次回は少しオリ展開が含まれますが本筋は同じなのであしからず。
それでは、皆さん本編をどうぞ
先生は後を任せると心底疲れた顔で雪ノ下に言うとそそくさと出て行ってしまった。
雪ノ下さんと私どちらにしても無責任この上ないが、あの疲れた顔を見ると抗議するのは阻まれる。
絶対に、絶対に本人には言えないが心なしか小じわが増えている気がした。
「・・・・」
「・・・・」
教室に残されたぼっちの少女と毒舌美少女。さっきまで一応話はできていたが1度遮られるとどう切り出していいのか分からずお互い黙ってしまう。
沈黙に慣れたぼっちはこんな非日常でも動じないが、雪ノ下さんのほうはどうだろうか。さっきはどうキレてやろうか
成績、見た目、立ち振る舞い。どれを取っても彼女の足元に及ばない私に残された武器は、卑屈なまでの口撃しかない。あのまま毒舌を続けていればカウンターパンチをお見舞いできたのだが無言の状態じゃどうしようもない。
怒りに任せて暴力に頼るのも手だが、夜道で襲われたら間違いなく逃げられない女である私が暴れても高が知れてるし、暴れた挙句小指を角にぶつけて泣き叫ぶ映像が容易に想像できる。
つまりこの時点ですでに私と彼女の間には越えられない壁が完成してしまったのだ。
だが、ここで諦めるのなら私はぼっちなんてしていない。不登校になっている。
高度に訓練されたぼっちは目の前に好みの美少女が在られても下手に出たり媚を売ったりしないのだ。
己の高感度を犠牲にささげ、ちんけなプライドを守るため目の前の敵と戦う。手がでないなら足で殺す、足が出ないなら口で殺す、口が出ないなら睨み殺す!
がるるるるるっー。
野生の獣のように雪ノ下を睨みつけ威嚇する。
さぁ知るがいい。なぜ私の中学のときのあだ名が貞子だった理由を!凶暴な野良犬ですら逃げ出した私の眼光をくらえ!
「何か?」
すると雪ノ下は獣を射殺す狩人のような、獲物を狩る戦士のような、人を殺す侍のような鋭く強く冷たい視線を向けてくる。
きゃいん。
「・・・・な、何でもないです」
「そんなところに突っ立ていないで座ったら?」
「あ、はい。そうします。すいません」
うわぁー何今の?迫力とか威圧とかそんなちゃちな物じゃないよ。
殺気的な物が体の中からにじみ出てたよこの人。
2,3人やっちゃてるんじゃないカってくらい怖かったよ・・・。
無意識に謝っちゃうレベルで怖かったよ。
高感度どころか雪ノ下は端から私の事を敵視していた。それこそ親の敵を見るように今にも殺しに来てもおかしくないくらい明確な敵意を持っていた。
びくびくとしながら後ろの積み上げられた椅子の1つ引っ張り出して座る。
位置的に雪ノ下さんからかなり離れた何があっても扉まで逃げられる余裕がある距離だ。どんだけビビってんだよ私。
それっきり雪ノ下は私に関心を持たず持っていた文庫本に視線を移した。ブックカバーがしてあり何の本かわからないが多分文学的な奴だろう。ここで実はラノベ読んでいたとなれば一気に友達になれるかも知れないがそれはない。もしあったとしても聞くことなんてできない。
何それ何のラノベ読んでんの?なんて聞いた日には私は色んな意味でこの世から消えてしまう。
文武両道、才色兼備まさに絵に描いたような無敵ヒロインの雪ノ下。私と違いさぞかし華やかな高校生活を営んでいるのだろうと、彼女を見ているとまたも違和感を感じる。
雪ノ下レベルの美人ともなれば男子からも女子からも人気がありリア充らしい青春を謳歌せいてるのかと思ったが、よく考えてみればそれはおかしい。
そもそもそんなリア充がこんな人気の無い空き教室に部室を構え、放課後1人で読書をしているものだろうか?
いいやそれは無い。
リア充という生物は群れる事に安堵と安らぎを感じ、1人でいることをさも可哀想だの悪いことだのと断じる連中だ。
そんな連中がグループの中心人物であろう雪ノ下を1人にするものだろうか。それこそ今このときに扉が開けられリア充(笑)が流れ込んで来てもおかしくないんじゃないか?
