東方新抗禍 ~A new Fantasy destroys devious vice~ 作:ねっぷう
ついにマガノ国の支配から解放された幻想郷。しかし、再び魔の手が忍び寄るのも時間の問題だ。
本居新子、茨木華扇、そして二ッ岩マミゾウの三人は、マガノ国に囚われた人間と妖怪を救い出すため、新たなる旅へと出るのだった。
地底での滞在を終え、月の民の力を借りてついにマガノ国へと足を踏み入れた新子たち。囚人たちを救うためのダイヤサカ奪還作戦は開始された。
地底から駆け付けた仲間たちの協力有って、ついにダイヤサカを奪う事に成功した新レジスタンス。しかし、禍王はまだ諦めてはいなかった…。
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第26話 「知らない言葉」
「…爆発!?」
ゆっくりと王宮へ向けて空を飛びながら移動していたゲムルルは、王宮の方角から聞こえた爆発のような大きな音を耳にする。すぐに竜の形態から、警戒形態へ変化し、生やした翼で一気に王宮へと向かった。
王宮に突き刺さり、その役目を終えた戦艦ドゥルジが、爆発を起こしながらバラバラに崩れ去っていく。
そして、動力源を失い、変形を解除していくダイマガノ。元に戻ると、それは赤と青の配色に変わり、前部にあった髑髏の顔は元の妖怪の荒々しさを表現した顔に戻される。
そう、動力に輝針城がハマった事により、ついにダイマガノ…いや、ダイヤサカは正邪たち新レジスタンスの元へと戻ってきた。
「よくやったお前たち。これにて、ダイヤサカ奪還作戦は成功だ」
椛たちの歓声が聞こえる。新子は、その場に聳える山のように巨大なダイヤサカを見上げた。全長2000メートル、かつてマガノ国を攻めた地底妖怪軍の旗艦…。
「ところで、妹紅たち…お前ら、なんでここに…?」
新レジスタンスは、ダイヤサカ艦橋部の操縦室へ集まっていた。それに加え、神奈子、妹紅、聖、神子、易者までもが揃っているのだ。
「君たちが旅立ってから、我々は考えたのだ。200年前、地底の妖怪はマガノ国へと向かった。しかし、その時…我々は戦いへ参加しなかった。何故だと思うかね?」
と、神奈子が言った。
「マガノ国が、怖かったからです」
それに聖が続けた。
「その通り。だが、怖がっているだけではダメなのだ。力を持っているはずの我々が、力を持たない者に総てを任せて、ただ待つばかり…。それじゃダメだよなぁ…」
「ただ見てるだけなのは、嫌だからね」
神子がそう言う。
「私も、居ても立ってもいられなくなって来ちゃったんだ」
「妹紅…さっきは助かったぜ。あと、易者のおっさん、アンタまで来てるなんて驚いた」
「お、俺は来たかったわけじゃないぞ!俺の占いが道を示せるから、だから無理やり同行させられただけなんだ!!」
その時だった。王宮の上に渦巻いていた黒雲の一部が、ダイヤサカの甲板上に降り立った。悪意に満ちた赤黒い雲の塊から手足が生え、甲板に指を喰い込ませる。雲の一部に裂け目が出来、そこに無数の瞳が埋め込まれたような眼が浮かび上がる。
「ウラアアアア!!その戦艦は渡さんぞ、ムシケラ共!!」
王都中に、禍王の恐ろしい声が轟き渡った。酷く怒りに満ちた声がダイヤサカの内部にまで響いた。
「禍王か!?」
「ついに、奴のお出ましか…!」
「それだけではない、見よ…」
正邪が、はるか上空を目で指した。そこには、五つの巨大な惑星が集まっている。その惑星の表面に、徐々に黒い顔が浮かび上がり、ダイヤサカを睨みつける。”衛星型戦艦プロメテウス級”、マガノ国が誇る最大の兵器であり、その直径は五千メートルを優に超え、普段は夜になるとマガノ国の領域を監視する役目を担っている。しかし、もしもの場合…そう、今のような時には戦艦としての力を使い、圧倒的な大きさと破壊力を持つ巨大な兵器と成るのだ。
