シスコンで吸血鬼で鬼ですが何か?   作:エントさん

15 / 21
白猫は日向をとても好んでる。


小話「白音話」

 私は猫であの人は日溜まり。

 隣にいてほしい。そう思ってしまう人。

 

 『私を素直にしてくれた人』

 

 

 

 

 私の人生は不幸の連鎖だ。

 『あの時』まで私はそんなことを思っていた。

 

 『仙術』それは体の気と外の気を使うことで扱える技だ。

 しかし、扱い方を間違えると身を滅ぼす技。

 

 強力ゆえにリスクも大きい。

 私の姉、SS級はぐれ悪魔『黒歌(くろか)』も仙術に取り込まれた一人だ。

 

 姉様は素敵な人だった。

 思いやりに溢れて私を第一に考えてくれていた。

 

 そんな、そんな優しすぎる姉様だから力に取り込まれてしまったんだと、『思いたい』。

 

 本当は認めたくないだけ、自分のあんなに優しくて凛々しい姉様がただ力に飲まれたなんて『認めたくないだけ』。

 

 でも、姉様は力に飲まれた。

 そして、自分の主人を殺した。

 

 これは許されることじゃない。

 許されていいことじゃない。

 

 私は姉様が事件を起こしてすぐに保護という名目で監視されることになった。

 

 なんで、姉様の所為で私が監視されなければいけないのか?

 なんで、姉様は助けに来てくださらないのか?

 なんで、姉様はここに居ないのか?

 

 

 毎日そんなことを考えていた。

 

 そして私は決心した。

 

『私は姉様のようにはならない』

 

 姉様は私の憧れだった。

 優しく撫でてくれて、優しく微笑んでくれて、優しく抱きしめてくれる。

 

 そんな、私の憧れた姉様はもういない。

 

 憧れた。私はそれすら後悔して姉を恨んだ。

 

 姉様さえ居なければ___

 

 

 

 私が、そんな事を思って日々を過ごしていた。

 六歳の頃に私の何もない部屋に一人の女の子が訪ねてきた。

 

 その女の子は私にいきなり

 

『あなた、私の眷属にならない?』

 

 なんてことを言ってきた。

 

 正直最初は『この女、髪の色と同じで頭オッパケペーなのか?』と思った。

 でも、私は彼女の誘いに乗ることにした。

 

 彼女、リアス・グレモリーは魔王の妹。

 それに、彼女は私の気持ちを理解してくれた。

 

 それだけで彼女の提案に『乗る価値』はあった。

 

 理解してくれる。

 それは『行動』を起こしてくれる。と、いうことだ。

 

 『行動』つまり『SS級はぐれ悪魔の黒歌』を探してくれるというと。

 

 私の目的それは『姉様を捕まえる事』だ。

 

 そうすれば私に対する周囲の反応も変わるはずだ。

 

 

『姉様、いやSS級はぐれ悪魔《黒歌》貴女は私が捕まえます』

 

 

 

 

 

 

 私がリアス・グレモリーの眷属になって早2年。

 私は主人のリアス・グレモリーの命令で私は今『ある男』の調査をしています。

 

 その男の名前は『坂木要(さかきよう)』普通の人間だ。

 いや、普通ではない点が幾つかある。

 

『頭が異様に良い』

 

『全国模試一位』

 

 でも、可笑しい。

 誰も彼に『注目』していない。

 

 普通に考えてそんな人をほっておくなんてことはあり得ないだろう。

 

 まるで『彼だけ物凄く陰が薄い』そんな感じだ。

 

 そして今日は彼に接触を図ってみようと思う。

 彼が週に一回必ず来る文房具店。

 

 そこで行動を起こそう。

 

 

 

 

 私が店の中で待っていると彼が来た。

『来たっ!』

 

 いきなり声をかけても警戒されるかもしれない。

 だから。

 

『キャッ』

 

 わざと彼の目の前で転ぶ、彼は学校でも世話焼きと名が通っっているらしい。

 今回はそんな彼の『お人好し』を利用させてもらう。

 

「大丈夫?」

 

 彼は私の策に乗った。

 このまま、お礼という名目で会話の場を設けよう。

 

「・・・ありがとうございます。良かったらお礼にご飯を奢らせてください・・・」

 

 彼は少し渋っていたけどお願いし続けてたら「そこまで言うなら」と了承してくれた。

 

 彼は『押しに弱い』らしい。

 

 

 

 

 しまった。

 やってしまった。

 

 《財布を忘れた。》

 

