ハリー・ポッターと幻想殺し(イマジンブレイカー)   作:冬野暖房器具

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 ちょこっと短いです。

 ※組み分けの順番は原作準拠にしました。なのでファミリーネームが先に呼ばれます。






06 組み分けの儀式

 

 

 

 

 組み分けの儀式は、あの喋るとんがり帽子が言った通りの内容だった。

 

「アボット・ハンナ!」

 

 マクゴナガルが名簿から新入生の名前を読み上げ、呼ばれた生徒は帽子をかぶる。言葉にするとかなりシュールな構図ではあるが、生徒達にとってはとても大事な行事だ。呼ばれて出てくる生徒達は皆緊張した面持ちで前に出てくる。

 

「マルフォイ・ドラコ!」

 

(……いや、みんながみんな緊張しているわけじゃなさそうだな)

 

 凄まじく堂々とした金髪の男の子がいた。足取りも軽く、そして組み分けの速度も凄まじかった。帽子が頭に触れるか否かと言うところで、組み分け帽子は高らかに「スリザリン!」と叫んだのだ。先ほどから組み分けをされてきた生徒の中では最速の組み分けである。

 

「ふん、あいつは当然スリザリンだろうよ」

 

 ふと、そんな呟きが隣から聞こえてきた。ハグリッドの声だ。

 

「当然?」

 

「ああ。アイツの家は代々スリザリンだ」

 

 家柄も関係あるのかい、と上条は心の中でツッコミを入れた。たしかに血筋で魔法の才能が遺伝する可能性はあるだろうが、さっきの帽子の歌によれば組み分けは性格が左右されるような内容だったはずだ。

 

 勇猛果敢なグリフィンドール

 忍耐強いハッフルパフ

 古き賢きレイブンクロー

 狡猾なスリザリン

 

(うーん、なんかスリザリンだけマイナスイメージだな……本当の友を得る、っていう意味もよくわからないし。何か理由があるのか?)

 

 そういえば、帽子は上条のことを「見ただけで」グリフィンドールと言っていたか。案外、割といい加減なのかもしれない。

 

「……ポッター・ハリー!」

 

 その名前を呼ばれた瞬間。大広間が水を打ったように静まり返った。

 

(……なんだ?)

 

 眼鏡をかけた男の子が前に出る。そしてひそひそと囁き声がところどころで語られていた。

 

「ポッターだって?」

 

「ハリー・ポッターか?」

 

 どうやら有名人らしい。その少年の頭に乗せられた帽子は、結果を出さずになにやら身をよじっている。どうやら少し悩み気味のようだ。

 

 しばしの沈黙。そして帽子はやがて結論を出し、彼の入る寮の名前を高らかに宣言した。

 

「グリフィンドール!」

 

 割れるような歓声が、グリフィンドールのテーブルから沸き上がった。なにやら赤毛の双子の兄弟が「ポッターを取った! ポッターを取った!」と肩を組んで跳ねている。嬉しそうにテーブルへと向かっていく少年の様子から察するに、どうやら彼の望み通りの組み分けになったらしい。

 

「やった! やったぞハリー!」

 

 ハグリッドも大喜びだ。豪快に拍手をしながら、ハリーの名前を叫んでいた。何故あの男の子にみな拘るのかはわからないが、ハグリッドのそんな顔を見ているとどうでもよくなってくる。とにかく祝福するべきことなんだろう。なんだかよくわからないままに、上条も拍手を続けていた。

 

(思い出した。そういえばあの子の名前を地下牢でスネイプが口にしてたな。あの男の子が何でこんなに特別なのか、後で聞いてみよう―――)

 

 チラリ、とスネイプを見ると、拍手をしながらも彼は苦虫を潰したような顔をしていた。丁度、上条の世話役を言い渡された時のあの表情である。

 

(……やっぱりダンブルドアにしよう)

 

 理由は不明だが。見えている地雷を踏みに行くほど、上条は馬鹿ではない。

 

 そして、組み分けが終わった。組み分け帽子は何処かへと片付けられ、ダンブルドア校長が立ち上がった。

 

「ホグワーツの新入生、おめでとう! 歓迎会を始める前に、二言、三言、言わせていただきたい。では、いきますぞ。そーれ! わっしょい! こらしょい! どっこらしょい! 以上!」

 

 ずこー! と上条はイスからずり落ちた。

 

「適当すぎるだろうが! 本当に二言三言ってどういうこっちゃ!」

 

「うん? どうした上条。なんかあったのか?」

 

「え……なに、もしかして今のがこっちでのスタンダードなのでせう?」

 

「んなわけねえだろうが。たぶん特に意味はねえんだろうな。ま、アレがダンブルドアの魅力ってやつだ」

 

「い、意味がわからねえ……くっ、これが慣習の違いってやつか……」

 

 もしかすると、自分の被っている『翻訳ハット』の誤訳かもしれない。そんな可能性を考えていた矢先、上条の疑問を一瞬で吹き飛ばすような出来事が起きた。

 

 突然、目の前の皿が食べ物でいっぱいになったのだ。ご馳走が山盛りだ。そんな光景を見た瞬間、上条は自分が如何に空腹だったかを実感した。

 

(……やっば、そういえば最後に飯食ったのって……昨日の朝か?)

