ソーナさんは覚醒ひんぬー会長だから不遇はありえない。
てか比較的平和だぜ。
私はもう只の玩具だ。
男の欲望の捌け口でしかない玩具。
だから無駄な抵抗なんてしない。
乱暴にされて苦痛と感じた感情も消し去る。
拐った男達が私をどうしようが、私自身は考えるのをやめる……。
そうすれば苦痛もやがては快楽に。
快楽は幸福へ。
幸福は――
「よぉ、ひんぬー会長。今日もタプタプなるまで色々やってやるぜ?」
「あは、一誠くん……好きぃ……♡」
勝利へと繋がる。
「――という夢を見たのですが、如何でしょう?」
「……………。いや何が?」
「いえですから、私の事を一誠くんがゲスに嗤いながら拐った後、狭苦しい場所で私の事をお腹がタプンタプンになるまで滅茶滅茶にし、その後妊娠した私とのツーショット写真をお姉さま辺りに送りつけてハッピーエンドです……的な?」
「………………。え、俺そんな奴に見えるの?」
「見えませんよ。
けど、昨日見た夢がそんな感じだったので……」
「寝言は寝て言え、この雌悪魔」
……。夢の中の話だけど、もう一つ悪魔を憎悪している一誠くんという方は正直思い出したくないですけど。
以上・別世界のソーたんの夢
何気にスルーされているが、例のレーティングゲームの結果はソーナ達の勝利で幕を閉じていた。
リアス・グレモリーとソーナ・シトリーという未来を背負って立つ若手悪魔同士のレーティングゲームという触れ込みでかなり賑わったのだが、蓋を開けてみれば結果は色々とアレだった。
「
何でも、『真実に到達させない』という力であり、今私はリアス……貴女の放つ全ての攻撃が私に届くという結果を排除している」
眷属同士が倒れ、王同士の一騎討ちへともつれ込んだ際に剥き出しとなるソーナの今までに無い異様な雰囲気。
それは、知る者は何と無く悪夢であるあの人間の男を思い出させる雰囲気と合致しており、リアスの放つ強烈な滅びの魔力を真正面から何もせず掻き消すという訳の解らない何かをしでかしているソーナは、薄く笑みを浮かべて敢えての種明かしをする。
「彼が私に恐怖を植え付け、そして彼により恐怖を克服した先に獲た呪いという名の私の夢が真実なのか、それとも所詮はまやかしであるのか……それはこれから解ること」
困惑するリアスをほんの少し宙に浮いたソーナが見下ろしながら言葉を紡ぐ。
「だからリアス、悪いけどこの勝負……私は負けられない」
――婚厄者・ver無神臓イッセー――
悪魔史上例の無い新たな領域。
強固で頑固で一途とも言えなくもない精神が具現化する事で出現せし新たな力。
「真実から出た誠の行動は、決して滅びはしない……!」
この日、ソーナ・シトリーはめでたく例外となり、勝利を掴み取る。
「リ、
見ていた悪魔達を静寂させるソーナの
「と、言うわけで私は勝ちましたけど?」
「ふーん」
「ご丁寧に証拠のVTR付か。これは言い逃れ出来ないぞ一誠」
「というか、笑ってしまうほどに一誠の技術を使いこなしてる事に俺は悔しさばかりだ」
「…………ちっ」
三バカ+オーフィス。
最近はよくこの面子で色々とほのぼのやってる訳だが、レーティングゲームによる個人的な賭けの話以降は新たな面子が一人増えた。
それがこの、面子内最後の一誠に対する恐怖を克服した悪魔っ娘であるソーナである。
「だから約束の方を守って貰いたいなー……と」
「あ……あぁうん。そんなのありましたね……はい」
「………………」
「そんな顔しないでくださいよオーフィス? だってこれは一誠くんだって乗った約束事ですし?」
一誠の事でオーフィスとは非常に仲が宜しくないのはテンプレなのだが、本日のソーナは実に強気だ。
具体的にほんのりと殺気立ってる無限の龍神相手にもにこやかであるという意味でなら、間違いなく頭の中のネジが抜け落ちてるといえなくもない。
