スコルピト・C・ラスコータ先生の浮遊感   作:ランタンポップス

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彼女が来る。ONE

 あの、真紅色のような出来事から、丸三ヶ月が経過した。外の風景は秋の風景から、寂しげな冬の風景へと移り変わっていた。

 この間にラスコータは誕生日を迎え、晴れて三十路の入口へと一歩進んだ。三十年、彼は生き延び、憂いと鬱屈の人生を一つ一つ思い返しては後悔へと変わる毎日を過ごしている。

 

 

 この三ヶ月、様々な事があったろうが、思い返して懐かしむ程の出来事はない。何かあっただろと思い返せど思い返せど、結局は三ヶ月前のあの、街をかけた人命救出へと振り出し戻りになろうに。

 あの時に実感した『医者としての自意識』は無くなってしまい、もう感じる事はない。そうなった原因をとっても、やはりあの日に車を貸した、不気味な男のせいでもあろうか。

『医者としての誇り』があり、それを相殺させる『医者としての恥』。

 

 

 恥を与えたあの男は、病院に着くなりさっさと退散した。まるで霧の怪物のようで、ぼんやりと現れては霧消するかのような存在だったと形容出来る。本当にあの男は悪魔だったのではないかと、思い返せば返す程に恐怖となって行くので、早い所忘れてしまいたい。

 だが人間の記憶と言うのは、忘れたいと考えると忘れられない性質となっている。深く染み付いたあの男の言葉が、何度も何度も反響し、這い上がり、果てのない苦痛をラスコータに食らわせ続けるのだ。

 

 

 

 

 所で三ヶ月前の救出劇の結末はどうなったかと言えば、無事に終了したと言えよう。

 病院に着くなりジョニィは大声で宿直者を呼び、担架を持ってこさせ、流れるようなスピードで手術室へと怪我人を送った。やはり敏腕医師である、動きがきびきびとしており、無駄がなかった。

 

 

 数時間の手術。

 ラスコータは内科医なので、手術をしない。助手程度ならしたら良かったのだが、病院に入った時に客席用のソファの上へぶっ倒れた。極度の緊張による疲労により、ストレス耐性の低い彼は眠る眠れない関係無しに、殆ど気絶とも良いような状態となっていたようだ。

 

 

 目が覚めた時、手術は終了していた。男は何とか一命を取り留め、空いた病室に輸送して麻酔による安静に入っているとの事。ラスコータはやり遂げたと言う達成感から、寝たままの姿勢より立ち上がれられなかった。

 

「君は良く頑張った! 医者の鑑だよ、友人として誇りだ!」

 

 ジョニィはそう、ラスコータを褒め称えた。

 だがそんな時にでも、寄生虫のようにあの男の嫌味が心に巣食っており、歓喜の念を殺したのだが。

 

 

 

 

 その後は改めて帰宅し、結果報告は後日届いたジョニィの手紙から把握に至る経過を辿る。

 彼の手紙の内容はこうだった。

 

『拝啓、親愛なる我が友人スコールへ。

 この間は本当に素晴らしかったよ。失礼だが、君にこんな事を成し遂げられる覚悟があるとは知らなかったんだ。

 レストランでの詭弁を、忘れて欲しい。

 さて、あの後だが、男は意識を取り戻したよ。困惑気味だった彼に、助かった経緯を説明してやった。

 彼は胡散臭いが、何とも人情厚い人間だった、俺の手を握ると「有り難う、この恩は忘れない」と言ってくれた。そして俺は、彼にこう言ったんだ。

 

 

「私はあなたの怪我を治療しましたが、流血を止め、あなたを担ぎ、金持ちの車を止めてまで病院に運んだ人物がいる。それは決して大きくない郊外の街の、小さな診療所の内科医であるスコルピト・ラスコータ先生です。彼の大いなる勇気によって、あなたの命は救われ、今こうやって生の幸福を噛み締めているのです。だがとても人が苦手な人間でして、あなたの無事を確認するなり帰宅してしまった。後日、彼へ感謝を告げたいのでしたら、所在地を教えます。ただ前述の通り、とても人見知りで、助けたとは言えあなたの顔を見ると、それはそれは神経質な科学者が如く、表情をひしゃげるでしょうね。だが、私にとってもあなたにとっても、彼へ感謝を申す事は必要となりましょう。行くのであれば、私からあなたの事を紹介しておきます」

 

 

 君の功績もきちんと伝えたぞ。寧ろ、君の事を話したくて俺がうずうずしていた程さ!

