無限の龍と無神臓   作:超人類DX

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無駄に長い……。


無神臓と幻実逃否と自称ライバル

 無限の龍神(ウロボロスドラゴン)ことオーフィス。

 その名の通り無限を司る龍神である、今は彼女とカテゴライズされているオーフィスは、己にとってはつい最近とも言える10年近く前に、一人の人間と共鳴した。

 

 

『誰? 言っとくけど、これ拾ったの俺だからあげないよ……』

 

 

 兵藤一誠。

 人間でありながら自分と同じ無限を持ち、人間でありながら自分の宿敵であるもう一つの龍神が司る夢幻を持つ人間の雄。

 

 

『また沸きやがったなこのガキィ!!』

 

『っ……!』

 

 

 ボロボロでみすぼらしく、孤独にゴミを漁りながら生き永らえていた姿がオーフィスにとって最初に見た一誠の姿だったが、そんな姿よりも何より彼女が感じたのは、一誠が内に秘めていた無限の力だった。

 

 

『今日はパン一個だけか……ついてないな』

 

『人間。けど我と同じ――』

 

『っ!? …………………って、さっきのキミか。何? やっぱりこのパン狙ってたの?』

 

 

 虫が夜の電灯に集まるが如く本能――と云うべきなのか、オーフィスは共鳴する何かを感じながら、当時の一誠と同じ年代の姿……つまり現在と同じ黒髪ロングのロリっ娘姿で接触した。

 

 

『我とお前は同じ――同類。我は初めて自分と同じと会った』

 

『は、同じ……?』

 

『無限――そしてグレートレッドと同じ夢幻。

お前はその両方持ってる……人間なのに』

 

『? むげん? ぐ、ぐれーと?

あの……ひょっとしておままごとでもしたいの? というかキミの父さんと母さんは何処だよ? もしかして迷子?』

 

『無い。我はずっと独り。けれど今からは違う』

 

『???』

 

 

 結果……彼女は次元の狭間の故郷で引きこもるよりも、ホームレスの様な姿で醜く生き永らえていた一誠の旁の方が落ち着くと気付かされ、以来ずっと年月を経て少年から青年へと成長し、無限に恥じぬ進化を誰よりも遂げるその旁に、ロリっ娘姿のまま引っ付いていた。

 

 

『っ……くそ、負けた』

 

『我の勝ち。けどイッセーは凄い。我の全力でも絶対に殺せない……何れ我を確実に越える――――ふふ』

 

『!? お前……笑えるんだな』

 

 

 それがオーフィスにとっての『絶対なる安心』だったから。

 だからオーフィスは自身の身体を、人間に合わせる為の一時的な擬態では無く、限り無く人間に近い――もはや殆ど人といっても過言では無い肉体へと変質させた。自分の孤独感を埋めた人間の少年と同じになりたかったから……。

 

 

『イッセーの協力のお陰で成功した。これで我の身体は人間とほぼ同じ――イッセーと同じ』

 

『……。わざわざそこまでする理由が解らない……』

 

『大丈夫。弱くはなってないからイッセーには迷惑かけない』

 

 

 まあ、それでも無限の龍神である力を100%引き出せる辺り、人間とはまた別物なのは間違いないのだが、それでも人間を既に超え、宿敵である真なる赤龍神帝とタイマン勝負に持ち込めるほどに進化をし続ける一誠とは調度良かった。

 

 

「我も一緒。イッセーと入る」

 

「あぁ? チッ……狭いのにわざわざ一緒に入るなよダリィな」

 

 

 自分が間違えて全力を出して触れても死なない。

 それだけでもオーフィスの孤独な気持ちは無くなる。感じた事の無い満ちた気持ちになり、やがて決して芽生える事なぞある筈が無かった『人』の心を宿す。

 

 

「おいコラ待て。入る前はちゃんと身体と頭を洗えや」

 

「っ!? や! 身体は良いけど頭はや! 泡が目に入ってチクチクするから!」

 

「黙れ! 入浴にはそれ相応のマナーがあるんじゃボケが!!」

 

「やー!!」

 

 

