮かばないまま、只今一誠は原始的な方法で起こした火に勢いを付ける行為の真っ最中だった。

 食事の面もそうだが、やはり女の子は綺麗でなくてはと、原始的なお風呂を作り上げていた一誠はリアスの遠慮を押しきってまで毎日お風呂に入れさせているのだ。

 

 

「良いけど……一誠は入らないの?」

 

「俺なんて後でだって大丈夫だし、やっぱり女の子は優先しないとね!」

 

 

 ガスも電気も無い……本当に寝るだけの空間にバスルームなんて小洒落たものなんてある訳がなく、こうしてろ過した水とドラム缶で作成した簡易風呂は、一誠なりのリアスに対する友達になってくれた礼のつもりだった。

 

 

「ほれ、シャンプーもリンスもボディソープもあるから使って使って!」

 

「う、うん……」

 

 

 最初から今の今まで毎度毎度申し訳なさそうにするリアスに一誠は軽い感じで気にするなと言って、調達したボディソープやらシャンプーやらトリートメントやらのボトルを渡して洗えと促す。決して入浴姿のリアスを見ないようにだ。

 

 

『お前な……少し甘やかし過ぎじゃないか? そこまでしてやる義理はお前には無いぞ』

 

 

 そんな一誠の異様なまでのリアスに対する過保護さを中から見ていたドライグは不満そうな声を出す。

 

 

(良いんだよ、俺が好きでやってんだから!)

 

『だが資金稼ぎにもおちおち行かせてくれない。自分の飯は虫やら何やらなのに、この娘には一般人レベルの飯を提供する……俺からすればバカかとしか思えん』

 

(フッ、やーっぱ分かってねードライグくんは。

人間の男ってのは、可愛い女の子の為にはテメーの事なんて後回しにしちまうんだよ。

それにこの子は『それまで培ってきた周りとの信頼関係を邪魔された挙げ句に壊された』という、ある意味一瞬で全部を消された俺よりも辛い経験を無理矢理させられてんだぜ? 寧ろ今程度の精神状態で済んでるのが奇跡だよ)

 

『………』

 

(だから俺は俺なりにこの子に出来るだけの事をする。

決して裏切らねぇし、こんな程度の事で喜んでくれるなドンドンするさ)

 

『……。それは危険だぞ一誠。

この娘はどうであれ悪魔から追われてる身だ。

今だってお前が陰陽師とやらからラーニングした結界技術で奴等に居場所はバレてないが、あの転生者が何時から見付けるかもしれない……そうなればお前の事だってバレて俺達の数年の努力が水の泡だ』

 

(……。そうなったらそうなっただ。

その時は持ちうる技術の全てを使ってリアスちゃんの追っ手共々道連れにしてやるよ……)

 

 

 チャプチャプと湯気が立ち上るドラム缶風呂に入って身体を洗ってるリアス……は見ずに、ドライグからの忠告を彼女に聞こえないように受けた一誠はヘラヘラとしつつも意思の強い声で言い切る。

 

 リアスと行動を共にする事により、まだバレては無いものの関係が無かった悪魔達とも間接的に敵対する事になった今の現状は決して楽じゃないなんて、ドライグに言われなくても一誠は解っている。

 

 しかしだからといって、リアスと共に数ヵ月過ごし、どれだけ彼女が絶望という渦に叩き込まれ……そして未だに立ち直れて無いのか……そしてその気持ちを理解してる一誠は今更目的の為に彼女を切り捨てる気は無い。

 というより、そんな真似をすればあの世の両親から『一度守ると決めた女の子を見捨ててまで復讐なんてアホな行動はすんな!』と拳骨を貰うに決まってる。

 

 記憶の中の思い出であるとはいえ、心身ともに成長した今にして思えば両親の仲はイラッとする程良かったと一誠は覚えてるからほぼ間違いなかった。

 

 

「もう火は大丈夫だから一誠も一緒に……」

 

「そりゃダメだろリアスちゃんやい。

この風呂一人用だし、仮に一緒になんてドキドキイベント突入したら、リアスちゃんのボディに俺は確実に逆上せて貧血だぜ!