 彼にそのことを話す、怒られるだろう。

 でも、これは私が悪い。

 私が奢ると言っておいて、これでは『奢ってくれ』と言ってるようなものだ。

 

 しかし彼は怒らなかった。

 それどころか『笑い転げた』。

 

 私の顔は真っ赤になる。

 恥ずかしい。

 

 どうやら彼は『笑いのツボが可笑しい』みたいだ。

 

 

 笑い終わると「ごめんね。別に君を馬鹿にした訳じゃないんだよ」と言った。

 

 本当にお人好しだ。

 この人、頭がいいのに詐欺とか引っかかりそう。

 

 

 

 

 あの日から数日経った。

 私は彼の家の前まで来ている。

 

 あの日のお金を返しに来たのだ。

 

 しかし、私は家の前まで来てとんでも無いことに気づいた。

 

『いきなり家に来たら変じゃないだろうか?』

 

 私は彼にとって『たった一回、ご飯を奢っただけの子』なのだ。

 

 どうしよう。そう考えていると《ガチャ》と玄関の扉が開いた。

 

 私は咄嗟に変化して『猫』になった。

 

 「ん?猫?」彼はそう言いながら私を抱き上げる。

 彼の抱き上げ方はどこか手馴れていた。

 

 猫でも飼っているのだろうか?

 

《ぐぅ〜》

 

 しまった。お昼食べてくるの忘れてた。

 

 彼はプフフっと笑いながら「君お腹すいてるんだね?」と言った。

 はい、空いています。

 

「にゃ、にゃー」

 

 彼は「じゃあ、うちで食べて行きな」と言いながら家に入れてくれた。

 今の私は猫、そして今回は彼が私に餌を『勝手にあげた』だけ、私の所為じゃない。

 

 私が誰かに言い訳をしていると彼は『ある部屋』の前まで来た。

 

『なんだか懐かしい香りがする』

 

 そして、彼は私を抱えたまま部屋に入る____

 

 

 

 

 ___え?姉様?

 

 

 頭が今の状況を理解しきれない。

 

『調査対象の家に侵入したら姉様がいた』

 

 それは分かる。

 でも、情報が足りない。

 

 何故?

 どうして?

 どうなって?

 

 頭をグルグルと回る言葉。

 

 彼は「ご飯を取ってくるね」と部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 私と姉様は《変化》を解く。

 

「し、白音・・・」

 姉様がか細く言った。

 

「・・・姉様、姉様はここに居たんですね・・・」

「白音・・・」

 

「・・・こんなに安全なところで・・・」

「・・・しろ」

 

「・・・こんなに優しいところで・・・」

「・・・」

 

「・・あんなにお人好しな人のところで・・・」

「・・・」

 

 

「・・・今度はあの人を殺すんですか?・・・」

「そんなことしないにゃ!!!」

 姉様が今までと違う気迫のある顔をした。

「・・・じゃあ、なんで前の主人を殺したんですか!!!・・・」

 

「それ、は」

 姉様は黙る。

 前の主人を殺した原因は確かに『仙術』の所為だ。

 でも、殺したことに変わりはない。

 

「・・・私は帰ります・・・」

「しろ、ね・・・」

 姉様の声が耳に残る。でも振り返ることはない。

 

 

 

 

 この時の私は振り返らなかったんじゃない『振り返れなかった』んだ。

 本当はこんなことを言いたいんじゃない。

 

 

 何も言わず出てきたけど彼には悪い事をした。

 また後日会いに行って謝らなくちゃいけない。

 

 姉様の事はどうしよう。

 取り敢えず今は報告しない。

 

 姉様の事は私が終わらせる。

 

 今報告したらきっと、討伐隊が組まれて姉様はすぐに消されてしまう。

 

 それじゃダメだ。

 私が姉様を捕まえる。

 

 それまでは誰にもこのことは言わない。

 

 

 

 という訳で彼の家の玄関まで来た。

 

 『猫の姿で』

 

 いきなり居なくなったのは猫の私だ。

 だから猫の姿で来た。

 

 でも今回は彼が玄関から出て来ない。

 どうしようかと思い取り敢えず家をグルッと一周回ってみる。

 

 すると中庭のような場所で彼を見つけた。

 そして、彼の膝には『姉様』がいた。

 

 『幸せそうな顔で撫でられている』

 

 まるで昔姉様に撫でられた私みたいに幸せそうな顔だ。

 

 