 彼は見ず知らずの君へ深い感謝をするように頭を下げると、こう伝言した。

 

 

「お礼がしたい。この恩を、そのラスコータ先生に返したい。勿論、あなたにも。だがそれには少しばかりの準備が必要となります、ふた月程の猶予を与えて下さい。今、この場では治療費を払う程度しか持ち合わせていないのです。しかし後日、お礼を携えてあなたと、そのラスコータ先生の元を訪ねましょう。すぐに恩を返せない私をお許し下さい、しかし必ず私は来ます。待っていて下さい」

 

 

 恩返しがしたいと言った彼はとても真剣な表情だったよ。なので断る方が愚かだと思い、俺は「待っていますが、その傷が癒えた頃で良いですよ。まずは、療養です」とだけ言い、勝手な事をした言い訳を院長にする為に退室した。

 院長は勝手に手術を行うなと叱っていたが、目の前で死にそうな人間がいるのに、一々上の許可を待っていられるかっての。まぁ、激しい言葉は排除して、ちゃんと反論してやったがね。

 

 

「患者は危篤の状態でした。昨夜は土曜日で、上層の人々は帰られ日曜日に備えていました。そのような状態で院長先生の許可を得るとは、患者の見殺しに他なりません。彼を運んだのは私の友人ですが、私はその友人の勇気と心意気に感服し、自己判断で手術を行ったのです。結果報告としましては、手術は成功し、患者も手術代をキチンと支払うと申しております。さて、ここまででこの病院にデメリットはありましたか? 治療費も入るし、病院の評判も上がる、メリット尽くしではありません。なので私は、ここで院長先生にお叱りを受けている理由がとんと、つかないのであります。私は患者の為、病院の為に働いたハズですが、それは間違いでありましたか?」

 

 

 あの院長、ここまで言ってやったら口籠りになり、俺を怒鳴りつけてさっさと追い出しやがった。全く、医者としての信念を忘れているな、君の方がとても高潔だろうに。

 そして一週間後に、患者は退院したよ。二本足で立ち、元気な状態だった、意外とタフな人間だったのかもな。

 最後に「この恩は忘れない」とだけ告げて、お釣りもある程の大金を支払うと、さっさと街の雑踏に消えて行ってしまった。

 

 

 ここまではその直前に書いている。あの院長、当て付けとばかりに仕事を俺に流しやがって、手紙書く暇も与えてくれなかった。なので、だ……

 

 

 あの院長に、辞表を叩きつけてやったよ。丁寧に書いて、わざわざ封蝋して病院の紋章を加えてやった上でな。

 そして笑顔のまんま入って、仕事を与えようかとした院長の顔目掛けて投げ付けた。封の方を前にしてやったから、余計に痛かろうに。

 呆然としている間に、白衣を脱ぎ捨てて退散だ。いやはや、三十年生きて来てここまで痛快だった時はなかったよ!

 

 

 まぁ、これで俺は総合病院を辞めた訳だが、医学会の時に知り合った先生がいて、この先生が病院を経営していたんだ。駄目元で手紙を送り、働きたい意思を伝えたら、二つ返事で了承を受けた。外科医が足りなかったので、地獄に仏だったそうだ。

 

 

 

 

 それで、ここからは初勤務の前日にこれを書いている訳だ。

 

 

 長々と失礼したね。全く、手紙の上でもnoisyだな、俺は!

 兎に角、私の動向と患者の意思を伝言したよ。いつ来るかは分からないが、必ず来るとは思う。気長に待つさ。

 それじゃあ、ここで締めるよ。また近い内に二人で食べに行こう。二カ月後は空いているかい?