「あの惑星も、でっかい戦艦だったのかよ…」
プロメテウス級の五隻は顔の目から光線を放ち、ダイヤサカを攻撃する。艦内は揺れ、ダイヤサカはダメージを受けていく。
「おい、このダイヤサカは動かせないのか!?」
「無理だね!」
勇刃の問いに、神奈子が言い放つ。
「もともと、私が作ったこのダイヤサカは、動かすのに膨大なエネルギーが必要なんだ。本来は、動力源となる者が”ヒソウテンソク”というメカに乗り、そのヒソウテンソクに伝えたエネルギーを輝針城へ、その輝針城へ渡ったエネルギーはギア伝達により増幅され、それを通してようやくダイヤサカは動く…」
「それじゃどれぐらいかかるんだ?」
「分からない。輝針城はあっても、ヒソウテンソクが無けりゃあ…」
「でも、そのヒソウテンソクとやらの代わりになるモンなら、アタシが持ってるぜ」
新子が名乗りを上げた。
戦艦ダイヤサカ動力室。高さ五百メートルほどの立方体の動力室の壁に出来ている穴に、人型に変形した輝針城が両手足を突っ込み、エネルギーを送り続けている。
更に輝針城機関室。まだダイヤサカ内部に残る敵の魔力を糧として、新子が生成した『東の反逆者』が、壁から伸びるワイヤーを両腕で掴み、そこへ霊力を送り続ける。その『東の反逆者』の霊力も、うなじ部分にくっついている新子が送られるものであり、新子のエネルギーはどんどん大きくなるギアを経由することで何倍にも強大な霊力へ、妖力へと成るのだ。そしてダイヤサカの艦内に未だ充満している魔力が残っている限り、新子は力を送り続けることができる。
「新子、お前にこんな才能があったとはな」
「正邪に見せるのァ初めてだったな。吸収した東の歌姫の魔力を形にしたんだ、名前はお前がかつて使ってた『仮面の反逆者』からとってる」
「それでも、まだ時間はかかるようだな」
「だったら、私たちがやることは、敵の処理…って訳か」
妹紅たちが、ダイヤサカに群がる残りの敵戦艦や兵士たちとの戦いに向かおうとする。
「お願いするわ。こっちの調整は私に任せて」
メンドーサが胸を張り、そう言った。その傍らには、修理しかけのメドゥシアナが置かれている。
「ほう、愚か者共が死にに来たか」
ダイヤサカの甲板上に立っていた禍王は、艦橋からやって来た妹紅や聖、神子の姿を見てそう呟く。禍王の赤い目が光を放つと、それに呼応されるように戦闘鎧を纏った憲兵や、残った小型戦艦などが動き出す。
「喝!!」
聖が顔の前に手を合わせ、念を送ると、憲兵たちは戦闘鎧ごと見えない法力に押しつぶされ、墜落していく。
「おお、これがマガノ国の戦艦なのだね。大きな君には特別に、赤と青…両方選ばせてあげよう」
神子の羽織っていたマントが赤と青に光り、点にまで伸びる光の柱が敵の戦艦を貫いた。その時に溢れ出た兵士たちを、妹紅が次々と特大の火力を放ち、焼き払って行く。
「喰らえい!!」
が、妹紅の死角から迫っていた憲兵が、剣の腕を妹紅の背中に突き刺した。更に深く剣を押し込むと、妹紅は血を吐き出す。
「くはは、どうだ…。…!?」
「…くくく、ザンネーン、私はそれじゃあ、死なないんだな」
妹紅は背中に刺さった剣を引き抜いてそのまま腕を掴み、憲兵を自分の前へと投げ飛ばす。そしてその顔面を蹴りつけた。戦闘鎧が破壊された憲兵がその場でもがき、それをもう一度蹴って地面へ落す。
「ちょっと待て、アレは何だ?」
神子がダイマガノの背後を指差した。その先にあるのは、敵の本拠地でもある王宮であった。王宮は縦に長いタワー状になっており、その形はまるで渦を巻いているようにも見える。そして、よく見ると、その渦は動いて回転し、周囲のエネルギーを魔力として吸い上げているようだった。
「アレは…?」
