無限の龍と無神臓   作:超人類DX

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一気に飛びます。

何か色々と飛びます。


無神と自由
災害人間


 禍の団(カオスブリケード)……だったか? オーフィスが知らん間に作った対グレートレッド組織の名前って。

 あ、いや名前なんてこの際どうでも良い。

 

 問題なのはそれを作った本人である無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)―――つまりオーフィスの『組織としての長』的な意味でのやる気が、この前から消えかけている事だ。

 

 元々アイツは『故郷を占拠して煩いグレートレッドを倒して静かに生きたい』という目的があって、わざわざ仲間集めまでしてた。

 けれど単なる人間の餓鬼――つまり俺に寄生するようになってからはその野望が薄らいでしまっており、今じゃ……

 

 

『イッセーの傍らに居れば安心できるから別にグレートレッドはいい』

 

 

 等と宣い始めてる。

 それがどういう意味か解るだろうか?

 別に背景も仲間も何にも持たないオーフィス個人の決心なら誰の迷惑にもなりゃしないけど、オーフィスの力に寄生して各々野望を持つ輩からすれば、今のオーフィスの考えは歓迎できない話なのだ。

 

 ならどうするか? その理由であるナニカ――つまり俺の消滅だ。

 そうすればオーフィスは組織の長として君臨し、その力に思う存分寄生できるって寸法である。

 

 まあ、これは完全に予測で安直すぎる話だが、少なくともうざったい存在だけは消せるのは間違は無い話ではある。

 そんな事になったとしても消えてやるつもりは毛頭無いし――――

 

 

「悪いけど、オーフィス(コイツ)が俺に飽きるまでは、傍らに居ようが構わないよ。

傍らに居ることを認める認めないの意思もまた『自由』だし、決めるのは他の誰でもない俺自身だ。

それを一々外野が煩いというのであれば消すよ? 俺自身の『自由』の為にな」

 

 

 邪魔者を消そうとする輩は誰だろうと捻り潰す。

 父さんと母さんを失ったあの日から、その為に俺は強あり続けようとしたんだから。

 

 

「来いよ……そして見せてやるよ。

ベタベタと鬱陶しいチビ助に借りたデカいもんの為に鍛えた俺の力をぶちかましてやらぁ」

 

 

 何だかんだ……オーフィス(アイツ)は嫌いじゃない。

 

 

 

 

 禍の団(カオスブリケード)には様々な派閥がある。

 それはオーフィスがそうしろと言った訳ではなく、種族やら何やらでいつの間にかそうなっていた。

 だが何処の派閥も決してオーフィス自身が一誠の傍らに執着を見せ始めてる――一誠という人間の存在自体を知らず、知っているのは英雄派の曹操とかその辺りだったりするが、曹操自身は一誠の名を決して口に出さずに居た。

 

 理由は簡単だ……バラしてしまった後の報復が怖いのと、一誠を仲間にする確率が完全に消えるのを避けるためだ。

 

 故に曹操は最初耳を疑った。

 そんなバカなと信じようとしなかった。

 何かの間違いだと直接確かめようとすら思った。

 あの一誠が――あの一誠が……。

 

 

「三大勢力会談を襲撃した旧魔王派の一味達を単身で殲滅した……だと? バカな、アイツは目の前で戦争をやってようが冷めた目でポテチをかじってそうな奴なのに……」

 

 

 輪ゴムで射殺され、鉛筆で両断され、己の渾身の一撃を分度器で防がれ、メリケンサックだと眼鏡でボコボコにされ……幾度と無く真面目な戦闘になる事もなく自分を捩じ伏せては『誰かにバレて面倒な事になったらどうしてくれるわけ?』と、目立つことを嫌がっていたあの男が、天使、悪魔、堕天使のトップが集う席で、見ている前でそのクソが付く理不尽な力を見せた。

 

 それがどういう意味なのか一誠が一番よく知っている筈なのに、何故今更……。

 曹操は困惑しつつも確かめたいという気持ちを押さえきれず、人間界へと飛び出した。

 

 

「来るか一誠……! 人間の強さを奴等に見せ付ける為に!」

 

 

 奥底に沸き上がる『歓喜』と共に……。

 

 

 

 

 

 ―約一ヶ月前―

 

 

 

 急に花火がしたくなった。

 そんな理由でまだ到来してない季節を無視してネットショッピングで仕入れた花火セットを片手に、川の土手でオーフィスと花火をした。

 