 

 

 敬具。

 あなたの親友、ジョニィ・フリードリッヒ・ノージーより。』

 

 

 

 

 ジョニィの手紙は、救出劇後の一ヶ月後に送られて来た。内容が内容であるので、ラスコータは捨てずに保管し、読み返している。そして手紙を受け、すぐに返信を出したが我ながらかなりあっさりした内容で、読んだジョニィが不機嫌になっていないか心配だ。

 二ヶ月後の予定は空け、『食事をしよう』と書いたから大丈夫だとは思うが。

 

 

 兎も角として手紙によれば、あの男は近い内にここへ来るそうだ。いつ来るかと待っていれば、いつの間にやら三ヶ月を越した。

 だがジョニィの手紙にある通り、『ふた月の猶予』を願い出ているではないか。ならばそろそろ来る頃かと、ラスコータは待っていたのだ。彼を疑う事は、ジョニィを疑う事になる。

 

 

 

 

 彼は親友に己が力を知らしめた。

 だが、この一件が自信に繋がるかと言われればそうも言えなかった。車の主人の男の言葉は、思った以上に全てを悪路へと変えてしまっていたのだ。

 患者が来院し、治療をし、お金を貰う……この『お金を貰う』と言う事に、異常な罪悪感を得るようになった。「自分は果たして、人の苦しみの上で生きているんじゃないか」と、疑問に思う時だってある。

 

 

「その苦しみを消すんだ、素晴らしいじゃないか」と思えども、何回通院する人々を見ていると、「治さないようにして、儲けているのだろう」と考えてしまう。

 

 

 では「だからと言って治療をしなければ、悪化の道を辿る」と考え直してみるのだが、「そんな事を取り決めるとは烏滸がましくないか、風邪なら無料か」と更に悪く考えてしまうのだ。

 後はこれの繰り返しで、どんどん深みへと沈んで行く感覚に動揺し、疲弊し、考えないようにして生活していた。

 

 

 

 

 最近、笑ったのはいつだったっけと、閉院し、一人きりになったリビングでぼんやり思い出していた。とうとう今日も、笑えなかったなと、思い返しては嫌になる。

 果たして自分は、『医者』と『自分』を分けられているのだろうか。『医者としてだけの存在』となっていないか。

 結局自分は、何を支えに生きているのだろうか。何が楽しくて生きているのか。考えても分からない事を延々と考えるのが癖になった、それを吹き消すようにソファから立ち上がり、晩御飯を食べようかと動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、三回のノックが鳴った。扉の方へと視線を向ける。

 既に看板は『close』にひっくり返しているハズ、もしかして急患なのか、薬品会社の業者か。

 ラスコータは友人が非常に少なく、近所の付き合いも並以下と言う程に殆ど隠者のような生活に徹していた。なので友人の訪問だとすればジョニィだが、ジョニィは今大変な時期なのでありはしないだろう。

 ならばやはり、急患か業者か、それとも新聞屋か。あまり人に会いたくない為、嫌々ながらもラスコータは玄関の方へと歩いて行った。

 

「……今、開けます」

 

 開錠し、扉を開いた。立っていたのは、ブラウンのコートを身に纏った、ソフト帽の男である。

 

 

「……どちら様……でしょう……か?」

 

 見るからに少し、胡散臭い感じ。もしや、妙な宗教団体の勧誘かとも思え、緊張感を引き上げながら男の顔形を伺った。

 細い目と、顔に皺の寄った、中年の男だ。背丈はラスコータより少し高いが、肩幅は少し心許ない、良く言えばスッキリと、悪く言えば冴えない男である。だが何処か、見た目からして上層の人間とは思えなかったのだが、動作の一つ一つが様になっているかのような気品が漂っているようにも見えたのが奇妙だ。

 

 

 しかし、良く見てみれば、顔立ちに既視感があった。何処かで見たような顔をしていた。

 

「……えぇと……」

 

 思い出そうと努力するラスコータに対し、帽子を取ってお辞儀をした男から話をし出した。

 

「どうも、先生。突然のご訪問、失礼しました」

 

