赤龍帝イッセーとリアスちゃんのベリーハード   作:超人類DX

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昨日出した無限の龍神ちゃんと同じくですね……目指せ10話以内――――かな。多分頑張っても20話くらいになりそうですが。


二人の始まり
運命の日


 失敗は誰にでもあるとは誰が言ったのか……。 

 私にとっての失敗は、あの男をロクに警戒もせず懐に入れてしまった事だろう。

 でなければ全てを失うことは無かったと思う。

 私、リアス・グレモリーとしての全てを……。

 

 

『聞きましたよリアス部長。

また和正さんに酷い事を言ったみたいですね?』

 

『何故そんなに和正くんを目の敵にするんですか? あんなに優しいのに』

 

『え……そんな事私――』

 

『和正さんが言ってました』

 

『和正くんが言ってました』

 

 

 グレモリー家が管理する領土をより近くで管理出来るように、自分の眷属が元・人間が多いからというのもあって人間界の学生として皆で通う事になって一年。

 それまで、未熟者として色々学びながら何とかグレモリー家の恥にならないようにと自分なりに努め、眷属の皆も着いて来てくれたのに……。

 

 

『俺の神器が危険だから監視だと? アンタは何様のつもりだ?』

 

『ぅ……』

 

『そうですよ部長。和正さんの普段の行いを見て危険じゃないことくらい解りますよね? ……。まあ、部員として入ってほしいのは同意しますが』

 

『ですわねぇ……和正くんが良ければですけど』

 

『………』

 

 

 私達が二学年に進級したと同時に新一年生が入学したあの日、人間の中に紛れ込んでいた神器持ち。

 東洋人とは思えない銀髪と左右違う色の瞳……そして女性と見間違える程の容姿を持った一人の男子にコンタクトを取ってしまったあの日から全てが狂った。

 

 自身に宿る神器を自覚し、はぐれ悪魔を八つ裂きにしていた姿を見てしまったが私は、危険じゃないのかと予感して和正と呼ばれてる男に悪魔の事等を教えてしまったこの行為こそがやらかしてしまった最大の失敗だった。

 

 

『危険だから俺を眷属にして管理に置くか……。

悪魔は相当お偉い種属みたいだね?』

 

『わ、私はグレモリー家として……!

それにアナタを眷属にするつもりは――』

 

『へぇ、街にこんなにもはぐれ悪魔が多く蔓延り、それを殆ど放置してる奴が管理を任されてるねぇ……?

言葉悪いけどアンタ無能だろ? 姫島先輩や塔城さんや木場も可哀想に……』

 

『ぐっ……!』

 

 

 自分が無能なのは言われなくたって誰よりも分かってる。

 だからこそ、私の眷属達を含め男女問わず惹き付ける容姿を持つ男にハッキリと言われた私は何も言い返せなかった。

 魔王である兄の妹として、グレモリー家として恥じないようにして来たつもりが人間にまで無能呼ばわり……。

 思えばこの時点で私の心はへし折れており、後は総崩れの様に私の周りにあった大切なモノは無くなっていった。

 

 

『朱乃に小猫っ! それに優希やギャスパーまで……どうして……!?』

 

 

 まず最初に私の眷属は和正という男の下へと流れていった。

 

 

『リアス……今日からキミに任せた領土をソーナさんに任せる事にしたからキミはなにもするな』

 

『なっ……なんで……』

 

 

 そのすぐ後に家族からの信頼を失った。

 

 

『またお前か無能! 邪魔するな!!』

 

『うぐぅ!?』

 

 

 それでもその信頼を少しでも回復しようと、自分なりに出来る限りの事をやってみてもその悉くが失敗し、逆に部外者である筈の和正という男は無条件で皆の信頼を勝ち取られ……。

 

 

『ソーナさんから聞いたけど、何もしなくて良いと僕は言ったよね? 今回は勝手にはぐれ悪魔を狩ろうと一人で騒ぎを起こした様だし、リアスの持つ地位を剥奪するからね?』

 