 

「!? イ、イッセー! これに火をつけたらこっちに来る!!」

 

「はは、そりゃネズミ花火だ」

 

 

 結果、夏も近付いて蒸し暑かったせいか割りと楽しめた。

 ネズミ花火にビビってる無限の龍神とか見てて笑ってしまう程にはな。

 

 

「『ねずみはなび』にはビックリしたけど楽しかった。また今度やりたい」

 

「おう、なら次やる時は『2百連発花火』を見せてやるよ」

 

 

 その帰りだ。

 事が起きたのは――いや、感じたのは。

 

 

「あ? 学園の方角に人間じゃない強い何かが集まってるだと?」

 

「本当だ、感じる――力と力の奔流とぶつかり合い……」

 

 

 学園に通ってる生徒会長さん含めた悪魔達が宴でもしてるのか、それとも別の事でもしているのか。

 悪魔じゃない……あきらかに違う強さのオーラを感じる辺りそんな平和な事態では無いのだろう。

 オーフィスも暗くなってる辺りを無視するかの様に一点だけ輝く箇所を見つめながらそう断言してるからして、間違いなくデカい戦いをしてる。

 

 

「…………。ま、どうでも良いか」

 

 

 だが俺にとってはクソが付くレベルにどうでも良い。

 十中八九悪魔が何かしてようが何してようが、人間である俺には何にも関係ない。

 だから近付かない……戦いに負けて死のうが何されようが俺の人生に何の影響も無い。

 無いったら無い……無いのだ。

 

 

「イッセー……気になるの?」

 

「あ? ならないな」

 

 

 そう……無い――

 

 

「でもイッセーの顔は『気になる』って顔」

 

「あ?」

 

「…………。気になるのであれば行ってみれば良いと我は思う。

大丈夫……それによってイッセーの正体がバレても連中にイッセーは囲えないし、我が許さない。

だから行くべき……その方がスッキリする」

 

 

 無い……筈なんだよな。

 

人間界(ココ)を他の奴等に荒らされるのが嫌なんでしょう?」

 

「……………」

 

 

 それなのに俺はオーフィスの言葉に……向けられる視線に目を逸らしてしまう。

 別に正義の味方のつもりも無ければ、人々を守る使命感に燃えてるつもりも無い。

 無いが、テメー等の領土でも無いこの場所で煩くされるのはもっと嫌だし、そもそも小突き合いのせいで学校が壊されたらどうしてくれる? せっかく今年もJKのプール事情が覗ける季節が近付いてるのに、奴等のせいで壊されたら嫌だっつーか気に食わない。

 

 

「行こイッセー……。

我と一緒なら誰だろうと邪魔にすらならない」

 

「……」

 

 

 だから俺はオーフィスに言われ、そのままチビなオーフィスを抱えて学園まで走り出した。

 

 

「…………。あの眼鏡の悪魔も気になる?」

 

「何でそこで生徒会長が出てくるんだよ?」

 

「……。最近また学校に行くようになった原因だし、行く度にイッセーの身体にその雌の匂いが付いてるから」

 

「あ? あの生徒会長とはそんな関わりなんて―――あー……頻度は多いかも」

 

「やっぱり……。我アイツ嫌い、イッセーの傍らに居るのは我だけで良い」

 

「おいおい……あの生徒会長は俺が喧嘩売ったからムキになってるだけだっつーに」

 

 

 学校に通う様になってから煩い貧乳悪魔は無事なんだろうか――なんてちょっとだけオーフィスに見透かされながらな。

 

 

 

 

 私にとって兵藤一誠という人間は、只の学生間での後輩でしかない。

 悪魔になるかどうかの勧誘もしないし、ましてや正体を明かすなどという事もない。

 あくまで駒王学園生徒、支取蒼那としての小生意気で敬い心皆無な変態後輩という感情しか無い。

 

 

「くっ、魔王様達は……?」

 

「ま、まだです」

 

「ど、どうしましょう? やはりグレモリー様とその眷属の皆さんだけではとてもコカビエルには……」

 

 

 故にある訳が無いと思っていた。

 目の前で起こる大事で頭の中から消えていた。

 

 

 

 

 

 

「夜の学校って何か冷たい空気感じるよな」

 

「我にはよくわからないけど、何だか楽しそう」

 

 

 

 

「え?」

 

 

