東方新抗禍 ~A new Fantasy destroys devious vice~   作:ねっぷう

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第15話 「叛逆爪」

ついにマガノ国の支配から解放された幻想郷。しかし、再び魔の手が忍び寄るのも時間の問題だ。

本居新子、茨木華扇、そして二ッ岩マミゾウの三人は、マガノ国に囚われた人間と妖怪を救い出すため、新たなる旅へと出るのだった。

 

地底での滞在を終え、月の民の力を借りてついにマガノ国へと足を踏み入れた新子たち。この敵地の真っただ中には、当然のように危険が潜んでいるのだった。

 

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第15話 「叛逆爪」

 

「やれやれ…まだ頭が痛むな」

 

勇刃が立ち上がりながら言った。しかし、いざ立ってから目線を周囲へ向けると、勇刃も押し黙った。他の仲間もそうだった。華扇もマミゾウも、この海岸の不気味だがどこか神秘的な光景に目を奪われている。

 

灰色の砂浜に、波打つ紺色の海。生き物の骨が散乱し、鴉のような鳥が歩いている浜辺を囲うように、紫色の森があたりを埋め尽くしている。

 

「マガノ国に海が有ったとは驚きじゃ」

 

「うおお、なんだこれ!?」

 

新子が上空を指差して叫んだ。驚くのも無理はない、何と、空には無数の球体が浮かんでいるのだ。あれこそ、惑星だった。無数の小惑星が空に浮かんでいる。

 

「どういうこと…?」

 

「よく見ろ。アレは惑星ではない。五千~六千メートルの球体が、上空一万メートル以上の地点に浮かんでいるだけだ」

 

「雲の代わりに、でっかい岩が浮かんでるな」

 

「それで、ここに出たはいいけど、これからどうするの?」

 

「まず、マガノ国の地理について説明しておこう。マガノ国の広さは幻想郷と同程度、しかし、西から北、そして東にかけては海が広がり、東には国境からくる山脈が続いている。今居る場所は西海岸だ」

 

「最西端ってことか…」

 

「ここから東に向けて進めば禍王の居る王都、南に沿って行けば闘技場がある。囚われた者たちが居るのは、きっと王都か闘技場だ」

 

「人々を救い出すには、そこまで行かなければいけないという事ね。敵に気付かれる事なく…」

 

「そういうことになるだろう」

 

「でも、成功させなきゃならねぇだろ」

 

新子がそう言った時、背後の茂みがガサガサと動いた。一瞬びくっとしてから、振り返る。すると、茂みから何かが顔をのぞかせていた。

 

「あんなところに…人が居るぞ…」

 

そう、茂みからこちらを覗いているのは人間の顔だった。目を丸くして、瞬きもせずにじっとこっちを見つめている。彼は逃げ出した人間だろうか?それとも、ここに住んでいる憲兵団…?

 

「お前たち気を付けろ」

 

正邪がぼそりとそう言った。

 

「何だって言うんだ?憲兵団か?」

 

「いや…それよりも厄介だ」

 

その途端、茂みの中の人物が立ち上がった。新子はその姿を見て目を疑った。確かに背格好こそ人間であるが、体は茶色い毛で覆われ、手には細長い爪を生やし、犬のような尻尾を持っていた。それを皮切りに、次々と茂みの中から獣人が現れた。鳥のような鱗に覆われた足を持つ者、魚のような顔を持つ者、昆虫のような腕を何本も持っている者…。明らかに異形と言える獣人がずらりと新子たちを囲っている。

 

「何だコイツらは…魔獣か何かか?」

 

「あの目つき、黙っていてくれそうにはないわね」

 

華扇の台詞も、案の定当たった。次の瞬間、獣人たちは一斉に奇声を発しながら飛び跳ね、新子たちに襲い掛かった。

 

「ガアアア!」

 

歯を剥き出し、唸り声を上げながら爪や腕を振り下ろす。新子は間一髪でそれを避け、獣人の脚に蹴りを入れる。獣人がよろけて転び、新子はその場から離れようとする。

しかし、その間にもどんどん獣人はここに集まってきていて、既に100人以上の獣人に囲まれていた。

 

「仕方ない…切り崩していくしかなさそうね」

 

華扇はそう言うと、右腕を大きな拳へと変化させた。群がる獣人を殴り飛ばし、わずかな切り口を作る。すかさずそこに向かって駆け出し、無理やりにでも獣人を吹き飛ばしていく。

しかし、それでもまだ平然としている残りの獣人たちが攻撃をしようと近寄ってくる。

 

「まだ諦めてくれねぇか…!」

 