『……………』

 

 

 遂には積み重ねた全てを壊してしまった。

 所詮は自業自得とはいえ、和正という男が人間でありながら魔王様達からの信頼を極短時間で勝ち取ってる横で私は眷属を持てる地位と権利までも失った……。

 

 幼馴染みでライバルだったソーナには呆れられる処かあの男に女として惚れたみたいで、ますます居場所がなくなっていき、最早私にはリアス・グレモリーというグレモリー家としての看板しか残らない。

 

 

『あぁ、そういえばフェニックス家との縁談があるんだけど、リアスが少し落ち着くという意味で受けたから』

 

『そ、そんな!? 何故勝手にっ……!』

 

『純血の悪魔が減ってしまってるからね……それにお前はもう取り返しのつかない数の失態を犯してる……だからさ』

 

『う、ううっ……!』

 

 

 そしてその看板すら……私には最早苦痛でしか無かった。

 

 

『……………』

 

 

 眷属も、信頼も……たった一つの安易な考えで失い、更には自分の意思までもが奪われた私に生きる意味はもう無かった。

 今や元・眷属となってる朱乃達は私を見ても目をそらし、あの男の寵愛だかを受けるために争うのを見せられるだけ……。

 

 耐えられない苦痛。

 あの男は私を見下し、少しでも彼の意に沿わなければ無能姫なる渾名で罵倒する。

 苦痛……苦痛……苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛……! 自分の意思すら奪われ、好きな人と添い遂げる権利すら完全に無くなった私に生きる気力は無かった。

 彼が現れてたった一年ちょっとで全てが変わってしまった世界に私の居場所はもう無い。

 

 

(嫌だ……自由まで無くして生きたくなんか無い……!)

 

 

 だから私は――死を覚悟でその場逃げた。

 

 

(何処だって良い、誰にも罵倒されない場所に……!)

 

 

 追っ手から逃れ、捕まって死刑にされると分かるまで逃げようと私は飛び出した。

 苦痛を味わう一生を天秤に掛ければ殺された方がマシ。

 これまで不自由無く育った私にとって、本当の意味での独りは辛かったけど、精神的な苦痛がないだけ天国だった。

 

 

「サーゼクス様のご命令ですリアス様。さぁ、此方に」

 

「いや……嫌っ!! 私は帰らない……帰りたくない!!」

 

 

 本家は私を捕まえようと追っ手を放ち、それを何とか撃退しながら過ごす日々。

 特定されないようにと、目立つ髪を切って帽子を被ったりと、隠れるためには何でもしながらひっそりと、時には雑草を食べて生きる……。

 かつての私が見たらショック死するだろう堕ちきった生活だったけど、やっぱり私は無能なのか……そう長くは続かなかった。

 

 

「よぉリーアスゥ。やっと見付だぜ? 和正って野郎の情報は確かみたいだな」

 

「ラ、ライザー……!」

 

 

 所詮私は一人。

 大きな勢力には抵抗も出来ず、ある時遂に私の実力を越える追っ手に捕まってしまった。

 

 

「悪いようにはしない……早く帰って結婚しようぜリアス? ったく、綺麗な髪まで切っちまってよ?」

 

「い、いや……! 嫌ぁっ!!!」

 

 

 無理矢理こじつけられた婚約者のライザーに捕まってしまった私は、抵抗虚しく叩き伏せられ、今まさに地獄の様な生活に引きずり込まれそうになる。

 逃亡した生活の方が全然マシと悟っていた私は子供みたいに嫌嫌と無駄なのに喚く。

 

 けれど私を捕まえに来たライザーやその眷属達は私を逃がしてくれない……。

 どんなに喚いても聞き入れてくれない。

 

 だから私は願ったのだ……。

 

 

(助けて……! 助けてっ!!!)