 私と私の眷属達が張った障壁をアッサリとくぐり抜け、学園に入り込んできた彼の姿を見た時は……幻覚でも見ているのでは無いかと……。

 

 

「え、ちょ……だ、誰か入ってきましたけど……」

 

「背中に背負ってるのは……子供? いやその前に認識阻害の障壁をくぐり抜けたって……」

 

 

 だけど幻覚じゃなかった。

 少なくとも私も私の眷属達も、初めて見る小さな女の子を背負いながら呑気に侵入してきた兵藤一誠という人間に面を喰らってしまい、思わず帰れという言葉も無く校舎へ―――いや、真っ直ぐリアス達とコカビエルが戦ってる校庭へと足を進めてる姿を見つめていた。

 

 

「あ、アイツ兵藤っすよ!

この状況で何故ノーリアクション!? いやそんな事よりあのバカ校庭に――」

 

「っ!? ま、まずい……早く止めないと!」

 

 

 それがどういう意味か。

 認識阻害の障壁をくぐり抜けた途端に飛び込んでくる筈の、どう見ても普通じゃない状況に冷静なのかとか色々とツッコミを入れたくなる事が山程あるが、それよりも前に早く彼に逃げろと警告しないと、校庭での戦いに巻き込まれたらあっという間に殺されてしまう、

 

 いくら変態でスケベで、私にたいして生意気な態度のムカつく人でも弱い人間であることと、巻き込む訳にはいかないという使命感に囚われた私は、私の兵士の男の子と一緒に、呑気に幼女を背負って校庭へと向かって行った兵藤一誠を止めようと走り出した。

 巻き込まない……その一点だけを想って。

 けど……。

 

 

「ひゅう♪ 見ろよオーフィス、あの光ってる剣やら空に浮かんでるデカい陣……確定的に人間界(ココ)でやるべきじゃねーよな?」

 

「な、あ、アナタは確かソーナが愚痴ってた……え、あ? ええ? な、何でここに!?」

 

「誰だ、リアス・グレモリーが呼び寄せた増援か?

おいおい、まさか只の人間を寄越すとはな……ガッカリだぞ」

 

 

 彼は『知っている』って口調で、校庭に広がる景色を見ても動じずに背負っいる幼い女の子と、私達の驚いたリアクションすら気にせず呑気に話し掛けてる兵藤君を見て漸く気付かされた。

 

 

「イッセー……おんぶじゃなくて我はお姫さま抱っこが良い」

 

「背とおっぱいが足りねーよアホ」

 

 

 彼は元から『知っている側の人間』だったという事に。

 

 

「ひょ、兵藤……くん……?」

 

 

 そこかしこが穴だらけの荒れ果てた校庭に現れた一人の人間……兵藤一誠に私は恐る恐る話し掛けた。

 コカビエルとの戦闘でボロボロになっているリアスやその眷属――果てにはコカビエルとその仲間達の視線を一斉に受けても尚、あっけらかんとした出で立ちの兵藤君は、私の声にピクッと反応し振り向いて目が合う。

 

 

「あ、生徒会長生きてたんだ。

なーんだ、ボロカスだったらニヤニヤしてあげようと思ったのに」

 

 

 知っている側の人間としての兵藤と話すのはこれが初めて。

 けどこんな状況にも拘わらず、彼は何時もの通り……何の動揺も無しに何時も私を小馬鹿にする時に見せる半笑みを浮かべながら、ムカッとする一言も何時もと変わらない。

 

 

「なっ!? あ、アナタねぇ……! 何でこの状況を見て平静なんだとか色々と聞きたいですが、やっぱりムカつきます!!」

 

 

 けどその態度に何処かホッとしている自分が居る。

 

 

「そんなに怒んなよー? カルシウム不足なら牛乳とか飲めよ。

そしたら怒りっぽさと――――へっ、2しか無いおっぱい力も少しはマシになるぜ?」

 

「胸は今関係ない!!」

 

 

 そして焦っていた気持ちも無くなっていた。

 リアス達やコカビエル達……そして私の眷属達が言葉を失いながら此方を見てるのを感じる中、私はムキになってヘラヘラしてる彼を言い負かすと口を開こうとするが……。

 

 

「イッセー そんな奴に構ってないでどうするか決めるべき」

 

 

 それを止めたのは、彼に背負われてる一人の少女だった。

 長い黒髪と感情の読めない黒い瞳……この少女もまた自分達を知っている側の存在なのは間違いないが、何処と無く不機嫌そうな声なのは気のせいなのか……。

 

