さて、オレことコウイチ=カルナギの所属する地球連邦軍とはなにか、要は地球の主要国家の持つ軍事力を統合した連合軍なわけだ。それが、宇宙世紀の唯一にして最大の軍事力として地球圏の平和を守ってきた。
同時に、この連邦軍を管理する組織として、地球連邦政府というのがある。これがなにか?要は地球の主要国家の持つ政治家を統合した共和制の政治システムなわけだ。
なんで、こんな話をしているのかって?
コーウェン准将に呼び出されて、オフィスに行くとひょろりと背の高い高級官僚がいた。もう、高級官僚の見本のような金髪碧眼の白人。階級章は…大将?
「初めまして。カルナギ少佐。グリーン・ワイアットだ」
敬礼の返礼もそのままに、右手を取って握手させられる。
おお、原作キャラ4人目の紳士大将!?ダージリン大好きの人じゃないか。オレの好きな0083シリーズで核攻撃のターゲットにされて消滅する英国紳士だ。
「は、はじめまして。コウイチ・カルナギであります」
「うむ。コーウェン准将から紹介されてね。是非、君の力を借りたい」
あの、右手を放してくれませんか?
オレの心の声など聞こえるわけもなく、ダージリン…もといワイアット大将は言葉を続ける。
「現在、地球圏の惨状は目に余るものがある。ジオンの卑劣な策略により、地球連邦政府は、苦戦をしいられている。彼らに支配された無辜なる民が苦渋に満ちた生活を私は憂いているのだ」
思いっきり知らんがな。
お前らで、ウラーでも万歳突撃でもして奪還しろよ。オレになにしろってんだ?
「現在、連邦が乾坤一擲の反攻作戦を計画しているのは理解している。しかし、正義の一撃を欲しているのは今なのだよ」
チラリとコーウェン准将の方を見ると、露骨に視線をそらされた。
そういう事か……
ようするに、「オレにも一枚かませろ」攻勢から、逃げられなかったんだな。
先に説明した通り、地球連邦軍は地球各国の軍事力の連合体だ。そのバックボーンを地元国家に根差している。
すでに3度の降下作戦により地球の半分近くを奪われた。当然、奪われた側の政治家や軍人はたまったものではない、敵に故郷を奪われているという事は自分の権力基盤を奪われたに等しい。連邦的に今は忍耐の時であるといわれても、「連邦政府が明日勝ててもオレたちは今日負けるんだよ」と叫びたいわけだ。当然軍人だって高級官僚になれば政治と無縁でいられるわけじゃない。そういった、地元から圧力をくらって尻に火がつくのもやむなしという事だ。
オレには全く関係ないがな!!
忙しい中で呼び出して何言ってんだこの紅茶。緑茶ぶつけるぞ!!
「もちろんです。ワイアット閣下の憂慮は理解しておりますとも」
オレが不機嫌になってきていると理解したのだろう。コーウェン准将が横からしゃしゃり出てきた。おい、お前は何勝手に返事しているんだ?
「やはり、准将は私の心を理解してくれる高潔な人材のようだ。ありがとう。よろしく頼むぞ」
ほらみろ、そっこう突っ込まれたじゃないか。
そのまま上機嫌で、話をまとめてにこやかにオフィスから出ていくワイアット大将。
大将退出後、オレの氷の視線を受けて、苦笑いを浮かべつつ
「少佐。すまないが何とかしてくれないか?」
「閣下。現在V作戦は始動段階で実戦投入が可能なものではありません」
「わかっている。わかってはいるが、そこを無理にという話だ」
「突っぱねるわけにはいかんのですか?」
「ワイアット大将は欧州の重鎮だ。宇宙艦隊ともつながりが深い。彼の縁戚もジャブローには多いのだ」
やっぱりアイツはブリテン出身の英国紳士なのか。
「だが、彼がコチラについてくれれば、いまある面倒のいくつかは解決する」
……そういう事か。今までの、無理難題オレにもかませろ攻勢は、このための布石か。
こちらの要求に答えてくれるなら、鬱陶しい面倒なこれらを控えるようにらみを利かせますよって話か。素敵な交渉術だよ。裏で、煽っていたのも英国紳士でしたという真相があっても驚きはしないぞ。
「同時に、ここで彼の要望に応えれば、こちら側に取り込むことができる」
確かに、ワイアット大将の要望にV作戦側が配慮すれば「英国紳士とV作戦側(つまりレビル派)は仲良し」という図式が成り上がる。英国紳士の真意はともかく、レビル派閥は巨大派閥との友好を対外的に示すことができるわけだ。
「下手に突っ込まれて、何もかも向こう持っていかれるわけにはいきませんよ」
「もちろんだ。その一線はキチンと引く。もっとも、向こうもそこまではしないだろうがな」
V作戦を引っ張り込んだ挙句失敗して炎上とか、そんな危険を冒すわけないか。となると、あくまでこちらとのつなぎか…なるほど、オレの心配は杞憂か。
「では、報告は後程」
「うむ。貴殿の奮闘に期待している」
お前も戦えよ。