 語り口と共に物腰も柔らかく、怪しげながらも危なくはなさそうなので、ラスコータは安心して男と目線を合わせられた。そして引き出し続けていた記憶と男の顔が合致したのか、「あっ!」と声をあげ、更にまじまじと顔を眺め出す。

 

「どうやら、私の事を覚えておいでのようですね。という事は、スコルピト・ラスコータ先生本人でお間違えありませんか?」

「え? あ、はい……ほ、本人です……え、えっと、失礼ですけど、もしや……」

 

 男はもう一度ぺこりと恭しく頭を下げると、左右非対称な笑みを浮かべた。

 ラスコータはついつい、チラリと彼の腹部を見てしまう。

 

 

「はい。お久しぶりです……と言えど、あの時は意識が朦朧としていたもので、私がお顔を拝見するのは初めてですが……そうです、三ヶ月前にあなたに助けて頂いた者であります」

 

 来る事は信じていたが、いざ来たとなれば少し動揺してしまう。

 言えどあの時は殆ど動かなかった人物が今、復活した姿で立っているのを見るのは少し新鮮な気分になるものだった。ぽかんとしていたラスコータだが、我に帰るなりすぐに男を中へ招き入れようとした。

 

 

 しかし、男は「すぐに済みますので結構」と断りを入れた。

 ラスコータが気になったのは、現在立っている位置から微塵も動いてない事。まるで背後にいる何かを隠しているようにも見えた。

 

 

 それは兎も角として、男は話を続ける。

 

「しかし銃による怪我で、尚且つ街外れで死に掛けていた私を助けて下さったとは……碌でもないトラブルが原因だとは、分かるだろうに」

「い、いえ……その……僕も、何と言いますか……」

「お医者様の性分と言うものでありますね。私の出血を止め、担ぎ、お金持ちの車を引き止め、病院へ搬送して下さったと聞きました……いや、普通の人には到底出来ない事ですよ、誇って下さい」

 

 この男、感謝を述べているのだがやはり口が上手い。商人らしいと言うか、せこそうとも言うか、気品ある様子だが胡散臭さが抜けない所はこの男が、『裏社会の人間』だという事を分かっているからだろうか。

 

 

 言えど、褒められ慣れていないラスコータにとっては、この上なく嬉しい言葉なのだが。

 

 

 男は続ける。

 

「さて、御礼の準備と致しまして、それなりの時間を食ってしまった事に謝罪致します」

「いやいや! わ、ぼ……僕としても、ご快復なさられて安心致しました! お、お礼だなんて、僕なんかに……」

「いえ、お受け取り下さい。見ず知らずの、それこそ私のような人間を助ける為に全力を尽くして下さった恩人に何も返してやれないと言うのは、私としても辛い事です」

 

 ラスコータはジョニィの手紙の内容を思い出した。

『断る方が愚か』と言わしめた、真剣な表情……すぐにラスコータは謙虚な考えを打ち消して、この男の恩返しを受けようと決めたのだ。

 

「あ、そう、そうですか……そうですね……いえ、あの……失礼を……はい、有り難う御座います……」

「……ノージー先生からは極度の人間嫌いとお聞きしましたので、実の所不安でしたが、いやはやお堅い方ではないようで助かりました」

「ははは……そ、そうですか!」

 

 緊張からか、笑い方も空回ったような風だ。興味無さげだなと、ネガティヴなイメージを払拭したいが故にもっと喋りかけようかと話題を探している内に、男は懐から何かを取り出し、ラスコータに差し出した。

 

「これは私を助けて下さったお礼と、治療費の分です」

 

 

 

 

 それは、とても分厚い紙束……札束であった。

 今まで見た事もないような額のお金であったので、ギョッと目を見開き凝視してしまうラスコータ。治療費とかその他諸々を取り省いて行っても、全然手元に残るような莫大なお金だ。

 

「ちょ、おぅ、お、え!? お、お、多過ぎじゃないですかぁ!?」

「私の気持ちであります。ご遠慮なさらずに」

「え、遠慮なくって言われても、遠慮しちゃいますよ!? こ、こんな額、目の前でポンと出されたら……!」

 