 

「はいはいわーったわーった」

 

 

 そんな少女の声に兵藤君はいい加減な生返事をすると、何を思ったのか呆然としていたリアスと上空で見下ろしていたコカビエルの双方交互に向き、こう言ったのだ。

 

 

「あのさ、俺近所に住んでるしがない人間なんすけど……さっきからがーがーと喧しいのよねー

 何がしたいのか一切の興味は無いんだけど、もう少し静かに出来ない? 出来ないなら力付くで黙らしちゃうよ?」

 

『……………』

 

 

 この人間は何を宣ってるんだ?

 少なくともリアス達やコカビエル達や私の眷属達は大真面目に彼の頭を心配してしまうレベルの一言だった。勿論私も。

 

 

「おいおい人間よ、頭の程は大丈夫か? この状況を見てただ事では無いことぐらい『知っている側の人間』ならわかるだろ? そして人間程度の貴様が文句を言える立場では無いこともな」

 

 

 コカビエルに至っては呆れを通り越していっそ憐れむような表情だ。

 

 

「ちょ、ちょっとキミ……」

 

「はい、なんすか―――うひょおっ!? 何と素晴らしきピンク色! しかもおっぱい力53万だとぉ!?」

 

 

 リアスも同じくで、いきなり現れては文句を言う兵藤くんに話し掛けたが、返ってきたのはだらしない顔する変態のリアクション。

 私はそれを見せられて、変な贔屓を感じて腹が立った。

 

 

「っ!? そ、そうじゃなくて……は、早く此処から立ち去りなさい、死にたいの!?」

 

 

 コカビエルとの戦闘でボロボロになってしまった服は胸元を露出させており、それが変態兵藤くんを興奮させる材料となっているのだけど、リアスは咄嗟に胸元を隠しながら激高した様に帰れと言う。

 

 するとだらしない顔でニヤニヤしていた兵藤くんの顔付きが一変、何処か冷めた表情へと変化させ、その表情に見合う冷たい声色でリアスに言った。

 

 

「帰るのは良いが、アンタ等でアレを黙らせられるの? 見たとことズタボロだし、アンタの部活仲間もやられてるじゃん」

 

「っ……!?」

 

「そこの生徒会長とその役員達はまだ無傷みたいだけど、見たところ誰もアレを黙らせられるだけの力も無さそうじゃないか」

 

 

 初めて見る、感情の読めない表情から放たれる言葉にリアスは『何も知らないアナタが何を……!』と顔を歪め、ついでにバカにされた様に言われた私の眷属達も思わず殺気立ちながら少女を背負う兵藤くんを睨み付ける。

 

 

「カハハハハ!! 人間に心配されるとは魔王の妹の名が泣くぞ!」

 

 

 上空でコカビエルが高笑いをしてる。

 人間にバカにされている事が愉快で仕方ないとばかりに。

 しかしだからこそ気付けなかったのだろう、只の人間だと私達を含めた全てが、この少女を背負ってる少年を弱くて、巻き込んではいけない人間だと思い込んでいたから、見えなかったのだろう。

 

 何故なら私達は見てしまったのだ……。

 

「ったく……」

 

 

 人差し指と親指を立てて拳銃に見立てた手の指先を、笑っていたコカビエルに向けた兵藤君は、一見してふざけてるとしかやはり思えなかった。 

 けれど……

 

 

「はい……どーん」

 

「ギャァァァァァッ!?!?!?」

 

 

 子供の遊びみたいな擬音を声に出した瞬間、私達は見てしまったのだ。

 上空から降り注ぐ血の雨と共に聞こえる耳をつんざく様なコカビエルの悲鳴と、何かが千切れるような生々しい音を。

 

 

「ぐ……ガァァァァァッ!?」

 

「あれ、様子見で輪ゴムじゃなくて空気鉄砲にしたつもりなんだけどな……。腕と翼と足を撃ち抜いちゃったぜ」

 

「所詮そんなもの……イッセーを人間だと見くびった者なんて」

 

 

 翼と五体が千切れ、地へと堕ちて苦しみに呻くコカビエルを冷めた様に見下ろすその姿を見るまで、私達は人間を――いや、あまりにも兵藤一誠を知らなすぎたのだ。

 

 

 

 

