準備を終え、ラブライブの会場へ足を運ぼうとしたその時、久しぶりの顔に出会う。
「ケビン、ちょっといいか?」
「どうしました根岸さん?」
「実は、依頼なんだがちょっと多くてな」
そのリストを見せられ、思わず頭を抱える。
「今日中にやってほしい依頼が、下着窃盗事件解決に通り魔の確保、迷子捜しに身代金受け渡しの同行・・・総動員すればいけますが」
「引き受けてくれるのか!?」
「えぇまぁ」
ケビンはオマルと新垣を呼び、依頼内容を確認させる。
「今回はチームプレイが必然的にできませんね。それぞれ請け負う形になりますから」
「どれか選ぶとしたら、オマル、お前ならどうする?」
「通り魔の確保ですね。工作員として尾行と張り込み得意ですから」
「俺は身代金受け渡しを。子供が苦手でして」
「私は・・・迷子捜しにするわ、一番危険がないかもだし」
「余った下着窃盗事件は俺がやる。根岸さん、報酬は個別でよろしいですね?」
根岸は納得した様子で帰って行った。
「念のため、銃携帯を許可する。何を持って行くかは自由、以上解散」
新垣は早速、秋葉原署に向かい、身代金受け渡しの仕事をすることにした。何でも、矢澤にこの妹が誘拐されて、親御さんがなけなしの身代金を指示通りの紙袋に入れ、取引先のスーパー銭湯の更衣室のロッカーに入れて張り込みをし、ロッカーを開けようとした人物を確保するという、鉄板な作戦らしい。
「誰も来ないですね。根岸さん」
「使用禁止の張り紙を張ったロッカーを昼間っから開けはせんよ。不用心すぎるし、捜査員も客に扮しているんだ、バレはせん。それはそれとして、そろそろ交代の時間だし、風呂に入ろう。更衣室にいるだけじゃ怪しいからな」
ところが、二人が風呂に入って上がったとき、ロッカーの中の身代金が無くなっていたのだ。依頼失敗に頭を抱える新垣。お気楽ムードを作った根岸は沈んだ顔で励ました。
「まぁ人質は生きてなんぼだし、根気よく解決しよう」
同時刻。渡された写真の少女を駅前で偶然発見し、交番に送り届ける。
「さぁて・・・どこに行こうかしら。とりあえず、オマルは無しね。戦力にならないから。新垣君の仕事もすぐに終わるだろうし、ケビンの仕事、手伝いに行きましょうか」
合流先である交番から近い住宅街へ向かい、ケビンと合流する。
「宏美。終わったのか?」
「捜してたら偶然ぶつかって来て、早速交番に預けてきたわ。ケビンは?」
「さっき事件を解決してきて、その報告だ。今回は撃たなくてよかった」
「ここ最近銃撃戦多かったからね。久しぶりの探偵業じゃないかしら?」
「あぁそうだな。せっかくだし、ちょっとしたクイズでもしないか?犯人は盗んだ下着をどこに隠し持っていたか、推理してほしい」
向かった場所は2階建てのアパートで古き良き時代のにおいがする、六畳のワンルーム。一階に住んでいる女性がここ最近、下着を盗まれていた。警察が捜査した結果、近くに住むトビの男が網に掛かったまではよかった。しかし、彼を調べてみても何も出てこないのだ。
「そこで俺は仕事着姿の奴のあるところを重点的に調べたら、案の定あったんだが・・・」
「ねぇひとついい?家宅捜索は?」
「奴が吐いたから今頃してるだろうな」
「ふーん・・・ケビンが盗む側だとして、そこに隠すかしら?」
「不意を突くなら、一番良いかもな」
トビの仕事については何となくわかるが、あの特徴的な作業服にヘルメット姿を思い浮かべる。
「・・・まさか・・・被ってたの、頭に?下着を頭に被ってヘルメットで隠せば、たとえ建築現場でも怪しくないわ。脱がない限り見えないし」