 そして今では――何故か見た目相応な心を宿したオーフィスは青年へと成長したイッセーの傍らに変わらずくっついている。

 お風呂のシャンプーは嫌いだけど、オーフィスは今日も満たされていた。

 

 

 

 

「うー……目が開けられない……」

 

「目を開けっ放しにして頭洗おうとするからだ……そのまま閉じてろ――ったく」

 

 

 ちくしょう。人が折角命のお洗濯をしてたっつーのに、この龍神が素っ裸で入ってきやがったせいで全部台無しだ。

 こんなガキの世話みたいな事をこの歳でやるなんて、かったるいにも程がある。巨乳の美少女なら間違いなくVIP扱いなのにやってらんねーぜ。

 

 

「まだ? まだ目は開けちゃ駄目?」

 

「あぁ、オメーの髪が長いせいで時間が掛かるんだよ。

龍神なんだから我慢しろ我慢を……ったく!」

 

 

 桶椅子に座らせ、プルプル震えて目をガッチリ閉じてるオーフィスに辟易しつつも、世の女性が羨ましいと思うだろう綺麗な黒髪を洗う。

 最初の頃に一人でやらしたら、目に泡が入ったとかで泣きながら暴れやがったからなコイツ。

 お陰で風呂場はぶっ壊れるは、大家さんにマジギレされるわ……寧ろ此処等一帯がぶっ飛ぶ前に押さえ込めた俺を誉めて欲しいくらいなのだが、何も知らないし仕方無い。

 

 

「ほら、まだ目を閉じてろよ? 流すから」

 

「ん……早く……早く……!」

 

 

 だからこそ、俺がこんな真似をしてる訳だが、慣れってのは恐ろしいもんだ。

 最初はこの長い髪に戸惑ったが、わざわざ美容雑誌読んで長い髪の洗髪方法を学習したお陰で、それなりにやれるようになっちまった。

 

 

「ほーらよっと……はい次はトリートメントな。

シャンプーだけじゃゴワゴワになっちまうし」

 

「うぅ……」

 

 

 今にして思えば幻実逃否(リアリティーエスケープ)でアレコレすれば良いと思うんだが、やっぱりこういうのはちゃんと洗ってますと過程を踏まないと、気分的に嫌なんだ。

 だからこそ、面倒だぜとは思いつつもコイツの髪の手入れはキチンとしておく。トリートメントすると言ってビクビクし始めたのを見ると妙に気分が良いしな。

 

 

「お前の髪が長過ぎてトリートメントの容器全部使う羽目になるんだよな。コストパフォーマンス最悪だぜ」

 

「そ、それならしなければ良い。我別に構わない」

 

「嫌だね。頭も洗わねぇ汚い奴を家に置いておきたくない。

お前が2度と来ないって約束するなら別に良いけど?」

 

「ぅ……それも嫌だ……」

 

「だったら文句いうな。この家では俺がルールなんだからな」

 

 

 毛先まで丁寧にトリートメントし、ちょっと浸透させてから、これまた自分の髪じゃないのに丁寧に洗い流す。

 後は、最後の仕上げにドライヤーして幻実逃否(リアリティーエスケープ)でサラサラヘアーを維持させればオーケーだ。

 ………………。あれ? よくよく考えたら何で此処までしてんだろうか俺は?

 慣れすぎたせいでもってのもあるけど、それにしたって甘やかせ過ぎじゃあ無かろうか……。

 

 

「♪」

 

「ま、良いか。どうせ何も変わらないし」

 

「なにが?」

 

「こっちの話だ」

 

 

 こんなチビと風呂に入る俺も……しょうもなくて文句を言う気が失せちまうぜ。

 

 

 

 さて、ここから真面目な話なんだけど、オーフィスと殴り合った場合の勝率って実は結構悪い。

 すっとぼけたツラをしてるが、流石に無限の龍神(ウロボロスドラゴン)と吟われてるだけあって最強だ。

 幻実逃否(リアリティーエスケープ)無しで無神臓(インフィニットヒーロー)のみだと、どうしても素のスペック差で打ち負けてしまう。

 

 

「オーフィスみたいなチビ餓鬼とかじゃなく、人間のぴちぴち美女とか落っこちてないかなー……とか俺は思うんだ」

 

