東方新抗禍 ~A new Fantasy destroys devious vice~   作:ねっぷう

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第9話 「打ち出の小槌」

ついにマガノ国の支配から解放された幻想郷。しかし、再び魔の手が忍び寄るのも時間の問題だ。

本居新子、茨木華扇、そして二ッ岩マミゾウの三人は、マガノ国に囚われた人間と妖怪を救い出すため、新たなる旅へと出るのだった。

 

道中、幽霊となっていた鬼人正邪を仲間に加え、新レジスタンスを結成した新子たち。新レジスタンスは、打ち出の小槌を求め、いよいよ地底世界へと足を踏み入れるのだった。

 

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第9話 「打ち出の小槌」

 

結局、その晩は夜中まで宴を楽しんでしまった。かくいう私も、久々の大宴会で舞い上がり、少し飲み過ぎてしまったかもしれない。

 

「ふぅ…」

 

華扇は和風の部屋で一息ついていた。未だ酔っぱらっているのか、顔が赤く火照っている。この部屋は神奈子が貸してくれた部屋だ。ここならば安全で、明日までゆっくり休めるとのことだ。

 

コンコン

 

部屋の戸がノックされた、障子の向こう側には大きな人影が見える。

 

「誰かしら?」

 

「すまない、俺だ」

 

隙間から顔をのぞかせたのは、勇刃だった。さっきもあれだけ飲んでいただけあって、酔っぱらっているようだ。

 

「一体どうしたの?」

 

「実はな…」

 

勇刃は畳の上に腰を下ろすと、切り出した。

 

「母さんの事を教えてほしいんだ」

 

「…どうして?」

 

「前にも言った通り、母さんは俺が幼い時に居なくなってしまった。話に聞けば、俺の母さんは凄い人だったという。だが、俺は優しい母さんしか知らないんだ。だから、俺が産まれる前の母さんの事を教えてほしい」

 

─お前は優しいんだね。偉いねぇ、こっちにおいで。私がお前を守ってあげるよ─

 

「う~ん、短く言えば、曲がったモノが嫌い、素直で豪快な、正に”強さ”を具現化したような人だったわ」

 

「そう、か。ならば、今の俺とは真逆だな」

 

「真逆?」

 

「皆は俺を強い、あるいは頼もしいと言うが、自分はそうとは思えない。新都の守り手をやっていたのだって、簡単そうだったからしていただけで、多分ここが色んな奴から狙われるような場所だったら絶対やってない。前にも言ったが、君たちが来たとき、俺は内心、とても怯えていた。何せ、俺が経験した初めての来訪者だったんだ。何事もなく終わってくれとずっと願ってた。新子が進み出て俺と戦う事になった時、ホッとしたよ。一番弱そうだったから。この通り、俺は常に楽な方へと流れていく。だけど、母さんは俺を臆病だとか、意気地なしとは決して言わなかった。いつだって、『私と違ってお前は優しい、それを誇ればいい』って言ってた」

 

「そうなのね。…貴方の知らないあの人も居るし、私にも知らないアイツが居るって事か」

 

「そういえば、アンタの名前は…」

 

「私?私は…茨木華扇よ」

 

「茨木…やっぱりな!!アンタは俺と同じ…」

 

「おっと、何を言っているのかしら?私は旅の行者…ただの仙人」

 

「…ふふ、確かにな」

 

勇刃はそう言いながら、肩の力を落とした。

 

 

「うわぁ…何だか入りにくい状況になっちまったぞ」

 

戸の隙間から部屋の様子をのぞいていた新子が呟いた。風呂に入ろうと部屋を開けて、上がってから戻ってきたらこの通りだ。何やら、入るのを戸惑ってしまうような雰囲気だ。

 

「まあ、ここは邪魔をせんでおこうではないか」

 

同じく、隙間から除いていたマミゾウがそう言った。二人はその場から立ち上がると、どこか暇をつぶせる場所を求めてフラフラと歩み去るのだった。

 

