幸福の女神様と共に(このすばifルート)   作:圏外

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バトルシーンというか、クエストを受ける彼らを書きたかったのですが、過去最長になりました。


第13話

「………………はぁ」

 

「さっきからため息ばっかりですよ、カズマさん。ほら、シャキッとしないと」

 

「いっそ世界滅びねーかな。巨大隕石の衝突か何かで」

 

「そんなに⁉︎」

 

 別に今の状況に対するため息じゃない。……まぁ少しも不満がないといえば嘘になるが。

 

 そう、それはつい昨日のことであるが———

 

 

 

 

 

 

 《一日前・ベルディア魔道具店》

 

「それでは自己紹介をしようか。我輩はバニル。魔王軍幹部の一角にして、この世の全てを見通す地獄の公爵!悪魔バニルである!」

 

「「……はぁっ⁉︎」」

 

 タキシードに身を包んだ仮面の男は自らの事を魔王軍の幹部だと言った。

 

「か、カズマさん!まずいですよ!件の幹部ってこの人のことなんじゃ……」

 

「……いや、落ち着け!大丈夫だ、多分ベルディアさんの知り合いか何かだと思うから俺らは見逃してもらえるかも知れない!」

 

 俺とゆんゆんは青い顔をしてこそこそと話し合うが、バニルと名乗った悪魔はそんな心配をよそに笑いながら答える。

 

「フハハハッ、そう警戒するでない仲間の娘たちとどう気付かれずに一線を越えるかを行動する勇気もない癖に日々妄想する男よ。我輩は悪魔だが、人間は殺さぬと心に決めておるのだ」

 

「おいちょっと待てふざけんなでたらめ言ってんじゃ……いや違うからな?こいつが勝手に言ってるだけだからな⁉︎」

 

 ……ゆんゆんの俺を見る目が1つ冷たいものになった。あのクソ悪魔め……!

 

「ふむ、大変美味な悪感情、ご馳走様。

 つまりは悪魔である我輩の食料は汝ら人間が発する悪感情でな。大切な食料製造機である人間を殺すなどとんでもない。むしろ、人間の繁栄を切に願ってやまない程である」

 

「へぇ……ん?でも悪感情が食料って事は、殺さないだけで危害は加えるんじゃ?」

 

「いやいや、我輩の好みの悪感情は先程貴様が放ってくれたようなやりようのない怒りだったり、勇者のみが引き抜くことができると伝えられる伝説の剣を引き抜いて喜ぶ者に『そっちの剣は我輩が昨日製作した子供でも抜ける安物。こっちが本物の勇者の剣となっております』と暴露して剣を地面に叩きつけさせる時のようなもの。よって恐怖や絶望のような濃い味の悪感情は要らんのだ」

 

「やっぱこいつ悪魔だわ」

 

「そうですが何か?」

 

 バニルは続ける。

 

「それはそれとして、だ。我輩、幹部と言っても魔王城周辺の結界の維持をしているだけのなんちゃって幹部でな。ここに来たのも任務とかそういうのとはなんら関係ない。

 ただこの首無し店主の店に行けば儲け話があると視えたので押しかけた所存である」

 

「だからと言って急に来て一言目に『バイトをしに来た』ってどういう事だ……せめて先に連絡くらい寄越せよ……」

 

「フハハハハ!良いではないか良いではないか!そこそこ稼ぎは良いのだろう?店員の1人や2人雇う余裕くらいはあると我輩の曇りなき眼が見通したぞ!」

 

 高笑いするバニルに、ベルディアさんが呆れたようにため息を吐いた。と言うか、ベルディアさんはどうしてこんな大物と繋がりがあるのだろうか。

 

「兎にも角にも、我輩自身は人類に敵対する気など有りはしない。だから安心してよいぞ、そこな娘と仲間にはもっと豊満なお姉さんキャラの年上が欲しかったと前々から思っている男よ」

 

「なんで俺だけボロクソ言われなきゃいけねぇんだよ!せめてゆんゆんにもなんか言ってやれよ!」

 

「それは当然、先程頂戴した悪感情が存外に美味だったからである。おっと、今回もまた美味なり美味なり!」

 

 このクソ悪魔……!クリスけしかけて消し去ってやろうか!