 

 こっちは人間、アイツは龍神なのだから仕方無いといえば仕方無いし、勝ち負けに拘ってるつもりも無いのでそれならそれで良いとは思ってる。

 これでも俺は1度だけオーフィスに付き合わされて相対した事のある真なる赤龍神帝(アポカリュウスドラゴン)に『ガン付けやがった』なんてヤクザみたいな因縁つけられて襲われた時は、ぶん殴って生還してやった程にはやれるのだ。

 

 

「それを胸にわざわざお散歩してたんだよねー……俺って」

 

 

 なので、別に戦闘狂でもねーし、人間ぽっちにして有り余る程に成長しすぎた今、ただただ普通に生きて普通に可愛い嫁さん貰って平凡に生きると決めてる俺にとってはこれ以上必要もねぇのさ。

 

 

「だというのに……」

 

 

 だというのに――

 

 

「なぁ、何でお前なの? 何でムサい男なの? 俺なんか悪いことした?」

 

「…………くっ」

 

 

 俺の前に現れるのは、可愛い人間の女の子じゃくて只の男。

 あーぁ、儘ならねぇよなー……人生ってのは。

 

 

「ま、まだまだ……!

俺の仲間になるまで何度でも挑むぞ……!」

 

 

 俺には最近、ストーカーの悩みがある。

 それが可愛い人間の女の子なら『わーいヤンデレの女の子やー』と喜べるものなんだが、生憎そのストーカーはヤンデレの可愛い人間の女の子じゃなかった。

 いや、人間ってのは唯一クリアしてるんだが、残念な事に俺の足下でひっくり返って何度も同じ台詞を吐いてるコイツはむさい男だった。

 

 おう、やる気なんて出るわけもねーだろ? 男にストーカーなんぞされてるとなればな。

 

 

「キミも大概しつこいな。

いやまぁ、自分の事を三国志の英雄とまんま同じ名前を自称してる時点で頭がおかしいとは思ってはいるが……」

 

「くくっ、確かに今の俺が『曹操』を名乗るには余りにも脆弱。

だからこそ人間でありながら、その身に神器(セイクリッドギア)すら持たずして、俺の求めてるもの全てを持つお前が欲しい……!」

 

「おぇ……気色悪いことこの上ないぜ」

 

 

 曹操……手から無駄に光ってる槍を生成できる変な奴がコイツの名前らしいが、三国志の英雄たる曹操を自称してる時点で中学二年生が感染するアレにしか俺には見えねぇ。

 『俺を倒して仲間にする』と宣い、神器の中でも最高峰の力を秘めてる……何とかって槍で向かって来る――意味が分からねぇし、コイツは何時何処で能力(スキル)について知ったのかは謎だが、俺はこんなむさい男のお仲間とやらになる気は全然ない。

 

 なので、わざわざ近所の公園の周りに障壁とやらを張ってまで全力で向かってこようとする……自称曹操とやらに大きくため息を吐きながら、仕方無しに相手をしてやることにした。

 

 

「仕方が無い……それなら掛かって来なさい。

今日の俺はオーフィスの我が儘に付き合わされて地味に辟易して気が抜けまくってる。

だからこの『伝説の聖剣・エンピツカリバー』を装備してる俺をひょっとしたら殺せるかもな」

 

 

 御大層な……それも質屋に売ったら高値で売れそうな槍に俺も無駄に対抗して用意した、近所の文房具店にて50円でゲッツしたエンピツカリバーことHBの鉛筆の片手にな。

 ちなみにまだ削ってない新品だぜ。

 

 

「くっ、ふざけるな! ――と言いたいが、この前は輪ゴムでお前に射殺されたんだよな……。

ククッ……原初の神滅具が輪ゴムやら鉛筆に殺られるなんて笑えやしなっ――――!?」

 

 

 そもそも曹操とか頭おかしいわ。

 三國志フリークにしてもマイナー名乗れば顰蹙買わずに済んだのに俺よりバカだぜ。

 しかも何か勝手に語って自ら隙を晒すとか救いようもねーし……とっとと死ね。

 

 

「ゴチャゴチャ喋るだけの余裕があるんなら、真っ二つにされても文句は言えないな……だろ?」

 