同じく、ダイヤサカ内に居た正邪たちもそれに気づいたようだ。
「200年以上にもわたる我々マガノ国と幻想郷の戦いの中では、お前たちもまたちっぽけな存在にすぎないのだぞ」
直後、響く禍王の声。
「何だと…!?」
機関室でエネルギーを送り続ける新子がそう呟く。
「見るがいい、妖怪共の敗北の歴史を」
各々の頭の中に突然流れた映像は、マガノ国軍に壊滅させられる妖怪軍、そして滅ぼされる妖怪たちの姿だった。憲兵団の祖ともいえる歪なマガノ兵が斧で妖怪の首を叩き落とす様、怪物スラッグのような緑色の魔獣に殺される妖怪、そして艦隊戦を繰り広げる妖怪軍の戦艦…。
槍に貫かれ、魔法で木っ端みじんにはじけ飛び、砲撃で撃ち抜かれる。そうしてできた死骸や武器が積み重なっている、まさに”妖怪の山”…その頂上で下を見下ろす、ひどく邪悪な存在。
「…あ、大変だ…せっかく溜めていたダイヤサカのエネルギーが…あの螺旋状の王宮に吸い寄せられていく…」
「このマガノ国が…妖怪の墓場って事…か」
「こじゃれた事言ってる場合かよ!こうしてる間にも、溜めてるエネルギーが吸い取られてしまうんだぞ」
易者がそう言った。
「そうだ、易者の言う通りだぜ…」
艦橋内部に、動力室に居る新子の声が届く。
「今の妖怪たちも…みんな、アタシらと同じようにマガノ国に抗っていた…だから、アイツらの遺志を無駄にはできない!!」
新子の叫びに呼応して、東の反逆者が雄叫びを上げ、一気に膨大な霊力を放出する。
「霊力ゲージが上がってる!」
リグルが安堵の声を上げる。
「ぬおおおおおッ…!!」
そのまま、更にエネルギーを放出する新子と東の反逆者。が、しかし…その直後、流れる霊力のあまりの勢いに耐えきれずに、東の反逆者の右腕が千切れ、破壊されてしまった。
「ぐあああああ!」
叫び声と共に、地面に落ちた腕は消滅してしまう。
「片腕が壊れたのか…」
「…大丈夫、私に任せて…」
消滅しゆく腕を見つめながら、苦い表情を浮かべる正邪。その正邪の元へ、メンドーサがふらりと現れる。
メンドーサは、俯く東の反逆者の体をヒョイと登り、千切れた右腕のあった所に立った。そして自らの銀色の髪の毛を伸ばし、天井から垂れさがるワイヤーを掴む。結果、無事に東の反逆者のエネルギーを送るための伝導体としての役割を果たし、再び霊力ゲージは安定する。
「安定はしたけど…一向に上昇する気配が無いわね…」
「プラスマイナスゼロという事か…。頑張ってくれ、新子…」
「…クソ、見てられねぇよ…」
壁に座っていた勇刃が立ち上がる。
「待て、勇刃…お前はまだ足と怪我が…」
同じく機関室に居た神奈子が、勇刃を呼び止める。勇刃は新子の治癒力を貰った事により、辛うじて走れるレベルにまでは足のケガも回復していた。しかし、また無理に動かしたり、戦ったりすれば、前より悪化してしまうかもしれない。
「さっき…新子は死にかけの俺を助けて、かつ俺の願いを聞いてくれた…。だから今度は、俺の番だ」
勇刃はそう言うと、さっさとダイヤサカの甲板上へと移動した。甲板に出ると、艦首に近い方に禍王が居座っており、その他の戦艦や兵士たちは艦橋の周囲に集まっていた。その兵士や戦艦と戦うのは、妹紅や聖、そして神子の三人。
「オラァ!!」
勇刃は飛び上がり、兵士たちを殴りつける。戦闘鎧が破壊され、次々と甲板から叩き落とされていく。
「貴様~~!!」
さらにやって来た憲兵が大きな剣を振りかざし、勇刃に斬りかかった。しかし、勇刃の鋼鉄の体は剣による攻撃すら通さず、僅かに切り傷ができる程度であった。
その剣を素手で掴み、振り回しつつ他の憲兵を攻撃しながら遥か遠方へ投げ飛ばした。
すると、直線状に投げ飛ばされた憲兵が、何かにはじき返される。勇刃が驚いてそちらを見ると、そこに居たのは…。