しかしそれをさせる程にソーナの成長率は、一誠の正体を知るところから始まり、抱いた恐怖を自力で吹っ切ることで克服し、そして呪いという名の夢を持つことで一誠と同じ領域に侵入するという驚異的な話が説得力を持たせているからこそ、本来なら種族も違えば所属柄敵対してる筈の者を前に平然としてられるというものだ。
「それで俺にどうしろと? 最初にアンタが言わせたがってた台詞を今此所で言えば宜しいので?」
とにもかくにも、賭けに負けた事実は揺るがないし、実際問題ソーナを覚醒させたのは一誠なのでほぼほぼ自業自得である事は一応自覚していた。
だからこそ、ちょっと涙目でこっちを見てるオーフィスの頭をポンポンとしてやりつつ、ソーナに例の賭けの取り決めについての確認をするのだが……。
「いえ、実家に来てください」
キッチリと賭けの内容を一言一句覚えているソーナはにっこり顔で、実家に来やがれと言った。
「父、母、姉、眷属達、それからリアスやその眷属の皆さんにサーゼクス様等々と今実家で軽い親睦会をしているので、そこでやって貰いたいんですよねー?」
「だとさ一誠?」
「仕方ないな、賭けに弱いと忘れてたお前が悪――げべ!?」
「うー……いっせー……!」
これ見よがしにニヤ付く曹操の鼻頭に裏拳をかまして黙らせつつ、一誠にすがり付く様な顔をするオーフィスと、ご愁傷さま的な顔のヴァーリを横に久々に感じる結構な敗北感は割りと一誠を反省させるに十分だった。
とはいえ、敗けは敗けなので今更逆ギレして反故にするというのも往生際が悪くて格好も付かない訳で。
「はいはい、言うだけならタダだしやりますよ。ったく、何をそんな必死なのやら」
はぁぁ……と深い溜め息を吐きながら冥界に行くことを了承するのだった。
その了承を受けたソーナはといえば、やっほーいとばかりに一瞬キラキラとした表情を浮かべると、満足したかの様に頷く。
「よろしい、ではオーフィスとそちらのお二人も行きましょう」
「む」
「「はい?」」
そしてどういう訳か、オーフィスはともかく、ヴァーリと曹操まで来いと言うソーナ。
「ちょっと待ってくれソーナ・シトリーさん。
何故俺と曹操まで行くんだ?」
「というか俺、一応
忘れがちだが、ヴァーリは堕天使サイドに加えて旧ルシファーの血族者で、曹操に至っては現在各勢力に対して目の上のたんこぶ状態のテロ組織である禍の団の構成員。
以前は一誠に無理矢理付き合わされる形で冥界に不法侵入した訳だが、考えなくても正規の手続きで自分達が冥界に入れるとは考えにくい。
「所属? 別にそんなの私達には関係ないですよ。だって一誠くんのお友だちでしょう?」
しかしソーナはアッサリとした顔で、そんなの関係ねぇと言い切る。
「お、おぉ……」
「ハッキリ言ったぞあの女……」
そんなソーナの六○のおいしい水ばりのサラッと加減に出鼻をくじかれた気分にさせられた二人の青年は、ふと隣を見ると巻き込む気満々の顔をしてる一誠にかつて其々言われた事を何と無く思い出してしまい、ソーナの言葉に従うしかないと悟る。
「では早速行きますよ。あ、それとオーフィス? 向こうに付いたら貴女だけに言っておきたい事がありますので、お時間を少しください」
「ふんだ……。一誠に変な事言わせてもお前にはあげない」
故に行く事になった曹操とヴァーリは、オーフィスに何か話してるソーナの後に続こうとしたのだが……。
「ちょ、待て。俺またこんな格好……」
転移の魔方陣を一誠部屋全体に展開したソーナに対して、ふと自分の格好を思い出したヴァーリが着替えの時間をくれと懇願する。
何故? それは今のヴァーリの格好が――
「ゲストですので大丈夫ですよ」
「だ、だがこんなブタさんパジャマの格好はいくら何でも……」
「だったら最初から着なきゃ良いだろ」
「というか何でそんな格好で一誠の所に来るんだお前は……」
「い、いや、今日来ると言った約束の時間に遅れそうだったから……」
くるんと丸まった尻尾とブタ耳が実に特徴的なブタさん着ぐるみパジャマという出で立ちであり、流石に着替えなきゃ色々と締まらないと思ったヴァーリだが、時間が無いと言われて渋々そのままのブタさんの格好で再び冥界へと乗り込むのであったとか。