「ぐがっ!?」

 

 

 エンピツカリバーに何か言いた気なツラしてペラペラくっちゃべってるストーカーに付き合うなんて事はしない。

 だから俺はボーッと突っ立ってる様にしか見えない自称曹操とやらの胴を切り払い、上半身と下半身を永遠におさらばさせてやる。

 

 

「前口上が長い上に隙だらけ。以上、兵藤一誠君の感想でしたーっと」

 

「………」

 

 

 目をこれでもかと見開き、口からやら切断箇所から大量の血と臓物をぶちまけながら、物言わぬ亡骸になった自称曹操とやらに、聞こえるはずもないアドバイスをした俺の心は勝った喜びも何にも無い。

 ただただ……くだらん。それだけだった。

 

 

「まったくもう。

それにしても最近はこういう輩が多くなった気がするな」

 

「……」

 

 

 平和な日本の街中にある小さな公園が殺人現場と化したそのど真ん中で、俺は物言わぬ肉片となった自称曹操とやらを見下ろしながら小さくため息が出る。

 

 

「あのバカが強けりゃ良いと手当たり次第引き込んだせいでとんだとばっちりだぜチクショウ」

 

 

 禍の団(カオスブリケード)……だったか?

 オーフィスがグレートレッドを消すために集めた仲間で組織された集団の名前なんだが、どうやらこの自称曹操とやらはその中での……一種の派閥のリーダーをやってるらしく、確か英雄派がどうたらこうたらと言ってたか。

 

 

「巨乳の美女の勧誘だったらなー……現実はこれだけど」

 

「」

 

 

 多分だが、俺の存在を知ったのも何も考えてないオーフィスが俺の事をくっちゃべったからだと思う。

 余計な事を――と思うが、俺の事を勝手に喋るなとは言ってなかったので、怒る気が出ない。

 

 

幻実逃否(リアリティーエスケープ)……。

コイツが死んだ現実を『否定』し、無傷で生きてる幻想へ『逃げる』」

 

 

 一度目の時はかなり舐めきったというか、神器なんて持た無い人間がありえませんといった目で見てきたコイツだが、取り敢えず見た目がモテそうでムカついたので、丁度その時持ってた三角定規でぶちのめしてから行き返してやったらあら不思議――

 

 

「っ……ハッ!? お、俺は一体……?」

 

「よお、自称曹操。道端で寝るなんて英雄様の名前が泣くぞ?」

 

「ぅ……い、一誠……?

そ、そうか……俺はまた一誠に……」

 

 

 手の平を返すが如く『俺の求めていた人間だ! 仲間になれ!』と気色悪い事を言ってきやがった。

 何でもコイツの他にも古代の英雄の名前を自称してるお仲間が居るらしく、俺にその中に加われとか何とからしいが冗談じゃない……お断りに決まってらぁ。

 

 

「また届かなかった……。

これでもお前と出会ってからずっと強くなってるつもりなんだけどな」

 

「気は済んだか?

何度も来られても俺はノーだストーカーめ」

 

 

 地面に座り、項垂れてる自称曹操とやらに俺は何度目になるかわかりゃしねぇお断りの言葉を送り付け、制服の胸ポケットから取り出した10秒飯のゼリーをちゅーちゅーしつつ、動かない曹操とやらを眺めてる。

 

 わざわざ心をへし折るやり方で突っぱねてるというのに、コイツはまだ心を折らない。

 その根性だけは大したもんだと思うが、くだらん事に拘る時点でアホらしいとも思う。

 

 

「お前はオーフィスの友人なのだろう? それなのに何故こんな人間界で燻ってるんだ。

お前ほどの力があれば――」

 

人間界(ココ)が俺の住むべき場所で、俺自身が人間だから。

お前等みたいに『ご立派な』目標なんて掲げた事も無ければ、気紛れで考えても結局は『全部くだらん』としか思えないから」

 

 

 オーフィスの様にグレートレッドを倒して故郷で静かに暮らしたいなんて目標も無い。

 あっても人間誰しもが抱える欲求だけ。故に誰かとツルんで何かを成し遂げたいとも思わない。

 

