ジャブローのモグラども   作:シムCM

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37 駒と情

カツカツカツ

 

「中佐」

 

ジャブローのある通路を歩いていると声をかけられる。

振り返ると、黒髪の男が小走りにこちらに向かってくる。その顔に、心の中でちくりと罪悪感がうずいた。

 

「久しぶりです。ウッディー大尉」

 

ウッディー・マルティン大尉。

自業自得ともいえるが、この人物に面識があった。そもそも、V作戦の量産MS開発の管理をさせた上で、さらにその権限を取り上げたという経緯がある。

一応、昇進した上に花形部門への栄転になっているので、奪うだけではないのだが、それ以上に、彼には引け目があった。

彼が、戦死したマチルダ・アジャン中尉の婚約者であるという事だ。

 

「中佐。先日は急な連絡で申し訳ありませんでした」

「いいえ。今は戦時中です。あなたの方こそ気を落とさずに」

 

奇しくも新郎新婦ともに面識があり、両者ともある程度好意的な関係を結んでいたオレは、両者の結婚式に招待されていた。オデッサの後始末がありジャブローで出席できる連邦士官の数が少ないというものあったと思う。

そして、先日その中止の連絡を受け取っていたのだ。

わざわざ呼び止めての事は、彼の配慮なのだろう。

話を逸らすように雑談交じりで通路を歩く。

 

「ところで、ご存知ですか?」

「ん?」

「ホワイトベースがジャブローに戻ってくるという話です」

「…ああ、そんな話もありましたか」

「中佐はお会いになるので?」

「ホワイトベース隊と?いいえ」

 

もちろん。RX-78のアムロ・レイのデータはもらう。しかし、オレがホワイトベースのブライト艦長やアムロ・レイ本人に会う予定も必要性もなかった。

無理をすれば会えると思うし、ガンダムオタクとしては一度会ってみたい気もするが、今そうするつもりはない。

彼らは駒だ。駒にしなければならないのだ。

余計な情を持てば後悔する。諦めたくなる。それは今隣を歩いている人間にも言えた。

オレの心の中など知るはずもなく、ウッディー大尉は楽しそうに言葉を続ける。

 

「ベルファストから簡単な報告が来ているので、その修理のための準備で大忙しですよ」

「修理?君が?」

「ええ、マチルダの思いのこもった船です。なんとしても直してやりますよ。」

 

そう言って、婚約者の名前を出しながら、少し無理したように笑うウッディー大尉に、再び心の中で罪悪感がちくりとうずく。

もし、オレの病気がなくMSパイロットになったとしたならば、オレは敵を倒して、あるいは味方に死なれて、今と同じ罪悪感を感じたのだろうか。

 

諦めろ。コウイチ・カルナギ中佐。お前は彼らを駒にしなければならないのだ。彼らの死は無駄死にではない。それが無駄に見えたとしても「原作通りに」に死んだ事には意味がある。そう思わなければならないのだ。

でなくば勝利はない。勝利させる方法がない。

確実な勝利に導く事ができない以上、どんな事をしてでも不安要素は取り払わねばならない。その為の唯一の指針。その為の唯一のよりどころ。

その為なら、自分すら駒にする必要がある。

だから…

 

「あまり無茶はしないように」

 

そう言って、彼の婚約者に伝えた事と、同じ事を言った。

 

もう後には引けないのだ。

 


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