 

 

翌日。いよいよ、新都の中央にあるという地霊殿へ向かう時が来た。

3人の前にやって来た八坂神奈子が言った。

 

「私が車を手配しておいた。これで地霊殿まですぐに行ける」

 

目の前に停まっているのは、大きな人力車だった。普通の人間サイズの者なら5人は乗れそうなほど広く、赤と緑、金の豪華な装飾が成されている。と、その人力車に繋がれた柄を持った少女が居た。

 

「やあ、君たちかい?地霊殿に用があるってのは」

 

黒を基調とし、緑色の刺繍の入ったドレス、三つ編みに縛った紅い髪の毛。と、ここまでならば人間とほとんど変わりないが、やはりここは地底。彼女の耳や目つき、尻尾は猫とよく似ていた。

 

「あら…貴方は」

 

「あたいは火焔猫燐。お燐って呼んでもいいよ。あたいが地霊殿まで送ってってあげるさね…って、おっと、久しぶりに見たね、山の仙人でしょ!?」

 

「おいおい、お前知り合い多いなぁ」

 

三人は人力車に乗り込んだ。火焔猫燐という少女は凄い速さで車を走らせた。新都の町並みがどんどん過ぎていく。すると、二階や三階建ての建物の隙間の向こうに、大きな館が見えた。白い壁に青い屋根、色鮮やかなステンドグラスが見える。

その館の庭で、火焔猫燐は人力車を止めた。三人は車から降り、柔らかい草の上に降り立った。大きさは、前にも行った紅魔館と同じくらいだが、色も違うし外観も綺麗なのでかなり違った印象を受ける。

 

「さあ、あたいが案内してあげよう」

 

燐に連れられ、「地霊殿」へと入った。燐が重い扉を開け、中へと案内する。

地霊殿の中は、明るい天井に、紫色のカーテンとじゅうたんに覆われていた。この今居る玄関ホールの正面には2階へと続く大きな階段がある。

 

「ここが地霊殿か…」

 

新子があたりを見渡しながらそう呟いた。よく目を凝らすと、壁の隅っこや階段の手すりの上などに猫や鳥がいる。

 

「お待ちしていましたよ」

 

ふと、階段の上を見ると、いつの間にかそこに誰かが立っていた。

誰だ?と新子は心の中で思う。すると、まるでその心の声が届いたかのように、影の暗がりから姿を現した。薄紫色の髪の毛に、ダルそうな目つき、その下にくっきりと残った隈。ゆったりした水色とピンク色を基調とした着物に身を包み、口にくわえたパイプをふかしている。

 

「ちょっと、さとり様!あたい達の前で、ソレはやめてくださいって言ってるじゃないですか!」

 

「あら、ごめんなさいね。つい忘れちゃって…」

 

そう言いながら、パイプを口から離し、フーッと煙を吐く。

頭に付けた金色の髪飾りから、何かコードのような飛び出しているのに気付いた。よく目を凝らすと、それは全身の服の隙間などからコードのような細長い物が伸び、横に浮かんでいる目玉のようなオプションと繋がっていた。

変な奴だな、と新子は思った。

 

「変な奴でごめんなさいね」

 

「なっ…!?」

 

新子はビクッとした。さっきもそうだったが、まるで考えていることが分かっているみたいだ。

 

「そう、私は古明地さとり。名前の通り…”(サトリ)”…っていう妖怪よ。心が読めるの」

 

「だからか…」

 

「八坂神奈子から話は聞いているわ。打ち出の小槌を貸してほしいんでしょ?」

 

「そうじゃ」

 

マミゾウが返事をした。

 

「ついてきてちょうだい」

 

さとりは再びパイプをふかすと、通路の奥へ足を進めていった。新子たちも、それに後をついていく。

 

 

「この地霊殿、動物が多いでしょ?」

 

廊下を歩く途中、さとりはそう切り出した。新子たちがそうだな、という間もなく、さとりは話を続ける。

 