 コイツにはそんな俺の生きてる理由を理解できないみたいだが。

 

 

「それほどの力を持ちながら無駄な日々を過ごしてるだなんて、お前はそれで良いかもしれないが、俺が堪えられない」

 

「じゃあ勝手に喚いてろ。

俺は俺のライフスタイルの邪魔をする奴が嫌いなんだ……そろそろしつこいと、2度と姿を現せねぇ様にしてやるぜ? え、曹操さんよ?」

 

「………………」

 

 

 勝ち負けなんてくだらない。

 格差に罵りも感じない。

 力を持っても感慨すら沸かない。

 世の中というのは得てして不平等である。

 

 コイツが神滅具を持つ才能豊かな若者であるのとは反対に、どれだけ頑張っても報われない才能が皆無な奴もいる。

 

 稀少動物を保護するために金が動く傍らで、その日の飯にすらありつけない程の貧困に苦しむ人がいる。

 

 

「ま、精々頑張ってくれよ。自分が掲げた御大層な目標とやらの為にな。

俺は何時もの様に可愛い子をナンパしてウハウハするから」

 

「……………」

 

 

 人間誰もが皆こう言う。

 

 『他人には優しくしよう』

 『しかし競争相手は叩きのめせ』

 『お前は特別だ、信じていれば夢は叶う』

 

 そうやって尤もらしい事を言ってぬるま湯に浸かって適当に自分達を甘やかし合う。

 成功する人間が一握だって現実をうまく隠しながらな。

 だからこそ俺は人間が一番好きであり、人間である自分が誇らしく思うのだ。

 

 

 この矛盾した思想がな。

 

 

「願わくば2度と会わんことを願うぜ? エイユウ様?」

 

「…………」

 

 

 悪魔や神を打ち倒したのは何時だって人間だ……そう宣ってた曹操の言葉にはある意味で俺も同意できる。

 人間は人間だからこそ強いのだと俺も思う――――もっとも、コイツが本当に只の人間とは言えない訳だけど。

 

 

「あーぁ、マジで何処かに『道に迷った可愛い子』とか居ねぇかなぁ」

 

 

 自称曹操とやらを撃退したせいですっかり萎えちゃった俺は公園を出て家に帰ろうとフラフラした足取りで歩く。

 帰ったらオーフィスに一言だけ文句を言ってやろうとか何とか考えつつね。

 

 しかし……。

 

 

「やぁ兵藤一誠。

さっきそこで黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)の使い手と()ってたな? それなら是非俺とも闘って欲しいと遊びに来たぞ」

 

「四の字固めして泣かせてやろう……うんそうしよう」

 

「って、無視は凹むから止めてくれないか?」

 

 

 オーフィスって案外関節技が苦手というか、結構本気で嫌がる。

 この前蠍固めしてやったら本気で泣いて思わず日本列島をデストロイしちゃうくらい暴れたくらいに……アイツは関節技が嫌いらしい。

 だからこそ俺は帰ったら本気で泣かせてやろうと、ちょっと楽しみになってきた訳で……。

 

 

「なぁ……おい兵藤一誠。

頼むからガン無視は止め――」

 

「るっせぇぞボケ! ゴチャゴチャ喧しいせいでこれからの予定を考えられねぇだろうが!」

 

 

 さっきから横でピーピーとクソ煩い、銀髪でどう見ても日本人じゃない風体の同年代っぽい小僧がウザくてしょうがないのである。

 

 

「おっとそれは失礼した、謝るよ」

 

「チッ……今度はテメーか」

 

 

 全くどうして最近会う奴は野郎ばっかで、口を開けば戦えと喧しいバカばっかなんだ。

 折角自称曹操とやらを撃退したってのに、今度はコイツかよ……とイライラしながら癪に触る顔で謝ってるつもりの銀髪の小僧を睨む。

 

 

「よし、ヤル気は充分そうだな。それなら早速――ぐぁっ!?」

 

 

 しかしこの小僧……名前はヴァ……ヴァ………? いや、とにかくヴァなんとかはある意味さっきの自称曹操とやらよりウザく、取り敢えず理由を付けて戦えと煩いのだ。

 今だって妙にニタニタしながら背中に白くて光る羽根なんて生やしながら構えようとしたので、相手にするのも怠い俺はそのムカつく額に凸ピンを喰らわせてやる。

 