新子がふと、浜辺に転がる朽ちた丸太の上に足を置いた。その時、その丸太が大きく揺れた。新子は何かと思って足元を見ると同時に、青ざめた。

丸太が地面からボコッと持ち上がり、その下から何本もの触手を覗かせている。触手は今にも新子の脚を掴もうとしていた。

新子は慌てて足を退かす。その瞬間、丸太が二つに裂け、大きな歯が現れた。口になった丸太はガチンと歯をかみ合わせ、今まで新子が足を置いていた場所の砂を吹き飛ばした。

 

「うわああ!」

 

情けない声を上げる新子。その声につられるように、砂の中から何匹もの同じような生物が這い出て来る。丸太を背負ったヤドカリのような生き物だが、丸太の下から黒い小さな目が飛び出し、口は丸太の部分にある。四本の触手のような腕で歩き、人間の何倍も大きい。

 

「大丈夫か?」

 

しかし、このヤドカリの魔獣も、勇刃の力の前では有象無象に過ぎなかった。勇刃は一撃でヤドカリを殴り飛ばし、同時に襲い来る獣人を足で制している。

ヤドカリは勇刃たちには敵わないとみると、周りに居る獣人たちに目を向けた。触手の脚を伸ばして獣人を絡めとり、自分の元へ引き寄せる。そして、丸太の口を開き、その獣人を丸呑みにした。

その時だった。空が突然サッと暗くなった。上を見上げると、すでに日は沈み、夜の闇が頭上を覆い隠していた。そして、空に浮かぶ惑星のような球体に、悍ましい顔面が浮かび上がった。

ヤドカリはそれを見て怯み、獣人たちは目を覆ってグダグダと地面に膝をついた。禍王の恐怖が、正にマガノ国を覆い尽くしていた。

 

「逃げるぞ!」

 

勇刃は新子をわきに抱えると、思い切り飛び跳ねた。今度はヤドカリを標的として襲い掛かる獣人たちをまたぎ、紫色の森の中へ入っていった。

 

「奴ら、完全に俺達の事は忘れてしまったらしい」

 

「あ、ああ…」

 

後から、華扇とマミゾウもやって来る。

 

「この森に沿って東に行くのがいいかのう」

 

マミゾウがそう呟く。

 

「そうするかぁ」

 

新子がそう言いながら足を踏み出す。だがその時、突然と地面に穴が開いた。新子の足は上手くその穴にはまってしまう。短く悪態を付きながら足を抜こうとするが、何故か動かせない。穴に引っかかってるのかと思って覗き込むと、何と自分の足が穴の中から伸びる腕にガッチリと掴まれていた。腕には黄色い鱗が並び、太い指に湾曲したカギ爪が伸びている。

 

「うお、何だコイツ…!?」

 

物凄い力で引っ張られる。抵抗しようとしても、余計に穴の中に滑り落ちてしまうばかりだ。

 

「どうしたの!?」

 

「わからねぇ、引っ張られる…!!」

 

華扇とマミゾウ、勇刃が新子の腕を掴み、引っ張られまいと力を込める。しかし、そのカギ爪の力はさらに増し、一気に新子を穴の中へと引きずり込んだ。

 

ドスン

 

新子は土まみれになりながら、穴の中に落ちた。直後、周りを見る余裕もなく、新子は無理やり立たされ、首を何かで固定される。腕も足も。

 

「おい、バンキ、手荒な真似はよせ」

 

静かだがハッキリとした声がそう言った。

 

「知った事か、どうせコイツらはスパイだ!私たちレジスタンスの残党をあぶりだそうとしてやがるな!」

 

今度は、荒っぽいしわがれ声が強い口調で言い放つ。

 

「だが怪我はさせるな、人間だぞ」

 

「うるせぇ!人間の格好した、奴の手下だろうが」

 

頭も動かせない。目だけを動かして、周りを見る。自分の少し前に、長い襟を立てた赤い上着を着た、赤髪の女が居る。その奥に、白い髪に犬のような耳を生やした女。赤髪の女は、怒ったような表情で新子を正面から睨みつけている。

 

「新子を離しなさい!」

 

その時、穴に飛び込んできた華扇が現れた。すぐさま赤髪の女に包帯を変形させたドリルを突きつける。

 

「何だお前は、コイツの仲間か?」

 

赤髪の女がそう言う。

 

「ああ、仲間じゃ」

 

続いて降りてきたマミゾウ。その後に勇刃が降りて来る。

 

「バンキ、やめろ。その人間を離せ」

 

バンキと呼ばれた赤髪の女は、不服そうに悪態を付くと、さっと後ろを向いた。すると、新子を押さえつけていた力もなくなった。解放された…、と思った時、新子の視界にとんでもないものが入ってきた。このバンキとそっくりな顔をした頭が何個も浮かんでいるのだ。五つはあるだろうか。その頭たちはバンキの本物の首と重なると、同化して消えた。