「いかにも・・・正直、恐ろしかった。うちのビル建築にもアイツみたいな連中が携わっていると思うとな」
背中に寒気を覚えながら、新垣の応援に行くことにした。
捜査本部でうなだれている二人を見た。
「くそ、どうやって金を受け取ったんだ!」
「根岸さん。風呂に入った隙を突かれて持ってかれたんだろ?連絡はなかったのか?」
「そうだな・・・こころちゃんが無事に母親のもとに帰って来たことぐらいかな。実際に見届けたし」
「あとはその、こころちゃんに事情を聴くだけですね。新垣、ロッカーの特徴を教えてくれ」
「指示されたロッカーは部屋の真ん中にあって、薄い板一枚で向こうと隔てていました。動かそうと思えば結構簡単に外れましたね」
「・・・指示されたロッカーの反対側を使っていた男は?」
「確か中肉の男性・・・え?」
「ようやく気付いたか。その男が犯人だ。似たような袋を用意し、普通の客として風呂に入る。次に上がった後、着替えを取り出しながら板を外し向こう側の金を取り、しまい込んでそのまま去ったのさ。カメラの映像を持って調査すれば捕まるよ」
「おぉ!さすがケビンだ、よしもう一度風呂屋に行って監視カメラデータを回収するぞ!」
根岸は生き返ったように元気になり、現場に向かった。その様子を見たケビンは思わず小さくため息をついた。
すっかり夜になり、オマルを除いた全員が事務所に待機していた。
「遅いわね。何をしてるのかしら」
「通り魔の正体が掴めないんだろうか」
「オマルはお前と違ってある程度知恵はあるぞ」
噂をすればなんとやら、オマルが事務所に帰ってきた。
「いや~すいませんね。アジトを聞き出してそこに殴り込み行ってたら時間が掛かって」
よく見ると頬に煤が付いていた。爆破でもしたのだろうか。
「まさかお前」
「殺してません、アジト内に花火を撃っただけです」
そう言ってロケット花火の入っていた袋を見せる。珍しく発砲してないようだった。
「しかし、通り魔の正体が複数いて全員が学生だっただなんて・・・手加減して正解でした」
「普通なら警察と連携するだろうがな」
「いいじゃないですか。ところで、報酬は?」
「後日払うって話だ。リストには明日も似たような仕事があるぞ、今日は解散だ」
二人が退社し、ケビンと宏美も上へあがる。
昼間の速い展開から一転、夜になると静かに時間が流れる感じがする。
「明日も忙しいから、少し休んだら?」
「君もね」
ケビンは宏美の隣に座る。
「あれから、いろいろあったわね。夜の音乃木坂で出会って、スカウトされて、札幌行って、沼津行って・・・たくさんの事件を解決してきた」
「スカウトじゃなくて、押しかけだろ。だが、俺一人ではできないこともあったのは確かだ。宏美がいてよかったこと、多かったぞ」
「そりゃどうも・・・って、何よ今さら」
「感謝してるんだ、俺にはない優しさでみんなを鼓舞したり、コンピューターで援護したり、情報収集力でサポートしたり・・・多すぎて言葉にならん」
「私もよ。ケビンに会えてよかったって・・・これからもずっとよろしくね」
「あぁ。街のため、宏美のために戦うよ」
良い空気の最中、根岸から電話が入る。
「もしもし」
「ケビン、事件だ。休んでいるところですまないが来てくれ!」
「・・・行きますから、場所を教えていただけませんか?」
場所を聞き、電話を切ると、武器を手に出ようとする。
「私も行くわ。なんたって、パートナーだからね」
「よし、行くか」
二人は夜の秋葉原をクラウンに乗って走る。難解な事件を解決するために。
本編はここで終わりにさせていただきます
なんだか煮え切らない感じがしますが、一段落つけたかったので