「よォ、さっきぶりだな…死にぞこない」
「お前は…ゲムルル…ッ!」
ゲムルルであった。腕を組み、コウモリのような翼を羽ばたかせ、上から勇刃を挑発的に見つめている。両者が再び相まみえる。ゲムルルは一瞬にして”殲滅形態”へ移行し、腕を六本に増殖させ、更に翼を駆使して物凄いスピードで滑空してくる。
先ほどの戦いでゲムルルは戦闘力と共に精神力までも多大な成長を遂げており、それに勇刃一人が立ち向かうには、あまりに分が悪すぎる。
が…
「な…!」
勇刃はゲムルルが滑空と同時に振るった六本の触手の腕をすぐさま見切って潜り抜け、ゲムルルの腹に見事拳を命中させる。すぐさまゲムルルも勇刃へ攻撃を加えようと、腹から鋭い棘を生やすが、それすらも予測していたかのように勇刃はすぐに距離を置いた。
そう、成長していたのは勇刃もまた同じであった。
「少しはやるようになったな」
「今度は…俺がお前に一発ぶち込んだ」
しかし、それでも実力の差は埋まらない。勇刃の一撃も、ゲムルルには何のダメージも入っていないだろう。
「ふん…!」
ゲムルルは触手を振り回し、勇刃へ攻撃を加えようとする。
二人が因縁の戦いを繰り広げようとしている頃、螺旋王宮はさらに回転の勢いを増し、外に居る妹紅や神子たちの力すらも吸い取ってしまわんとしていた。
「力が抜ける…」
「体が重くなるようだ…」
そんな彼女らの上空に、艦隊が迫る。
「標的を確認!ですが、その側に何故かゲムルルらしき姿が…」
「構わん、あのゲムルルがこの程度で死ぬものか。主砲門発射用意!!」
戦艦軍の主砲が妹紅たちや勇刃へ向けられた。
「まずい…!」
妹紅たちはすぐに退避しようとするが、勇刃はゲムルルと交戦中であったがゆえにその場を離れることもできずにいた。
「奴ら、ゲムルルごと撃つつもりなのか!!」
ゲムルルもそれに気づき、攻撃の手を少し休め、戦艦の方へ顔を向ける。
ズキン
─また頭痛が…!!
「撃てーッ!!」
その時、敵艦隊から一斉に砲撃が放たれた。砲撃は真っすぐにそして勇刃を狙っていた。
ゲムルルは、心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。それと同時に、脳裏には自分の知りもしない、体験したこともない光景や、知らない人物の顔が次々と浮かび上がり、弾けて脳内に浸透した。
「勇刃ァ!」
既に砲撃の着弾地点からは退避していた妹紅がそう叫ぶ。
が、その時、勇刃をその場に残してその場から離れるだろうと思っていたが、ゲムルルは砲撃が当たる直前に、自身の体をアメーバが如く広く伸ばし、砲弾を遮る壁となった。
それに驚いた勇刃が、一瞬身構える。その時にゲムルルが発した言葉は、ゲムルル自身も、そして勇刃にも、到底、想像しえない言葉であった。
「─こっちにおいで。私がお前を守ってあげるよ─」
「え…?」
「あ…?」
直後にゲムルルに砲撃が無数に命中し、その爆発の音で、それ以上は聞こえなかった。
やがて爆発がおさまり、辺りも静かになる。
「お前、今…何て言った?」
「我は…」
「お前、それは…俺の…」
勇刃が次に続く言葉を言おうとした瞬間、彼の体を妹紅が攫った。そして甲板上を飛ぶように移動し、艦橋の方へと移動していく。
己でさえも知らない言葉が浮かび、それを発したゲムルルは、先刻の戦いで二度起こした爆発を起こした際の虚脱感よりも、更に大きな虚無感へと陥っていた。
「我は…何を…」
本来、敵であり侵入者であり王都に仇なす者である勇刃を咄嗟に助けた。それは明らかにゲムルル本人の意志による行動ではなかった。頭の中に響く頭痛が声と成り、咄嗟にその声に従ってしまったのだ。つまり、ゲムルルに組み込まれた妖怪の念が、ついに意識を掌握しようとしている証拠でもあるといえるだろう…。