 

「手荒なマネをしてすまないな、人間」

 

白い髪の犬耳がそう言った。

 

「私は犬走椛。そこの赤いのはバンキって呼ばれてる。お前さん、危なかったんだぞ。あのまま進んでいたら、もっと危ない魔獣と鉢合わせしてた」

 

「魔獣だって?アンタもだろ?その耳と、手…さっきの獣人とそっくりだぜ」

 

新子が憎らし気にそう言う。ついさっきの事で、少し機嫌を損ねている。

 

「失敬な!私は誇り高き白狼天狗の生き残りだぞ、耳は元からこういうのだ。この手は…そうだな…」

 

椛と名乗った白狼天狗は、目を下に向けて言葉を濁した。

と、その時、新子の背後から正邪が姿を現した。驚いた顔で、椛とバンキを見ている。それに気づいた二人も、正邪を見てアッと声を上げる。

 

「生きていたのか、我が戦友よ…」

 

「お前こそ…!随分雰囲気変わったな、気付かなかった」

 

「確か、闘技場から姿を消したというからてっきり死んじまったのかと思ってたぞ」

 

「色々あったがな」

 

正邪は新子たちに向き直る。

 

「かつてマガノ国へ挑んだ地底の妖怪軍、その時の仲間たちだ。どうやら…この洞窟でずっと身を潜めていたらしい」

 

「そうだ。軍が一気に壊滅させられた直後、私たちは敵に捕まった。仲間だった奴らはバラバラに散った。闘技場行き、処刑行き、そして私たち白狼天狗はその高い基礎能力と統率性を買われて、工場送りにされた。それで禍王は…その、何て言うか、何かを弄ったり手を加えるのが好きなんだな。白狼天狗は奴の遊び、改造の過程で命を落としたりした。だが私だけは、完全に改造が終えられてしまう前に脱走を図ったんだ。逃げた先で、この洞窟を掘った。しばらくして、王都から脱出してきたバンキと出会った」

 

と椛が続けた。

 

「まあ、そのおかげでこんな強力な腕が手に入ったがね。純粋な手の力なら、鬼と同等かそれ以上じゃないかね」

 

鳥のようなカギ爪の手で拳を握り、歯を見せてにやっと笑った。

 

「って、ことは…さっきの獣人は…?」

 

新子がおそるおそる口を開く。

 

「さっきの獣人は改造された白狼天狗の成れの果て…と言いたいところだが、実際はもっと胸が悪いぞ。禍王は改造に成功した妖怪は自分らの手下にする。だが、奴は人間も捕虜として捕らえていた。改造された人間は、所詮人間、彼らはマガノ国の荒れ地へ放たれる。私らはソイツらを、”改造人間”と呼んでるがね」

 

なんてこった…。あの獣人は、助けようとしていた幻想郷から連れて来られた人間たちだったのだ。

 

「誰か来たの?」

 

誰かの声が聞こえた。今度は洞窟の奥の方から、緑色の髪の毛をした女性が歩いてきた。手には骨の付いた肉が乗ったお盆を持っている。

 

「ああ、改造人間どもにやられそうなところを助けた」

 

「そうなんだ。私はリグルっていうんだ」

 

リグルと名乗った彼女はほっそりとしていて、頭からは虫を思わせる触角が二本伸びている。リグルは椛の座っている前に肉のお盆を置いた。

 

「リグルはつい10年ほど前にここに来てな。闘技場から逃げてきたらしい」

 

「運が良かっただけだけどね」

 

「お前たちも食うか?イノシシだぞ」

 

椛は肉を口に放り込みながら、お盆を新子たちの方へ寄せた。

 

「じゃ、じゃあ…」

 

「それで、聞かせてもらえないか。正邪と一緒に居るアンタ方は一体誰で、何故ここに?」

 

椛がそう聞いてくる。

 

「打ち出の小槌を使ってマガノ国に捕らわれた人間や妖怪を幻想郷へ連れ戻すために、地底世界を通じてやってきた」

 

新子たちはマガノ国へ侵入した目的、これまでの旅での出来事、地底での様子を全て話した。この椛にバンキ、リグルの三人組は、信頼するに値したからだ。

 

「そりゃすごい。打ち出の小槌を使えば、全部できちゃうって訳か」

 

椛が、意味深な表情で顎に手を当てながらそう言う。

 

「そうだ。マガノ国の魔力を使い放題で可能な範囲ならば何でも願いを叶えられる」

 

「だがな、禍王がそれを許すかな」

 

「何を言ってるの、気付かれないようにこれから行動してくんじゃない」

 

