東方新抗禍 ~A new Fantasy destroys devious vice~   作:ねっぷう

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第31話 「東方新抗禍」

「ああ、そうだな…。見たか、禍王!これがお前が嘲笑った、”紛い物達の輝き”だ!!何度でも言う、アタシ達を…誰だと思ってやがる!?」

 

新子たち新レジスタンス、地底から参戦した妖怪たち、幻想郷からやってきた神獣や妖怪…。各々が一丸となり、声を張り上げる。

しかし、禍王はそれが気に入らないとばかりに、怒りの声を上げながら再び彼女らの前へ立ちふさがる。

 

「この私の作ったマガノ国で、霊力や妖力を具現化するとはな!なるほど、転換計画から抜け出しただけの事はある。だが、まだだ…!!」

 

禍王の操るベヒーモスは、両肩から伸びる二本の腕を伸ばし、マガノ国の空に浮かぶ全ての衛星と岩塊をかき集め、超高密度に圧縮する。

 

「所詮は私にねじ伏せられるだけの哀れな存在!その思い上がり…後悔させて…やろう!!」

 

「物凄いエネルギーだ…」

 

「まるで…隕流星(メテオバーン)…」

 

「そいつをぶつけようってのか…!」

 

「『スター…ダストォ…レヴァリエ』ェェエエエエエ!!!」

 

巨大な質量を有する衛星と岩塊を砕きながら圧縮して手の平に込め、それにより生まれた爆発的な魔力は見立て通りの隕石の勢いに匹敵するほどの力を秘めていた。その爆発的な魔力を、禍王は新子たちへ向けて一気に放出したのだ。

 

「永劫に続く創世界滅の劫火に焼かれ、DNAの一片まで…完全消滅するがいい!!」

 

「ぐああ…」

 

あまりの威力に、新子たちは吹っ飛ばされそうになる。地面を掴み、または手を取り合い、やっと踏みとどまれているような状態。

 

「やばいな、流石にこのままじゃ持たないね…!」

 

 

「新子…」

 

その様子を眺める、人里の鈴奈庵の前に居る…新子の母親と稗田阿富。

そしてそこの近くでは、同じくツムグと迪郎。

 

「だが、奴らがこれで終わるはずがねぇ!」

 

ツムグの言う通り、皆もまだ諦めてはいなかった。それは人間だけにとどまらず、魔法の森の湖に生息する鳥も、かつて赤い砂丘が有った森に棲む蟲の怪物や恐竜も、竹林に住む妖怪兎たちも、諦めていない。

 

 

その願いが届いたのか、新子も拳を握りしめ、顔を上げる。

 

「まだだ!まだやれる!」

 

「新子ォ!ここは任せて…貰おうかァ!!」

 

悠々と新子の目の前に現れたのは、鬼人正邪だった。禍王の攻撃にも臆することなく前へ歩いていき、腕を組む。すると、どこからが現れた鷹鼻の仮面が現れ、正邪を包み込む。黒い長衣を纏い、緑色の妖気を放ちながら、敵へと突っ込んだ。

 

「『仮面の反逆者(マスクドトレイラー)』…限界突破(リミットブレイク)!!」

 

正邪が化身として生み出した仮面の反逆者の腕と指が無数の矢印状の触手に変わり、禍王のスターダストレヴァリエをその身で受け止めた。

 

「正邪!」

 

「嘆くな、お前たち。一度は絶望と倦怠の闇に沈んだ魂が、ここまで来れた。小槌の魔力で得た偽りの体だが、幻想の明日を紡ぐのなら、本望だ!」

 

正邪は笑みを浮かべ、そう豪語した。

 

「所詮は犬死にだ、消えろォ!!」

 

しかし、禍王はスターダストレヴァリエの威力を更に高め、仮面の反逆者ごと正邪を消滅させんとする。

 

「仮面の反逆者が消滅(ロスト)する…!」

 

「それを…待っていた!!」

 