だから俺はリアスちゃん上がってからで良いのよ、うん!」

 

 

 それを考えれば、リアスを見捨てる選択肢なぞ最初(ハナ)っから無い。

 守ると決めた以上、必要なら復讐よりも優先して守りきる……。

 それこそあの世で待ってるだろう両親が望んでるだろう事なのだから……。

 

 

『へっ、お前は歴代最高の赤龍帝だが、歴代最高のお人好しだよ』

 

「へへん、褒め言葉として受け取っとくぜ相棒?」

 

『ふん!』

 

 

 それこそが一誠の燻っていた進化の最後のピース。

 孤高を気取ろうとも、独りで強くはなれない一誠が持つ無限に進化するスキルを使いこなせる最後の条件。

 

『より強い信頼関係を結べた者と共に永遠なる進化の道を歩む』

 

『より強い想いが原動となり、一誠自身を誰も寄せ付けない遥かな高みへと昇らせ続ける無限の力』

 

『人間という枠を越え、あらゆる種族を越える可能性を秘めた能力』

 

 

 それが一誠が覚醒させし、この世で最初で最後のスキル……無神臓(インフィニットヒーロー)

 

 

「今度リアスちゃんの服も調達しないとなー……まあ、いっそ生地から自作しちまえば良いんだが」

 

『お前、この娘と共にしてから要らん知識と技術ばかり吸収してるな……』

 

「要らんことはねーよ、将来役に立つわい!」

 

 

 そしてこの想いこそが、転生者によって奪われ……壊されて組み直したパズルの最後のピースであることを、一誠もドライグもまだ知らない。

 

 

「つーかどうでも良いが、あの転生者はあんなに女と関係持ちまくってるのに、誰からも責められねーのか? 正直刺されて殺されでもしてくれたら即復讐完了なんだが……」

 

『前に偵察した時はかなりの数の女と事をやってたからそれは無いだろ。

この娘の元眷属+確かあの時は白髪の猫妖怪の姉だかの黒髪の猫妖怪とやらかしてたろ?』

 

「あー……見てて吐きそうなったやつだったわ」

 

『つまり、あの転生者の補正とやらがまた働いてる証拠だ』

 

「ちぇ……くだらん補正とやらだぜ」

 

 

 転生者の持つ隙を探るため、何年も掛けて収得した隠遁技術を使って偵察をした際見てしまった『見たくもない光景』を思い出したのか、一誠の表情は一目で分かるほどに嫌そうなソレだった。

 

 複数の女性と柔道ごっこをしてる光景……聞きたくもないアレな声を延々聞かされ見せられもすれば食欲も失せるってものだし、ぶっちゃければあの時こそ隙だらけで首を切り落とせそうなものだったが、言い様の無い吐き気に襲われたせいで実行できなかった。

 

 ある意味で転生者による新たなトラウマを植え付けられたと言っても過言じゃなかったのだ。

 

 

「アレ、絶対あの複数の女達の事だし、妙なタイミングで一斉に子供孕んで大騒ぎになってになると思うぜ……その子供達が不幸になるくらいにな。

まあ、そうなったら奴等に指差しながら大笑いして言ってやろ……『あ、リアスちゃん裏切って男に股開きっぱなクソビッチ共じゃないか! チィーッス!』……みたいな」

 

『煽るのが上手いお前に言われればどんな反応になるか……ふっ、容易に予想が付くぞ』

 

「つーか、リアスちゃん切り捨ててるしね、奴を殺す時が来たら徹底的に囲ってる女共にも『報い』は受けてもらうよ……絶対にね」

 

 故にキッチリ仕返しをする。

 一誠少年は根に持つタイプなのだ。

 

 

 

 困らせてる事は解ってる。

 人生の邪魔をしてるのも解ってる。

 図々しくしてるのも理解(ワカ)ってる。

 

 けれど私にはもう一誠しか信じることが出来ない。

 肉親や仲間から見捨てられ、自由をも奪われそうになった所を助けてくれた一誠の傍らしか私は落ち着けない。

 

 

「よっし! お風呂も入ったし、ご飯も食べたし、歯も磨いたし……そろそろ寝ようか!」

 

「うん……あの一誠……私――」

 

「はいはい、分かってるよリアスちゃん……ほらくっついて手を繋いで寝よう?」

 

 

 我が儘なのは分かる。

 鬱陶しいと思われても仕方ないと自覚してる。

 でも……それでも私はたった数ヵ月だけどこの世で誰よりも優しくその我が儘を受け止めてくれる一誠しか居ない。

 

 

「一誠……」

 

「はいはい大丈夫だよリアスちゃん。

しかし慣れって凄いよね。最初は緊張してたのにすっかり慣れてらぁ」

 

 