「私自身の心を読める能力のせいで他の人に嫌われてしまうから、こうして地霊殿に引きこもっているのだけど…動物たちは言葉を話せないから、自然とここに集まって来るのよね」

 

「へえ…」

 

「ここの子たちは勝手に人間の怨霊とかを食べたりするから、人型妖怪に成長するのよ。さっきのお燐とかもそうかもね。年経た猫は火車になるから」

 

そうこう話しているうちに、ひときわ目立つ扉の前までたどり着いた。扉の前には番犬のような大きな犬が座っており、扉は鎖で撒かれ、いくつもの南京錠のようなもので閉ざされていた。

さとりは番犬に退くように指示を出し、扉に触れる。南京錠に手をかざすと、勝手に南京錠は外れていく。個人認証のシステムが組み込まれているのだ。きっと、ここの主であるさとりにしか反応しないのだろう。全ての南京錠を同じように外すと、今度は扉に巻き付けられた鎖がひとりでにシュルシュルと解かれていく。その過程を経て、ようやく扉が姿を現した。

扉の鍵穴にカギを刺し込み、いよいよ扉が開けられる。重い金属の扉を開けると、中は真っ暗だった。その真っ暗な部屋の中に、うっすらと光を発している物が背の高い台の上に置かれている。

 

「ところで、打ち出の小槌が欲しいという目的は?」

 

さとりの横に浮かんでいた目玉が、じっと、順番に新子たちを見ていく。

 

「なるほど、マガノ国の囚人の救出、ね。できるといいわね。…いや…本当にできるの…?」

 

「え…?」

 

「私には妹がいたわ。ある日地上に出かけて行って、それきり一度も帰ってきていない。どこに居るのかすら、今じゃ確かめようもない。そこで…もしも、マガノ国に私の妹、古明地こいしが居たら…連れて帰らせてきてほしい」

 

「…」

 

「できる?」

 

そう質問したさとりは、今度は目玉を閉じていた。心は読まず、新子たちの意志を口から直接聞こうとしているのだ。

 

「できる。やってみせるさ。アタシらを誰だと思ってやがる?」

 

「そう、そうなのね」

 

さとりはそれ以上何も言わなかった。

そして、いよいよ、光る物体が置かれている台へと歩き始めた。

 

「これこそが、貴方たちの求める打ち出の小槌」

 

曇ったガラスケースを外し、ついにその打ち出の小槌が目に触れた。さとりはそれを両手に持ち、ゆっくりと新子たちに歩み寄る。だが、両手で小槌を固く持ったまま、俯いている。

 

「どうしたの?」

 

華扇がそう聞いた。さとりは顔を上げると、申し訳なさそうな顔で、衝撃の事実を物語った。

 

「これを見て…」

 

さとりは手の中の、打ち出の小槌を見せた。

小さな太鼓のような形で、緑や金色の美しい装飾が施されており、銀色の毛の束が上部にくっつけられている。この薄暗い場所でも、ひとりでに光を発しているようだ。しかし、よく見ると、この打ち出の小槌には何かが足りなかった。

 

「分かりましたか?この打ち出の小槌、持ち手の部分が存在しないのです」

 

「持ち手が…?」

 

「はい。ずっと、昔…突然何者かによって、小槌の持ち手の部分だけが盗まれた。持ち手が無ければ、小槌を振ることもできない…二度とこの小槌は、願いを叶えることはできないのです」

 

衝撃が走った。マガノ国での目的を成功させる鍵、希望であった打ち出の小槌が使えないだって?一瞬、信じることができなかった。このさとりがアタシらをからかおうと、嘘を言っているのではないかと思った。

しかし、さとりの真剣な表情。うしろで、恐らく新子と同じ顔、同じ心境に居るであろう華扇とマミゾウを見て、それが本当だと悟った。

何者かに盗まれただって?馬鹿な事をしてくれる…。お前のせいで今、自分たちは希望を断たれて…。

心臓の鼓動が早くなると同時に、だんだんと息苦しくなってくる。一瞬目まいがして、ドッと鉄の扉にもたれかかる。

 

