とりあえず、各部門のチーム分けと解析&開発作業が逐次始まった。V作戦がスタートしたといってもいいだろう。
残念な事にオレは天才でも、ニュータイプでもなく、ただの原作知識もちの転生者である。
なので、画期的なアイデアがあるわけではない、ただ、MSシステム運用に関して、宇宙船開発の派閥の人に、ホワイトベースっぽい巡洋艦の話を進言してみたり、コーウェン准将に頼み込んでMSの基礎システムを従来のジオンMSの物を改良するのではなく、新規開発するようお願いし、その為の人員を割いてもらっただけである。
それがアカンかった。
いっそ、お飾りの無能だと思われていればよかったのに、なまじ提案したが故に、発言力を有すると見られたのだ。
「少佐。いいですか?新兵器といっても、兵器は兵器。殲滅能力や迎撃能力という本来の目的は……」
大佐の階級章をつけたハゲたオヤジが、オレを呼びつけて自説を垂れているわけだが、なんだかご理解いただけるだろうか。
このおっさん、自分の派閥後援者である企業の主力商品である遠距離迎撃砲の重要性を説いて、MS開発に組み込めという自己中要求をオレにしているのだ。
そんなのコーウェン准将に言えよ。といいたいが、残念な事に大佐より准将の方が階級が高いためゴリ押しできず。結果、より階級の低い少佐にその矛先が向いたわけだ。
死ぬがよい。
と、ブチ切れるわけもないので、脂汗タラタラながしながら、データを一切提示しない経験談(しかも他人の)と、自分の中では完璧な戦術論を披露される。
何がひどいって、ここで「うん」と言おうものなら、機動戦士ガンダムが砲撃戦士ガンダムになってしまうゴリ押しが待っているのだ。それガンダムじゃねぇよガンキャノンだよ。ライバルも赤くて区別つかねぇよ。
「では、後日データと担当者を紹介ください。こちらの技術者と交えて意見交換しましょう」
1時間の主観完璧理論を聞き流し、話が一段落したところで区切る。必殺、「明言を避け、後日話しましょう」作戦。
オレの力量ではこれくらいしか回避方法が思いつかん。少なくとも技術者は大佐より階級低いはずだから縦社会を背景にしたゴリ押しは回避できるはず。
同行してもらう技術者に頭を下げる仕事が始まるけどな。
大佐のオフィスをでると、秘書官のマリドリット伍長が待っていてくれた。
冷や汗を含んだハンカチをポケットにしまいながら、一息入れるとミネラルウォーターのボトルを差し出される。
「お疲れ様です少佐」
「大佐から技術者を交えた面会があるかもしれない。その時はよろしく」
「了解しました。連絡があり次第報告いたします。同行する技術者への連絡はお願いいたします」
おかしい、面会が終わったのに面会の数が減っていない。空になったボトルをダストシュートに放り込み脱いでいた帽子をかぶり直す。
「……次は?」
ああ、聞きたくねぇ。
「トライト准将より20分後です。エレカーはすでに待たせています」
たしか、航空機上がりの現場から成り上がった将校だったか?どう見ても、体育会系で押しが強いだろうな……
エレカーの中で端末から准将の来歴をしらべつつ嘆息する。
主な仕事は、善処しますを連呼する仕事です。