 いつの間にか私は彼の足元まで来ていた。

 彼は私に気づき「あ、昨日の」と言う。

 姉様も私に気づいて驚いた顔をしている。

 

「昨日はどうしていなくなったの?」

「にゃー」

「ははは、分からないや」

「にゃー」

「あ、今日はご飯食べていく?」

「にゃー」

「よし、じゃあ準備するね。こっちの部屋で待ってて」

 

 彼は私を部屋まで案内して昨日と同じように食事を取りに行った。

 

「・・・」

「・・・」

 私と姉様の間に会話は無い。

 

 

 

 

 《ガチャ》扉が開いた。

 美味しそうな匂いがする。

 

 取り敢えず今は餌を貰おう。

「じゅるり」

「はは、そんなに慌てなくてもあげるよ」

 

 

 美味しい。

 すごく美味しい。

 

 この人どこの料理人ですか?

 味王ですか?

 

 あ、味王は料理しなかった。

 

 彼の料理は『美味しい』

 

 

 

 

 彼はこっちを見ながら「よく食べるね」と言ってきた。

 姉様も苦笑いだ。

 

 しまった。夢中になりすぎた。

 

 

「そういえば昨日ね」

 しまった!と思っていると彼が語り出した。

「君が帰った後、黒黒すごく落ち込んでたんだよ」

「・・・」

「黒黒がきっと何かやっちゃったんでしょ?」

 黒黒とは姉様の名前だろう。

「黒黒は不器用だからね。でも、悪く思わないでね」

「・・・」

「黒黒はね。6年前に拾ったんだ。」

「にゃ・・・?」

 

 6年前?可笑しい、それじゃあ手配されてから3年後じゃないか。

 つまり姉様はすぐにこの家に来れたわけじゃないんだ。

 

「その時の黒黒はボロボロで今にも死んでしまう。そんな子だったんだ。」

 

 ボロボロ?

 きっと、退治されそうになっていたんだろう。

 そこを彼が助けた。

 

「黒黒はね。白色が好きなんだ。」

「にゃ?」

「黒黒は、白色のものが好きで部屋にあるソファとかクッションとか全部白なんだ」

 

 もしかして、それって私を意識して?

 それはそれで少し気持ち悪い気がする。

 

 姉様は変な汗を流して

 それ以上言わないで!って顔をしている。

 

「きっと、君が白猫だから黒黒がちょっかい出しちゃったんだろう?」

 

 違うような。違わないような。

 

「それに君、綺麗だしね」

 

 ボッ‼︎と顔が赤くなる。

 この人が言った可愛いは『愛玩動物』としても可愛いなんだろうけど顔が赤くなる。

 

 この人は『天然のたらし』だ。

 

 この人の所為で毒気を抜かれてしまった。

 

 

 

 今なら聴ける気がする。

 

 

 

 彼はご飯を片付けるため部屋を出た。

 

「・・・姉様、あなたは今でも私のことを家族だと思っていますか?・・・」

 

 そう、私は

 

「そんなの!当たり前だにゃ!」

 

 本当は

 

「・・・じゃあ、前の主人を殺した『本当の理由』を教えてください・・・」

 

 これが

 

「それは・・・」

 

 聞きたかったんだ。

 

 

「白音を守りたかったからにゃ!!」

 あぁ、やっぱり姉様は姉様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 姉様に全部聞いた。

 前の主人のこと

 私を守っていてくれたこと

 私を大切に思っていてくれたこと

 

 愛する人が出来たこと___

 

 

「・・・姉様、まだ私は貴女を許しきれません・・・」

「白音・・・」

 

 

「・・・だから、私が姉様を許せるように協力してください・・・」

「じ、じろねぇ〜!!!」

 姉様は私に泣きながら抱きつく

 

 これから少しずつ姉様のことを理解していこうと思う__

 

 調査メモ

《私は調査対象を数カ月にわたり観察し接触もした。

 そして、私なりに結論を述べる。

 

 彼は、私の心を素直になれるよう照らしてくれた日溜まりのような人。

 

 とても、優しい人。

 

 

 結論『彼は優しいだけのただの人間』

 

 以上___》











《調査メモ》
『調査対象は頭がいい』
『調査対象は世話焼き』
『調査対象は押しに弱い』
『調査対象は笑いのツボが可笑しい』
『調査対象は料理が上手い』
『調査対象は天然のたらし』

『調査対象はとても優しい人』




お気に入りが190を超えました!
ありがとうございます!

次からは『戦闘校舎に恋鳥を』を開始します!
それではまた明日!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。