オデッサ作戦が終わり、V作戦は完了した。ジムの量産体制も整い。次期量産MSの開発も順調に進んでいる。
ホワイトベースからの情報が入ってこなくなったが、ホワイトベース隊がジャブローに来る予定なので、その時データを回収すれば問題はない。
「そちらの状況はわかっていますがね、正直こちらとしては満足しているとはいえません」
年下のオレの言葉に、眉一つ動かさず、経営スマイルを崩さない画面の向こうのオッサン。
こういうのを見ると、前世で日本のビジネスマンが海外で営業スマイルを崩さなくて不気味だ。といわれていたのを思い出す。
『スケジュールに合わせて進捗はしています。しかし、それ以上の要望にはお答えできないといっているのです』
「私としては、情報を提供しておきながら「できませんでした」と言われるのは心外です」
『しかし、納期の繰り上げとは…』
アナハイムにアウトソーシングした宇宙用量産MS開発は何とかスケジュール通りに進んでいる。とはいえ、それはかなりギリギリの状況だ。
重工業のノウハウがあるといっても、アナハイムにはMSを開発した経験はない。そんな中で、V作戦並みの開発速度でMSを作れというのがそもそも難しい話なのだ。
ジオニックかツイマッドのようなMSを作った経験があるなら、それをベースに新型MSを開発できただろう。オレがあの短時間にV作戦を完成できたのは、原作知識というチート能力があったからだ。そもそも、コーウェン准将も最初はV作戦が成功するとは思っていなかったほどだ。
そして、MS開発の経験も原作知識もないアナハイムにとって、短期間でのMS開発は難しいプロジェクトだ。おそらく向こうの社員はブラック企業も真っ青な勤務状況だろう。
そこに、さらに追加要件である。向こうが緊急回線で連絡してくるのもうなずける。
「わかっているでしょう。ジオンとの決着は宇宙です。決着がついた後に、最新MSを渡されても意味がない」
オデッサが連邦の勝利に終わった以上、地上のミリタリーバランスは連邦に大きく傾いた。そして、それはジオンと連邦の国力差によってひっくり返る可能性は低い。ブームを作ったベンチャー企業と、財閥系大企業レベルの差がある。本気になればどうなるか。
それをオデッサという形で見せつけられたに等しい。
予断は許さないとはいえ、地球という地球圏最大の経済圏の支配状況を一転させるとみて間違いはないだろう。
そして、地球を取り戻して戦争は終わりではない。敵を倒す必要があるなら、敵の領分に食い込まなければならないのだ。
侵略とはそういう事だ。
誰の目にも、宇宙での決戦が近いことは明白である。
まあ、オレは最初からそれがわかっていて、ギリギリのスケジュールをアナハイムに渡したわけだがな。
『それはそちらの都合です』
「そのとおり、顧客の都合ですよ」
『…こちらの予算は連邦軍ほど潤沢ではないのです』
「それこそ、企業の得意分野ではありませんか。特に交渉ごとに関しては、戦うだけの軍人よりもよっぽどね」
一つだけ方法があるのだ。
原作知識を得る事はさすがにできないが、MS開発のノウハウを手に入れる方法が。
「最新技術についての稼働データを提供する事はできます」
『…』
画面の向こうの顔から笑みが消えた。
『何がお望みです』
「ジオンがMS-09に代わる新型量産MSを開発した事は知っています。問題なのは、御社に依頼した新型MSがそれ以下の性能しかないというのは避けたいわけです。絶対に」
『そちらの提示した性能を満たす機体は作成しております』
「だから、+αが欲しいと言っているのです」
その為の代価として、最新技術の稼働データを提供しようといっているわけだ。
ニュータイプ専用MSの開発は進んでいる。そもそも量産体制や生産性度外視のうえ、予算マシマシで始まった開発計画だ。MS開発最大手のコーウェン派閥(つまりオレ)から最大限の情報と開発手法を得て順調に進んでいる。
あと半月もすれば機体は完成するだろう。その後宇宙に打ち上げて宇宙決戦用に再調整。完成まであと一か月といった所か。
別に、NT用MSに搭載されている最新機能を量産機に盛り込めと言っているわけではないのだ。MS開発のノウハウを手に入れろという話である。
連邦のノウハウは提供した。
それで足りないのなら、別から持って来いという話だ。そして、月企業のアナハイム・エレクトロニクスならそれを手に入れられる。
連邦より10年進んだノウハウを。
無言でこちらを見るオヤジに、にこやかに笑って見せる。
うん。オレも十分胡散臭いわ。