リアスとソーナのレーティングゲームはソーナ側の勝ち――それも何時ぞやの兵藤を思わせる雰囲気と解析不能の力を駆使して勝ちやがった。
まさかとは思ったが、兵藤の奴に影響されたからそうなったのか、それとも元々そういう素養があったからなのか。
俺としてはあの神器では無いらしい力を調べてみたいのだけど、如何せんサンプルが両方ともヤバイので現在は観察しか出来ない。
「残念だったな。まさかセラフォルーの妹があそこまで成長してたとはよ」
「え、えぇ……私も驚いたわ……ほんとに」
人間界の夏休みも終盤であり、リアス達の冥界滞在期間も残り僅かとなったこの日、両陣営のレーティングゲーム終了後の親睦会がシトリー家の城で行われる事になり、招待された俺は対戦相手であり俺が色々と手解きしたリアス達に労いの言葉を一応掛けておく。
とはいえ、リアスの表情は何処か寂しそうであり、俺はその表情を見て何と無く察した。
恐らく幼い頃からの仲だったソーナ自身が自分のまるで知らない領域に一人進んでしまったからだと思うし、何よりあの時のソーナが放った雰囲気と力はまんまあの兵藤だったからな。
複雑なんだろうよ。
「落ち込むな、お前だって頑張ったんだし、お前が落ち込んでたら慕ってくれてる仲間が心配すんだろ?」
月並みだが、俺としても無関係では無いので出来る限りの言葉を送っとく。
親睦会の会場作りにてんやわんやしてるシトリー城の中庭の様子を眺めてるだけでコイツは終わってしまいそうだし、何より微妙に取り残された気分は俺も最近知ったしな。
他人事にはどうも思えねぇんだわ。
「ソーナ様がご帰還なされました!」
「お、どうやら戻ってきた様だぜ?」
友達の妹ってのもあるし、そのまま腐らせるには余りにも惜しい人材でもある。
ソーナが戻ってきたという警備の者の言葉を聞いた俺は、テンションの低いリアスの背中を押し出してやるくらいしか出来ないがな……っと。
「相変わらずの成金趣味な家だな」
「広いだけで面白くもない」
「かくれんぼには最適に思えるがな」
「お、おい、思ってた以上にキチンとした会場なんだが……」
…………………。あれ、何でアイツまで来てるんだ? というか何であの格好?
「お父様、お母様、ただいま戻りました」
「うむ、どうやら本当に連れてきたみたいだな」
「……。ちょっと変わった格好の子が居ますが……」
ソーナに連れられてやって来た四人の存在。
相変わらずオーフィスと兵藤の放つ雰囲気は異質であるのだが、禍の団の小僧は兎も角としてヴァーリの格好が物凄い浮いてる。
リアスもキョトンとしちゃってるし、よく見たら会場作りの手伝いをしてた両眷属達も固まっちまってるぜ。
「おいヴァーリ。お前こんな所まで来てまたそんな格好かよ」
「む、ア、アザゼルか?
いや俺だって本当は着替えようとしたんだぞ? なのにこの女が……」
……。とソーナに恨めしげな視線を送るヴァーリ。
しかしソーナはどこ吹く風だった。
「あ、どうもアザゼルさん」
ちょっともじもじしてるヴァーリに呆れてると、横に居た兵藤が挨拶してきた。
「おう、オーフィスも相変わらずそうだな」
「ん」
それに軽い感じで返す。
何やかんやで兵藤ってのは話してみると年相応なんだよな……俺達を片手間に処理出来る領域であるとはいえ。
何てもじもじしてるヴァーリを曹操って小僧と一緒になって弄ってる姿を眺めてると、ソーナがオーフィスを連れて『少し失礼します』と言ってから城の中に入っていった。
「何だ? オーフィスを連れて行ったが……」
「何か話があるんだとよ。俺達にはよく分からんがな」
「ほーん?」
「そんな事よりボイン悪魔っ娘は何処に……」
「腹へったな……というかジークフリート達も連れてくれば良かったかも」
話? まぁ兵藤が居るから変な事にはならんと思うが……っと?