 

「うぐ!?」

 

 

 するとヴァなんとかはゴム鞠みたいに地面を何バウンドしてぶっ飛び、偶々立ってた電信柱に背中から思いきり叩き付けられて噎せていた。

 

 

「ゴホッ、ゴホッ!? さ、流石だな……! 無限の龍神(ウロボロスドラゴン)に認められてるだけのパワーだ――ガッ!?」

 

「サッカーしようぜ。俺がFWやるからお前ボールな?」

 

 

 何で……何で来る奴皆が皆野郎なんだ。

 これがさっきの自称曹操含めて女の子なら、優しく紳士に何でも言うこと聞いてあげるのに、現実はホモ臭いストーカーと戦闘バカ。

 

 マジで人生ってのは儘ならないぜ……クソッタレ!

 

 

「ぐ……おぐっ!?」

 

「おーっと兵藤選手のタイガーシュートが決まったー(棒)」

 

「ぐはっ!?」

 

 

 取り敢えず蹴るだけ蹴って、人生の不平等さに嘆きつつもちょっとはスッキリした俺は、ボロボロとなってアスファルトの上を転がってる戦闘バカの髪を掴んで無理矢理目を合わせる。

 

 

「よぉ……堕天使付きのハーフ悪魔のキミがこうも頻繁に現れるとなぁ、この地を支配してる悪魔共にバレちまうかもしれねぇんだぜ? そうなったらどう責任取ってくれるの? ねぇ?」

 

「さ、流石は兵藤一誠。

お前に瓜二つの顔を持つ赤龍帝の兵藤誠八との因縁すらどうでも良くなるほどの強さ――ぶっ!?」

 

「そんな事聞いてませんけどー?」

 

 

 此処まで来ると見た目餓鬼の女の子とはいえ、オーフィスに鬱陶しくされてるほうが万倍マシだ――とまで思い始めて来た俺の質問に全然答えようとせず、寧ろ愉悦とばかりにニタニタ笑ってただただキモいヴァなんとかの横っ面をぶっ叩いて尋問する。

 

 

「だ、大丈夫だ……アザゼル達にはお前の事は話してないし、来るときだってちゃんとバレないようにしてる。

お前との約束だけは守ってるつもりだ……ぐふ……」

 

「あぁ、もしバレてたら2度と戦闘出来ない寝たきりにしてやってたよ」

 

 

 事情は知らんが、このヴァなんとかってのは、さっきの自称曹操とは別の集団に今は所属しており、ある意味オーフィスとは全然関係ない団体なだけに色々と面倒だったりする。

 だからこそコイツの動きが知られてハイバレましたー……なんて事になってみろ。

 想像するだけで嫌気が刺すぜ。

 

 

「あ、あばら骨が滅茶滅茶だ……」

 

「チッ……幻実逃否(リアリティーエスケープ)

 

 

 コイツは何を間違えてるのか、俺と戦うのが生き甲斐だと宣い、高頻度でやって来ては戦え戦えと喧しい。

 ウザい事この上ない人物の筆頭だ。

 

 

「……。相変わらず何でもアリだなお前の力は……」

 

「知るか」

 

 

 全身の骨が砕けて身動きが取れないコイツを放置して、あの悪魔連中に見つかったら色々とヤバイので仕方無くダメージを消してやった後、色々と萎えたので帰ろうとする俺の後に付いてくるヴァなんとか。

 

 もう帰れよ。

 

 

「無限の力と夢幻の力を両方持つ人間が此処に居ると各勢力に知られたら大騒ぎだろうな」

 

「知るか」

 

「そう言うと思った。

やれやれ、今日も清々しく叩きのめされた事だし大人しく帰るよ」

 

「おう、2度とそのツラ見せるな」

 

 

 叩きのめされたのに清々しい顔で飛び去ったヴァ何とか。

 実はマゾなんじゃねーか……なんて不意に思うもキモいだけなので直ぐに考えるのを止め、さっさと家に帰ろうとダッシュする。

 