 

 

 人間界で見たTVに出てくるヒーローの様な人に助けてくれるようにと。

 そんなお伽噺なんて無いのに……私はただ無力な悪魔として恥も何もかも捨てて只ひたすらに願った。

 

 

 

 

 

 

 

「おいドライグ。あのご様子的に女の子がピンチっぽいし、突撃特攻をかますぜ!」

 

『物好きだな……。まぁ、それがお前らしいが』

 

「そんなに誉めんなって、行くぜドライグ!」

 

『Boost!!』

 

 

 まさか本当に叶うとは思わなかったけど……ね。

 

 

「な、何者っ――ひでぶぅ!?」

 

「ラ、ライザーさまっ――きゃあ!」

 

「おっと?

このホスト美男子くん以外は皆おんにゃのこ達じゃないか! しかーし、苛めをするキミ達には……ドライグ投げ!!」

 

「え――キャァァァァッ!!!?」

 

 

 何が何だかはその時分からなかった。

 ただ解ったことは、ライザーは一撃で沈められ、女で構成されていた眷属達は衣服だけを消し飛ばされ……。

 

 

「必殺、無神臓(インフィニットヒーロー)ver赤龍帝の黒影(ブースデッドファントム)!!」

 

 

 私を助けて(?)くれた人物は腕に赤い籠手を装備しながら空を破裂させる音と共に姿をかき消し、目にも止まらぬ速さで次々となぎ倒す、人間の男の子だったという事だけ……。

 

 

「勝利は我の手にアリィィ! ……っと、ヒーロー崩れごっこは此処までにして、今日も調子が良かったぞドライグ?」

 

『おう、お前の持つ能力(スキル)と俺様の力は相性がべらぼうに良いからな』

 

 

 ライザー達を叩きのめし、地面に転がるのを豪快に笑いながら淡く光ながら声を発する籠手と会話する男の子の背中を、私はただ呆然としか見れない。

 結果的に助けて貰った事にはなっているけど、味方どうかは分からないのだ。

 

 

「…………」

 

『そんな事よりもだ一誠よ。

拉致されそうになってた女は大丈夫なのか?』

 

「あ、そうだった!」

 

 

 けれど男の子の背中を見ている私の身体はこの場から動けず、『あっ』という何かを思い出したかの様な声を出しながら漸く此方に振り向き、そして呆然と眺めていた私と目が合う。

 

 

「ぅ……ぁ……」

 

「えーっと、すいません大丈夫すか?

何か襲われてたみたいなんでついしゃしゃり出てやっちまいましたが――って、悪魔すかアンタ?」

 

「う……何で知って……?」

 

「ええっと……色々あって知ったから――だよな?」

 

『俺に聞かれても困るぞ』

 

 

 年の頃は私と変わらない少年に手を差し出されながら、悪魔だと見破れた私は一瞬だけあの男の事を思い出して身体が硬直してしまった。

 

 腕に付いている真っ赤籠手から察しても神器だし……同族ではないし……。

 もしかしたらあの男の手先なのかもしれないと、最早思い出すだけで吐き気がするあの男が脳裏にちらついてしまい、息が苦しく、呼吸が荒くなる。

 

 

「く……うぅ……!」

 

「む……」

 

 

 けれど目の前の少年はそんな私の異変にスッと目を細めると……。

 

 

「随分といたぶられたみたいだけど、もしかしてキミって『奴』に陥れられた被害者の子?」

 

 

 何かに気付いた様に一人で納得しながら蹲る私と視線を合わせようとしゃがむ。

 

 

「はぁ! はぁ! うぅ……!」

 

「む、過呼吸になってる。

大丈夫、落ち着いてゆっくり……ゆっくり呼吸して……」

 

「はっ……! はっ……! っ……ふ……!」

 

 

 さっきまでの――失礼な言い方だと『ふざけていた』雰囲気を引っ込め、逃亡生活で汚ならしくなった私の手と肩に手を添え、優しい声色で落ち着かせてくれた。

 

 

「ぅ……うぁ……」

 

