小話「黒歌話」
私のご主人様。私の救世主。そして私の《愛しい人》。
私は何のために生まれてきたのだろう。
悪魔達に瀕死まで追いやられ、やっとの事逃げ切った私はそんな事を考えていた。
妹を守るために妹に嫌われ、妹を守るために全部無くした。
後悔はしていない。
だけど、だけど、私はなんのために生まれてきたのだろう。
妹のため?私の命より私は妹が大事だ。
でも、私は妹のために生まれてきたわけじゃない。
私は、私のために生まれてきた。
それなのに、どうして誰も・・・・
《ザザザッ》
茂みをかき分ける音が聞こえる。
恐らくさっきの悪魔どもだろう。
もう、逃げる気力もない。
もう、生きる意味もない。
心残りがないといえば嘘だ。
心残りなら沢山ある。
もっと白音と暮らしたかった。
もっと世界を見てみたかった。
もっと誰かに愛されたかった。
でも、もう叶わない・・・
だったら、そんなのもう『生きてるとは言わない』
生まれ変わったら、誰かに愛される者になれますように。
そう願いながら私は意識を手放した。
・
・
・
生きていた。
傷もなくなっている。
私はフカフカのベットの上で目が覚めた。
ベットからはお日様の香りがして起きた時は『ここが天国?』なんて思ってしまった。
もっとここで寝ていたい。
でも、早く移動しなくちゃいけない。
多分、傷の手当てをしてくれたのも、この気持ちのいいベットで寝かせてくれたのも《私とは関係のない人》だろう。
幸い、手当てと妖怪の回復力で傷は《完治》していた。
《ガチャ》
私が部屋を出ようとしたその時、扉が開いて外から黒い髪に青い目の少年が入ってきた。
この《人》が私を手当てしてくれた人間だろう。
少年は私に気づくと「あ、起きたんだね」と微笑みながら言ってきた。
久しぶりに見る悪意のない笑顔、私は自然と少年の足元まで歩み寄っていた。
少年は私を抱え上げて「病み上がりなんだからあまり動き回っちゃダメだよ」と言った。
見惚れた。私は少年に見惚れた。
理由は分からない。
ただ、見惚れていた。
その、悪意のない笑みに
その、綺麗な顔に
《見惚れていた》
少年は私をベットまで連れて行き優しく寝かせてくれた。
私はその少年をジッと見つめる。
少年は私をベットに寝かせると「今、ご飯を持ってくるね」と言い部屋から出て行った。
こんなことをしている場合ではない。早くこの家から出ないと。
分かっている。でも、ここから出たくない。
彼なら私を愛してくれる。
恋愛の愛ではなく親愛の愛。
彼なら、私に生きる意味をくれる。
会って間もなく会話も交わしていない。
『それでも分かる』
彼は私の『生きる理由』になってくれる。
彼は私に『世界を見せてくれる』。
彼は私を『飼ってくれる』。
私は彼に『飼われる』
その言葉《飼われる》という言葉に私は高揚した。
心拍数が上がり、体温が上がり、気持ちが上がる。
私は彼に『飼われたい』
彼に首輪をつけられて、彼に体を撫でられて、彼に体を委ねたい。
《
これがそうだというのなら私は信じられる気がする。
《
これがそうだというのなら私が持ってるこの感情が分かる。
初対面、それも会って数分程度それでも私は彼が好きだと言えるかもしれない。
初対面、ただ傷の手当てをしてもらっただけそれでも私は彼が気になる。
《ガチャ》
私は突然開いた扉に驚き「にゃっ!」と情けない声を出してしまった。
彼はクスクス笑いながら「そんなに怖がらなくても何もしないよ」と言う。
別に怖がったわけでもないし警戒したわけでもない驚いただけだ。
私は貴方を信用している。
今すぐ《変化》を解いて彼と同じ《人間の姿》でそう言いたい。
彼はお粥のようなものを手に持っている。
彼は私の横に座り「じゃあ、今食べさせてあげるね」と言った。
私が人間の姿だったら顔が真っ赤になっていたかもしれない。
フーフー、と小さなスプーンに乗せたお粥を冷まして私の口元まで寄せる。
あーん、彼がそう言うと私は「にゃ、にゃーん」と口を開いた。
『美味しい』
素直にそう思った。
前のクソ悪魔のところで高級料理は何回か食べたがそのどれより数倍も数十倍も美味しい。
私は気がついたらスプーンに齧り付いていた。
彼は「スプーンは食べられないよ」と少し笑いながら言う。
カァァッ、猫形態だけど私の顔は恐らく真っ赤だ。
『穴があったら入りたい』今日初めて私はこの言葉の意味を思い知った。
そのあとは何事もなくお粥を食べきった。
『美味しかった』その一言に尽きる。
彼は空になったお皿を片付けるため立ち上がろうとする。
だが、私が立ち上がろうとした彼の膝の上に座って移動できないようにする。
「ん?どうしたの?」と彼は首をかしげる。
ムスッ、猫が膝の上に座るのは撫でて欲しい時の合図だよ。
全く、彼は猫心がわかってない。
あっ、と彼は何かに気づいたような声を出す。
やっと、わかったのかな?そう私が思っていると彼は『私を抱きかかえた』
にゃ!?にゃにゃにゃ!!?
さっきも抱きかかえられたけどそれとは違う。
今度は私の両脇を掴み、人間で言うところの『高い高い』の抱え方である。
つまり彼は今、私の『前の部分』を見ている。
さ、流石の私も恥ずかしい。
私は「にゃ、にゃっ」と少し困惑している声を出す。
別に彼に見られるのが嫌というわけではない。
でも彼は私の体ではなく《目》を見ていた。
「ねぇ・・・君、僕に飼われない?」
「にゃ?・・・・」
彼は私の目を見ながら真剣な顔で聞いた。
青くて綺麗な目、まるで海みたいな、そんな目。
『あぁ、やっぱり....好きだにゃ....』
この日から私は『坂木要』の『ご主人様』の飼い猫になった。
「じゃあ、君の名前は今日から《黒黒》だよ」
《黒黒》私の二つ目の名前、私の《大好きな名前》
ご主人様が呼ぶ、私の名前___
一目惚れ、今までありえないと思っていた物。
私が見つけた新しい『言葉』、新しい『気持ち』。
もし、
『これからもご主人様と一緒に入られますように....』
___私はそう願う。
はい、小話なので短いです。
小話は出会いの相手視点をしていきます。
リクエストがあったらその話をします。
・例え
「クリスマス回して」
「バレンタイン回して」などです。
次はどのキャラにしようかなぁ!
リクエストも募集中です!!!