偽を演じて…   作:九朗十兵衛

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どうも、九朗十兵衛です。

宣言通り、入部まで行けてよかったぁ

誤字報告ありがとうございました。

では、本編をどうぞ。


第二話 少女の謝罪、のちに入部

「……はぇ? ッエ゛ホン!……いや、え、何で?」

 

 雪ノ下が告げた言葉に美人は何をしても似合うという言葉を思い出し、脳裏で雪ノ下に色々な姿をさせていた俺の脳が理解するのに一拍の間を置いた。

そして理解したと同時に、間抜けな返事をしてしまい慌てて取り繕うと聞き返した。……別にエロイことなどさせてないよ。本当だよ?

 しかし、雪ノ下は俺の疑問に答えることなく、口元に悪戯気な笑みを浮かべたまま沈黙している。どうやら俺が答えるまで話す気はないらしい。

 

 何がしたいのかは分からないが、話を進めるためにはこの突然始まったクイズに答えなければいけないようなので、俺は改めて教室の内部を見渡す。が、しかし正直最初に見たもの以上のものは無い。付け足すとしても雪ノ下の荷物であろうカバン類のみだ。

 ならば考えられるのは入った時に彼女がしていた行動がヒントになる。俺がこの教室に入った時に彼女は本を読んでいた。これをヒントに考えれば、まあ、文芸部関係になるのだがそれではないだろう。

 

 文芸部的なものならばこの教室の物の無さはおかしい。もしも文芸部ならば手持ちの物だけで済ますにしても、この部屋に本棚や筆記用具ぐらいの常備があってもいいはずだ。なので他のヒントを探すことにする。教室という空間にヒントがないならば考えるべきは人物だ。出題者の雪ノ下からは得られるヒントは今の所無い―――となると、順当に考えれば平塚先生となる。

 

 平塚先生が言っていたキーワードがなんであるかは、思い出すまでもなく依頼と入部希望者だが後者の入部希望者は無視して構わない。

 で、ここに依頼を持ってきた平塚先生は現国と生活指導を兼任している。ここまでくれば答えは見えてくるというものだ。思考するために閉じていた目を開けて雪ノ下を見る。目線の先の雪ノ下は先ほどの悪戯気な笑みを浮かべておらず、驚いたような顔をしていた。……何さ?

 

「……生徒の悩みを解決する部活か?」

 

「……なぜ、そう思ったのかしら?」

 

 雪ノ下の様子に首を傾げるが、気にしなくてもいいだろうと思った俺は考え出した答えを伝える。だが、俺の答えを聞いた雪ノ下は気を取り直す様に顔を左右に振ると、なぜその考えに至ったのかを質問してきた。

 まあ、別に隠すようなものではないので、考えていた答えまでの過程を話していく。話すことは平凡な推理とも言えないようなものだが、聞き終えた雪ノ下は納得するように頷くと薄い笑みを浮かべて口を開いた。

 

「よく考えたわね。半分、正解よ」

 

「半分かよ」

 

 雪ノ下の表情的に、完全正解かと思っちゃったじゃん。半端ない肩透かしだよ。

 

「んじゃ、残りの半分は何だ?」

 

「そうね。生徒の悩みを聞くのはあっていたのだけれど、問題を解決するのはあくまで依頼者本人なの。部員の私たちはあくまでもどのような解決案があるかを相談者と共に考えて、相談者が納得できるようにサポートするのが仕事よ」

 

「ほぉ~、あれか、腹減った人間に食い物与えるんじゃなくて、食い物が取れるように竿なりなんなり渡すみたいのか」

 

 雪ノ下の説明に納得し、相槌しながら例えを口にする。でも、多少腹減った人間ならそうでもいいが、飢餓状態の人間だったらそんな余裕ないと思うがな。……ん? 私達ってそれすでに俺も入ってんの? 