「大丈夫かい? ……。チッ、まさか俺以外相手に――しかも女の子相手に此処までやるとはな……。

あの野郎、気に入らねぇ奴には女の子だろうが容赦しやがらねぇのかよ」

 

『その髪色からして最近嵌められたリアス・グレモリーか……。

チッ、奴が言う転生者というのはロクな性格じゃないな』

 

「そんなもんは解りきってる話だぜドライグ。

でなければ餓鬼の頃、何にもしてない筈だった俺や父さんと母さんを『邪魔』って理由で殺しゃしねーさ……」

 

『……。そうだな』

 

「ふー…ふー……く……ぅ……」

 

 

 目の前が歪む。

 鼓膜を破りたくなる程辛い耳鳴りが止まらない。

 お腹はキリキリと痛むし、胸が苦しい……。

 籠手に宿るナニかと話ながら私を介抱してくれる男の子が何を言ってたのか聞こえなかったし、本当に信用できるか分からなかったけど……。

 

 

「う……ぁ……」

 

「おっと、余程ズタズタに可愛がられたみたいだね」

 

『その様だ。

それより一誠よ、コイツがリアス・グレモリーなら早いところこの場から退散しないとまずいぞ』

 

「おう、わかってるよ」

 

 

 緊張が取れたのか、蓄積された疲労が一気にのし掛かったのか……信用できると決まった訳じゃない男の子に凭れる様に身体を預けて意識を手放してしまった……。

 

 

 

 これが私のヒーローとの初めて。

 

 そしてこの出会いが私の再起となるなんて、この時思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 兵藤一誠は孤児だ。

 その理由は転生者に事故と見せかけて両親諸とも殺されてしまったからなのだが、その事実は当然世間は知らないし、本来ならこの時点で一誠も短い人生を終わらせる予定だった……そう転生者側の予定では。

 

 

「よいしょ……わっ、思ってた以上に軽い」

 

『珍しいな。わざわざ連れて帰るつもりか?』

 

「だってお前、気絶した女の子放置は流石にダメだろ?」

 

 

 しかし兵藤一誠は生き残った。

 一度絶命した命を夢に出てきた少女に繋ぎ止められ、一誠はこの世に生還した。

 そして自分の人生を壊した転生者に何時か報いを受けさせる為に、生還と共に覚醒した神器と性質(スキル)を何年も掛けて地下に潜伏したまま磨いてきた。

 

 

「取り敢えず寝かせて……。

う、うーん……やっぱり女の子だし、勝手に触れたらマズイかな?」

 

『じゃあその薄汚れたままで放置するのか?』

 

「だ、だよねー?

よ、よーし、介抱の為……介抱の為で邪な気持ちは退散退散……!」

 

 

 どうであれ兵藤一誠は世間的には死んだことになっているという理由と自分の生還が転生者側に知られた時の危険性を考えれば隠れてコソコソの方が都合がよかったのだ。

 赤い龍呼ばれる相棒と己自身の性質により覚醒した能力を駆使し、何年も何年もひたすらに鍛え続けた。

 

 

「お、おぉ……。こうして見ると凄い美人だけど、髪が滅茶苦茶に切られてる……」

 

『恐らく目立つからと自分で切り落としたのだろう。

余程辛かった日々と見えるぞ』

 

「ドライグがそこまで言うと変に説得力があるぜ」

 

 

 その結果、時間と共に倍増させる神器と無限の進化を促す能力により、所謂チートと呼ばれる転生者に迫る力を獲るまでに覚醒した。

 誰よりも強くなるという精神に呼応するかの様にスキルが無限の進化を促し、その性質故な神をも殺す龍帝もまた進化をするという願いが一誠自身をより強くしたのだ。

 

 

「クソ転生者め。

こんな子の人生までグチャグチャにしやがって」

 

『奴に関しては俺様も今すぐ八つ裂きにしてやりたいが……』

 

「ちっ、あぁ……奴は化け物だぜ」

 

 