チラリと扉に視線を向けるがウントもスンとも言わない。
疑惑は疑念に変わりさっきまでとはまったく別の意味で雪ノ下を見る。
「・・・・あまり見つめられると居心地が悪いのだけど」
不機嫌に眉間の皺を寄せながら文庫本を閉じる雪ノ下。
どうやら見つめすぎてそれを不快に感じたらしい。
「ああ、ごめん。ただこれからどうしたらいいのかなーと思って」
「何が?」
「私ここが何部だとか聞いてないし、何をすればいいのか分からないし」
「そうね・・・・」
一泊の間を空け雪ノ下は何かを思いついたのか不適に笑いながら言葉を続けた。
「それじゃあゲームをしましょう」
「ゲーム?」
女子高生が他人とするゲームといえば王様ゲームポッキーゲーム野球拳が相場だろう。まさか雪ノ下さんしようって言うのか!!
私の胸がドキドキ高鳴った。
「そう、ここが何部かあてるゲーム」
「がっかりだよ」
クソぅーついつい口に出しちゃうほどがっかりだよ。おのれ雪ノ下私の純情をもてあそんだな!
「何か意見でも?」
「あ、いえ何でもないです」
おっといけない。
また睨まれるところだった。
「・・・他に部員っていないの?」
「いないわ」
つまり私が来るまで雪ノ下1人だったと。
部として存続できてるのか疑問だが、それよりもやはり雪ノ下のほうが疑問だ。
てっきり他に部員がいて仲良しグループのけいおんやゆるゆりみたいなものかとも思ったが違うようだ。
彼女は本当にリア充なのだろうか?
「・・・・文芸部とか」
「その心は?」
「部員が1人きりで存続できる部活で、なおかつ雪ノ下さんは本を読んでいた」
長門ちゃんの消失でやっていた。部員1人でも文芸部はある程度の間なら活動可能だと。その後部員が入らなければ廃部となるが期限は5月いっぱいあり今は4月。廃部寸前の文芸部が活動していてもおかしくはない。
「さらにこの特別棟は文化系部活の部室がいくつも入っているし顧問の平塚先生は現国の教師。全部のピースを合わせるとここは文芸部の部室であるという真実にたどり着く。真実はいつもひとつ!」
ビシッと指を突き刺しポーズを決める。
それを見た雪ノ下は感心したように微笑みふと立ち上がる。
「はずれ」
はずれかよ。
その笑顔腹が立つ。でも可愛い。
「それじゃあ何部なわけ」
若干投げやりに問いかけると雪ノ下は両手を広げさながら天使のような透き通る声で愚民を諭し導くように慈愛に満ちた表情をつくる。
「最大のヒントは今私がこうしていることよ」
どうやらゲームは続行してるようだ。
正直早く答えを言ってほしいところだが、楽しそうなのでおとなしくつきあっておこう。
しかし、最大のヒントという割にはまったく応えに結びつかない。
雪ノ下が今までやってきた事といえば、本を読み、罵倒して・・・・後は罵倒をいうとか罵倒するとかしかやってなくない?
そうなると結局最初の本を読んでるところから文芸部か読書部とかしか思いつかない。でも、あの自信満々の表情を見るにそれではないだろう。
では、人を罵倒するのが部活だというのか?
・・・・いや待て。そういえばどこかで聞いたことがある。最近のメイドカフェやアイドルの握手会ではお客を罵倒しビンタするサービスがあるとか無いとか。さらに、密室の2人きり延々と女子高生に罵倒されるシュチュエーション。
以上の事から導きだされる答えは1つ。
「イメクラ部だ!」
疑うことなく自信満々にそういうと廊下のほうからガタと何かが落ちる、いや誰かがこけるような音がしたが・・・・まぁ気のせいだろう。
「違うわ・・・・そのいめくらというのが何かは知らないけれど」
クソぅ違ったか。絶対これだと思ってたのに!