 俺の表情から、言いたいことが分かったのであろう雪ノ下は苦笑すると続きを話す。

 

「確かに比企谷君の例えの通りよ。でも、空腹の度合いによってはある程度の食べ物。例えば、解決はしないけれど落ち着ける様にサポートの質を変えるわね。依頼を持ってくる平塚先生も、流石に学生の領分を超えるものは持ってこないと……思うわ」

 

 そこで断言できないのは、雪ノ下もあの人ならやりそうだと考えてしまっているのだろう。いや、分かるけどね。でもあの人、強引は強引だけどケツ持ちは任せろ! って言ってくれるとは思うのよ。多分。

 

「あくまで解決は自分でやらせるってわけか」

 

「ええ、そうなるわね」

 

「ふ~んなるほどねぇ。で、この問答に何か意味はあったのか?」

 

 答えが分かって、はい終了解散。って訳にもいかないのだろうし、なぜこんな問答をしたのかを聞くことにした。この部活の理念は知れたが正直こんな面倒なことをしなくても、ただ単純に雪ノ下が説明してくれればすむ話である。雪ノ下は今度は沈黙することなく答えてくれた。

 

「ええ、意味ならあったわ。あなたがどういう人間か、少しは知れたのだから」

 

「……つまり、今の問答は俺を知るためにやったと?」

 

「ええ、そうよ」

 

 迷いなく頷く雪ノ下。やだ、雪ノ下さん私を知るためにこんな回りくどいことをしたの? も、もしかして、私のことが好き、とか? ……オエェッ! やばい、自分の思考に思わず吐き気がしてしまった。俺は自分の中の乙女回路(不良品)を素早く廃棄して雪ノ下に問いかけることにした。

 

「今の問答で何が分かったんだ」

 

「そうね。例えば、普段一人でいることを望んでいる人だから、てっきりコミュニケーションが苦手だと思っていたの。だけど貴方は私に対して臆することなく対応した。そればかりか、あんな唐突な問答にも疑問は抱きながらもきちんと考えて答えてくれた。だから対人関係には特に問題はない。人と話すことにあまり苦手意識を持っているわけではなく、人と話すことに魅力を感じていない。などかしらね?」

 

 あらやだ、結構あってますわ。確かに、俺は人と話すことにそんなに苦手意識を持っているわけではない。そもそもの話、コミュニケーション能力が低かったら子役なんぞやってないしな。いや、これじゃあ語弊があるな。元々は低かったが、子役をやっているうちに慣れたのだ。

 あと、人と話すことに魅力を感じていないのも半分は当たっている。俺とて馬の合う人間だったら話すのは面白いと感じる。しかし、かかわる人間が増えるとそれに伴って問題も起きやすくなるし、そもそもの話今の俺は人に対してあまり興味がないのだ。

 などと考えていたが、雪ノ下の発言の中に無視してはいけないものが含まれていることに気付いた。

 

「ちょ、ちょっと待てくれ。普段? それって俺を見てたってことか?」

 

 この発言が自意識過剰過ぎているのは承知しているが、しかし雪ノ下の言葉には普段の俺を知っているというニュアンスがあったのは確かだ。クラスが違う上に相手は学校きっての有名人である。長年染み付いたオートステルスがかかったボッチである俺に、そんな人間が興味を持つわけがないとは思うが、では先ほどの発言は何だ? っていう疑問が残ってしまう。

 狼狽する俺に雪ノ下は居住まいを正すと、まっすぐと俺を見つめてきた。

 

「そうよ。私はあなたに接触するためにそれとなくあなたを観察していたわ」

 

 おう、マジか。ボッチに学校のマドンナ(古い)が興味を持つとかどこのラノベだよ。これはあれだろう。親父が昔引っかかったっていう美人局の類に違いない。

 俺の警戒する雰囲気に気が付いた雪ノ下は、しかし慌てることなく続ける。

 

「警戒しなくても、危害を加えるとかそういうわけではないわ。……私はただ、謝罪がしたかったの」

 

「……は? 謝罪?」

 

 俺と雪ノ下が会ったのは今日が初めてのはずだ。たとえ会っていたとしても、廊下ですれ違うとかの数瞬の邂逅ぐらいだろう。

 

「俺と雪ノ下ってこうして面と向かって話すのは初めてだよな? そんな人間に謝罪されることなんてないはずだが……」

 

「いいえ、私と比企谷君は会っているわ。但し、その時の比企谷君には意識はなかったけれどね」

 

