ハリー・ポッターと幻想殺し(イマジンブレイカー)   作:冬野暖房器具

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 申し訳ありません、大変遅くなりましたが続きです。どうかお付き合い下さいまし……

 そして久しぶりなのにちょっと短いです。ご容赦下さいまし……






15 退院

 

 

 

 

 

 

「なぁ先生。女子トイレでトロールをぶん殴ったって話、あれマジなの!? 学校中この噂で持ち切りだよ」

 

「まぁ噂っていうか、目撃証言があるから殆ど事実扱いなんだけどね。アンジェリーナがグレンジャーに直接聞いて確かめたからさ」

 

「おいお前ら、あんまり騒ぐとつまみ出されるぞ。あの人すっげー怖いんだからな」

 

「何のために昼飯時に訪ねてきたと思っているのさ。マダム・ポンフリーなら昼食に行ったよ」

 

「怖いってのは同意だけどね。トロールと比べてもいい勝負はするんじゃないかな?」

 

 トロール襲撃事件から1日。巻かれた包帯の殆どが回収され、夕方には退院であると告げられた上条の元に、上条のよく知る騒がしい二人組が訪れていた。フレッドとジョージ、ホグワーツ最強の双子の襲撃である。襲撃と言っても、杖を振り回してのカチコミを仕掛けてきたということではなく。実際には病人用の不味い昼食を食べていた上条に、キッチンからくすねてきた食べ物を持ってきてくれたありがたい存在なのだが……食事に関してはもっぱら与える側であった上条が、うきうきとパンやチーズを齧っているところへ双子が仕掛けてきたものとは。ホグワーツに出回っている噂話の確認と、彼らの実験のために幻想殺し(イマジンブレイカー)を貸してほしいという要請であった。

 

「あのな……それ絶対に本人に言うなよな。それで? 噂が殆ど事実扱いなら、お前らは一体何を聞きに来たんだ?」

 

「何って、あのバカでかい大穴の事に決まってるじゃんか! アレのせいでみんな信じてないんだよ!」

 

「先生の右手を一番よく知ってる俺らでさえ半信半疑さ。何をどうしたらホグワーツにあんな穴が空くんだってね」

 

 ホグワーツの床に大穴を空ける方法について、何故か赤毛の双子は目をキラキラさせていた。『上条の右手にはまだ隠された機能があるのでは?』 と期待に胸を膨らませている二人なのだが……それを知る由もない上条としては、ホグワーツに穴を空ける方法を知って、それでどんな悪戯を仕掛けるつもりなのかと戦々恐々である。トイレの大穴に落ちていったトロールの姿が、この双子にいつも撃退されているモンタギューの姿と重なった。

 

(……まぁ教えたところで何が出来るってわけでもないとは思うけど。でもこいつら、幻想殺し(イマジンブレイカー)について相当研究してるっぽいしな……念には念を、とりあえずいつものアレで行くか)

 

「あー……そうだな。実はこの手袋なんだが……」

 

「やっぱりこの手袋に何か秘密があるのか? すっげー!」

 

「ああ、とんでもねえな。俺らが構想中の『盾の呪文グッズ』を軽く超えてるじゃんか」

 

「いやそういうわけではなくてだな……」

 

 今にも右手に飛び掛かり、手袋をはぎ取り兼ねない二人を見て上条は少し身を引いた。もしもそんな事になろうものなら、最悪ホグワーツに二つ目の大穴を空ける事になりかねないのだ。トロール一匹を丸々叩き落せるほどの規模のソレを見たあの女医が、怒髪天を衝くのは想像に難くない。

 

(まずったぞ……こいつらは簡単に身を引くようなタマじゃない。もしこれで四六時中狙われでもしたら……)

 

 悪戯で右に出るものはいない、ホグワーツ最高峰の問題児。そんな彼らが、上条の隙を突いて手袋を剥ぎ取りに来ない保証などあるはずもなく。この二人を放置しておくのは、不発弾をぶら下げて歩き回るようなものである。これはいけないと、上条は早口で話を先へと進めた。

 

「実は、この手袋はダンブルドアへの連絡手段なんだ。緊急時に知らせるための魔法がかかってる」

 

「ダンブルドア? マジで?」

 

「マジだ。あのデカい穴を開けたのもダンブルドアだよ。この手袋には、特別な能力なんてないさ」

 

 上条がわざとらしく肩をすくめて見せると、双子は困ったような顔つきになった。世界最高の魔法使い、困ったときのダンブルドアである。その肩書は伊達ではなく、この世のどんな摩訶不思議な出来事でも、彼の名前は理由になる。

 

(完全に嘘だけど、あの人の無茶苦茶には相当困らされたからな。これくらいはいいだろ。コイツを外したらダンブルドアに伝わるのは本当だし)

 

「……でもさ、グレンジャーが言うには上条先生」

 

「トロールの腕を伝って、あの醜い顔面に殴りかかったって聞いたぜ? その右手で」

 

「ん? ああ、そうだな。なんとか気を引こうとしたんだが……それがどうした?」

 

「いや、気を引くだけじゃなくてさ。何か他にもあるんでしょ先生? なにせその右手は」

 