しかし、雪ノ下はイメクラを知らないのか。まぁ知っていても問題だけど知らないというのも問題だと思う。なのでここは知る者の義務として懇切丁寧に教えてやるのが義理人情というものだろう。
ぐへへと邪な事を考え、主にそれの意味を知って赤面する雪ノ下を想像していけない気持ちになるが、雪ノ下と視線が重なる。
本当に意味がわからないのか小首をかしげ純粋無垢な表情でこちらの様子を伺う雪ノ下。
よく見ればまつげが長くて肌が白くてしゃべらなければ本当に天使のような奴で、こんな少女にアレな事を教えてしまうのには興奮よりも罪悪感を感じてしまう。
何よりよく考えてみれば説明するとすれば私も恥ずかしい事この上ない事を言わなければならない。プレイと分かっている羞恥はいいがほんまものの羞恥はちょっとあれだ。
・・・・・・・・ポっ。
私だって年頃の女の子なのである。花も恥らう感じの女の子なのである。
「そ、それじゃあ正解はいったいなんだって言うの」
掘った墓穴は即スルー。それが比企谷家の家訓である。
「比企谷さん。異性・・・この際同性でもいいのだけどこんなに長い間話したのはどれほどぶり?」
「平塚先生とはほぼ毎日話してる」
主にお説教とかだけど。
「・・・・訂正します。同い年の人と話したのはいつぶり?」
残念平塚先生はランク外のようだ。
同年代のクラスメイトと話をした記憶。コミュ障の私といえどそれくらいはある。友人はいなくとも業務連絡とか挨拶とか機会はあるのだし。
ここ1週間分くらいの記憶の波をたどってみる。
月曜日、授業中寝ていたら次の移動教室で誰にも起こされること無く欠席した。
火曜日、校門の前で挨拶をしてる生徒(多分生徒会とか)がいて目の前を通過するも気づかれずにスルーされる。
水曜日、朝登校すると耳にイヤホンさし寝たふり。それから休み時間が来るたびにリピート再生。
木曜日、リア充共がうるさいのでベストプレイスにて優雅に昼食。やはり食後のマックスコーヒーは最高だ。
金曜日、リア充爆発しろ。
土曜日、お家でごろごろ。
日曜日、プリキュアは最高だぜ!
・・・・・
・・・・・あれ?おかしいこれ女子高生の日常じゃないよね。窓際サラリーマンと同じルーチンワークだよね。
「持つものが持たざるものに慈悲の心をもって与える。ホームレスには炊き出しを、途上国にはODAを、友達のいない哀れな女子には真心のこもった会話を。困っている人には救いの手を差し伸べる。それがこの部の活動よ」
高らかにそう宣言する雪ノ下は変わらない笑顔で、変わらない口調で、優しげに、どこまでも優位的に笑顔を作る。身長的には私とほぼ変わらないであろう雪ノ下は私を見下ろす。
「ようこそ奉仕部へ。歓迎するわ」
「いやどこから聞いても歓迎のかの字もないよね。真心のこもった会話って私罵倒しかされてないんだけど」
殺気とか敵意ならビシビシ感じるけどね。
「平塚先生曰く、優れた者は哀れな人間を救う義務があるのだそうよ。なので貴方の問題も私が矯正してあげる。感謝しなさ」
「おいおいマジかよこの人、人の話全然聞いてないよ・・・・」
「あらごめんなさい。ハエや蚊の羽音と間違えて聞き逃してたわ」
「もはや人とすら思われていない・・・だと・・・!?」
腕を組みこちらを見下す雪ノ下はまさに貴族や王族の気品と優越を身にまとう。
こいつ前世でパンがないならケーキでも食べなさい愚民が、とか言っちゃてるよ絶対。貴族や市民からバッシング食らってるよ。
そんなマリーユキノシタネットに市民代表の私は物申さなければなるまい。国の最高峰に胡坐をかき民衆と愚民と別称するお姫様に現実ってやつに教えてやろう。
さぁ、今こそ革命の時!