 俺が意識のないときに会っていた? どういうことだろうか、まさか夢の中で会っていて、その時に異世界に飛ばされて、そこで俺は雪ノ下に裏切られたとかか? って、だからラノベかよ。

 頭に浮かぶバカな考えを振り払い真面目に思考を回転させると、小さなピースと呼ぶべき単語達が思い浮かんでくる。犬、車、入学式、吹っ飛ぶ俺、事故。

 

「……入学式の事故か?」

 

「えぇ、その加害者である車に私が乗っていたの。ごめんなさい比企谷君」

 

 そう言って立ち上がり頭を下げる雪ノ下。だが、正直その謝罪は的外れでしかない。確かに世間一般では歩行者と車の事故の場合、問答無用で車が悪くなる。しかし、入学式での事故は犬を助けるためとはいえ、当たり屋みたいな形で撥ねられたのだ。

 しかも結果は二週間の入院だったが、飛び込んだ時の気持ち的にはスタントマン気分だったのだ。なんなら、阿呆だと指さされても仕方ないのである。

 もう相手さんには入院費と治療費を頂いてるので、ただ乗っていただけの雪ノ下に謝罪までされたら、俺は居た堪れなくなって天岩戸に隠れたくなってしまう。っていうか、さっさと頭を上げて貰わないと俺の精神が死んでしまいます。

 

「あ~、あの事故は、正直俺が悪かったって思ってるぐらいだから謝る必要はないぞ」

 

「それでは私の気が済まないわ」

 

 なんとも強情である。まあ、この部室で話した感じてでは、雪ノ下の性格は律儀とかそういうものなのでさもあらんだ。ここは素直に受け取ったほうが、雪ノ下が感じる必要もない罪悪感をはらうことができるだろう。

 

「分かった。雪ノ下の謝罪を受け取る。だから、この話は終わりだ」

 

「……何か釈然としないものを感じるけれど、これ以上言っても貴方を困らせてしまうだけの様ね」

 

「おう、気になるようだったら今度缶ジュースでも奢ってくれ」

 

 俺の冗談めかした返答に頭を上げた雪ノ下は、眉根を寄せて溜息を吐くと椅子に座りなおした。その様を見て俺も安堵のため息を吐く。演じてるわけでもないのに女の子に頭下げられるとか、サドなどではない俺にとって気持ちのいいものではない。……ん?

 

「そういや雪ノ下は俺を観察していたって言ってたが、もしかして一年間ずっと観察してたのか?」

 

 謝罪のためとはいえそうだったら怖いものがある。……ボッチ男子を後ろの物陰からじぃっと観察している女の子。ッ怖! 雪ノ下ってば、和服似合いそうな美人だから余計怖いわ!

 恐怖映像が脳裏によぎり、肌寒さに腕を摩る俺に雪ノ下は首を横に振った。

 

「私が比企谷君を見つけたのは半年以上たってからよ。観察していたのもほんの二週間ぐらいだったかしら? 教室は分かっていたのだけれど、何故かあなたの姿が見当たらなかったから、最初は不登校を疑ってしまったわ」

 

 当時を思い出したのか、雪ノ下は額に手を当てて溜息を吐く。その仕草にあってますね。あ、つーかオートステルスちゃんと仕事してたんだ。

 

「漸く見つけたと思ったら貴方は人と関わることが無いように行動しているんですもの。私もその頃には目立つ存在になってしまっていたから、接触していたら謝罪どころではなかったでしょうね。だからと言って学校外では、両方の意向で穏便に済ませたのに私の勝手な行動で、それがお釈迦になってしまっては本末転倒。……正直お手上げ状態だったわ」

 

 苦笑を浮かべた雪ノ下が小さく両手を上げて小首をかしげる。……あっぶねぇ。もし雪ノ下が何も考えず突撃してきたら、俺の学校生活はえらいことになっていたであろう。

 ここで俺の脳裏に一つ思いつくことがあった。それはこの部室に入って、雪ノ下と平塚先生がしていた会話である。

 

「もしかして、平塚先生が俺をこの部室に連れてきたのって?」

 

「多分、考えの通りだと思うわよ」

 

「マジか。なら謝罪ももらったし、俺はこの辺でお暇させてもらうわ」

 

