PMC探偵・ケビン菊地  灰狼と女神達   作:MP5

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 ケビンの過去の一部が明らかに?


7話  出張探偵

 今日は新しい面子が入って来た。オマルがケビンを気に入り入社してきたのだ。最初は追い出そうと思ったが、実技試験の結果、予想以上に射撃成績はもちろん、身体能力も高かったため入社を認めざる得なかった。

「年寄りの話を聞いたか。偉いのぅケビン」

「ジョセフじいさん、別に俺はそんなつもりじゃ」

「まぁまぁ落ち着きましょうよ。あなたがジョセフさんですね、武器を購入したいのですが、見せていただけませんか?」

「武器がなくちゃ仕事できんからな。ほら、トラックに乗れ」

 ジョセフとともにトラックの荷台に乗るオマル。積まれていた武器のひとつ、ステアーAUGA2を手に取り、試しに構えてみた。

「兄ちゃん目の付け所がいいな。こいつは世界でもっとも成功したブルバップアサルトライフルだ、A2モデルはピカティニーレールを取り付けた名品、買いだと思うぜ」

「いいですね、それと、ハンドガンも見たいのですが」

 ケースを開けると、そこには様々なモデルのハンドガンが入っていた。

「こいつなんかどうだ、G17。優秀な銃だ」

「確かにいいですね。これを買いましょう」

 結局、AUGA2にG17、KSGショットガン、UMP-9を購入し事務所に戻ることにした。購入した商品を目にしたケビンは驚いた。

「お前、銭あったのか?高いだろ、KSGは特に」

「かなりまけてくれましたよ、合計でだいたい300ドルくらいでしょうか。そうそう、ジョセフさんが12ゲージと556NATOを多く武器庫に収めてくれましたから、弾切れの心配はないでしょう」

「弾代で出費が増えそうだ」

 

 

 

 

 ここ数日、猫探しや観光案内など特に命の危険性のない仕事が増え、平穏な時間が流れていた。専ら銃の出番がないことを安心する。ケビンはオマルとともに街を歩くことにした。

「それにしても、リュックサック背負った男性が多いですね。山なんてありませんよ?」

「目的はメイド喫茶だな。某ドラマが成功して経営こそ順調だが、いかんせんマナーの悪い輩が増えているんだ。おかげで店のトラブル解決も仕事の一環みたいになってる」

 ケビンのスマホが鳴り響く。

「うわさをしたらなんとやら・・・早速行こう」

 現場のメイド喫茶に行くと、態度の悪い男がおさわりパブと勘違いしてか、過剰なスキンシップを求めて困っていると聞く。ケビンは早速仕事に取り掛かろうとするが、それよりも早くオマルが男の前に現れた。

「困りましたね。女性を怖がらせてはいけませんよ?」

「あぁ?誰だね君は?」

「私は探偵のオマルと申します、マナーも顔も悪いあなたをフルボッコにしに来ました」

 穏やかな顔で男の胸倉を掴み、無理矢理立たせ、遠慮なく殴りつける。傍から見ていると地獄絵図とも言える。

「返事次第ではここで止めますが、どうしますか?」

「ひぃ、助けてくれ。もうこの店には寄らない!」

「そんなにお触りしたいなら歌舞伎町に行けばいいんです、さぁ料金払ってから消えてください」

 男は銭を置いて店から一目散に逃げ出した。やり遂げたような顔をしたオマル。

「すいません、いささかやり過ぎたみたいです」

「・・・せめてやるなら見えないところでフルボッコにしてくれ」

 

 

 

 

 事務所に帰ると、客人らしい男が待っていた。

「おかえりケビン、お客様よ」

「初にお目にかかります。沼津の資産家、黒澤金剛と申します」

「日本支部長の菊地です」

「え・・・外国の方かと思っていたのですが・・・菊地?」

「父がアフリカ系アメリカ人、母が日本人です。確かに日本側から見たらアメリ人に見えるでしょう」

「こ、これは失礼しました」

 深呼吸で気持ちを整理すると、金剛は口を開いた。

「実はですね、娘の行動を調べてほしいのですよ。末っ子の様子が変でして」

「変っというのは?」

「いつもどこかへ行っては何かしらの買い物をしていたり、その子の名義で荷物が届いたりしているのです。麻薬やヘロインに手を出していないか心配で」

(確かに心配だが、何か変だな)