「色んな魔法を一撃で打ち消す。それ以外にも隠された力が何か──

 

「ないない。それ以上のモノは何もないっての」

 

 厳密には嘘かもしれないが、ようやく大人しくできそうな猛犬二匹をみすみす逃がす事もない。上条がそうはっきりと否定すると、双子たちはますます険しい顔つきになった。

 

「マジかよ、それってつまり……」

 

「普通に素手でトロールに殴りかかっただけって事か?」

 

「何だお前ら、壊れたレコードみたいに。最初にそう言ってただろ? 素手じゃなくて手袋を着けてだけどな」

 

 そんなこんなで、何か怯えたような表情で双子は去っていった。なにやらクレイジーだのなんだのとぶつぶつ呟いていたが、その原因を上条は知らず。そんなことよりも、今後彼らに右手を貸すときは注意が必要だなと上条は思った。彼らが今後興味本位で手袋に手を出さない保証はない。万が一にも魔法薬の授業、すなわちセブルス・スネイプの教室に穴を空けてしまった日にはどうなることか。夕食に毒薬を2,3滴ならまだいいほうで、上条自身が大鍋に丸ごとぶち込まれ、そのままスネイプの夕食になりそうな気配さえする。

 

「いや、アイツならどちらかと言うと魔法薬の材料かな。下手をすると瓶詰で棚に並べられるかもしれないなんて……不幸だー」

 

「ほう。それは一体誰の話だ?」

 

 背後から聞こえてきた悪魔のような低音ボイスに、上条はぎくりと身体を硬直させる。おそるおそる振り返るとそこには、腕を前で組み直立不動の姿勢で上条を見下ろす、噂の魔法薬の先生の姿があった。

 

「い、いつからそこに?」

 

「最初からだ。正確には隣のベッドだが。あの双子よりも早く、貴様が寝ている間に吾輩はここに来ていたのだ……お陰で貴様らのくだらん話を延々と聞かされるハメになった」

 

 本当に苛ついた表情でそうぼやくスネイプだったが、上条はその言葉に少々違和感を覚えた。

 

(いま何か……誤魔化した? コイツの性格なら、あの兄弟が居ても関係なしに出てくるはずだと思うんだが……出てこれない理由があった、のか? そもそもコイツは何故ここに来ていたんだ?)

 

 マダム・ポンフリーを訪ねてきたわけではない。彼女が昼食時に不在なのはあの双子が知っていたのだ。何年も同じ職場で働いているスネイプが知らないはずがない。ならば上条に何か用があるのかとも考えたのだが、それだとあの双子が帰るのをわざわざ待っていた理由が不明である。

 

(というか、俺に用があるならスネイプは問答無用で叩き起こすし……俺でもマダム・ポンフリーでもないとなると……この場所か? 医務室ってことは……)

 

「どこか具合でも悪いのか?」

 

 上条の何気ない質問に、スネイプはピクリと眉を動かした。やや片足を庇う様に身を引き、飢えた猛獣のように上条を睨みつけるその仕草は、生徒から見れば鍋に突っ込まれる5秒前とも取られかねない仕草であったのだが。上条としては困り顔のスネイプという、少々珍しい物が見れたな程度の感想しか抱かなかった。

 

(怪我、かな。生徒に弱みを見られたくないってとこか。そういや双子の仕掛けた笑い薬にも過敏に反応してたなコイツ。やれやれ、そこまで生徒に警戒する必要なんて……いや、前言撤回。あの双子相手なら警戒はして当然だ)

 

「別にそこまで身構えなくても、言いたくないならいいっての。それよりいいのか? このままだと昼飯が終わっちまうぞ?」

 

 のんびりとした上条の言葉に、スネイプは2,3度口を開きかけた後。いつもの仏頂面に戻ると、足を引きずりながら早足で医務室から去っていった。

 

「……まったく、なんだってんだか」

 

 その後ろ姿を見守りながら、上条は双子の持ってきてくれたパンを再び頬張る。だがしかし、魔法薬の先生とすれ違う様にして、昼食から帰ってきたマダム・ポンフリーの姿を見て、上条は思わず喉を詰まらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーと、ダンブルドアの部屋は……こっちだったか?」

 

 そんなこんなで、マダム・ポンフリーにまたもや小言を貰い、夕方には叩き出されるようにして退院した上条といえば。相も変わらず階段が動いたり廊下の道が数本増えたり減ったりする、傍迷惑な魔法学校の仕様と格闘していた。

 

(やっぱり復帰の挨拶はしとかないとなー……まさかとは思うけど、ホグワーツを損壊させたせいで解雇(クビ)とかは流石にないよな? アレは緊急事態だったわけだし)

 

 益体もない事を考えながらさ迷うこと数十分。見慣れた道を発見し、上条はようやく校長室の前へと辿り着いた。ダンブルドアの部屋に続く入り口は普段隠されており、入るためにはその手前に設置されたガーゴイルの石像へと合言葉を告げる必要がある……はずなのだが。

 

「さて、新しい合言葉はマダム・ポンフリーに聞いてきたわけだが……何があったんだコレ、大丈夫なのか?」

 

 上条の目の前には、何故か包帯でぐるぐる巻きにされている何かが鎮座していた。まるで昆虫の(サナギ)のようにぎっちりと巻かれており、剥き出しのまま直立して飛び出している翼だけが、辛うじて中身がガーゴイルであった事を示している。上条が恐る恐る「ナメクジゼリー」と告げると、石像はぎこちない動きで回り始めた。どうやら機能は失われていないらしく、訝しく思いながらも上条は校長室へと足を進める。

 

(あれ、……扉が開いてる? 誰かが先に来ているのか?)