華扇が少しムッとしながらそう言った。壁に寄りかかって座っていたバンキがふっと笑いをこぼした。

 

「馬鹿が。さっき自分で言ってただろ、このマガノ国に入ったモノは全て禍王の所有物。つまり、禍王はマガノ国の隅から隅まで見ることができるのさ」

 

「そういうことだ。つまり、絶対に秘密裏に行動するなんて不可能だぞ」

 

「でも、アンタらは100年以上もずっとこうしてるんだろ?」

 

「確かに、こういう地下洞窟とか森とか海岸とか、開拓されていない場所にまで目は届かないのかもしれない。でも、囚人を助けるのならば敵の本拠地へ赴くことは不可欠…そうなれば必ず見つかるぞ」

 

「じゃあ、どうすれば…」

 

皆が押し黙った。

 

「特大超弩級戦艦”ダイヤサカ”」

 

だが、正邪のその一言が沈黙を破った。

 

「特大…なんだって?」

 

新子が聞き返す。

 

「私は、かつて闘技場で活躍していた。勝ち進めば進むほど衣食住の待遇は良くなる。その時、私は普段は王都で生活していた。禍王に最も近き、マガノ国の王都。そこで暮らす者なら誰しも一度は目にするであろう、王宮の一部と化した巨大な構造物。あれこそが、我々レジスタンスの旗艦だった、戦艦ダイヤサカ」

 

「ダイヤサカ…か。確かに、敵に奪われたダイヤサカは王都の一部になった。だが、それが何だというのだ?」

 

「敵に見つかるだと?上等だ、ならば見つかるつもりで行けばいい」

 

「どういうことだ?」

 

「くっくっく…突入するんだよ、王都へ。そして我らが希望、ダイヤサカを奪還し、囚われの者たちも救い出す」

 

「何だと…敵地へ殴りこむというのか?馬鹿な!我々妖怪は、二度もそれを行い、失敗しているのだぞ。また同じ過ちを犯すというのか、鬼人正邪!!」

 

「馬鹿はお前たちだ。私たちを誰だと思っている?この新レジスタンスは、一度幻想郷を救っているのだぞ。かつての我々とは違う、新たな明日を担う者たちだ。コイツらに不可能は無い」

 

「ダイヤサカを…奪還する…?」

 

「ははは、そんな大胆なコト、考えてもみなかった…」

 

「いいだろう。我々三人は、新レジスタンスを全力でサポートしようではないか」

 

椛がそう言いながら、改造されていない方の手を差し出した。新子は戸惑いながら、その手を握り返す。

今、新レジスタンスに再び新たなメンバーが加わった。計八人の戦士は、その時へ向けて作戦を立て始める。しかし、その裏で、まるで人が寝てる間に廊下を這う百足のように、禍が動き出そうとしていた。

 

 

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<登場用語・人物紹介4>

 

・藤原妹紅

「老いることも死ぬこともない程度の能力」を持つ。そろそろ幻想郷にも飽きてきていたので流れに便乗して地底へやって来た。新子とはウマが合うようで、割と仲がいい。

 

・易者

お馴染の易者さん。「占術を使う程度の能力」を持ち、その占いは気味が悪いほどよく当たるらしい。だが、なかなか占ってもらいに来る人が少ないのが悩みらしい。

 

・一龍齋

易者と同じ方法で妖怪になった元人間。元が強かったためか、易者よりも妖怪としての力は高い。

 

・カグヤ

穢れから身を守るために自ら仮死状態となった月の民の集合思念体。一つになった月の民に欠けているという名前、”カグヤ”を名乗る。

 

・犬走椛

「千里先まで見通す程度の能力」を持ち、これにより敵に見つかることなく長い間暮らしてきた。右手は鳥のようなカギ爪に改造されており、本人曰く鬼と同等の力を発揮するという。

 

・バンキ

赤蛮奇。王都で奴隷として働かされていたが脱走し、椛の住む洞窟へたどり着いた。「頭を飛ばせる程度の能力」を持っているが、度重なる戦いによって半数近くの頭を失ってしまっている。

 

・リグル・ナイトバグ

「蟲を操る程度の能力」を持つ虫の妖怪。闘技場でそこそこ活躍していたが、つい10年ほど前に逃げてきた。マガノ国の蟲はあまりいう事を聞いてくれないらしい。

 

・マガノ国の空

空に雲は無く、代わりに無数の岩塊が浮遊している。さらに上には大きな惑星を模した巨大な物体が浮かんでおり、さながら宇宙空間に居るような感覚に陥る。夜になると惑星型の物体は魔力を発し、獣人や魔獣たちに禍王の恐怖を知らしめる。

 


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