 けれどそれだけでは転生者に勝てない。

 『あらゆる種族殺しの神器』を持つ転生者の力のせいで強制的に転生者よりランクが下げられるせいで未だ勝てる見込みは無いと知りながらも、一誠はそれでもひっそりと鍛練を続けながら孤独に生きていた。

 

 そしてそんな折に偶々助けた一人の純血悪魔。

 いつもの鍛練の帰りに偶々囲まれ、本気で嫌がるのに無理矢理連れていかれそうな姿を見てつい横やりを入れてしまった訳だが、一誠自身に後悔は無かった。

 何せ偶々助けた相手は、かつて自分を陥れられてのうのうと生きてる転生者の被害者なのだから。

 

 

「っ……こ、ここは……?」

 

「あ、起きた? えぇっと勝手に連れてきてごめん。ここは俺の寝床さ」

 

「あ、あなたは――くっ!?」

 

「おっと、まだ寝てなって。

キミ、相当肉体的にも精神的にもボロボロにされてるみたいだからさ」

 

 

 リアス・グレモリー

 転生者の動向を伺ってる際に一誠が実は既に知ってたりする、陥れられし被害者。

 女好きの転生者なのに、女であり容姿もスタイルも抜群な筈のリアスだけは何故か無能だ無能だと馬鹿にされ、彼女の周りの全てを台無しにしたと聞いた時は訳が分からず、また助けるつもりも無かったけど、偶々こうして出会ってしまった以上、最早その言葉は取り消さなければならない。

 

 

「ほら水だよ。ゆっくり飲んで……」

 

「ん……」

 

 

 気を失った彼女を潜伏場所である家に連れ、汚れていた顔を拭き、汚れてても尚褪せなかった美貌とその寝顔にちょっとドキリとしつつ介抱した一誠は、彼女の味方になるつもりだ。

 

 

「ど、どうして……助けて……? それに何で私のことを……?」

 

「キミも綾瀬和正の被害者だから……かな」

 

「え?」

 

「……。キミも散々陥れられた様に、俺も奴に両親を殺されてるんだ……俺自身も一度殺されかけたし」

 

 

 どうであれ、何がそんなに気にくわなかったのかはどうでも良い。

 長かった髪をバッサリ切って隠しながら逃亡生活をするまでに追い込まれていた女の子を助けない理由はもう無い。

 だから一誠は丁寧に、信じる信じないをリアスに委ねる形で自分の知りえる全てを話した。

 

 

 転生者の存在。

 転生者の莫大な力。

 そして転生者を囲う目に見えない加護――いや補正を。

 

 

「じゃ、じゃあ私はあの男に気に入られなかったから……」

 

「ほぼ間違いなくそうなるかな。

ぶっちゃけ女好きなアレが何故君だけを嫌って陥れられたのかは未だ不明だけど」

 

「そ、そんな……そんな……!?」

 

 

 一誠という少年から聞かされた話はリアスにとってはショックだ。

 単に気に入られなかったから、転生者にとって眷属は良いけど自分は気に入ら無くて邪魔だから此処まで落とされた。

 自分を助けてはくれたけど、信用できるかまだ分からない男の子に全てを聞かされたリアスはショックの余り放心だった。

 

 

「んで、どうする?

このまま出て行くのも好きにすれば良いと思うけど……俺的にはあまりオススメできないかな。キミ、追われてたんだろ?」

 

「ぅ、た、確かに……」

 

 

 話を終え、飲み込めない所も多々あるけど納得したリアスは一誠にこれからどうするかと問われて言葉に詰まる。

 このまま出て行ってまた逃亡生活に戻るのは可能だが、恐らく次また見つかったら今度こそ逃げ切れない。

 先程無理矢理連れていかれそうになったのを思い出して自然と身体を震わせながら俯くリアスは正にお先真っ暗だった。

 

 

「キミさえ良ければだけど、ココに居る?