「わかりました。その子の名前は?」

「黒澤ルビィ。高校一年生です」

(なんだこのキラキラネームは・・・)

 

 

 

 

 土曜日。高速を使って2時間かけて沼津に到着したケビン。今回はミコトも連れて来ていた。なんでも、ターゲットの娘、黒澤ルビィは父親以外の男とは会話ができないという、致命的な弱点があるためだ。彼女と年齢の近いミコトを連れて来ていたのはそのためである。

「あの子が黒澤さん?なんか至って普通の女の子ですね」

 車の窓越しから、赤っぽい髪に154センチの少女がアイドルグッズショップ前で立っている少女を見る二人。

「確かにな。だが油断禁物だ」

 すると、店内に入っていった。

「私行ってきます」

「頼んだよ」

 追いかけるように店内に入っていくミコト。店舗のサイリウム売り場で女性店員と楽しそうに会話するルビィを見つけた。

(・・・情報と違うわ。大人しくて人見知りするって言ってたけど、相手が女性店員とはいえ、なんだが楽しそうに話してる)

 商品の陰からから観察していると、背後から肩を叩かれた。恐る恐る振り向くと、花陽と似たような髪色の少女がいた。

「何してんだずら?」

「え・・・いつの間に?」

「あの子は悪い子じゃないずら、オラはそう思う」

(方言キツイ子ね・・・でも聞き出せそう)

 ミコトが要件を話そうとした瞬間、ルビィが近くにいることに気がついた。

「も、もしかして、二宮ミコトちゃん!?」

「そうだけど、どうしたの?」

「本物だ~!一緒に写真撮ってください、お願い!」

「えぇ!?」

 気まずくなったミコトは一目散に逃げ出そうとするが、掴まれた肩を振りほどくことができない。

(どうしよう先生・・・捕まっちゃった・・・)

 入口の方向からケビンがやってきた。彼女たちの様子を見て、ため息をついた。

「心配になって来てみたが、予想通りだ・・・」

 

 

 

 

 場が悪いため、ファミレスに移動し、自分の身分を明かした。だが

「・・・俺悪いことした?」

「全然。ルビィが菊地さんのことがダメなだけずら」

 想定内と言っていいが、ルビィがケビンに対して視線を逸らすうえに、口をきいてくれない。もっとも、筋肉隆々の褐色男を前に堂々と会話できる女子高生自体が珍しいが。

「でも東京の特別警備会社の人が、こんな田舎に来るなんて珍しいずら、どうして来たか教えてほしいずら」

 ミコトを見つけ、方言を話す少女、国木田花丸。彼女は明らかにケビンに対して警戒していた。

「彼女のお父さんの依頼で、彼女を小遣い事情を調査してたんだ。まっ、何に使っていたか、今回の件でわかったけどね」

「そうですけど、このことを黙ってもらってもいいずら?」

「?どうして?」

「ルビィの家、やたら教育に厳しくて、国営放送のニュースしかテレビ見せてくれないみたいなんです。だから、このことがバレたら」

「叱られる・・・ルビィちゃんの前で言うのも難だけど、はっきり言って、あの類の野郎は嫌いなんだ。いかにも良い親を演じてるみたいでさ」

 アメリカの自由だが責任ある行動が求められる環境で育ったケビンにとって、彼女の養育環境は洗脳や奴隷育成に近いものを感じていた。

「・・・君の小遣いの使い道は話さない。悪い使い方をしてないって言っとくよ」

 縦に首を振る。

「ちょっと電話してくるから、料理注文して待っててくれ」

 ケビンはスマホを取り出し、店舗入り口に移動した。

「もしもし。はい、菊地です。娘さん、自分の食べたいものに使っていました。おそらく荷物についても同じものでしょう。はい、麻薬やらには使っていないかと、はい。では、失礼」

 席に戻ろうと思ったが、楽しそうに会話する3人を見て、トイレに行った。今戻ったら野暮だと思ったからだ。

(これでいいだろう。しばらく楽しそうにしといてくれ)

 通路でメガネをかけた白人男とすれ違う。

(あれはアレフレッド・ミラー。何故日本にいる!?)