 上で煩かったから。

 そんな理由で輪ゴムの万分の一加減するという意味合いで放った空気鉄砲は、一誠の背中で密かにくんかくんかとしていたオーフィス以外の誰にも軌道を視認される事無くコカビエルの翼と腕を脚を撃ち抜き、破壊し、地面へと落とした。

 

 

「き、貴様ァ……! い、今俺に何をした!?」

 

 

 肘から先と膝から先……そして片翼をもがれ、赤い鮮血を流しながら地面へと叩き落とされたコカビエルは、激痛に顔を歪めながらも何とか冷徹な表情の一誠に対して喚くように問う。

 だが一誠は答える事もなく、代りにポケットから1本の鉛筆を取り出すと、その先端をコカビエル――――では無く唖然と驚愕の表情で固まっていた聖剣を持つ少年と、初老の神父へ向けてると……。

 

 

「ほーら仲間がピンチだぜ、助けに来いよ?」

 

 

 薄く……底冷えするような冷笑を浮かべながら二人を挑発した。

 どっちが悪役なのかこれでは解らないが、少なくとも呆然としていた片方……剣を片手に持っていた方の少年は、この挑発にカチンとしてしまい――

 

 

「いきなり出てきたしゃしゃり出てんじゃねぇぞボケ!! この聖剣ちゃんでバラチョンにしてやらぁぁぁっ!!!」

 

「っ!? よ、よせフリード!」

 

 

 5つを束ねた聖剣を振りかざしながら鉛筆片手にその場から動く気配の無い一誠へと突撃する。

 後ろで初老の神父――バルパー・ガリレイが本能的に一誠から何かを感じたのか、突撃をしようとするフリードに制止の声をあげるが、それは届かず、フリードは聖剣の力をフルに使って地を蹴る。

 

 

「へー聖剣ねぇ? なるほど……ならこの聖剣エンピツカリバーとどっちが強いか勝負しようぜ?」

 

 

 数メートル程飛び上がりながら聖剣を振り下ろそうとするフリードに一誠は小さくそう呟いた。

 聞こえたのは背に乗るオーフィスのみであり、唖然としていたリアスとソーナはハッとして一誠を突き飛ばそうと動き出そうとするが……。

 

 

「う、うそ……だろぉ……?」

 

 

 その必要は皆無だと言わんばかりに、伝説の聖剣はたった1本の鉛筆によってフリードの腕ごとへし折られた。

 

 

「っ!?」

 

「な……!?」

 

「そ、そんなバカな!?」

 

「せ、聖剣が……!?」

 

 

 あまりにも有り得ない現象にリアスは、ソーナは、コカビエルは、聖剣と因縁を持つ木場祐斗は、聖剣奪還の任務で訳あってリアス達と共闘していたゼノヴィアは――誰も彼もが真ん中からへし折られ、無惨に地面を金属音と共に転がる聖剣を見て愕然と――そして恐怖した。

 

 

「あらら? 50円の鉛筆の方が強いとか、どんだけナマクラなんだよそのへし折れた剣は?」

 

 

 急に現れた目の前のコレは一体何だ? と……。

 

 

「まあ良いや……取り敢えずコレだけやれば後は生徒会長やらオカ研の部長とその仲間達で何とか出来るだろ?」

 

「「……」」

 

 

 だが誰も声に出して問えない。

 驚愕……そして遅れてやって来る得体の知れ無さへの恐怖が震えと、吐き気と、寒気に押し潰されて声が出せない。

 

 

「イッセー……イッセーの匂いで我のお腹がむずむずするから、帰ったらたくさん交尾しよ――」

 

「うっせ黙れこのバカ龍。

折角スタイリッシュに決めたのに台無しじゃねーか」

 

 

 人間だ。神器も無い只の人間だ。

 特徴としてはいつの間にか『転校して』居なくなった彼とそっくりな少年と本当にそっくりという意外は寧ろこの中の誰よりも人間だ。

 

 しかし見せ付けられた力は全て化け物じみてて……。

 

 

「っ……そ、その餓鬼の背中に居る……の――う、ウロボロス……ドラ……ゴン……」

 

『ッッ!?!?』

 

 

 出血多量の重症のコカビエルが口にした『この場に現れる訳もない筈の伝説』と平然と共にしている人間。

 

 

「む……何でバレた? 我何も言ってないのに」

 

「お前がアホな事をほざいた時にちょっとだけ力が漏れてたせいだ。チッ、やっぱこの白髪君が言った通り、しゃしゃり出るべきじゃなかったぜ」

 