此所なら追っ手の人達も知らないから絶対に来ないし、安眠も食べ物も保証するぜ?」

 

「へ?」

 

 

 だからこそ、自分を助けてくれた少年の言葉は魅力的だった。

 絶対に追っ手が来ないという点が特にそうだった。

 

 

「それは……でも私、アナタの事を正直信じることが」

 

「あー……まあ、そりゃそう思うか。得体の知れないという意味では俺も今はそうだもんな」

 

 

 でもリアスはまだ一誠と名乗る少年を信じられない。

 散々裏切られてしまったせいで他人にたいしての極度の不信感を抱いてしまってるせいだ。

 掛けられた毛布の端を強く握りながら俯くリアスの、震えた声に一誠はやっぱりそうだよね……と頭をガシガシ掻く。

 

 これでアッサリ信じてもらえるなんて最初から思って無かったが、だからと云ってこのまま外に放り出すのは何と無く一誠としても嫌だった。

 故に正直に――これを言っても駄目なら大人しく諦めるつもりで『本音』を伝えようとリアスに言った。

 

「うーんと、それならもっと正直に言うよ。

実の所一人寂しく仕返しの人生もそろそろ侘しくてさ……。友達なんて一人も居ないし、ドライグしか話し相手になってくれないし……生身の女の子と会話するのほぼ初めてでちょっとテンション上がってて……的な?」

 

「え……?」

 

 

 ちょっとだけ照れくさそうに苦笑いしながら一誠は頬を掻くと、思わず伏せいた顔を上げて自分を見るリアスに、今度は真剣な眼差しを向けてこう言った。

 

 

「俺の事は信じなくても良い……。

けれど、キミに危害を絶対に加えない事だけは信じて欲しい」

 

「………」

 

『おい、言ってることが滅茶苦茶だぞ』

 

「………。あ、確かにそうだわ。な、何テンパッてんだろ俺?」

 

 

 それは久々に自分を見下さないで見てくれる人の目。

 リアスにとってはもう無いと思っていた他人からの好意……。

 会ったばかりの少年の事なんて何も知らないけど、少年が見せる柔らかい笑みにリアスはほんの少しだけ見とれ、暫く時間も状況も忘れて一誠という少年を見つめていた。

 

 

「コホン。ま、まぁ、カッコつけても所詮会ったばかりの他人だし意味ないよね? あはははー」

 

「………」

 

 

 鮮やかな長い紅髪を乱雑に切り落とそうとも、薄汚れた生活で汚れようとも尚損なわない美貌のリアスに見つめられ、ちょっと擽ったそうに目を逸らす一誠は誤魔化すようにケタケタと笑っているのもジーっと見つめながらリアスは思う。

 

 あの男が転生者で、自分が気に入らなかったから落とし入れられたのは恐らく本当で、少年の過去の話しも嘘ではないのだろう。

 ならもう……どうせもう此処まで堕ちたのだし……。

 

 

「う、うん……じゃあ……ご迷惑でなければ……」

 

「え、ほんと!? っしゃあ!」

 

 

 最後の最後でもう一度他人を信じることにリアスは己の人生全てを賭け、仲間になると言われて異様にはしゃぐ少年を見つめ続けるのであった。

 

 

 これが復活した赤龍帝と堕ちた紅髪の滅殺姫とのはじめの一歩。

 

 

 

 

 

 そしてたった数ヶ月だけど、リアスは一誠と共に生きた結果、散々落とし入れられ、眷属や家族から見放されてきた反動故なのだろう。

 リアスはある意味変わった。

 

 

「ただいまー」

 

 

 リアスと共に行動する様になって早数ヶ月、元々リアスがグレモリー家として管理を任されていた領地は、今ではソーナ・シトリーなる悪魔が代わりに管理し、リアスが持っていた眷属は主不在のままなし崩し的に綾瀬和正――つまり転生者が好き勝手にしていた。

 

 ………その情報を何時か報いを受けさせる為に毎日動向を伺っていた一誠はリアスに内緒にしており、今日も鍛練と食材仕入れを済ませて住み家へと戻ってきたのだが……。

 

