ジャブローのモグラども   作:シムCM

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29 殺意

ああ、くそっ!

 

原作知識で持っている情報が、どんどんとピースにはまっていく。

 

ビグザムがあそこまで高出力なのはそういう事か。当たり前だ。対艦隊用の化け物機体だからだ。戦艦の主砲をIフィールドで無効化。メガビーム砲は連邦戦艦を一撃で葬れる。

アムロ・レイ曰く「圧倒的ではないか」だ。本当に圧倒的だよ。

ソロモンで連邦艦隊を少しでも叩く為なら納得だ。ドムの十機よりも華々しい戦果を上げている。

「戦争は数だよ」は正しいよドズル。だが、その数える相手が違うんだ。

ジャブロー侵攻が成功する確率が低くても強行したのは、ホワイトベース隊を追って、マッドアングラー隊が見つけたのが「宇宙船用ドック」。当然、あの戦いでジオンはその詳細な位置情報を入手している。

アプサラスもそうか。狙うのがジャブロー中枢ではなく宇宙船ドックか、打ち上げられた宇宙艦隊の数を減らすために使われるなら。ああ、ゼーゴックもそうか。

原作知識のキシリア主導のものを排除して、情報をギレン・ザビに絞り込むだけで、どんどんと目的が明確化されていく。

 

 

連邦も完全に掌の上だ。

ルウム戦役であれだけMSの脅威を見せつけられれば、その存在を無視できない。連邦MSの開発に力を注ぐ。そのうえで、連邦艦隊を再建する物量はない。開戦前にそこを見極めればいい。戦争前から落ち目だった地球経済から、その概算は容易だ。後は、残った備蓄をMS開発に浪費させればいい。地上の半分を失った連邦はその備蓄を使うしかない。

その為の地球降下作戦。

 

地球連邦政府の地球連邦軍だ。連邦政府は自分たちの支配基盤である地上の奪還を第一優先とする。だから、地上での反攻作戦は欧州(オデッサ)、北米、アフリカ大陸の順なんだ。地球連邦政府内の勢力順そのままじゃないか。

そして、地上でジオンMSを駆逐するには、宇宙艦隊ではなく、連邦MSが必要不可欠だ。

当然、エリート意識に凝り固まったアースノイドは地上を取り返すためモビルスーツ開発を優先させる。

宇宙艦隊再建をないがしろにして…

 

大鑑巨砲主義を叩きつぶしたうえで、大鑑巨砲主義で決着を付ける。

完全にしてやられた。オレがスタートした段階ですでに目的を達していやがる。

 

どうしようもない。

こっちはタダの佐官。今からこの話をしたところで誰が信じる?今更どう対応ができる?今から宇宙艦隊を再建させましょう。バカな話だ。

 

諦めるように帽子を机の上に放り出す。頭の後ろに手を組んで足を机の上に投げだす。

寄りかかった椅子の背もたれがギシッと音を立てた。

 

 

 

だが、別にそれがどうだというのだ?

確かにおれは連邦士官だ。だが、なんてことない中堅クラスの佐官だ。しかも、一切指揮していない官僚的士官でしかない。

ジオンが勝利したところで、宇宙に上がれないオレがソーラレイで沈むこともない。最悪でも職を失うだけだ。

良くも悪くも、この年齢で佐官になったオレの給料は悪くない。貯金だってある。故郷に帰れば家だってあるし、将校だった親の遺産だってある。

最悪でも、しばらく生きるくらいはできる。

勝利を収めてもジオンの人材不足は解消されない。

再就職して、冷や飯くらいの歯車的閑職かもしれないが、V作戦開始時までのオレからすればそれはそれで問題ない。

最悪、原作知識だってまだ活かせる。Zガンダムに出てくるムーバブルフレームやガンダリウムγなど、その先のサイコフレームに関する記憶だってある。MSの発展改良に関して原作知識の引き出しはまだまだある。

 

MSに乗れない以上、連邦だろうとジオンだろうとどうだっていい事なのだ。

パイロットやエース、ニュータイプといった花形にはなれない。関係ない。

 

だから、どうだっていいのだ。

 

 

 

ズガン!

 

机を蹴り飛ばす。大きな音がして机がひっくり返る。

机の上の書類が床に散らばる。勢いで立ち上がり、ついでに座っていた椅子も蹴り飛ばす。すっ飛んだ椅子が壁に当たる。

机の上から落ちた帽子を踏みつける。何度も何度も…

 

どうだっていいはずだ。

どうしようもない事だ。どうだっていいはずだ。

 

なのになぜ、オレはこんなにも苛立っているんだ!

 

帽子を踏みにじりながら、自分の抑えきれない感情に戸惑う。

何度も何度も踏みつける、息が乱れ、帽子がぐグシャグシャになる。

 

「フーッ!フーッ!…」

 

肩で息をしながら、床につぶれた帽子を見る。

 

 

 

【…】

 

ふと、頭に一つのセリフが流れた。

それは、オレの大好きなアニメのセリフだ。女性の声で、何度も何度も見たアニメの、なんでもない1シーンのなんでもないセリフだ。

 

 

 

…ああ、そうか。

オレは機動戦士ガンダムが好きなんだ。

機動戦士ガンダムは、主人公アムロ・レイの活躍で敵を倒してガンダムが勝つアニメだ。

ガンダムが敗北してジオンが勝利する。それはあくまでゲームのIFストーリーだ。機動戦士ガンダムのストーリーじゃない。

そんなものは機動戦士ガンダムであっていいわけがない。

オレの大好きな機動戦士ガンダムで、ガンダムが負けていいはずがない。

 

いいだろう。ギレン・ザビ。

お前は敵だ。機動戦士ガンダムの敵だ。

だから潰す。オレのすべてを以てお前を潰す。

 

 

 

これは、

 

オレのガンダムだ!

 


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