 

 それが余計に悪魔達を得体の知れ無い恐怖を抱かせるのに充分だ。

 

 

「まあ良いや、何時かはバレるんだし……そんな事より後は頑張って下さいね。俺はもう帰るんで」

 

 

 そして平然と帰ろうとする一誠とオーフィスを呼び止める事も恐怖ゆえに出来ない。

 リアスもソーナも誰しもが……突然現れた二人組を止められる力が無い故に、堂々と帰ってしまった二人を追い掛ける勇気が沸かず、ただただその場に立ち尽くすだけしか出来ないまま、白龍皇の少年が現れるまでそのままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 今日のイッセーはちょっとイッセーらしくないと我は思った。

 隠してた力をわざわざ見せ付けたり、口封じに見てた者達を殺そうともしなかった。

 何で? 我はイッセーに聞いてみると、イッセーはこう言った。

 

 

「隠し事ってのも案外ストレスが溜まるんだよ。

ついこの前、俺の顔をしたバカが俺がオーフィスとツルんでるのを見て訳の分からん事をほざいて殺そうとして来た時から思ったんだよ。

『俺が誰と一緒だろうが、テメー等に是非を決める理由なんかねーよボケ』ってな」

 

「………」

 

「だから隠すのはある程度止めた……。

そもそも何故わざわざ俺が隠さんとならない? 奴等の顔色を窺わなければならん? そう考えたら途端にバカらしくてね」

 

 

 要するに隠す事がめんどうになった――イッセーそう言いたいらしい。

 言われてみたら、この前我の前に現れて嫌だと言ってるのに我の身に触れようとしたイッセーと顔だけは似てた変な奴を『珍しく本気で怒った』顔で始末した時から、イッセーはちょっと変だった。

 

 何時もならうざいと言ってくっつく我を引きはがす回数が減ったし、イッセーに抱きついて寝ようとしてもあんまり嫌がられなくなった。

 

 そして……

 

 

「イッセー? 我の胸は無いから、触っても別に…………んっ……ぁ……」

 

「…………。本当にガッカリ処じゃねーや……ははは」

 

 

 お腹がむずむずするするような事をイッセーからしてくるようになった。

 家に帰り、我を膝の上に乗せて抱いてくる事も無かったし、無いと解ってるのにそれでも胸を触ることも無かった。

 

 

「お前とツルんで良いか悪いかの判断は俺が決める事だ。

他の誰でもない……俺の自由なんだよバカ野郎」

 

「イッセー……? そんな事されると我――」

 

「………すー……すー……」

 

 

 けど最近のイッセーは我を抱き締めながら眠る事が多くなった。

 我と一緒に居るって事実を知られ、それをあのイッセーに顔だけは似てるだけの弱い奴に否定されてから……。

 

 

「我は嬉しい。やっぱりイッセーとずっと一緒……」

 

 

 理由は解らない。でも我は構わない。

 我もイッセーと一緒に居る事を邪魔する奴が居るなら容赦しない。

 

 

「おやすみイッセー………んっ」

 

「んむ……Zzz」

 

「本で見た……イッセーとちゅーするのも我……好き」

 

 

 永遠にイッセーとずっと一緒に居るのは我だけで良い。

 イッセーと唇を重ねるのも……膝に乗るのも、何をするのも、されるのもするのも我だけだ。

 他の誰にも渡さない――絶対に。




補足

意外と独占欲持ち。

 偽イッセー(転生者)が自分とオーフィスの関係を知り、それに対して文句を言って来た際、転生者がオーフィスたんにベタベタしようとした瞬間、両親を殺した転生者と同等な殺意が沸いたぐらいはオーフィスたんと一緒に居る事を楽しんでたりしてます。


そして頑なにバラさんとしていたのを撤回したのは『各勢力に……禍の団所属の者達に対しての抑止』目的です。

『人間の自分が無限の龍神とツルんでる事に文句があるなら言ってみろ……どうなるか教えてやる』

的な。


『無限の龍神と組んでる人間は十中八九なにかある』と考える輩と『危険だから排除する』と考える輩達の為に隠れるのもアホらしいってのもあります。

しかし一番は『あの転生者みたいに自分からオーフィスまで奪う輩はぶっ殺す』という結構ヤバイ気持ちが転生者によって若干表面化し始めてしまったからですかね。

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