 

「イッセーが帰って来た……でも早い?」

 

 

 早いのはお前のせいだ。

 

 

「お前が作った変な組織の所のお仲間に勧誘されて萎えたんだ」

 

「お仲間? だれ?」

 

「自称曹操」

 

 

 30分程度で家に帰ってきた俺を、不思議そうにコテンと首を傾げるオーフィスに、早い理由を話すとポンと手を叩いて頷き出す。

 

 

「曹操……我思い出した。黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)の使い手だった気がする」

 

「あぁ、俺の落ち度だから何も言わないが、お前から奴に情報が漏れたせいで高頻度で仲間になれとストーカーされてるんだよ」

 

「すとーかー?」

 

「………。つまり、つき纏われてるの」

 

 

 というかコイツ、仲間の名前くらいちゃんと把握してろよ。

 これでいよいよオーフィスが組織の傀儡TOP化してるのが浮き彫りじゃねぇか。

 

 

「仲間? イッセーは我の仲間。曹操の仲間じゃない」

 

「……。お前の仲間になったつもりもねぇが、ちゃんと断ったよ。それでも通算50回近く断っても懲りてねぇが」

 

「む……じゃあ後で『駄目』って言う」

 

 

 あーあ、知らねぇぞオーフィス?

 グレートレッド倒すだけの組織がその内犯罪組織化して、黒幕扱いされてもな。

 ま、そんな事になっても俺は関係ないし、録り貯めしてた昼メロに忙しいのだ。

 テレビの前に座る俺の膝に然り気無く座り出すオーフィスを鬱陶しくも、さっきの奴等の対処でダルくなってたのでそのまま好きにさせる事にする。

 

 

「お、ちょうど……おおっ!?」

 

「雄と雌が子作りしてる……」

 

 

 昼メロってのにも色々あるが、今俺が見てるのは放送後に苦情が半端ないレベルの過激さを誇る昼メロであり、只今テレビ画面にはその過激さがこれでもかと放送されていた。

 

 具体的には膝の上に乗ったオーフィスはポツリと口にした意味で。

 

 

「やっべぇぜこのシーン。絶対苦情殺到……おぉぅ!?」

 

「………」

 

 

 苦情来ても放送するガッツのある局員さんには感謝する程に素晴らしきドラマに思わず歓声すら出してしまう。 

 

 

「イッセー」

 

「え、ま、マジで? これも映しちゃうの? いいの? よかですの――って、あ? なんだ?」

 

 

 もはやアッチのビデオじゃねーかレベルの素晴らしき表現方法に感激しながらディレクターズカット盤のDVDBOX購入確定だわなんて考えていた時だった。

 それまで無表情で無感情な黒い目でジーッとテレビの画面を見ていたオーフィスが俺に話し掛けるので、面倒ながらも返事だけはする。

 

 すると、何を考えてるのかオーフィスは急にもぞもぞと身体を動かし、テレビに向けてた身体を此方に向け、頼んでもないのに抱きつくと……。

 

 

「我――イッセーの持ってた本で勉強してから変になる様になった。そして今もアレを見てたら同じく変になった」

 

「あ?」

 

 

 もぞもぞもぞもぞと身体を動かしながらジーッと此方を見て引っ付くオーフィスの言ってる意味が分からないと眉を寄せる。

 言ってる意味が抽象的過ぎて意味が分からんのは何時もの事だが、もぞもぞと鬱陶しく動きながらってのは初めてだったので、取り敢えず視線をテレビからオーフィスへと移してみる。

 するとオーフィスは――

 

 

「イッセーの本や今のアレを見てると、我の身体――我の此処が一番熱くなる」

 

 

 手持ち無沙汰状態だった俺の手を取り、自分の腹部……のちょい下に押し付けて来たのだ。

 確かに言われた通り引く程熱っぽいし……妙に目が泳いでるし、妙に息が荒い……気がした。

 

 

「我の身体、熱い――イッセーの傍に居るとより熱くて寂しい気分……」

 

「あぁ……うん」

 

 

 ボーッと熱っぽい顔し、若干弱々しい声で言われた俺はリアクションに非常に困った。

 うん……だってコイツ、神の癖に発情しやがったんだと考えると凄い微妙な気分なんだもの。

 

