アイツ"ら"の愛は重い?   作:因幡の白ウサギ

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春だ!旅行だ!トレーニングだ!

 

「はー、今日もなんとか乗り越えたっと」

 

「シュウさ、中学の頃からテストの度にそれ言ってない?」

 

「あり?そうだっけ」

 

 いつ、何処の学校でもテストがあった日は生徒達の悲鳴と安堵の声が至る所で聞こえるもので、俺もその例に漏れずテストをそれなりに乗り切れた事で机にぐでーっと脱力していた。

 ちなみに今は午後5時を過ぎた辺りで、学校に残っている生徒はそんなに多くない。そして、その殆どが部活に勤しんでいる生徒達で、俺のように部活もやっていない生徒は大体帰宅済みだ。この教室も今は俺とロイ以外に誰も居ない。

 

「やっぱ一夜漬けってジャスティスだわ」

 

「僕には理解できないんだけど、勉強っていうのは毎日やる物じゃないの?」

 

「そうなんだけどさー、そうなんだけどなー」

 

 理由を説明しろと言われると困るけど、でもなんとなく勉強はしたくないとか、有ると思います。共感してくれる人も多い筈……だよな?

 

「分からないなぁ」

 

「良い良い。分からない方がいいよ、マジで。サボり癖が付くからな」

 

 ふーん。と缶ジュースを傾けるロイは、なんというか凄く様になっていた。イケメンは何をしても絵になるというのは、やはり本当の事であるらしい。

 

「イケメンって得だよなぁ……」

 

「テストの話から如何してそこに思考が飛んだのかは分からないけど、でもイケメンもシュウが思ってるほど得じゃないよ?同性から妬みは貰うし、告白を断るのだって一々気を回さなきゃいけないし」

 

「知ってるかロイ。世間一般ではその悩みは"持つ者の悩み"って言ってな、何を言っても同情はされないんだ」

 

「ストラトスさんも似たような悩み持ってそうだけど」

 

 俺は顔だけ起こしてアインハルトが使っている机に目を向ける。普段は授業が終わったら速攻で帰宅する俺がまだ学校に残っている理由は、そのアインハルトだ。

 といっても、別にアインハルトが問題を起こして教師に呼び出されているとか、という訳ではない。いや、間接的には起こしているのだろうが、呼び出す相手が違う。

 

 アインハルトを呼び出すのはこの学校に在籍する男子高校生。何の用か、なんて……まあ深く考える必要も無いだろう。

 嗚呼。無惨に爆死する男子高校生が、また1人増えていく……

 

「持ってる、のかなぁ」

 

「知らないのかい?」

 

「俺だって、別にアインハルトの全部を知ってる訳じゃないんだぞ」

 

 まあ十中八九妬みは有るだろう……というか有る。何故なら耳をすませば、二つ先の教室で何人かの女子がアインハルトをdisっているのが聞こえるから。ちなみに理由はその女子が好きな男がアインハルトにゾッコンだかららしい。

 告白に関してもそうなのだろう。その辺、アインハルトは凄く気を使っていそうだ。

 

 だけどそれがアインハルトの悩みになっているかと問われると……無いんじゃないかなぁ、と俺は思うのだ。確証が無いから話さないけど、そんな事を気にするようなメンタルをしていないのがアインハルトの筈だ。

 

「意外。てっきりお互いの事は全て把握してるのかと」

 

「お前は俺達をなんだと思ってんだ」

 

「私だってシュウさんの全部は知りませんよ。知っている事を知っているだけですから」

 

 入口の方から声がした。なのでそちらを向くと、そこには鞄を持ったアインハルトが立っていた。

 

「終わったか」

 

「ええ。お待たせしました」

 

 俺は椅子から立ち上がろうとして、それよりも早くロイは座っていた机から降りて駆け足気味に扉へ向かった。

 

「んじゃあ僕は先に帰るよ。連休明けに会おう」

 

「下まで一緒に帰らないのか?」

 