 

「一誠!!!」

 

 

 転生者に勝つためにあらゆる力を学び、あらゆる能力を学習した一誠が隠れ蓑として改造した地下洞窟の家に仕入れた食材を抱えながら帰るやいなや、バッサリ切った紅髪がある程度伸びて戻ったリアスが一目散に走って一誠に飛び掛かり、これでもかと身体を密着させてくるのではないか。

 

 

「一誠……一誠……! 良かった、帰ってきてくれて……!」

 

 

 しかも涙声だった。

 危うく食材を落としそうになるのを何とか耐え、抱き着いてきたリアスを受け止めた一誠は、日に日にその美貌を取り戻してるリアスの過剰なスキンシップに若干どぎまぎしてしまう。

 

 

「い、いやあの……リアスちゃん? 俺近くのスーパーに行くだけだからって言ったよね?」

 

「でも……それでも不安だったのよ……。もし帰って来なかったらまた独りになるって……!」

 

 

 たった数ヶ月、されど数ヶ月。

 年下だけど包容力があって面倒見がものすごい良く、久々に与えられる優しさを受けてきたリアスは、あっという間に一誠に対して強烈な依存心を示すようになった。

 

 

「もう独りは嫌っ……」

 

「おう……独りは寂しいもんな?」

 

「グスッ……ごめんなさい、我が儘で……」

 

「うんうん、リアスちゃんみたいな女の子の我が儘なら俺的には全然オーケーだから大丈夫大丈夫……よしよし」

 

 

 ちょっと一誠が出掛けるだけで不安に押し潰されそうになり、帰って来た姿を見たら半泣きになって抱きつき、一誠がちゃんと此処に居ると確かめるようにその体温を感じて安心感を得る。

 それが無いと今のリアスは泣き出してしまう程だったりするのだ。

 

 

「あ、あの……そんなぎゅーぎゅーされるとおっぱいちゃんが……」

 

 

 が、歳も近い男と女というのもあり、ましてやそっちに興味津々なお歳の一誠は、自分を頼ってくれる半面刺激の強いリアスの悪意が無いスキンシップにムラムラする訳であり……。

 

 

「一誠……いっせぇ……グスッ」

 

「Oh……聞いてにゃいぜ」

 

 

 この時も正面から一誠の背後に足を回し、腰の位置で自身の体を固定しながら抱きつくという――つまり『だいしゅきホールド』を素でやってくるリアスに内心クラクラしつつ、何とか切れそうな理性を押さえ付けていた。

 

『おうおう、良かったな一誠。

初めての友にこんな頼りにして貰ってよ?』

 

「ま……まぁ、悪い気はしないけどさ……。てか、リアスちゃんの何処がそんな気に食わなかったんだろうな? あの転生者は」

 

『さぁな、もしかすればあの女が言っていた『転生者が持つ原作知識』とやらと何か関係があるのかもしれん』

 

 

 年頃となった一誠にとっては色々と刺激の強いというか、ふざけて女性の服だけをぶっ飛ばす技を使うのとは違って、直接密着されちゃうとドキドキするというか……。

 強烈な依存心を示しながら抱き付くリアスの頭を優しく撫でながら、一誠は転生者の好き嫌いがイマイチ掴めずに居る反面、やっと獲られた同類の者と一緒に居れる事に幸福を感じていた。

 

 

「くすん……くすん……」

 

「ほらリアスちゃん、ご飯食べようぜ?」

 

「………うん」

 

 

 一誠の帰還により、独りという不安が少しだけ取り除かれたリアスが目に涙を浮かべながらも笑って見せる。

 孤独な自分に手を差し伸べてくれた人間の少年の近くが何よりも安心する。

 

 

「ありがとう……一誠……」

 

 

 間違いなのかもしれないが、リアスは今幸せだった。

 

 

終わり




一誠にヒロイン? リアスさんアンチ思考のこの転生者に落とされたリアスさんだけよ。

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