「ど、どうも兵藤くん。元気にしてた?」
親睦会が始まるまでまだ少し時間がある中、適当に話をしていた俺達の所にやって来たのは、眷属を引き連れたリアス。
その表情は眷属共々どう接して良いのかわかりませんな顔だったのだが……。
「おっとボイン悪魔っ娘二人はっけーん!! げへへへ」
兵藤はといえば超マイペースに、そしてだらしの無い顔でリアスとバラキエルの娘である朱乃に近寄って、戸惑う二人をガン無視してナンパじみた真似をし始めている。
見てて全然脈なんて無いと経験上俺は思うが、それは言わない方が良いだろうとソッとしとく事にする。
姫島とリアスが『助けろ』的視線を寄越してきたが……まぁ、それも放っておく。
「どうも、また可愛い格好をしてますね?」
「む……」
そんな兵藤達の裏で、一人居たたまれない顔をしていたヴァーリの元に、何の因果があってなのか、戦車と僧侶二人が、多分格好で怖くないと判断でもしたのか、ヴァーリに話しかけていた。
「ブタさんですか今日は?」
「可愛いですよ!」
「似合ってるというか、板についてるというか……」
「………。褒め言葉として受け取っておくよ」
そんな三人にヴァーリは目を逸らしながら無愛想に答える。
あぁ、そういやコイツ……虚勢張ってるけど微妙に人見知りだったな。
「……? そんな事より総督殿。ソーナ・シトリーの眷属で、何時もならこのタイミングで一誠に絡んでくる兵士くんの姿が見えないのだが」
ヴァーリが三人相手に人見知りを発動させてる更にその横では、本来なら禍の団の構成員で諸に敵である……黒髪の曹操とか言った小僧が、キョロキョロと辺りを見渡しながら、曰くソーナの兵士……ウリドラ使いの小僧の姿が無いことに不思議がっていた。
聞いてみると、どうやらソーナ繋がりで兵藤に対して何時も喧嘩腰にやってくるらしく、今日はそのパターンが無いことに違和感があるみたいだ。
「そういや確かにいねーな。他の奴等なら見えるが……」
とはいえ俺もそれは知らんというか、今言われて居ないことに気付いたので答えようが無い。
すると、耳にでも入ったのか、シトリー家の手伝いと一緒に会場作りをしていたソーナ女王がやって来て、匙君なら……と話始める。
「セラフォルー様と外に行きましたよ?」
「は? セラフォルー?」
「レヴィアタンとか? 何故?」
「さぁ、私からはなんとも。ただ、今回のレーティングゲームで勝ちはしたけど戦力になれなかったと匙君は落ち込んでて、それを見たセラフォルー様が匙君を慰めてたのは何度か見たので、その伝ではないかと……」
「ほー……?」
「慰めてたねー?」
真羅とかいったソーナの女王の話に、なんとなーくだが予想がついた。
それはどうやら曹操も同じらしい。
「「……。ふっ、逢引きだな」」
そして出た言葉もまんま同じで、思わず互いに顔を見合わせてから吹き出してしまった。
「え、ええっ!? さ、匙君とセラフォルー様がって……そんなバカな事」
真羅は驚くと同時にそんな事は無いだろうと言うが。
ふ、そこが甘いんだな。
「あの兵士の少年はソーナ・シトリーに並々ならぬ思いがあるから一誠に頑張って突っ掛かってた。しかし、此度の覚醒で完全に折れてしまった所に、姉からの労いで……と予想する」
「セラフォルーはシスコンだからな。その妹が自分の知らない場所に行ってしまった所を、同じ寂しさを共有できる小僧が居て、話してみたら……と俺も予想する」
切っ掛けさえあれば解らん。
そう思うからこそ困惑する女王に適当こいた俺と小僧は……。
「「へーい!」」
なんとなーく気が合ったので、変なノリのままハイタッチしてやった。
――なんて、冗談めいた話をしてたアザゼルだったが。
「はぁ……会長がどんどん遠くに行っちゃったぜ」
「わかってたけど、寂しいよね……」
「はい……外出て気晴らしになるかと思ったらそうでもないし……ハァ」
「成長して嬉しいはずなのにモヤモヤする……ハァ」
「「ハァ」」
シトリー領内にある小さな小川のほとりで仲良く体育座りしながら黄昏るは、シトリー眷属兵士の匙元士郎と、ソーナの姉であるセラフォルー
同じ気持ちを共有しているという事でこの夏休み中で一気に個人的な理由で頻繁に会うことが多くなったこの二人なのだが……。
「結局俺弱いままだし……」
「そんな事無いよ。私見てたけど、元士郎ちゃんは頑張ってたよ?」
「あはは、レヴィアタン様に誉められると嬉しいっす」
「む、嘘じゃなくて本当だからね? それと、レヴィアタン様じゃなくてセラフォルーで良い」
「え、あ、はい……じゃあセラフォルー様」
「なーに?」
「その、手握られたままだと緊張するんですけど……」
「……。ごめん。元士郎ちゃんが寂しそうな顔してたから……」
「いえ、嫌な訳じゃないですけどね? はははー……」
割りと当たってるのかもしれない。
例え話……。
「あ、レヴィアたんだ! やっと会えたぜレヴィアたん!」
「え、あ……ど、どう――っ!?」
「ん?」
「おい……これ以上この人に近付いたら喰らい尽くすぞ……!」
「げ、元士郎ちゃん……?」
と、なるかもしれないくらいには。
終わり
補足
ガチで覚醒ひんぬー会長はヤバイです。
若手悪魔の中でも次元が違いすぎるレベルまで一気に覚醒したのでヤバイです。
………………。未来的に喪女だけど。
その2
ヴァーリきゅんの本日のファッション。
ブタさん着ぐるみパジャマ。
尻尾がくるんと回ってるのが特徴的な逸品。
これを着てるとフワフワした気分でスヤスヤらしい。