 ベタベタしても嫌な顔ひとつしない。

 私の為に外で働きに行こうとする一誠を、自分の不安感を拭うために喚いて引き留めても笑って受け止めてくれる。

 こうして身を寄せて手を繋ぎながら寝たいと言えば一つの毛布にくるまって一緒に寝てくれる。

 

 

「大分元の長さ――って、あんま知らんけど綺麗に伸びてきたね、リアスちゃんの髪も」

 

「そう、かしら……? でも私この色が……」

 

「おいおいリアスちゃんや……。

俺的にリアスちゃんの髪が気に入ってるんだからそんなネガティブになるなよ」

 

 

 その包容力全てが、私を安心させてくれる。

 聞けば私よりひとつ年下の人間の男の子だというのに……私は完全に甘えてしまってる。

 一年前――あの男との出会いと失敗をする前の私からすれば考えられない事だけど、今の私にはこれが全て。

 

 

「一誠……」

 

「ん……?」

 

 

 家柄の事と立場の事があって父や母に出来なかった甘えるという行為が、誰に咎められる事もなく出来る。

 これがどんなに心地よく、自分の心を満たせるものだったのか……。

 たった数ヵ月だけどそれを教えてくれた一誠は私にとってヒーロー……。

 

 傷付いた心を一誠でごまかしてるのかもしれない。

 逃げているだけなのかもしれない。

 あの男が言ったように、結局私は永遠に無能なのかもしれない。

 

 でも……もうそれでも構わない。

 だって――

 

 

「いっせー……好き……」

 

 

 覆い被せていた殻を脱ぎ捨てた本当の私を受け入れてくれた一誠が大好きだから……。

 一誠の匂い、体温、鼓動を子守唄の代わりに私は目を閉じる……。

 小さく想う正真正銘の気持ちを口にしながら……。

 

 

「……。え、俺今凄いこと言われなかった?」

 

「すー……すー……」

 

 

 だからこれも正真正銘の気持ちとして言いたいわ……。

 『私を陥れて一誠と会わせてくれてありがとう……他人となって皆さん』って。

 

 

「リアスちゃーん?」

 

「んぅ……いっせー……」

 

「お、おう……寝てらっしゃる……。

ど、どうしよう、マジなのか気になって寝られんぞいというか、折角慣れてきたのにそんな事言うからアレなんだけど。胸とか身体とか密着なんでヤバイんですけど……!」

 

『いくら言われたからといって襲うなよ? 精神修行だ一誠』

 

「え、えぇ……?

それはかつて無さ過ぎる苦行じゃん……。

おっぱいとかめっちゃダイレクトに伝わってくるんだけど、寝息が今になってエロく聞こえるんですけど……!」

 

 

 でもそんな勇気も今は無く、ただただ一誠に甘えてるだけの腑抜けに……。

 




補足

ベリーハードなんで、無限進化のスキルで相手を追い込んでも『都合よくピンチで覚醒した謎パワー』で殺される可能性があるという徹底した不利条件。

とはいえ、探せば穴はなんとか見つからんでもない……?


その2
この転生者は文字通りガチガチのハーレムです。
リアスさん以外の眷属(一部男性はTS)から始まり、黒猫さんやらシトリーさん達やら、果てには人妻悪魔やら不死鳥の妹にまでまで……とことこん原作一誠的に救いのない布陣ですが、その光景を(R-18)含めて見てる一誠からすれば……


『いや、いくら人間辞めたからって、元・人間が堂々と公開不倫て……。
つーか何? 僕は皆を愛しますとかサブい事言うつもりなの? …………そのパーツ間違えた顔して言われてもドン引きっす』

と思っており、寧ろリアスさんを陥れてる癖に何なのコイツ? と益々嫌悪されまくってます。
 簡単に転生者に引っ掛けられた女性陣含めてで。

その3
学校は行ってません。というか行ける環境じゃないんで行けませんというべきですか……。

リアスさんも駒王学園を『自主退学』扱いに勝手にされてます。
まあ、行方不明なんで仕方ないですけど。


その4
ガッチガチに一誠に依存してます。
劇中の通り、どっかのコントみたいに少しでも離れたら泣き出します。

それを一誠も一誠で全力で受け止めようとしてるのでますますのめり込む悪循環であり、これにより元々転生者の有り様を見て好きじゃないハーレム思考が完全に消滅し、リアスさん一筋となりますね。

具体的には旗が立ち掛けても即座にへし折るスタンス。

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