※pixivからの転載 もしも利守が松戸にこっそり弟子入りしたら。いつもの成長利守。若干おねショタ風味※微グロ
▼どうやら修史お父さんは呪具作りのセンスがあったようだし、利守がそれを受け継いでても面白いかなと。良守:母からパワー過多 正守:両親からバランス良く継承 利守:父からの呪具作りセンス過多 的な 良守が火力過多の戦/艦、正守がバランス型の巡/洋/艦、利守は対/潜能力がダンチの駆/逐/艦
加賀見はクトゥルフ的な何かだと解釈してます。正確に理解するとSAN値ピン値

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暑い夏とあなたの死体

 倒錯的だ。夏の別荘。白い内装の、窓際のベッド。そこに横たわる老人の遺体。彼を貪る女性達。十人十色の美女達は、我先にと老人のそれを食べていた。扉を開けた、利守の足下にぶつかるもの。丸いそれは、老人のものだった。僅かに血痕がついているそれを、拾い上げる。それの意味を知りながら、利守は視界の先の黒い裾へと話しかける。

「松戸先生、亡くなられたんですね」

「えぇ。つい先程。貴男とは、タッチの差でしたわ」

 顔を上げる。黒い服を纏ったうつやかな女性。長い髪は黒く、波打っている。楚々と微笑む顔は、天使にも形容出来る。ただ、その正体が名状しがたき何かである事を、利守は知っていた。それを教えた師は、自身が結んだ契約通り、その身体を小間切れにされている。元より、老い先短い男だった。自らを代償にし、数多の妖怪や悪魔、それ以上の何かと契約していた。その結果がこれである。彼女達に奪い合われる「報酬」。それを平然と眺めていられる程度には、利守は呪術のそれに染まっていた。烏森学園中等部を示す学生服。夏仕様のそれと鞄を纏った利守は、扉を閉めながら加賀見に相対する。彼を待っていたように立っていた彼女の視界には、扉の向こうに烏森学園の新しい校舎が見えた。書類上、この屋敷とは、本来懸け離れている。利守の呪術師としての目覚ましい成長に、生前の松戸は複雑そうに喜んでいた。その時の魂の複雑な色を、加賀見は恍惚に浸りながら眺めていたものだった。

 切欠は、何て事はない。利守が、そのか弱さと空間支配系能力者という希少な能力に目をつけられ、親・一郎派の残党に拉致された事だ。偶々、旧い友人の様子をこっそりと見に行けば、彼がかわいがっていた末の孫息子が拉致されていた。なので、加賀見に力尽くで救出させた。助けられた利守とは、直接は面識はなかったに等しい。しかし、加賀見が上位の「何か」である事。そして、そんな彼女を使役している松戸に彼は言い出した。「弟子にしてくれ」と。

 弟子入りの条件は、「松戸平介」の生存を誰にも知らせぬ事――たったそれだけで許したのは、松戸の気紛れだった。そろそろ、身体の自由が利かなくなってきていた。弟子を取るのも暇潰しにいいかも知れない。修史も嘗ては、松戸の助手だったのだから、見込みはあるだろう――そんな、軽い気持ち。けれど、大人の目論見は、いつだって簡単に打破される。最初は加賀見と松戸の術で繋いでいた、別荘への「通路」。今では、家伝の術を取り込んだ利守が独力で繋いでいた。彼自身に、呪力は乏しい。だから、彼は周りから取り込む。自身にない、だから空間に在る力を自在に、貪欲に取り込む。そんな呪術を、彼は作り上げた。

 気がつけば、利守は父を、師を超えていた。

「もう、あとは教える事はない。この別荘にある蔵書を全て読めば、まじない師として大成できると先生は仰有っていましたわ」

「……ここ、4階建てなんですが」

「貴男なら出来る。先生は笑って仰有ってましたわ」

 生々しい音。それをBGMに遺言を告げる、加賀見は相変わらず淑やかだった。言葉の内容に頬を引き攣らせながらも、続けられた彼女の言葉に、利守は嘆息する。彼の足下。そこに赤いものが飛び散った。それを尻目に、彼はいう。