… ブゥン ブゥン ブゥン

 

その時だった。新子のズボンのポケットの中で、何かが震えている。ズボンの布が透けて、中にあるその何かが振動に合わせて淡い光を発しているようだ。

新子は震える指でポケットを探り、その物体の正体を確かめようとした。指が物体に触れた瞬間、焼けるような熱さが伝わった。その物体は炎のように熱を発しているではないか。

熱いのをこらえながら、何とかポケットから物体を引っ張り出す。それは、丁度握りこめるくらいの大きさの、木片だった。ボロボロの彫刻が施され、小さな穴が開いている。そしてそれは、ポケットから出した途端、さらに熱くなり、震え始めた。

それと同時に、さとりも異変に気付く。彼女が持っている小槌も、熱を発しながら震えていたのだ。

 

「まさか…!!」

 

さとりは、持っている小槌と、新子が手にしている木片を、目を丸くしながら何度も交互に見る。そして小槌を木片に近づけると、互いは火傷をしてしまうほどの高熱を発した。

 

「そう…そうなんだわ!その木片が、打ち出の小槌の持ち手部分…!昔に分割されたパーツ!!」

 

さらに二つのパーツを近づける。すると、まるでお互いがこの時を待ち望んでいたかのように、勝手にくっついた。木片の先端が小槌の窪みにはまり、すり減ってボロボロになっていた持ち手は、元のように輝きを取り戻した。

 

「これこそが、打ち出の小槌…これが本来の姿だったんだ!」

 

打ち出の小槌が、眩いばかりの光を放った。まるで生きているかのように脈打っている。

新子は打ち出の小槌を手渡された。それを受け取ると、小槌はだんだんと熱を冷まし、脈も止まっていった。光も淡く発光するだけになる。

 

「その持ち手はどこで手に入れたの?」

 

さとりが新子に聞いた。

 

「鬼人正邪。コイツが持ち手を持ち去った犯人」

 

新子はバツの悪そうに背中に隠れていた正邪を正面に引きずり出した。

 

「その通り、持ち手を盗んだのは私だ。当時は戦の前日、お守りとして小槌のパーツを持ち去った…。しかし、結果として持ち手はここへ戻ってきた」

 

「もうダメかと思って、寿命が10年は縮んだぞ…」

 

マミゾウが額の汗をぬぐいながらそう言った。

 

「これも運命というべきなのかしら…。かつて持ち去られたパーツを依代として正邪は新子に運ばれ、依代となっていたパーツも再び小槌と合体して元通りとなった…」

 

「私も、これは予想外だった。何せすっかり忘れていた…あの木片が、自分が持ち去ったパーツだったとは…今思い出したよ」

 

「まあ、何はともあれ…これで打ち出の小槌は手に入れた!!」

 

百数十年ぶりに元の姿を取り戻した打ち出の小槌が、新レジスタンスの手に収まった。これがあれば、マガノ国へ連れ去られた皆を救う事が出来る!

 

「何て言おうかとずっと考えていましたが…これで私の立場も守られたというものです。それは貴方達に貸し与えましょう。ただし、必ず目的を達成し、生きて小槌をここへ還しに来ること。いいですね?」

 

「おう!」

 

さとりの言葉に対し、新レジスタンスの四人は大きく頷いた。

 

「さて…小槌はこれでOK。ですが、マガノ国へ行くには、まだ準備は必要なのです」

 

「まだ何かあるってのか?」

 

「ええ。この新都の隣に住む、とっても関わりたくない連中とも、我々は話を付けなければならないのですよ」

 

「どれぐらいかかるんだ?」

 

「短くて数日ってところですかね。どうぞそれまで、この新都をゆっくり満喫していってくださいな」

 


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