正邪は自らの体を超巨大な矢印へと変え、スターダストレヴァリエのエネルギーを全て吸収し、それを新子へと向けた。

 

「新子!受け取れぇ!!」

 

そのまま矢印は新子の体へ浸透し、膨大な霊力を与えた。

 

「このエネルギーは…鬼人正邪の遺志…。よし、正邪…一緒に行くぜ」

 

その膨大すぎるエネルギーは、とても新子の器に収まり切れなかった。しかし、その溢れるエネルギーは、周りの者たちへと伝達され、結果として起こった事は、正邪のエネルギーを糸のようにして繋がった全員が、まるで引き寄せ合うようにくっつき、次々と融合していく。

 

「まさか、新子がたびたび敵の力を吸収してきたのは…この時の為だった…?」

 

華扇がそう声を漏らす。

そう、南の歌姫の番人であったゴリアテ人形と戦った時も、初めて鬼人正邪と戦った時も、熱風と戦った時も、東の歌姫の力を取り込んだ時も、メンドーサと戦った時も、新子が敵のエネルギーを吸収してきたのは、この無限の吸収能力を育てるためだったのだ。

そして、闘技場に取り残されていた囚人たちをも一部として取り込み、誕生した一つの莫大な霊力の塊は巨大に膨れ上がると同時に形を変えた。

 

「何だと…?」

 

妖怪の山の倍以上大きかった超ダイヤサカと同じ大きさであった禍王のベヒーモスですら、そのくるぶし程にしか満たない程に巨大な霊力は、人の形へと変化する。片足をマガノ国に、もう片足を幻想郷へ置き、紫色のマントを羽織ったその姿は巨大な本居新子そのものであり、虹色に光り輝く身体はまるで幻想郷をそのまま写したかのように見えた。

 

「お前たち如きが、これほどまでに巨大なエネルギーを支配したのか…!信じられん!」

 

ただそれを見上げるばかりの禍王が驚きの声を漏らす。

 

「アタシ達は、人間であり、妖怪であり、全てであり!何だかよくわからないモンが混ざってできてる。それが、アタシ達って事だァ!!」

 

─『超新子(ちょうにいこ)』─

 

「何を訳の分からない事を言っている!?それこそが滅びへの道!幻想郷の限界に…何故、気付かん!?」

 

禍王も負けじとマガノ国中の魔力を吸い上げ、一気にベヒーモスを巨大化させた。全長十万メートルにも及ぶ『超新子』と、同じ大きさにまで膨れ上がる。

そして『超ベヒーモス』は、右腕を振り上げ、『超新子』へと殴りかかる。巨大な拳が飛び、それを超新子の拳が受け止める。

 

「それはテメェの限界だ!この閉ざされた世界で、王様気分で他の生命を踏みにじった…テメェ自身の、限界に過ぎない!」

 

「人の大きさは無限!その可能性に、私も賭けた!」

 

新子と華扇がそう叫ぶ。

拳と拳は反発し合い、互いに距離を取る。が、両者はともに宙へ飛び跳ね、大気圏を越えようかという地点での激しい戦いを繰り広げる。それはわずか一分にも満たない戦いであったが、両者の想いが、決意が、そして精神の高揚と相まって、数千を超える拳のやり取りとなって間に火花を散らした。『超新子』の撃ちだす拳が破壊されようと、その巨体を構成している新子の仲間が次の拳を作り出し、それを繰り返した。

やがて、『超新子』はほぼ宇宙に近い高度へと向けて跳んだ。

 

「喰らえ…必殺!『超…リベリオン…トォリィガァ』アアアアア!!」

 

拳の最大級の霊力を込め、その腕をそのまま下に居る『超ベヒーモス』へと向けて、ロケットが如き勢いで突撃する。

 

「ほう、面白い!ならば…必殺!『ファイナルゥ…マスタァ…スパーク』ゥゥウウウウ!!」

 

