今日は機動性のデータ解析とアップデート。明日は白兵戦のデータ解析&アップデートを流れ作業のようにしながら、再集計して情報をマージ。
2週間。シャワーのみで、睡眠は交代制。三食サンドイッチとバーガーの生活だった。
そんな、研究者一同の努力と不衛生の結晶であるジムのベースが完成。
もちろん、それで終わりじゃない。ガンダムのデータでアップデートも順次行っていく。だが、それはあくまでソフト面でのバージョンアップの話。
稼働する事で摩耗しやすい個所や、破損しやすい個所を、より交換整備しやすく、より摩耗を少なくするといったハード面での改修および生産ラインの変更が、これで一段落するという事だ。
よほど致命的な問題でない限り、今後そこに手が入ることはない。
そういう意味で、連邦量産モビルスーツRGM-79ジムが完成したと言えるだろう。
一応、このソフトで稼働テストしてもらって、まだ改良することになる。
そして、それは地上のみならず宇宙でも言える。
『半月だ』
「は?」
『ホワイトベースを送り出して、わずか半月でここまで整った。今があの時なら、あのようなまねはさせなかったものを…』
悔しそうに言うワッケイン司令に首を横に振る。
「あの時送り出したホワイトベース隊によって、我々はここまで状況を整える事が出来たのです。我々はただ、彼らの努力の上にあることに感謝するだけですよ」
『…我々は軍人だ。民間人を守る軍人だ。それが民間人の、それも子供の命を賭けた努力に感謝をささげるなど、あべこべだとはおもわないか?』
「ええ、本当に寒い時代ですよ」
『っ!…フフ、そうだな』
暗くなる話題に、肩をすくめて返事をする。自分のセリフをとった言葉に、諦めたように首を振って自嘲気味に笑うが、その表情は少し和らいだ。
『ならせめて、彼らの努力を一つたりとも無駄にしないように努力するのが軍人の、いや我々大人の矜持というものだ』
「ええ、こちらも順次データを送信します。そちらでも何かあるようでしたら、そちらの研究員に伝えてください」
『了解した』
自嘲気味ではあったが、その発言に自信が現れていた。
それも当然だ。開戦当初からルナ2にこもり続けてきた彼らからすれば、ついに手に入れたジオンのモビルスーツに対抗する手段だ。
地上と違い、それ以外に方法がなかった。それ故に、どれだけ挑発しようとも耐えるしかなかった。いつジオンに攻め込まれるかという、恐怖に黙って耐えるしかなかった。
しかし、雌伏の時を経て、念願のモビルスーツを手に入れたのだ。
ジオンのモビルスーツに対抗する手段を…
と、敬礼したワッケイン司令の画像がぶれる。
“ゾクッ!”
背中に悪寒が走る。血の気が一気に引く。
それは、画像の乱れでのせいではない。
心に浮かんだ一つの懸念。
そんなオレの心情とは裏腹に、乱れた画面は、別の映像を映し出す。
白と黄色の花に囲まれた巨大なパネル。そこに掲げられる紫色の髪の若者。
その前に置かれた演説台に、一人の男の姿があった。
『我々は、今、一人の英雄を失った…』
ガンダムファンなら見逃せないイベントシーン。
だが、オレはそれを無視すると、通信室から出て速足で歩きだす。
ジャブローの施設内を急いで歩くオレを不審がる者はいない、ジオンの公開放送を聞くために、自分と同じように、近くの通信装置に向かう者がいるからだ。
だが、それはそういった同僚たちを無視して自分のオフィスに向かう。
オフィスでは、備え付けの小さなモニターで流れるジオンの国葬放送を見ていたマリドリット伍長がいたが、今後の予定をすべてキャンセルするように告げて、返事も聞かずに自分の部屋に入る。
そして、オフィスで自分の端末を操る。
V作戦開始時に、こちらに回された既存技術の開発情報。V作戦の実戦データ。
それに伴う各種開発の進行状況。
ドアの向こうから秘書室の通信から漏れる放送を無視して、情報を取捨選択し、一つ一つ必要な情報を並べていく。
『諸君らの愛してくれたガルマ・ザビは死んだ。なぜだ!』
そして、一つの懸念が生まれた。
もし、もしこの通りなら…
「連邦が、負ける…」