 振り返ったが、既にいなかった。

(誰を殺しに来たんだ?)

 アレフレッド・ミラー。南アフリカ出身のフリーランスの殺し屋で、アフリカの独裁者達から死神と恐れられた男だ。ケビンと対峙したことがあるが、なかなか決着がつかず、行方不明になった。

(まぁいい。奴に関わると碌なことがないからな)

 気分も削がれ席に戻ると、ミラーがミコト達をナンパしていた。

『そこのお兄さん、少しいいかな?』

 店の外に連れ出し、建物の陰まで移動し、Px4を突き付けた。

『話してもらおうか。来日理由を』

『おいおい、いきなり銃向けるなんて実に平和じゃないな。灰狼の名、未だ健在ってか?』

『黙れ』

『OK.俺はただ、休暇で沼津に来てるんだ。だから銃は持っていない』

 ケビンがボディーチェックしてみても、やはり銃らしきものは見つからない。

『・・・まぁいい。それとあの子達の一人は依頼人だ、変に声をかけないでもらいたい。お前なら、なおさらだ』

『俺が幼女趣味だって言いたいのか?あいにくだがグラマー美女が好みでな』

『とにかくだ、関わるな。もしあの子達が危険な目にあったりしたら・・・わかるな?』

『OK.せっかく観光案内してもらおうと思ったが、別の人に頼むとするよ』

 そう言って、ミラーはこの場を去った。

 

 

 

 

 夕方。花丸と別れた後、ルビィを黒澤家まで送り届ける。

「ルビィちゃん。私のサイン、大事にしてね」

「ありがとうミコトちゃん!一生の宝物にするね!」

 車のドアを閉めようとした途端、家から爆発音が聞こえた。ケビンは車から飛び出しトランクにあったサイガ12を取り出し、現場へ走る。ルビィも向かおうとしたが、ミコトに止められる。

「まさか・・・お父さん!」

「待って。ここはケビン先生に任せましょ」

 ケビンは爆発現場に向かう。そこは離れの倉庫で、窓から煙が出ていることがわかる。そして、中から男性の悲鳴が聞こえた。

「待ってろ、すぐに助ける!」

 扉には鎖を繋ぐ古い錠前があり、それをサイガ12で破壊。開けると、中に仕舞ってあったものが燃えていた。階段付近に男性が倒れている。黒澤金剛だ。

「金剛さん、金剛さん!・・・まずは脱出だな」

 彼を肩に担ぎ脱出。途端、倉庫が崩れ落ちた。

(危うかった・・・もう少し遅かったら、下敷きだったぜ)

 幸い呼吸に異常がなかったため、車まで運ぶ頃には意識が回復した。

「うぅ・・・ここは・・・」

「あんたの家の近くだ。娘を泣かせやがって、どうして倉庫にいたんだ?」

「整理しようとして作業していたんだが、煙草の火が花火に引火して・・・」

「花火だと?市販のものか?」

「だがおかしいんだ。家の倉庫に三尺玉があるなんて・・・花火職人じゃあるまいし・・・」

(確かにそうだ。花火があるってわかっていて煙草なんて吸わないもんな・・・だとしたら、誰かが整理すると知ってて花火をセットした可能性が出てくるな)

 最初、ただのドジで引火したものだと思っていたが、花火職人でもない金剛が三尺玉を倉庫に入れてあるなんておかしい。ケビンは事件性も視野に入れた。

「言いたくないんだが、明らかにアンタを殺しにかかってる。警察に連絡して調べてもらえ」

 こうして、沼津出張が長引くことになった。




 次回、本格ミステリー風に書きたいと思います

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