 

 朝食を取り、アクロバイクに乗って学園都市中を駆け巡った後。バードウェイ姉妹を助けるために奔走し、そしてこの世界に至ったのだ。腕をぶった切られたり、怪しげな薬を飲んでぶっ続けで勉強もした。空腹どころの騒ぎではない。明らかに消費カロリーが常人を超えているというのに、摂取カロリーがゼロなのである。

 

 そして目の前には、上条がこれまで目にした事のないようなご馳走の山。もはや語る言葉もない。

 

 ハグリッドの真似をするように、上条もご馳走を掻っ込んだ。そんな二人を見て、ハグリッドの横に座るフリットウィック先生が言葉を失うくらいの勢いでだ。幸いにして料理は随時供給されるようで、肉を賭けてのハグリッドとの残虐ファイトには突入する気配はない。間違いなくそんな事をしたら上条は死んでしまう。

 

(ああ、でも。こんなに飯を食ってるとなんだか罪悪感が沸いてくるな)

 

 上条の脳裏を過ぎるのは一人の少女。主に上条の3倍は食べていた白い悪魔。

 

(インデックス、大丈夫かな……オティヌスもいるし、小萌先生と連絡ができてればいいんだけど)

 

 時空を越えて。少年は置いてきてしまった者たちへと思いを馳せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エヘン。さて、全員よく食べ、よく飲んだことじゃろう」

 

 頃合いを見てダンブルドアは立ち上がった。上条も含め、大広間にいる人間は皆満腹になったようだ。ハグリッドはまだゴブレッドを傾けてはいたが、ダンブルドアが立ち上がったのを見て中身を一気に呷った。

 

「ではまた、二言三言。新学期を迎えるにあたり、いくつかお知らせがある。まず最初に新任の先生を紹介しよう」

 

 そう言ってダンブルドアは上条を振り返り、応じるように上条は立ち上がった。

 

「魔法、呪いの解呪を専門としておる、上条当麻先生じゃ。あー、ファミリーネームが上条じゃな。皆とは歳も近いので、先生方に出来ない相談事などがあれば彼に言うといいじゃろうて」

 

「おいおい、近いってレベルじゃないぜ?」

 

「パースと同じくらいじゃないかな? ガチガチのアイツよりやわらかそうなモノが頭に詰まってそうだけど」

 

 静かな大広間に双子の冗談が飛び交い、最後に二人によるハトとウサギの物真似で生徒達から爆笑の渦が巻き起こった。おそらく上条が被っているシルクハットを揶揄してのことだろう。

 

 ちなみに当の上条といえば、これだけの観衆の中であれだけ堂々と出来る双子の兄弟を、素直に凄いと感心していた。緊張や重圧から、ほんの少しだけ解放されたかのような気さえする。ムードメーカーという言葉はああいう子達に付けられる名前なんだなと、上条はしみじみ思った。

 

「ほっほ、ちなみに上条先生の解呪の腕はワシ以上じゃ。敵に回すよりは、味方にしておいたほうがよいぞ?」

 

 ダンブルドアのそんな発言に、会場が一斉にどよめいた。嘘でしょ、という顔が大半だ。中には冗談だと思って笑っている生徒すらいる。例外は、ダンブルドアはそんな冗談を言わないことを知っている一部の生徒と教員たち。そして偏頭痛に悩まされているような顔のスネイプと上条である。

 

(あ、の、クソじじい―――っ!?)

 

 上条を振り返り、自信ありげにウインクをかますダンブルドアに対して上条は毒づいた。幸いにして本気で受け取っている者はいなさそうではあるが、上条から見れば洒落にならない冗談だ。成績優秀なインテリ系学生から授業に関する高度な質問がきたらどうしてくれよう。この右手で殴ればいいのだろうか? もちろん、生徒ではなくダンブルドアを。

 

「うむ、それでは次の議題に移ろうかの……」

 

 ダンブルドアのそんな声を聞いて、上条はドカッっとイスに座り込んだ。なんだか身体中の力が一気に抜けたようだ。緊張もほぐれ、満腹にもなった。これからの事に対する不安で吐きそうになり、ダンブルドアの言葉も耳に入ってこない。4階の右側の廊下がどうとか言っている。こんなしっちゃかめっちゃかに階段が動くこの城で、右とはどっちを示すのだろうかとか、そんな馬鹿な事を上条は考えていた。

 

「か、上条先生。すまねえ、雇われたっちゅうのは聞いてたが、まさかそんな高名な方だとは知らなくて、俺は―――」

 

「……いや、もう。なんかすいません」

 

 このあと、ハグリッドに先生付けをやめるように説得するので、上条は体力を使い果たした。結局やめさせることは出来なかったが、どうにか仲を修復し、なにやら感極まったハグリッドと肩を組みながら校歌を歌い上げ(ハグリッドの豪腕により、上条は半ば宙ぶらりんの状態となった)たところで、上条は完全にダウン状態である。例の双子のとびきり遅い葬送行進曲を聴きながら、上条は何処か遠いところを見ていた。

 

 「学べよ脳みそ、腐るまで、か」

 

 ここホグワーツで過ごすために。そして元の世界に帰るために。この二つの目的を達成するためにやらなければならない事は一緒だ。上条のいた世界と違って、こちらの世界には魔術も超能力も存在しない上に、元凶たる上里翔流(ワールドリジェクター)もいない。上条が今まで培ってきた知識では計れないような、そんな不思議に満ちた世界に。たった一人で立ち向かわなくてはならないのだ。

 

 ……やるしかない。必死になってしがみついて。恥も外聞もかなぐり捨てて。魔法という鍵を使って、元の世界へと帰る……そのためにはまず、鍵の使い方から学ばなければならないだろう。

 

(……ま、流石に脳みそが腐るより前には帰りたいけどな)

 

 魔法で映し出された夜空を見上げ、上条は決意を新たにする。天に輝く星へと手を伸ばすような、そんな無茶なのかもしれないけど。でも、これだけは譲れない。幾億の地獄の末に手に入れたあの世界は、絶対に諦められない。

 

 しがみつく幻想と旅立たせる理想の戦いは、まだ終わっていない。

 

 上条当麻の反撃が、始まる。

 

 

 

 

 


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