 

「で、世間話も良いが、お客様は何をお探しで?」

 

「え?いや、ベルディアさんに相談事というかなんと言うか……」

 

「ふむ……あの首無し中年に相談事と。生前は騎士の中でも割と先輩風を吹かせるタイプだったようだが、よもやこんな所でまで……や、やめろ!仮面を剥がそうとするな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ————とまあ、色々あってベルディアさんに『とりあえず今日のところは帰ってくれ』と言われてしまった。

 

 別に絶対に昨日話さなければいけない話でもなかったので素直に帰ったが、あのバニルとか言う悪魔は本当にイラつく。一発ぶん殴ってやりたいが、それも恐いし……

 

「あの淫夢サービスって、淫夢以外の夢も見せてくれるのかな……?」

 

「……なんの話ですか?」

 

「……い、いや別に?」

 

 それはさておき。

 今俺たちはパーティ総出でクエストに出かけている。

 

 何をバカなと思うかもしれないが、クリス曰く『冬になると本当に仕事ができなくなるから仕事納めにみんなでクエストに行こう!』だそうだ。

 

 俺はもちろん反対したが、女性陣はみんなやる気のようで、俺の意見が通る余地などありはしない。

 

 集団で女性比率が多いと男は女子の決定に逆らえない訳で、俺は反論もロクにできないままこうやって森に連れ出されたのである。

 

「はぁ……」

 

「またため息……カズマさん。ため息を吐いたら幸運が逃げていきますよ?」

 

「お前が言うとシャレになんねーんだよ……正直何のクエストなのかも教えられてない状況で、快適な家の中から引っ張り出されてテンション上がる訳ねぇだろ……」

 

「一見筋が通っているが、確実に冒険者が言っていいセリフではないな」

 

 先頭を歩くクレアが吐き捨てるように言う。あの野郎、ちょっとレベルが高いからって……

 

「……じゃあそろそろ教えてくれても良いだろ?何のクエストなんだよ」

 

「初心者殺しの番の討伐だが?」

 

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!離れろこいつ……!くそっ!2人とも手伝ってくれ!木にしがみついて離れん!」

 

「やだね!絶対に俺は行かないからな!こんな人殺しの住む森になんていられるか!俺は帰るぞ!」

 

 初心者殺し。

 全身が黒い毛で覆われ、ネコ科の猛獣を思わせる全長2メートルほどのモンスター。

 

 その生態は極めて獰猛かつ狡猾で、ゴブリンやコボルドなどの下級モンスターを人間の生活圏まで追い出し、そんな下級モンスターを討伐しにやって来た初心者冒険者を狩ることで有名なモンスターだ。

 

 初心者ばかりを狙うからと言っても、その討伐難度は推奨平均レベル25と高く、最上位とは行かなくても余裕で上位に君臨する魔獣だ。未だにレベル16の俺が勝てるレベルではない。

 

 確かにこの上位職で固められたメンバーなら、多少レベルが低くとも討伐はさほど難しいものでもないだろう。だからこそ、そこに俺を連れて来る必要があるとは思えない。

 

「討伐したいならやりたい奴だけでやれ!俺は安全な街に戻る!」

 

「カズマがむしろ危険な方に向かってる気がするのは私だけか⁉︎

 この野郎さっさと立て…………あっつ!熱い!髪が燃える!」

 

「ああっ⁉︎この人何の躊躇もなく顔を狙いましたよ⁉︎」

 

 額を抑えて苦しむクレアを見て、俺はこれ見よがしにほくそ笑んだ。

 

「はっ!普段暖炉に火をつけたりその辺の草を燃やして遊んだりすることで使い込んでる俺のティンダーの熟練度を甘く見るなよ!