両手から放たれた、赤、黒、青、紫など数々の色に輝く超極太のレーザーが超リベリオントリガーを迎え撃つべく飛んでいく。二つの強大なエネルギーは衝突し、ほぼ互角の鍔迫り合いを繰り広げながら、無数の衝撃波を産んだ。

 

  ∞

 

だがしかし。衝突した二つのエネルギーの拮抗はやがて破られ、『超新子』の拳がファイナルマスタースパークの火力に耐えきれずに、粉々に砕け散る。

が、その内部から出現したダイヤサカが光線を受け止めようとする。そのダイヤサカの両腕も壊れようとした時、輝針城が巨大な矢印を使い光線に向かった。

その輝針城も破れた時、五匹の神獣たちが炎を吐きながら瓦礫の中から現れた。だが神獣たちも勢いに消滅されようとした瞬間、囚人として捕らえられていた妖怪たちが一斉に飛び出し、攻撃を防ごうとする。

妖怪たちも限界が近づいた時、その背後から現れた聖白蓮、寅丸星、雲居一輪、村紗水蜜の四名が光線を受け止める。さらに背後から豊聡耳神子、物部布都、蘇我屠自古の三名がそれを受け止める。

彼女らも破られると、無数の河童の集団が代わりに受け止める。それも破られ、飛び出したケチャルコチルが受け止める。

ケチャルコチルが破られ、その後ろから犬走椛、赤蛮奇、リグル・ナイトバグ、藤原妹紅、易者、メンドーサが順番に飛び出し、次々と光線に立ち向かっていき、やがて限界が訪れると、後ろからやって来た星熊勇刃が受け止めた。

勇刃は少し長く持ちこたえたが、限界を迎えると背後から現れた二ッ岩マミゾウが剣と刀を使い、光線を止めようと奮戦する。

 

「あとは頼んだぞい…二人とも!」

 

吹っ飛ばされるマミゾウの背後に、堂々と腕を組んで立っていたのは、『東の反逆者』。背中には本居新子と茨木華扇がともに肩を組んで敵を睨んでいた。

そしてファイナルマスタースパークが自身に衝突しようかという時、腕を振り上げた。

 

 

ガキン

 

「んん…!?」

 

異変を感じた禍王は、思わず声を上げる。見つめる先では、『東の反逆者』が華扇の包帯を使い腕にドリルを形成し、そのドリルを高速回転させた腕でファイナルマスタースパークを完全に受け止めていた。

 

「馬鹿な…今まで何者をも突破してきた今の私の力で、砕けないものはないはずだ!」

 

「覚えておけ、滅び去った古いモノは、新しいモノの中で生き続ける」

 

『東の反逆者』は一歩踏み出し、徐々に光線をかき消しながら進んでいく。

 

「そうして古いモノは新しいモノへ教えてくれる。倒れていった者の願いと、後から続く者の希望!二つの想いをこの身に刻み、明日へと続く道を示す!それが、”幻想郷(げんそうきょう)”…それが”東方新抗禍(とうほうしんこうか)”!!このアタシの力は、禍へ抗うための道しるべだ!!」

 

ついに、『東の反逆者』はファイナルマスタースパークを完全に打ち消して消滅させた。両腕に装備したドリルを回転させ、ベヒーモスへ向かって飛んでいく。

『超ベヒーモス』の頭部の中に格納されていた『ベヒーモス』は、こちらへと一直線に向かってくる新子の化身に向けて先端の尖ったワイヤーを伸ばした。ワイヤーは『東の反逆者』の体に何本も突き刺さり、その肉体を崩壊させる。

しかし、新子と華扇は肩を組んだまま、崩れゆく化身を踏み台にしてなお突き進もうとする。

更に、ベヒーモスの内部から這い出してきた、赤黒い雲状の体の禍王が、眼からもう一度ワイヤーを無数に放った。

 

「新子!!」

 