 なんだよぉ、入部とかただの口実だったのかよ。よかった、これで俺は元の静かな生活に戻れる。俺は雪ノ下に軽く手を振ると、意気揚々と教室から出るために扉を開けた。

 

「…………oh」

 

 なんてことでしょう。開けた扉の先には、腕を組んだまま素晴らしい笑顔で佇む女教師が一人。

 

「どこに行くのだね。比企谷」

 

「い、いやぁ、雪ノ下からの用件も終わったので、俺ももう用済みかなぁって思いましてね。だから退散しようかなって、ね?」

 

「……ッフン!」

 

 冷や汗を滴らせながらも首を傾げる俺の頭と肩に手を置いた平塚先生は、気合の呼気と共に俺の頭を支点にする様に肩に置いた手に力を籠め、俺の体を半回転させ背中を押した。あっづぁ!? ちょ、摩擦で頭皮が熱いんですけど! 禿げたらどうしてくれる!

 熱を持った頭を摩りながら抗議の視線を平塚先生に送ると、呆れを含んだ視線を送ってくる平塚先生とかち合う。

 

「確かに雪ノ下の気持ちを慮って、君をここに連れてきたのは認めよう。しかし、君の入部がただの口実だったかというと、そんな事はない!」

 

 力強く宣言する平塚先生に半歩ほど下がってしまうが、たとえ覆ることがないとは言え、抗議をしないわけにはいけない。その許可は目の前の平塚先生から得ているのだ。

 

「いやいや、雪ノ下から部の理念は聞きましたけど、俺には優秀な雪ノ下のような能力はありませんし、役に立つことはありませんって」

 

「なに、君は小賢しいことを考えるだけの頭があるのだ。十分に役立てるだろう。この部で活動すれば、君の孤独体質も改善するかもしれないぞ?」

 

 この教師、職員室でのやり取りを根に持ってやがるな。いやまあ、先生とのラーメン談義が楽しくてついつい素が出てしまい、年齢でいじくったのは俺が悪かったけどもさ。

 

「いや、俺は今のままで十分間に合ってますんで、変わるつもりは有りません」

 

「……あら、別に変わることは悪いことではないわよ」

 

 先生に伝えるために言葉にした反論に、俺と平塚先生から少し距離を取っていた雪ノ下が反応した。その雪ノ下の声に顔を向けると、今まで見せていた笑顔よりも随分と優しげな笑顔で俺を見つめていた。

 

「確かに、不変を貫く人はいるわ。……でも変わることで救われることもある」

 

 そう言いながら何かを思い出す様に目を閉じる雪ノ下。雪ノ下の様子を見るに、それは雪ノ下の実体験なのであろう。再び目を開けた雪ノ下は俺に向けて手を差し出す。

 

「無理に変われとは言わないわ。でも、この部で活動していく過程で、何かのきっかけが有るかもしれない。それを私と共に経験するのは嫌かしら?」

 

 強く訴えかけるわけでもなく、さりとて諭すわけでもない。ただ話しかけ誘う雪ノ下は、万人を引き付けるような魅力を放っていた。

 しかし、その光り輝く魅力に僅かな嫌悪とも言えない、小さな違和感を感じてしまう俺は随分なへそ曲がりなのであろうか。

 まあ、この雪ノ下の誘いに乗ろうが乗るまいが、結果が変わることはない。俺は一つ息を吐き、頭をかいて返答する。

 

「もう決まっちまってるようだし、これ以上駄々こねてもしょうがねえからな。よろしくお願いするわ」

 

「……ええ、ようこそ奉仕部へ。歓迎するわ比企谷君」 

 

 こうして俺は、この一風変わった部活に入部することになったのであった。……え? この部ってそんな名前だったの?

 

 

 

 




ここまで読んで下さりありがとうございます。

正直、私に原作八幡の様な捻くれ道を書ける気がしない(爆)

本作の八幡は、捻くれ(弱)位を目指しています。子役やってたので、対人もある程度経験しているでしょうしね。

奉仕部内のこの問題を引っ張っても、正直お邪魔虫になってしまうため、さっさと終わらせることにしました。話の持って行き方がガバガバですが、これ以上は私の脳みそでは無理です(白目)

では、また次話で会えればと思います。

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