 これ以上俺を殺そうとするんだったら、次は容赦なく嫁に行けない顔にしてやるからな!」

 

「発言があまりにも最低すぎる!」

 

 外野が騒いでいるがそんなこと知ったこっちゃない。ベルディアさんに稽古をつけてもらって多少レベルが上がったものの、俺の戦闘経験は逃げ回ることしかできなかった強化冬牛夏草で止まっている。

 更に言うと、俺はもっぱら盗賊スタイルの戦いしかできない。クレアが居るから前衛に立つ必要がないので、唯一役割が持てる遊撃手のポジションをする以外に出来ることが無いからだ。よってベルディアさんの戦闘訓練も特に使い道がない。

 

 どっちにしろ俺程度の剣技でどうこう出来る相手じゃないし。初心者殺しに殺されるビジョンしか見えない。

 

「上等だ!お前なんかここで適当な下級モンスターにでも食われてろ!」

 

「残念でしたぁ〜俺には潜伏スキルがありますぅ〜。もっと考えて発言するんだなこの脳筋が!」

 

「今ここで私がぶっ殺してやろうか!」

 

「落ち着いてクレアさん!ほ、ほらカズマさんも!大丈夫ですって!」

 

 クリスはそう言うと、俺の手を取り優しく語りかけた。

 

「ほら、カズマさんの仲間を信じてください。みんなとても強くて素晴らしい仲間でしょう?私も支援魔法をかけてあげますし、何の心配もありませんよ」

 

「だから何だ」

 

「え?ほ、ほら!支援魔法をかけてますから、初心者殺しに噛み付かれても即死はしないですし、後衛には私がいますから……ね?」

 

「……嫌だ」

 

「ええっ⁉︎」

 

 確かにクリスの言うことも一理あるとは思うが、それでも怖いもんは怖い。

 

 よく考えてみてくれ。現実世界に例えると、自分の友達から『これから繁殖期のヒグマの番を狩りに行くんだけど一緒に来ない?相手は気が立ってるけど、俺らはマシンガン持ってるから大丈夫だよ!』と言われて自分には防護服だけを渡され、家から引っ張り出されるのだ。さらに俺の場合、事前には何も知らされずヒグマがいる森の中でのネタバラシ。

 

 怖いだろう。そりゃお前らはマシンガン持ってるだろうが、丸腰の俺相手にそれは無いだろう。

 

「とにかく俺は絶対に魔獣なんかと戦わないからな!」

 

「くそっ、何だこいつの固い意志は……普段は屋敷でゴロゴロしてるだけのくせに……!」

 

「しかも家では大して寒く無いのに暖炉につきっきりですからね……確か私、この人にパーティに入らないか誘われた筈なんですけど……」

 

「何を言われても俺の心には届きませーん」

 

「途轍もなくウザい……もう良い。こいつ抜きでも初心者殺しくらいなら倒せるだろう。もうさっさと先に行こう」

 

 よし、クレアが諦めた。このまま潜伏を使いながら街まで帰れるぞ。

 だが、クリスはそれを良しとしなかった。

 

「でもカズマさんが居ないとパーティの格差が大きくなるばかりですし……そもそも、カズマさんを誘おうって言ったのはクレアさんじゃないですか」

 

 ……え?

 

 それを聞くなり、さっきまでの威勢は何処へやら、クレアは焦りだした。

 

「ちょっ、クリスさん!それは言わない約束じゃないか!」

 

「そうは言っても……カズマさんが怠けるのは自分が前衛の役割を奪ったから不貞腐れてるんじゃないかーって心配して……」

 

「あー!あー!こんなところで騒いでたら初心者殺しの格好の獲物だぞ!早く!行こう!」

 

「そんなことよりお前ら何気に仲良くなってない?クレアは若干タメ語になってるし」

 

「それはまあ、クレアさんとクリスさんは前に魔物が強くなった時、毎回2人でクエストに出てましたし……」

 

「何で全く気にしてないんだ!せめて弄れ!逆に恥ずかしいだろうが!」

 

 クレアは顔を赤くして叫ぶ。それを見てると、何だかさっきまで騒いで居たのがバカらしくなってきた。

 

「……ははっ」

 

「オイコラ、何笑ってる?ケンカ売ってるなら買うぞ?