 

「なぜアレを放置しているのですか?」

 

 部屋の中から聞こえてきた野太い声に、上条は思わず身体をすくめた。条件反射とも言うべきか。声の主は考えるまでもなく彼のよく知る男、セブルス・スネイプその人である。

 

「吾輩は報告したはずです。ハロウィンの夜にあった出来事全て、過不足なく……」

 

「うむ、確かにな。それも口頭での報告だけでなく、わざわざ書面でまとめてくれるとは思わんかった。君はなかなかに几帳面じゃのうセブルス」

 

「伝わっていないと思ったのですよ。ここまで証拠が揃っているのにも関わらず、傍観を決め込むとは夢にも思いますまい」

 

 そしてもう一人はダンブルドアの声である。だが普段通りのダンブルドアに対し、スネイプは少し声色が違った。いつもの冷徹な雰囲気から、明らかに怒りの色が染みだしているのだ。顔が見えないにも関わらず、上条には氷のような眼差しのスネイプが見えるようだった。

 

(まずい所に来ちまったな……でもこの二人が言い争うっていったい何があったんだ?)

 

 出直すべきかと思い立った上条だが、好奇心の文字が彼の足を縫い留める。スネイプの声色を鑑みるにこれはただ事ではない。事と次第によっては仲裁に入るべきなのではと自分に言い訳をし、上条は物音をたてないよう扉に耳を近づけた。

 

「証拠と言うのは少々語弊があるじゃろう。たまたま、間の悪い所に出くわしただけなのかもしれぬ」

 

「ご冗談を。校長、よもやその優秀な頭脳をトロールと交換でもしてきたのですかな? 間の悪い事に、で生徒が2、3人粉々になってからでは遅いのですぞ」

 

「いらぬ心配じゃのうセブルス。生徒思いの君が目を光らせておれば、そうはならんとワシは確信しておるよ」

 

 そんな二人のやり取りに上条は思わず顔を顰めた。ホグワーツ暮らしが短いといえども、彼らの皮肉のニュアンスが理解できる程度には上条も成長している。スネイプを『生徒思い』と評するのは言わずもがな。魔法生物たるトロールについても、つい先日濃ゆいお付き合い(物理)をしたばかりなのだ。アレと脳みそを交換したのかという言葉が、かなりの侮辱の意味合いが強い事も理解できる。そしてそれを校長にぶつける程度に、スネイプがぶち切れていらっしゃる事に気づき、上条は戦慄していた。

 

(おいおい、スネイプの奴ダンブルドアに掴みかかっていかねえだろうな? ここまで激怒するなんて、ハロウィンの夜に一体何があったんだ?)

 

 事態は上条の予想を遥かに超えて深刻だった。なんとかして部屋の様子を伺おうとドアの隙間に顔を近づけてみたものの、角度の関係で2人の様子はまったく見えない。音を立てないように隙間を広げようと手を伸ばした所で上条は動きを止めた。スネイプでもダンブルドアでもない視線に、自らが晒されている事に気づいたからだ。

 

(フォークス……居たのか。随分と大人しいから気づかなかったぞ)

 

 十字架のような形のコート掛けの頂点で微動だにせず、ダンブルドアのペットである不死鳥がじっと上条を見つめていた。不死鳥と言っても、彼(彼女かもしれないが)がそれらしい素振りを見せた記憶はなく、アマゾンの奥深くに生息していそうな普通の鳥っぽいな、というのが上条の抱く印象である。そんなフォークスを思わず上条が見つめ返していると、彼はくいっとくちばしを横に振った。まるで人間が顎で何かを示すかのような動きである。そしてその方向は言わずもがな、未だ言い争いを続ける二人に向かってであった。

 

(俺に止めろってか!? ったく、鳥に顎で使われるとは……いや、顎じゃなくてくちばしか。まぁ、自分の主人が言い合いをしてたら、止めたくなるのはわからないでもないけどよ)

 

 不死鳥に言われるまでもない。深呼吸をし気持ちを落ち着けると、上条は半開きの扉をノックした。

 

 

 





フォークス(エサの袋に向かって)くいっ


上条「味 を 占 め る な」






 スローペースですがぼちぼち復活したいと思います。

 あと、とんでもないモノを感想欄で頂いておりまして、せっかくなので紹介させて下さいまし。

【挿絵表示】


 はたけやまさん作です。ディズニー版上条さんかよォ!!? と謎のツッコミを上げた駄作者はまぁ置いときまして。今さらの紹介で申し訳ありません。レベルが高い(異次元かな?)1枚をありがとうございました。

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