 驚きからか、吃らずに饒舌に話すラスコータだが、それ程までの衝撃と言う物だ。

 怖くなった彼はつい謙虚な癖から、男の手にある札束ごと辞退しようとしたが、強引に相手が押し出し、ラスコータに持たせてしまった。

 

「遠慮なく……あぁ、お金の出所についてはご安心を、比較的クリーンなお金ですので」

「そ、そ、そんなんじゃあなくてぇ……!」

「いえ、お受け取り下さい。三ヶ月かけて、得た物ですので」

「…………そ、そですか」

 

 

 そんな事を言われれば、ラスコータのお人好しな部分が出て来てしまうだろうに。腕の中に収められたこの、巨大なお金を見つつ、男の顔を行ったり来たりさせているばかり、混乱中である。

 

「あ、有り難う御座います……えと、お怪我の方はもう……?」

「はい、お陰様で……ノージー先生の術式は素晴らしい物ですね、今では傷口も薄くなっている頃であります。以前の調子も、取り戻しつつ、あります」

「そうですな……いや、良かった……です。お元気そうで、なにより」

「有り難う御座います。一重に、ラスコータ先生とノージー先生のお陰です」

 

 何だか照れ臭くなり、前述の通り褒められ慣れていないラスコータは頬を赤らめて、俯いてしまう。

 思わずにやけた笑みが出てしまい、見られるのが恥ずかしいのだ。

 

 

 

 

「あとラスコータ先生……もう一つ、『お礼の品』をお持ちしましてね……?」

 

 男の声のトーンが、静かに、一段階落ちた。その変化に驚き、ラスコータはパッと彼の顔を見たのだが、何だか裏商談にでもするかのような辛気臭い顔で話をしているではないか。

 何事かと思い、不安げな表情で男の言葉を待つ。

 

「これからするお話は、くれぐれも内密願いたいのです」

「……え? どう言う事で……?」

「物が物ですのでね……えぇ、お約束出来ますか?」

 

 ラスコータはどうにも、こう言う類の商談じみた事が嫌いである。さっさと買えば良いのに、細かい約束だかサインだかをさせるような買い物が、一番嫌いであった。

 その元からある嫌悪感と、男の醸し出す怪しい雰囲気とが相まって、「只事じゃないぞ」と勘づき、首を縦に振って了承する。

 

「流石先生、話が分かる……」

 

 そして男は自身の背後に目配りさせると、そこにいたものを自身の前へと促した。

 

「おい、こっちへ」

 

 男が横へずれると、冬の寒風が流れ込む深い夜の闇の中から現れるように、何者かがラスコータの前へ出たのだった。

 背丈は低く、頭の位置がラスコータの腰辺りだろうか。なので目線が合わさず、一瞬何が来たのかと分からなかったので、チラリと目線を下げてその者の全体像を確認する。

 

 

 

 

「いッ!?」

 

 思わずラスコータは、声を出した。出さずにいられなかった。

 

 

「…………」

「え、あ……なっ……!?」

 

 前にいたのは、少女であった。

 色素の薄い黒髪は銀色に見え、寒い中だと言うのに薄汚れた布一枚だけを着込んでいる。

 

 

 だが一番目に当たったのは、白い肌の上には焼け爛れ、痕となった火傷が端正な顔に、華奢な腕にと存在しており、澱んだ光の無い少女の目がまたラスコータを震わせた。

 火傷痕は、火とか烙印用の鉄板とかでは出来ようのない、どうしたらそんな火傷が出来るのかと考えてしまう程に、酷く広範囲かつ不定形なケロイドと化していた。

 

「さぁ、挨拶しなさい」

 

 絶句するラスコータを前に、少女は年齢に対し分不相応な冷めた声で淡々と挨拶を行ったのだった。

 

 

 

 

「……初めまして、『シルヴィ』と申します」

 

 ラスコータはかける言葉が、見つからなかった。




やっとシルヴィさん登場ですが、最後の場面だけだなんて、ちょっとどうなっているんですか!?
まぁ、次回からたっぷり、絡ませますんでご安心を。
だから、終わり!閉廷!みんな解散!

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