 トラウマがどうしたスティール使うなら使え!今度こそ正面からぶっ倒してやる!」

 

「クレアさん……」

 

「ヤケになりすぎだろ……

 はあ、しょうがないから俺も参加してやるよ。ただし、絶対に戦闘には参加しないからな?あくまで敵感知とかの後方支援だけだ」

 

「……カズマさん!」

 

「いや、譲歩したように見えて言ってることは最低ですからね?」

 

「……チッ、まあいい。どちらにしろ、そう言う支援目的で連れ出したんだからな」

 

 皆んなが思い思いの発言をし、しかし心は討伐に向かう為に1つになったと感じる。

 

 さて、俺も唯一できる仕事をしないとな。

 俺は木から離れて立ち上がり、みんなの前に立って【敵感知】を作動させ…………

 

「…………」

 

「……?どうしたんですかカズマさん」

 

「まさか、また怖くなったとか言い出すつもりじゃないだろうな……」

 

「いや……えっと……」

 

 俺は左右を交互に指差し、

 

「……なんかもうすでに挟み撃ちにされてるっぽいんだけど。そこの木の影に……」

 

 直後、俺の耳元で轟音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【ライトニング】ッ!」

 

「はああっ!」

 

 バチィン!と何かが弾けるような音がしたかと思うと、クレアとクリスが、俺と初心者殺し二体の対角線上に立った。ゆんゆんは遅れて俺の近くに寄る。俺たちが陣形を整えている間に、初心者殺し二体はどこかの木の陰に隠れてしまった。

 

「えっ、えっ?なに?なにが起きたの今」

 

「少し黙ってろ!くそっ!まだ雌が身ごもってなかったということか⁉︎」

 

「考えうる限り最悪の展開ですね……!2人が負傷しなかったのが不幸中の幸いです」

 

 どうやら、俺らに気付かれたことを察した初心者殺し達が同時に奇襲、物理防御力が弱い俺とゆんゆんに襲いかかる。

 俺の方をクレアがギリギリで弾き、ゆんゆんは自前の雷魔法で迎え撃って防御。それでも二体とも殺しきれておらず、二体は物陰に隠れ、警戒態勢のこの状態ってところか……

 

 全く反応出来なかった。状況を把握するのにすらこれだけ時間がかかる有様だ。

 

「うん、やっぱ無理だったんだよ。逃げようぜ潜伏発動させるから」

 

「すでに気付かれた状態での潜伏なんぞ意味なんかあるか!さっさと敵の位置を教えろ!」

 

 クレアが大声をあげる。が、その一瞬の隙をついて初心者殺しの一体が襲いかかる。

 

「【カウンター】ッ!」

 

 そしてそれはクリスが張った防壁に阻まれた。

 

【カウンター】。それは一瞬しか展開出来ない光の壁。魔法に対しては全くの無力であるが、敵の物理攻撃を跳ね返すプリーストのスキルだ。能力値によって効果範囲が決定し、クリスほどの力を持ってすればありとあらゆる攻撃を跳ね返す絶対防御と化す。

 

 因みに、俺は今回も全く反応出来ない。敵がいるとわかっている厳戒態勢の時でさえこれだ。クレアは意味がないと言っていたが、一応【潜伏】は発動させておく。二人の影に隠れている今なら効果があるはず……

 

 だが、流石に今回はしっかりと自分の仕事をこなすしかない!ここまできたらやってやらぁ!

 

「さっきのはクリスが見張っててくれ!