「あのね、私は自分で言うのもなんだけどそこそこ優秀なんだかね。成績だっていいし、普段の生活態度だって完璧。授業中に誰かと話した事なんて1度も無い。恋人や友達がいないのと、根暗でオタクで、平塚先生にセクハラすること以外問題という問題がないからね。顔だってそこそこだしよく有名人に間違われるレベルだし」
井戸の人とか貞子とか超有名女優に間違われるんだ。でも何でだろう全然うれしくない。
「後半に致命的な問題しかないじゃない・・・そんな事自信満々にいえるなんて変な人。そういえば平塚先生から変態と言われていたわね。もはや気持ち悪いわ」
「フン、これだから愛を知らない小娘は。誰かを愛するって事は例えるなら変態や変人になる事と同義だと私は考えてるよ。周囲の目や評価なんて気にしないそれが本物の愛ってものでしょ」
「一方通行ならただのストーカーよ」
クソぅ名刀雪ノ下め、切れ味抜群すぎるだろ。ぐはっ。
「そ、そんな事ないもん!先生とは相思相愛の教師と生徒を越えた禁断の関係だもん!」
呪いの剣比企谷八幡は、使用者のHPをガンガン削る。自分で言って自分にダメージをくらうとかマジ呪いだわ。ぐふっ。
「そうね、このまま順調に行けば被害者と加害者、教師と生徒の関係を越えた禁断の関係ね」
ここでもトラップカード国家権力が発動しやがった。おのれ政府め、どれだけ邪魔をすれば気が済むんだ!これだから漫画やアニメで敵役になるんだよ税金泥棒。
嗜虐的に微笑む雪ノ下は私の頭のアホ毛からつま先まで嘗め回すように見てくる。彼女の真意は分からないが負けじとこっちも彼女の全身を舐めまわすように見つめるが胸の所に視線が行くとなんだかセツナイ気持ちになった。
「・・・・何かしら不愉快な視線を感じるのだけど」
雪ノ下は組んでいた両手を胸の前まで上げジトっとした眼で睨んでくる。女子は男子が思っている以上に視線に敏感だ。特に自分の体に向けられた視線には敏感なのだ。
世の男子諸君、チラチラ見てるそれ相手側からすればバレバレですから。
「べべべべべ別にそんな慎ましやかな胸なんて見てねぇし!雪ノ下さんちょっと自意識過剰なんじゃないの!」
「・・・・私、胸の事なんて一言もいってないのだけど」
墓穴を掘るとはまさにこのこと。もはや教科書に載ってもおかしくないレベルの見本だ。心なしか視線のキツさが増したな。
「・・・・どうやら貴方が1人なのは腐った根性や捻くれた性格以上にその性癖が問題のようね。女の子が好き、それも恋愛や性的興奮を覚えるのかしら?」
雪ノ下が性癖だの性的興奮だのというとなんだかもやもやというかもんもんする気分になった。
「待って雪ノ下さん。それはつまり平塚先生が女の子に分類されるということ?」
「心底どうでもいいのだけど平塚先生は大人の女性よ」
おや、また廊下の方からガタガタと音がしたが、気のせいだろう。
「話を変えないで答えなさい。比企谷さん貴方は同性愛者という認識でいいのね」
真っ直ぐに私の目を覗き込む雪ノ下の瞳は、一抹の疑念無くすでに答えを確信している事が容易に読み取れた。
「・・・・まぁ別に否定はしないけど。よくそんな聞きづらいこと平気で聞けるね」
普通の感覚では同性愛とかデリケートな問題なのにずばずば聞けるとかマジですごい。度胸の据わり方が半端じゃないよ雪ノ下さん。
「不本意ではあるけれどこれも矯正に必要な情報よ。それに他人の趣味嗜好なんて興味ないもの」
「うん分かった。肝が据わってるとか心臓に毛が生えてるとか以前に他人を思いやる気持ちが足りないんだわ。人の気持ちって物を考えようぜ」
「それが私にとって重要な人ならやぶさかでもないけれど・・・貴方じゃねぇ?」
人を小馬鹿にしたようにフッと鼻で笑う雪ノ下にイラッときた。無意識に握った拳に力が入る、が、その行き先がないので静かにパーに開く。
「雪ノ下さんって確か学年1位の頭のいい人じゃなかったけ?デリカシーって言葉知ってる?」
「知っているに決まってるじゃない。それは貴方に必要の無いものよ」
「駄目だよこの女デリカシーの欠片も無いよ・・・」
「失礼ね。私はただ相手を選んでいるだけよ」
「そういう所がデリカシーないって言ってんだよ。雪ノ下さん友達いないでしょ」
生き生きと水を得た魚のように私を攻撃してきた雪ノ下の動きが一瞬止まる。
私のこの発言もデリカシーが無いことは分かっているが、相手にその気がないので仕方なく真に遺憾だけれども彼女の作法に私が合わせてやるとしよう。
目には目を、歯には歯を、やられたら倍返しだ!!
「・・・・そうね、まずはどこからどこまでが友達なのか定義してもらってもいいかしら」
さっきまで真っ直ぐ私の目を見て話していた雪ノ下がふいに視線を外しやや早口で言った。
「うんもういい。その反応で大体分かったから」
童貞が「お前童貞?」と聞かれた時と同じようにその反応は明白だ。友達に定義を求める時点で彼女に友達がいないことはなんとなく分かった。
見た目はいいがなにぶん性格がこれではそりゃまぁ友達もできないだろう。むしろ、見た目がよくてこんな性格だから敵ばかり増えていくのだろう。
彼女のこれまでの青春を想うと自然と同情的な思考になっていく。なので私は哀れむような視線を彼女に向け思うのだ。
ざまぁーwwと。
「クッ・・・・別に私はいないだなんていってないのだけど。その不愉快な目をやめなさい」
ジト目で睨む雪ノ下だがそこに先ほどまでの覇気はない。ここに来て初めて私は有効打を取る事に成功した。
あれ?なんの勝負してんだこれ?
