緊急で呼び出され、向かった一室に集まっていたのは、レビル将軍と高官たちだ。
お、初エルラン将軍である。悪そうな顔してるな。
まあ、悪い顔しているから裏切るのか、裏切るために悪い顔になったのか、この世界の現実と原作の関係については深く考えないようにしよう。
各責任者がそろったところで、レビル将軍が口を開く。
「V作戦がジオンに察知された。サイド7が襲撃され、ホワイトベースがルナ2に助けを求めて逃げ込んでおる」
ああ、そうか。原作が始まったのか。
コーウェン准将のお供で会議に参加している。まあ、V作戦の進退にかかわる情報故に、准将以下オレも参加する流れになったのだ。
おそらくホワイトベースから送られたであろう、簡素な資料を見る。
テム・レイ大尉はMIA(生死不明)か…
『現在、ルナ2にV作戦を守りきるだけの戦力はありません…』
会議室のモニターにかかった大きなモニターでルナ2司令ワッケインが、通信で報告している。
まあ、ワッケイン司令の話はもっともだ。ルナ2には現在連邦軍の宇宙戦力が駐留している。だが、そのほとんどが開戦当初の惨敗の残存戦力であり、本当にただ保有しているだけだ。
そして致命的なことに、連邦宇宙艦隊は開戦以降、ジオンのモビルスーツに対して有効な対応策を確立していなかった。宇宙戦においては開戦以来ジオンの独壇場。
当然、地球衛星軌道上においてもジオンの有利は揺るぐことなく、ジオンの勢力下であり、わずかな隙を見て打ち上げなどはできるが、宇宙艦隊の打ち上げなどできない状況である。
つまり、今の状況でジオンが攻め込んで来たら、勝つ術はなくルナ2の防衛力に頼ったところで、援軍を期待できない籠城戦と同じだ。
だから、オデッサなのか。
オデッサから逃げ出したHLVの数は大量だ。それを回収したジオンの艦隊はその物資を運ばなければならなくなる。当然、衛星軌道のジオンの勢力は減る。
そこまで大量の物資を保有しているのは、資源確保を目的としたのだオデッサだ。オデッサを陥落させることで、ジオンの衛星軌道戦力を減らし、その間に連邦軍がジャブローから宇宙決戦用の艦隊を打ち上げる。
まあ、まだオデッサ作戦自体始まっていないんだけどね。
「宇宙艦隊がいながら機密の一つも守れんというのか!!」
「ジオンのモビルスーツに対する戦術ドクトリンがない。このまま無策で戦えばルウムの二の舞になるだけだぞ」
当然会議は踊る。
まあ、そうなるだろうな。現段階で選べる選択肢は二つ。
一つは、このままガンダムをルナ2にかくまい続ける事だ。
だが、これはリスクが大きい。現在ルナ2はジオン宇宙軍に見逃されている状況だ。MSの登場により既存概念による戦力比は形骸となっている。3対1で惨敗した開戦当初からルウムまでの戦いを見れば、既存の残存戦力しか揃えていない連邦軍が、宇宙で勝つ方法がない。
そんな状況で、連邦軍モビルスーツという見逃せない新兵器がルナ2にあるとわかれば、ジオンが侵攻してくる可能性は十分にある。
そして、それに対する対抗手段が連邦宇宙軍には存在しない。
「ジオンが来る前に、ホワイトベースをジャブローに送ってはどうか?ジオンの目をルナ2からそらす事ができる」
「危険すぎる。赤い彗星がいるのだぞ」
では、ホワイトベースをジャブローに向かわせるか?
それも問題がある。先にも述べたように、地球衛星軌道上はジオンの勢力下だ。ルナ2から艦隊で護衛させればジオンに察知され、衛星軌道上でのルウムの悪夢再びである。
かといって、速度を重視しわずかな護衛で行けば、ホワイトベースごとジオンに破壊される可能性もある。なにせ、ジオンの赤い彗星という『戦艦五隻を凌駕する』戦力がホワイトベースに目を付けているのだ。
ホワイトベースとガンダムが撃破されたら、今までの苦労が無に帰す。
サイド7から避難する際に、コロニー内のRXシリーズの部品は焼却処分している。残っているのはホワイトベースの中にあるだけだ。
赤い彗星が執拗に狙うのは当然ともいえるだろう。
まあ、原作知識もちのオレからすれば、大気圏で燃え尽きるザクのパイロットって何て名前だったかな?程度の話である。
とりあえず、原作後押しの為に、コ-ウェン准将の腕を軽くたたく。
コーウェン准将が目をこちらに向けるので、アイコンタクトで小さくうなずく。
「レビル将軍。よろしいですか?」
「おお、コーウェン准将。何かあるかな?」
「はい。いささか…」
コーウェン准将にふられて席を立つ。
「V作戦からお願いがございます」