 クレア!もう一体は俺から見て右に30度、7メートルの位置!」

 

「了解した!」

 

【敵感知】で敵の位置を確認し、みんなに教える。それにクレアが答え、クリスと位置を交代して隠れている方へと攻撃を試みる。

 

「おい、木が邪魔で攻撃なんて……」

 

「舐めるなッ!」

 

 クレアは腰を落とし、まるで居合斬りのような構えを取る。そして、初心者殺しが隠れる気に向かって———

 

「【一閃】!」

 

 それは、ソードマンやナイトなどの剣士職に就くほぼ全ての冒険者が持っているであろうスキル。

 

 ボクサーにおけるジャブであり、卓越した威力や派手さこそ無いが、腰を落として脱力、体にかかる重力によって発生する力をそのまま前に向け、神速の一撃を喰らわせる。

 

 何より重要なのは、【一閃】の斬撃は飛ぶのだ。初心者ではゴブリンにすら手傷を負わせられない程度の威力だが、クレアほどのレベルになると真の効果を発揮する。

 

「キャンッ!」

 

 情けない声をあげたのは木の陰に隠れていた初心者殺し。クレアは斬撃を飛ばし、奴が隠れていた木ごと奴を切り裂いて肩に大きな傷を負わせることに成功した。

 

「グルルァ!」

 

 そんな喜びもつかの間、片方のダメージとほぼ同時にさっきリフレクトで跳ね返された方がクリスの方に突撃してくる。これも番いの絆が成せる技か?

 

「クリス!来てるぞ!」

 

「性懲りも無く!【カウンター】!」

 

 クリスは先程同様カウンターを貼り、防御を図る。だが、そこは狡猾を売りにする上位魔獣。

 

「ガァッ!」

 

「ッ!そんな!」

 

 あろうことか、奴はカウンターの壁がある寸前でバックステップ。物理攻撃を跳ね返す技であるカウンターを一撃受けただけで効果と間合いを把握し、避けてみせたのだ。

 

 だが、それまでである。

 

「【ライトオブセイバー】!」

 

「ガッ……ァ……」

 

 ゆんゆんが上級魔法で初心者殺しを切り裂く。魔力を練る時間が長いため隙が多い上級魔法だが、まるで警戒されて居ないゆんゆんの一撃は奴を呻き声も上げさせず一撃で殺しきった。

 

 先程俺が発動させた【潜伏】、俺はゆんゆんの服を掴み、効果範囲に巻き込んでいた。

 初心者殺しの目には、声を挙げて指示をする俺はともかく、じっと魔力を練っていたゆんゆんの姿は俺たちに隠れて全く見えてなかったことだろう。

 

「ナイスだ!ゆんゆん!」

 

「まだだ!あと一体の位置!」

 

 クレアは先程の攻防で肩を負傷した初心者殺しを警戒している。咄嗟に位置を探るが……

 

「……だめだ、反応がない。少なくとも近くには居ないな」

 

「逃げられたか……一応敵感知は切らさず発動して居てくれ。

 ……ふぅ、ひとまず安心か……」

 

 もう一体は逃げたようだ。だが、手負いの上相手は一体。今の戦闘ほどの脅威は無いだろう。

 

「ありがとうございます、ゆんゆんさん。素晴らしい一撃でした」

 

「そんな……カズマさんの潜伏のお陰ですよ。多分潜伏が無かったら、カウンターより発動が遅いライトオブセイバーは避けられてました」

 

「今回はカズマの悪運に感謝と言ったところか……おそらく、最初の敵感知が遅れていたらカズマとゆんゆんが負傷し、押し切られていただろうな。流石に二人で負傷者を庇いながら初心者殺しの番は相手が悪い」

 

「おう、そうだぞ?もっと俺を敬え。俺がいなけりゃみんな死んでたかもしれないんだからな?」

 

「お前が駄々をこねなかったらまずあんな所で奇襲なんて受けてなかっただろうが!」

 

 さっきまで俺を褒めていた雰囲気は何処へやら、クレアから怒鳴られた。

 

