アナハイムとの情報交換により、ジオンMSの情報が入ってくる。
そしてその内容に首をひねる。
あれ?これってギャンじゃん。
もちろん、ゲルググの情報も入ってくるのだが、その中にはゲルググとのコンペで落ちたギャンの情報がミックスされていたのだ。
当然だが、ゲルググの製造元のジオニック社とギャンの製造元のツィマッド社は違うわけで、断片化された情報を合わせても正確な姿が出てこない。
おかげで、一瞬原作ではない何か特殊なMSを開発しているのかと背筋が凍った。
まあ、わかってしまえば対応は簡単である。二つのMSの情報を原作知識で取捨選択すればいい。
とはいえ、これはこれで面白い。
連邦のような軍部主導のMS開発とは違い、ジオンは複数の民間企業による競合で、MS情報が入り乱れる。それだけで欺瞞情報になるわけだ。
そもそも、国力差が30倍というのは軍事力や生産力だけの話ではない。総合力である以上、ジオンの国防能力も圧倒的に劣っているといえる。
だから、連邦のような縦社会ではなく、横社会で各部署の独立性を高めているわけだ。それら個々の連携も統括もないから、情報を手に入れるにはそれぞれから入手する手間が必要になる。
まあその結果、一元管理できないから各部署の独断専行とか足の引っ張り合いとか内紛が起こるわけだ。それも善し悪しといった所だろう。
ジオンが『秘密兵器』の開発に躍起になるわけだ。機密情報を秘密にできない以上、何を守るかはは取捨選択し、特定の機密を守ることにリソースを割り振るしか連邦の諜報から守り切れない。結果、絶対守らなければならない情報だけとなり、それ以外の量産MSの情報という機密を、MS開発の本流から脱落しているアナハイムが入手し、こっちに提供できるわけだ。
しかし、ガバガバだからといって情報漏洩を指をくわえてみているわけにもいかない。
だから、情報を分散させて混在させる。ザクに対してヅダ。ドムに対して高機動型ザク。そして、ゲルググに対してギャン。
二つの主力となる情報を用意して、漏れる場合のダミーにする。さらには、ジオニックのザクに、ツィマッドのドム。そしてジオニックのゲルググと、量産機の開発メーカーすら一つにしないことで、特定される事の欺瞞工作にする。
代用案として悪くない方法だ。
まあその結果、規格がメチャクチャで整備に支障をきたしたり、パイロットの乗り換えの難易度を上げたりと弊害も多いわけだ。
「とはいえ…」
面白がっているばかりじゃ済まない問題もある。
入ってきた情報をゲルググとギャンに振り分けて並べ直してみるが、目を見張るような新情報がない。
もちろん、ジオン脅威のメカニズムなわけだが、当然向こうから送られる情報は量産機である。
最新技術とか、革新的な新技術といったようなものとは無縁だ。
基本性能や期待数値といった物を推定することは可能だが、だからといって連邦量産MSに簡単に転用できる話ではない。
そもそも、宇宙用量産MSを開発しているのがアナハイムなわけで、当然オレに提供されている情報をアナハイムは知っている。このMSに対抗した性能を持たせる為に努力するのはアナハイムであって、オレではない。
これらの情報を元に出来る事は、せいぜいジオンの量産MSの性能を推定し、その数値と比較してロールアウトされる新型連邦量産MSの合否をするくらいだ。
当然、アナハイムだってそれを理解している。情報提供するアナハイムが無条件に全情報を提供しているとは考えられない。
オレの対応を想定して情報の取捨選択をしているのは間違いないだろう。
ギャンとゲルググの情報を混ぜ込んだのだって、わざとでないという保証はない。
背もたれに寄りかかりながら、天井を見上げる。
「タヌキめ…」
ジオンの量産MSの情報を得る為に、こちらが提供したのは『ニュータイプ専用MS』に組み込まれる最新技術「全周囲モニター」や「マグネットコーティング」の稼働データだ。
これらの情報をアナハイムは有効に使っているだろう。
こちらの最新技術の情報をジオンに高く売りつけ、さらにこちらに提供する情報は、自分達に不利にならないようにコントロールする。
この状況にあってなお、自分たちが不利にならないように立ちまわっている。
正しくガンダムの世界を裏で操る怪物だ。
多分、面の皮がジャブローの隔壁ぐらいあるだろうな。舌だって対空砲火の数ほどあるに違いない。
だが、オレの攻める場所はそこではない。
オレの目的はそれではないのだ。
運命がカードを混ぜた。
そして、オレの手札がそろった。
アナハイムから提供された情報の内容にはあまり重要ではない。だが、ジオンの情報が提供された事には、深い意味がある。
勝負だ。ギレン・ザビ。
原作知識というイカサマを駆使し、鬼札はこちらの手中にある。
運命がカードを混ぜ、我々が勝負する。