 

「どうしようイッセー

我、我慢するって言ったのに、何故かイッセーと子作りしたい」

 

「寝ろ、そしたら直る」

 

 

 取り敢えずテレビを名残惜しいが消し、ほっといたらヤバイ気がしてきたオーフィスを無理矢理ベッドに押し込んで寝かせてやることにした。

 ついでに冷えピタも貼ってやった。

 

 

「グレートレッドに負けた時より辛くて寂しい……イッセーとポカポカしたい……」

 

「寝ろ、寝れば確実に直るから寝ろ!」

 

「ならイッセーも我と――」

 

「ね・ろ!!」

 

 

 ……。人間の女の子が好きだと言ったせいで、龍神の癖に限り無く人間に近い姿になり、間違った情報を得たせいで発情する。

 

 コイツはやはり妙に素直でアホの子で間違いない……いや、うん……多分俺のせいなんだろうけど。

 

 

「ん……ならせめて指……」

 

「チッ……幻実逃――」

 

「や! イッセーの指……!」

 

「ぬわっ!?」

 

 

 思わぬ事態に幻実逃否(リアリティーエスケープ)でオーフィスの状態異常をけそうと手を翳した瞬間、何が嫌なのかオーフィスは拒否したのと同時に翳していた手を掴んでくると、そのまま俺の指をくわえ始めた。

 

 

「ちゅうちゅう……ん、イッセーの指も好き」

 

「あぁ……! またかよ……!」

 

 

 知恵熱が如く顔を赤くさせながら人の指を蹂躙するオーフィスに、背筋がゾワゾワとなり、スキルを上手く扱う集中を乱されて発動が出来なくなる。

 

 いや、出来るのだが間違えて周囲のものから世界全てを間違えて否定してしまう可能性があるのでおいそれと使えないといった方が正しいのか……。

 

 

「何が楽しいんだかわかんねぇぇ……ぁぁ……!」

 

「ちゅぱちゅぱ……」

 

 

 ホント、龍ってのはわからん。

 というか俺何時までこうしてないといけないんだよ……。




補足

聖剣・エンピツカリバー

兵藤一誠のメインウェポンその1にて、最強の最悪の一振り。
効果は『斬られた相手は死ぬ』

ちなみに HB B 2B 3B 4B 5B 6B 計7本あるらしく、何処ぞの聖剣みたいにひとつに纏めたら更にヤバイらしい。
しかも折れたとしても近所の文房具店で一本50円で販売されてるので即補充可能という理不尽。


魔銃・輪ゴム鉄砲

メインウェポンその2にて一誠の持つ最強の中~遠距離武器。
効果は『撃たれた相手は死ぬ』

これもまた文房具屋さんで即補充できるので弾切れには困らない。


兵藤一誠について

とある事情により勝手に勘違いした転生者により目の前で父親と母親を殺され、そして自らも殺されかけた経験と生還により修羅となった人外。

 一度きりとある女に助けられ、全てを教えられた事によりスキルを覚醒させ、更に復讐心により『新しィィィィィ!!』化までしてましまった人間兵器。

故に上記の文具が一誠の手に掛かると殺戮兵器となる理由であり、またその無限進化のスキルがオーフィスたんを惹き寄せてる理由。


オーフィスたんについて。

一誠が覚醒させてしまった無限進化の力と共鳴し、フラフラと引っ付く無限の龍神。

 出会ってからはずっと引っ付いてるせいか、人間らしさでいえばある意味一誠より上で、最近は一誠が仕入れるスケベな本を勝手に読んでは変な知識と興味を持ち始めてるとか何とか。

 そして一誠と同じになりたいという拘りが行きすぎたのか、一誠の嫌々なアシストを加えて自身の身体を限り無く人に近付けて居たりする。
 
 ちなみにほぼ人間化してるせいで弱体化――してないどころか、一誠と共鳴してるせいで更に進化してる。
 けど相性の問題でグレートレッドには勝てなくて涙目。

 趣味は一誠をちゅーちゅーする事らしい。





最後。
悪魔達にバレたら…………

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