「な、なんだよ!元はと言えばこんな危ないクエストに黙って連れて来たお前が悪いんだろ⁉︎俺悪く無いもん!もっと甘やかしてよ!か弱い俺を甘やかして!」

 

「何をいけしゃあしゃあと!」

 

「お、落ち着いて……さっきの戦闘でカズマさんに助けられたのは事実ですから……」

 

「……チッ」

 

「やーいやーい怒られてやんのー!」

 

「こ、この野郎……!」

 

 ぐぎぎ、と歯軋りをしながらクレアが唸る。クリスに諌められているが、あまり煽るとすぐに飛びついて来そうだ。

 

「だいたい、あんな強い奴らどうするつもりだったんだよ!お前ですら手に余ってただろ⁉︎受注する難易度間違えてないか⁉︎」

 

「……しょうがないだろ⁉︎ギルドからはもう巣が出来上がっていて、交尾も確認されいると伝えられてたんだ!雌は身ごもって巣にいると思うだろう!」

 

「……それですよね。私が倒した方は雄のようですが、子供はどうしたんでしょうか」

 

 初心者殺しの夫婦には、役割分担がなされる。雄は家族の分の食料を調達し、雌は赤ん坊を守る為に巣にこもる。産まれたての赤ん坊は外敵に狙われる危険が多いから、ある程度まで育つまでは守る必要があるのだ。

 

 クレアは雄を討伐したあと、巣の雌を倒しに行くと言うルートを想像していたようだ。

 

「だから、お前が駄々をこねて騒ぐから、嗅ぎつけられて巣から出て来られたんだろ⁉︎敵感知の発動タイミングが良かったから助かったものの!」

 

「その話はさっき終わっただろ!自分も声荒げて怒鳴りつけてたくせに!」

 

「あーもう!助かったんだから喧嘩は辞めてください!」

 

 クリスが仲裁に入るが、俺たちは睨み合ったままだ。どうにも、こいつとは仲良くなれそうに無い。

 

「とにかく、もう一体の初心者殺しを探しに行きましょう。ギルドから巣の位置は教えて貰っています。カズマさん、潜伏をお願いします」

 

「……ちっ、わかったよ。【潜伏】」

 

 そして俺たちは全員で手を握り、潜伏の効果を共有する。

 

「よし、行くか」

 

「これ見よがしに仕切りおってからに……」

 

「なんだと?お前だけ潜伏の効果から外してやろうか?」

 

「ああん?」

 

「お?やんのか?もしここで負けても俺は腹いせに街中でスティール使うくらいまでやるぞ?いいのか?また路地裏で剥いてやろうか?」

 

「……このクズが!」

 

「あーもう!喧嘩しない!」

 

 

 

 

 

「……なんか、私だけ蚊帳の外の様な……私、ちゃんと馴染めてるのかな……?だ、大丈夫よね?」

 

 そんなゆんゆんの呟きは俺とクレアの喧嘩の声に飲まれて、誰にも聞こえていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……居たぞ」

 

 ギルドから支給された地図を頼りに巣まで行くと、肩に傷を負った初心者殺しの姿があった。

 

「それじゃあ、手筈通りに行くぞ」

 

「はい。【カースド・ライトニング】」

 

 バチィン!と言うえげつない破裂音が鳴り響く。

 先の戦闘で見せた手だが、元々回避が困難な雷魔法を潜伏状態から撃てば、どんなに警戒されていようと避けることは容易では無い。

 

 元々黒い毛が焼け焦げた匂いが充満し、奴は倒れた。まだギリギリ死んでは居ない様だが、もうあと数分と命だろう。

 

「なんか、やけに簡単に終わったな」

 

「当たり前だ。潜伏スキルからの雷魔法なんて避けられる奴は居ない。ラピッドフェアリーですらおそらく避けられんさ」

 

 俺達は【潜伏】を解除し、初心者殺しの確認へ向かう。息も絶え絶えで痙攣してはいるが、まだ生きてはいるようだ。

 

「よし、カズマ。お前がトドメをさせ」

 

「……は?」

 

「経験値を得られるのはトドメを刺した者だ。お前は冒険者なんだから、レベルを上げておかないとこの先ついて来れない。良いか?ゆんゆん」

 

「はい。私はもう一体の方にトドメを刺してますし」

 

「えぇ……?」

 

 初心者殺しの方を見ると、焦点の合って居ない目が見えた。心なしか俺の方を見ていて、どこか潤んでいるような……

 

「どうした?」

 

「あー!わかったわかったよ!