「望んで馬に蹴られるほど野暮じゃないさ。それに、迎えにはもう結構な時間を待たせてるしね。早く行ってあげないと悪いだろう?」

 

 ロイはウィンクを一つするとそのまま去っていった。ああいった気障っぽい仕草が似合うのもイケメンの特権だと思う。

 

「さて、私達も帰りましょうか。明日から合宿ですし、準備をしなければいけませんしね」

 

「もう殆ど終わってるだろ」

 

「いえ、まだシュウさんとやる運動の準備がですね」

 

「ミット打ちな。アレどこにやったっけ?」

 

「確か押入れの奥の方にありましたよ……いい加減に買い換えません?気持ちは分かりますけど」

 

「愛着があってなー」

 

 のんびりと夕暮れが差し込む廊下を歩き、さっきアインハルトをdisっていた女子グループが居る教室を過ぎ──ちなみに、まだ同じ話題で盛り上がっていた。俺達が通ると露骨に口を閉じたけど──階段を降りて昇降口まで。吹奏楽部が練習で吹く楽器の音が少し喧しい。

 

「今日は何人フッたんだ?」

 

「4人です。その内セコンド希望が3人。全員、見るに堪えない愚昧でした」

 

「酷い事言うなぁ。その人達にもこう、何かしらの良い所が有るだろ?頭が良いとか、顔が良いとか……あとは……顔がいいとか」

 

「シュウさんを貶す為だけに使われる頭脳に価値は無いです。顔だけの考え無しはもっと嫌いです」

 

「……なーるほど」

 

 これはネットでちょっとでも漁ればすぐに見つかる事なのだが、魔力が欠片も無い俺がアインハルトのパートナーである事に、少なからず疑問や妬み嫉みの声が上がっている。

 別に誰を選ぼうがアインハルトの勝手じゃん。と思うのだが、まあ何事にも難癖をつけたいだけの人は一定数居るものだ。魔力至上主義な世の中で魔力が無い俺だからこそ、余計に槍玉に上がっているというのもあるのだろうが。

 

 今回告白(カミカゼ)を敢行した男子生徒達も、きっと俺を槍玉に上げて貶したりしたのだろう。「君にあんな魔力無し(社会不適合者)は相応しくない。俺ならもっと上手くサポートできる」みたいな?

 そりゃ逆鱗に触れるわ。アインハルトはそういうの大嫌いだし。

 

「まあそんな事はどうでも良いです。とにかく急ぎましょう。少しの間でも家を離れるんですから、最後に掃除くらいはしておきたいですし」

 

「そうだな、急ぐか」

 

 学校の敷地内をランニングしている陸上部の横を通り過ぎ、その舌打ちに背中を押されながら俺達は学校を後にした。

 

 通学路に人気は無い。まだ部活が終わるでもない中途半端な時間だから仕方ないのだろう。

 

「……シュウさんは」

 

「ん?」

 

「シュウさんは、もし私が告白を受けたら……なんて考えないんですか?」

 

「…………えっ?なんで?」

 

 あまりに唐突な質問に思わず聞き返す。いや、本当に何故この流れでそうなったし。

 本気で間の抜けた声が思わず出てしまい、それを聞いたアインハルトがニッコリと笑みを浮かべた。

 

「……忘れて下さい。只の気の迷いです」

 

「ああ……どうした、急に笑うなんて変な物でも食べたか?」

 

「いえ、なんでも、なんでもないんです。ただ今夜はお赤飯かなと」

 

「ごめん待って。マジで話が見えない」

 

 ちょっと嬉しそうなアインハルトに疑問符を浮かべた帰り道だった。

 

 

 

 さて、翌日である。

 毎年恒例となった連休中の強化合宿は、ミッドチルダから離れた無人世界カルナージで行われる。ミッドチルダの首都クラナガンからは次元船で4時間掛かり、時差は7時間と結構凄い。

 