「しかし、意外だな」
「何が。貴方が生きてる事が?」
「違うから。意外でもなんでもないから。17年前からこれが普通だから」
「そうね、今更いってもすでに遅いものね」
「いい加減1回謝ろうか、今までの暴言は甘んじて受け入れるから1回謝ろうか」
「確かに酷い事を言ってしまったわ。つらいのはきっとご両親でしょうにね」
「うちの親に謝って。いや親に謝んなくていいから私に謝れ」
鏡を見なくても分かるくらいに涙目になってるよこれ。そろそろマジで泣いちゃうぜ。
先ほどの有効の意趣返しか罵倒のレベルが上がっているよ。
「で、何が意外なの?」
気が済んだのか雪ノ下はさっきまでの会話を続ける。
「いや・・・別に肯定したわけじゃないけど普通引くでしょ。女の子が好きとか」
この冷血毒舌女王ならそういうのに対して気持ちが悪いとか言われそうなのにさっきから追求がまったくない。その件に関しては本当に事実確認だけですんでる事が本当に意外だ。
「肯定しなくても否定しないのなら同じ事でしょうに・・・・そうね、さっきも言ったけれど誰が誰を好きとか興味ないの」
あれマジで言ってたんだ。
「・・・・随分とストイックだね」
「私こんな見た目をしているから昔から人に好かれていたわ」
おや、突然なんか自慢が始まった。事実なんだろうけど自分で言っちゃうんだそれ。
「男子からも、それに女子からもね。私の体だけが目当ての下心しかない男子や、上辺だけを見て憧れや尊敬なんて勝手な想いで告白してくる女子。・・・・どちらもくだらないわ」
人に好かれて来たからこその独白。雪ノ下の表情は心底つまらなさそうに、本当の本当にそれらをくだらないと思っているを感じた。
ずっと1人でいた。
ずっと想いを向ける方だった私には分からない感情だ。
ただ、そういう彼女の横顔がどこか寂しそうであったのは分かった。
※ ※ ※ ※
「へぇー・・・・雪ノ下さんって意外と経験豊富なんだね」
私は立ち上がり一歩彼女に近づいた。
「別にそういう訳ではないわ。男子からも女子からも何回も告白されたけど1度も首を縦に振った事はないもの」
相手は常にフっているけれど、と自傷気味に言う彼女の姿を見て心臓の鼓動が跳ね上がる。
もう一歩彼女に近づく。
「誰もかれも好意を持ってる人で私を見てる人なんていなかった。私を通して別の物を見てる連中に時間を割くだけ無駄なことよ」
私は変わった物が好きだった。周りの女の子が好きなようなぬいぐるみやお人形には興味を持てず、使い道のないガラクタや外国のおみやげみたいなよく分からない物が好きだった。
私は寂しいものが好きだった。漫画やアニメの終わりはハッピーエンドのほうが好きだし、人並みに可愛いものも好きだ。
でも、そんな人気者の隣でぽつんと佇むものに心を引かれる。
以前に捨てられた子犬を拾ったのもそれと同じ感情があったからだ。
私は女の子が好きだ。子でなくても美人なら年齢は気にしない。ものに対する興味から性に対する興味に変わる時でも私の嗜好は変わらない。
女の子が好きだ。変わった女の子が好きだ。寂しげな女の子が好きだ。
希望を持った笑顔より、絶望に染まる微笑みのほうが好きだ。
明るいクラスの人気者の顔より、その裏にある人間らしい表情が好きだ。
普通に元気な女の子より、傷ついた女の子が好きだ。
私が傷つけるより、私以外の誰かが傷つけた女の子が好きだ。
我ながら捻くれている。陰湿だ、最低だ。そんな事は分かっている。でも好きだ。
好きという気持ちは偉大だ。嗜好や嗜虐や世間体に性別も好きという気持ちはそのすべてを凌駕する。圧倒的な本物。穢すことのできない神秘的な気持ち。
男でも女でも子供でも大人でも、年齢も性別も国籍も人種も人格もすべてがバラバラでもそれらすべてに共通して好きという気持ちは人類平等だ。
だから私はこの気持ちに嘘はつかない。
好きという気持ちを止めることなんてできはしない。
ようやく書きたかった事が書ける!
ここまでの長かったプロローグがやっと終わる。
次回ついに女八幡が自分に素直に行動します。