華扇は腕の包帯をバネのように巻き、そこに新子を設置させ、そのままバネの勢いでミサイルのように新子を射出した。

『超新子』から続いて攻撃を受け続けてきた者たちの列は、まるで禍王へと続く道のようでもあった。そして腕を前に掲げる新子の姿は、その道を進みながら方向を指し示す矢印のようだった。

華扇の本気の力で撃ちだされた新子は真っすぐに禍王へと向かって行く。いよいよ、禍王の本体の元へとたどり着こうとしていた。

 

「無駄な足掻きだ!マスタースパーク!!」

 

禍王は右手をかざし、手に刻まれた八卦の紋様から黄色いエネルギーの光線を新子へ向けて発射した。

 

「新子の姉御ォ、アブねぇ!」

 

勢いのままに向かっていた新子は、それを回避する術を持たなかった。が、新子の腰に収まっていたバットがひとりでに新子の前に飛び出し、マスタースパークからその身を以って守って見せた。

 

「へへへ…姉御が奴を倒すトコが見れねぇのが、残念でさァ…」

 

バットはそう言い残すと、粉々に砕け、消滅してしまう。

 

「バット…!」

 

バットが開いてくれた活路を無駄にしないために、新子は拳を振り上げ、禍王へと向かう。禍王は腕を五本ほどの触手に変化させ、それで迎え撃つ。

 

「うぐ…!」

 

触手の刃状の先端が新子の脚や肩をかすめ、血が飛んでいく。それにより勢いが殺され、後ろへと飛ばされる。

せっかく、皆の力あって禍王の元へとたどり着こうとしていたのに、最後の最後で…!

 

ポン

 

その時、背中に何かが触れ、前へと押した。

 

「え…?」

 

後ろを振り向くと、そこには、淡い光に包まれた新子の父親と、八坂神奈子、そして鬼人正邪…今まで命を落としてきた戦士たちが自分の背中を押していた。

 

─倒れていった者の願い…

 

新子は自分の言った言葉を思い出していた。父親は少し微笑みながらガッツポーズをとる。

 

「うおおおおおおお!!」

 

再び勢いと闘志を手に入れた新子は、一気に禍王との距離を詰め、落下と同時にその首元を手で掴む。新子と禍王は互いに組み合いながら地面を転がり、新子が上の馬乗りの状態で顔面を殴りつける。

 

「ぬおお…」

 

だが、禍王も自分を殴る新子の腕を掴み、そのままひっくり返す。地面に叩きつけられた新子の腹を思いきり蹴り上げた。起き上がった新子は再び向かってくる禍王の顔をもう一度殴り、脇腹に肘を入れる。

 

「ぐはぁ…!」

 

「ぬうううう!!」

 

両者はしばらくの間こうして、戦いではない、殴り合いの喧嘩を繰り広げた。

 

「本居新子、どうして私を倒したいのだな」

 

「当たり前だ…。お前は妖怪を倒すだけならまだしも…歌姫計画とか何とか言って、人間をも苦しめ続けてきたんだからな」

 

「それがどうした、幻想郷は私の物だ!自分のモノをどうしようと、私の勝手だ!死ね!!」

 

禍王の手の平に魔力が集中し、無数の星型の光弾となって新子へと降り注いだ。しかし、走り出した新子に光弾は全く刺さらず、逆にそれを粉砕しながら、新子は高くジャンプした。

 

「何だと!」

 

「あのな、禍王…このアタシがな、ずっと前、何年も前からずっと…テメェに言いたかったコトがある」

 

─…く…くそ…何故だ…。何故、コイツは”こう”なのだ!?なんでコイツは”こう”なんだ…!

 

拳を振りかぶる新子。

 

「クッソオオオ、やっぱりかアアア!!」

 

新子のパンチが、それを見上げる禍王の顔面に、深く…深くめり込んだ。

 

「幻 想 郷 は テ メ ェ の じ ゃ ね ぇ よ」

 

 

本居新子、キサマは凄い奴だ。

 

 

 


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