「そういえばシュウさん、ルールーがまたアスレチックを更新したって自信満々に言ってましたよ。なんでも、『今度は絶対に越えられない壁を用意したわ!』って事らしいですけど」

 

「越えられない壁(物理的に)じゃないだろうな……」

 

「いやー、それは無いと思いますよ。ルールーは自分の流儀に『クリア出来ない物は作らない』ってあるらしいですから、だからあくまで比喩表現かと……あったあった。これです」

 

「どれどれ……あれ?これ地球のテレビ番組『サスケェ』のセットじゃあ……」

 

「そこに気づくとは……やっぱそうですよね?」

 

 ちなみに、この次元船は座席が2人1組となっている。それが横にもう1セットあって、横列に4人が座れるような設計だ。左側の列に俺達学生組が、右側の列には大人組がそれぞれ座っている。

 

「ルーテシアらしくないな。ネタ切れか?」

 

「アトラクション間の移動効率を突き詰めたらこうなったらしいですよ」

 

 そして俺の隣に座っているのはヴィヴィオである。俺の隣を賭けたヴィヴィオとアインハルトの壮絶なジャンケンバトルは、85回のあいこの末にヴィヴィオが制したのだ。決まり手は"チョキをグーに変える──と見せかけてパーにする"らしい。

 そんなジャンケンの勝者であるヴィヴィオは、次元船に搭乗してから露骨に俺とベタベタ接触していた。それはもう、たった数メートルの僅かな距離でも手を繋ぐ事をせがむレベルである。

 

「ああ、そうなのか……ところでヴィヴィオ」

 

「お水ですか?それとも、おやつ?」

 

 それは今も変わらず……というか、到着に近づくにつれて更に苛烈になっていた。今だって、こうして普通に会話しているが、その距離はお互いの息が吹きかかるような至近距離である。

 流石にマズイと思った俺は距離を離そうと試みているのだが、いつの間にかガッツリと右肩を掴まれていてそれも出来ない。

 

 なんなんだこの状況。そしてなのはさん、さも当然のようにビデオカメラ構えてないで娘を止めて下さい。いや●RECじゃなくて。

 ……アインハルトの方からも圧が凄い。

 

「いや、ちょっと昼寝しようかなって」

 

「そうですか。じゃあ遠慮せずに私に寄りかかって下さいね」

 

 ヴィヴィオが少し俺から距離を置いた──と思ったら俺の頭はヴィヴィオの方に寄せられた。そして感じる、ふにっとした感触。耳元で喧しいくらい動いている心臓の鼓動が聞こえるので、どうやら俺はヴィヴィオの胸元に頭を寄せられたらしい。

 

「ど、どうです?流石にアインハルトさんクラスとまではいかなくても、人並みにあるでしょう?」

 

「それは判断しかねるけど……大丈夫か?別に無理しなくても」

 

「良いんです、平気です。なので今だけでも、この嬉し恥ずかし幸せタイムを満喫させて下さい」

 

 そして首にもヴィヴィオの腕が。どうやら離すつもりは無いようである。まあヴィヴィオが良いならそれでいいか。

 やる事も無いので目を閉じる。思ったより早くやってきた睡魔に身を任せながら、俺は薄らいでいく意識でふと思ったのだった。

 

 ところで今の体勢って、他人からはどう見えてるんだろうか?

 

 

「ダメだってアインハルトさん……!ここで暴れたら……!」

 

「離しなさいユミナさん!あれは、あの体勢だけは許す訳には……!」




おまけ。前日のナカジマジム組

「なあフーカ。どうして私はジムで1人残らなきゃならないんだろうな……」

「ナカジマ会長が会長だからでは?」

「だよなぁ……ウェンディが羨ましがってた気持ち、今なら分かるな。かといって会長の仕事を投げるわけにもいかないし……」

「なんかすいません……」

「いやいや、フーカが気にする事は無いよ。それより、思う存分楽しんで来い」

「押忍っ!」

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