 ……オラッ!」

 

 先程殺されかけたことを思い出しながら自分を奮い立たせ、短剣で喉の辺りを突き刺す。すると、キュウ、と小さく呻いて初心者殺しは息を引き取った。

 

「……なんか、カエルやら虫やらと違って哺乳類殺すのは心にダメージが……」

 

「なにを甘ったれた事を……」

 

 呆れたようにクレアが呟き、他のメンバーも何も感じて居ない様子。まあ、こんな世界で生きてきて、魔獣を殺すのに忌避感を持って居たら冒険者なんてやってらんないよな……

 

 冒険者カードを確認すると、レベルが2つも上がって居た。流石は上位の魔獣、経験値はカエルの比ではない。

 

「……ん?」

 

「どうしたんだ?ゆんゆん。こいつが何か持ってたのか?」

 

「いや……子供がいないなーって思って調べてたんですけど……なんか、雄みたいです。この子」

 

「……え?」

 

「え?じゃあ、雌がまだどこかに?」

 

「いや、この周辺に別の初心者殺しは居ない筈だ。そう報告されたし、何より巣がある。交尾も目撃されたと聞いているんだが……」

 

「……」

 

「……」

 

「あっ……ふーん」

 

「「「?」」」

 

 この世界は、やはり大切な所で締まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、今回のクエストの報酬です。お疲れ様でした」

 

「ありがとうございます」

 

 そうやって受付から手渡された報酬は200万エリス。200万エリスである。

 

 受取額の多さに、周りから感嘆の声が上がっていた。騒ぎを聞きつけたダストが俺に話しかけてくる。

 

「おいカズマ!普段働いてないお前がどういう風の吹き回しだ?つーかその額、一体何のクエストに行ったんだよ」

 

「初心者殺しの番の討伐だ。強敵だったぜ」

 

 それを聞き、周りからは更に感嘆の声が。ざわつきの中心にいると言うのは、やはり気持ちがいい。自己承認欲求って奴だろうか。

 

「マジで⁉︎凄えな……あの3人」

 

「おい」

 

 ダストは俺を戦力とみなしていないようだが。今回は結構頑張ったのに……

 

「へっへっへ……おいみんなァ!今日は凄腕冒険者のカズマさんが、哀れな俺たちに飯を奢ってくださるってよ!」

 

「おい!」

 

 ダストの一言で、今日一番のざわつきが起きた。今まで興味を示していなかった奴らも、これ見よがしに寄ってくる。

 

「マジで⁉︎さっすがカズマ!よっ、金持ち冒険者!」

 

「きゃー!カッコいいわカズマさん!」

 

「マジカズマさんだぜ!」

 

「カズマ最高!」

 

「「「「カッズッマ!カッズッマ!」」」」

 

「……はぁ」

 

 俺は大きく溜息をつき、さっき貰った報酬を天高く掲げて叫んだ。

 

「しょおがねぇなぁあああああ!」

 

「「「「ひゃっほう!流石カズマ!」」」」

 

 ちなみにこの後、クリスから無駄遣いするなと相当怒られた。

 




今回のクレアは理想として、潜伏で隠れて奇襲(ゆんゆんの上級魔法)を連続で行い、トドメをカズマに任せることでカズマのレベル上げと自信付けを目論んでいました。真面目。

追加:リフレクトは魔法を跳ね返すスキルだと聞いたので、オリジナル技のカウンターに変更しました。

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