「まじない師としては、ですか。皮肉ですかね、それは」

「さぁ。……貴男は、本当は結界師になりたかったのですものね」

「……まさか、自分にここまでこっち方面に才能があるとは思ってませんでしたもん。結界師として、技術のサポートぐらいになるかな、と思ってたんですが」

 掌中に収まる眼鏡。徐々に酸化していく付着物。それを無感動に眺めながら、利守は思い起こす。小学校5年生から、中学に上がり。変声を経て、身長もどんどん伸びた。気がつけば、家族の誰よりも大きくなっていた。けれど家族の誰にも知らないうちに、その内面には、本来は人知の及ばぬ知識も蓄えていっていた。それを授けてくれた老爺は、寝たきりになったベッドで、大抵は機嫌良く笑っていた。自分の知らない、自分の家族の話。祖父の若い頃、祖父と祖母の結婚、父が松戸の助手になった経緯、父母の馴れ初め、正守の幼い頃、利守は父親に似ているが性格は母親似のようだという事――それを訊いて、笑ったり、泣いたり、怒ったり。人知れぬ関係は、家族には後ろ暗く。けれど、利守には楽しい日々だった。少なくとも、結界師として、報われぬ修行をしていた時より充実していた事は、利守が心のどこかで認めていた事だ。

 せめて、看取りたかったのだけれども。鳥葬のように啄まれていく師を遠巻きに眺める。それに参加しない加賀見を見下ろせば、彼女はその視線の意味を察して答えた。彼女の白い頬に、赤い飛沫が飛んできた。それを白魚の指で拭い、舐め取る仕種は艶めかしい。

「私は、『残り』と『魂』を頂く事になっているのですの」

「うかうかしていると、取られちゃいませんか。折角老人介護までしたのに」

「彼女達は、私を誰か、よくわかっていますから。それに、こういう契約は、数学よりも厳密なのですよ。それはもう、理解していらっしゃるでしょう」

「……でしょうね」

 彼女が一瞥するだけで、怯え、口の端から体液を垂らした者もいた。一般人にも、「名状しがたきもの」といえば1部には通じる位相の存在だ。これの召喚に成功した師の恐ろしさを改めて実感しながら、ふと、思いつきでいう。妖怪や悪魔達は正体を現し、そして姿を消して行っていた。残された弟子が襲われないように、きちんと「帰還」も契約に含めていたらしい。師の心遣いに内心で感謝しながら、歩いていく黒い背中を見送る。どうやら、あの、形容出来ない形状になったものと、浮かんだ魂が彼女の取り分らしい。舌なめずりする音が聞こえた。いよいよ正体を現しつつあるらしい加賀見に、ふと、利守は声を掛ける。

「ねぇ、加賀見さん。次は僕と契約しませんか」

 ただの思いつきだ。だが、半ばは本気だ。利守は、足を止めた彼女の背中を見詰める。

 数年、彼女の恐ろしい姿も見てきた。共に過ごし、笑い、主に意地悪を働く彼女の姿も見た。

 その光景に、少しだけ憧れを抱いた。

 動かぬ彼女に、歩み寄ろうとする。最早、彼女以外の「異類」はいなくなっていた。2人きり、否、ひとりと1体。

 だが、彼女の方が早かった。振り返った彼女の姿に、利守は硬直する。

 ざらりとした真っ直ぐな黒髪、白い肌。長い睫に黒目がちの鋭い目、整った眉。これは。

 面食らう利守に、彼女は詰め寄った。片手が、利守の片手に触れる。人差し指を口に添えた彼女は、艶やかに微笑んだ。

「人の女を寝取るなら、一人前になってからにしなさいね。利守」

 刹那、「加賀見」に戻る。硬直したままの利守の前で、彼女の「捕食」は速かった。1度振り返った彼女は、無邪気な微笑みを湛えたまま手を振り――かき消えた。

 あとに残されたのは、がらんどうの部屋。白い室内。ガラスの窓。一片の欠片も残らなかったベッド。それに、眼鏡を握ったままの利守。

 その眼鏡から血痕が拭い去られ――代わりに、「縁」の片鱗が残っている事に苦笑しながら、利守はひとりごちる。先程、これに触れてきたのは彼女の大サービスだろう。いつか「一人前」になった時、彼女を呼び出すのは比較的容易いだろう。

「……ふられちゃった。そっか。ウチのお母さんの顔を知ってても、おかしくないか」

 母譲りの直毛をかき乱す。ひとまず、スラックスのポケットに眼鏡を突っ込んだ。壁にかけられた時計は、そろそろ修史が末息子の帰宅の心配をする頃だった。松戸が「生前」偽造した身分で得た別荘の管理に関しては、また明日考えよう。そして、帰る前に、松戸の「死亡」に協力した正守に連絡をしておこうか。そう思いながら、彼は踵を返す。扉を開くと、むわり。夏の熱気が彼を襲った。

 

 

End.



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