PMC探偵・ケビン菊地  灰狼と女神達   作:MP5

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 暖かめです


44話  昔話

 ケビンは事務所で書類仕事をしていた。昼休みに入ろうとしたその時、穂乃果とことり、海未が事務所を訪れる。

「連日来るなんて、どうした?」

「みんな受験終わったから、探偵さんのところに遊びに来たんです」

「ここは女子高生のたまり場じゃないんだが・・・まぁいい、俺は何をすればいいんだ?」

 穂乃果が挙手した。

「どうして、探偵になろうと思ったんですか?」

「穂乃果!いくらなんでも失礼ですよ」

「構わないよ。探偵になった理由じゃないけど、昔の話ぐらいはしてあげる・・・紛争地、アフリカにあるL国で任務に就いていた時だ」

 

 

 

 

 

 

 

 当時22歳。トライデント・アウトカムズの仕事の一つに依頼人の護衛がある。レジスタンスのピエールと言う男の警護をしていた。

「俺はピエールのことは同じキャンプの兵士に聞いた、なんでも今の独裁政権に反抗し革命を成し遂げる、ただ一人の男だと。皮肉気味に言ってたから俺は疑問に思った。英雄を持ち上げた挙句、私利私欲に走るパターンが多かったし、何せ民主主義のミの字を知らない連中が革命だなんだを起こすんだ、また元の木阿弥になるってわかったんだ」

「カリスマ性はあったんですよね」

「夢を実現しようとしたのは事実だ、学はあってなかったようなものだったがな」

「どういうことですか?」

「勉強できるバカってことだ。アイツは机上の空論を実現しようとした、ロマンチストだったのさ。だから現実に背を向け、自ら戦いに出ようと思わなかった臆病者」

「探偵さん、酷評ですね」

「一つ教えておく、革命には金と血が必要だ。血を流さず、言葉だけで国を動かそうとしたけどな、ほぼ信頼なんてないに等しかった」

 思い出すようにゆっくりコーヒーを飲む。

「だが転機が訪れた。奴の幼馴染、ハンスがイギリスから帰国したんだ。彼はそこで民主主義の何たるかを学び、革命軍にわかりやすく説明した。ピエールより兵を動かすのがうまかったから、次第に彼に権力が動いていった」

「でもそれって、ピエールさんにとって面白くないんじゃ」

「そう。アイツは自分について来てくれた兵士と弾薬、資金の半分を土産に政府軍に寝返ったんだ。まぁ続きはお察しの通りだ」

「ど、どういうことですか?」

 話について行けない穂乃果がケビンに問う。

「・・・まぁ、なんだ・・・バカだったんだ」

「教えてくださいよ!」

「穂乃果ちゃん探偵さん困ってるよ?」

「でも、穂乃果にはわからなくていいのでは?」

「そうだな。金が無い軍隊に勝ち目はないと思われたが、ダイヤモンドの密輸で資金を得ていた。ヤミだろうがダイヤはダイヤ、高値で売れた。その売上金で一般人の生活にあて、残りで武器を買った。そんな日々が続いたある日、決戦と言える戦いが始まった。首都近くのサバンナのど真ん中で鉛玉と砲弾の雨、悲鳴が飛び交う中、俺はM4A1を手に戦った。900発撃ったところで武器が壊れ、敵のAKを奪ってどうにか生き延びた。革命軍が勝利したが、残ったのは屍の山と破壊された兵器の残骸。戦いのあと、その足で攻め込み、独裁者を逮捕。革命を成し得た。現在は俺達の支援を得ながらアフリカでも安全な国へと統治してる」

 終わったような口調で再びコーヒーを飲む。

「その後、俺は日本に帰国して探偵業もするようになったんだ。顔の傷もL国での戦争の傷だ」

「アフリカの情勢を生で聞けるなんて・・・」

「探偵さん、ご無事でよかったです」

「まぁ俺にもいろいろあったってことさ。今日はここでお開きにしようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3人が帰ったのを見届け、上へあがる。自室のテレビでゲームで遊ぶ宏美がいた。

「ねぇこれ難しくない?古いゲームだし、キャラ強烈だし」

「せがた三四郎の真剣遊戯か。熱くなるだろ?」

「まぁ暑苦しいわね・・・道着着たおじさんが熱血ミニゲームするから」

 例のテーマ曲が流れると、思わずケビンも口ずさむ。

「まさかケビンがゲーム好きだっただなんて、信じられないわ」

「新型ゲーム機のFPSもTPSも把握してるぞ」

「しかも銃撃戦ものばっか、仕事じゃないなら考えなくていいじゃない」

「職業柄、とでも言っとこうか」

 ケビンはソフトを取り出し、宏美の近くに置く。

「気が向いたらやってくれ。事務所閉めてくる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 事務所の玄関の鍵を閉め、気分転換に街を歩く。近所の店の売り子から電気屋のオヤジまで、彼を見かけた人間は挨拶してくれる。

「探偵さん、また定食屋かい?」

「探偵の兄ちゃんカメラ買わないか!」

「ケビンさん一緒に新作メニュー考えてくれ!」

「兄貴頼む、格ゲー一緒にしてくれよ!」

(俺がここに来て間がないってのに、信頼されてんだな。依頼を通じていろんなことにチャレンジしたのが昨日のことのようだ。アフリカや中東の戦場じゃ、まず考えられない、温かさが心地よく感じる)

 ふと自分の手のひらを見る。自分で触れてもわかるぐらい固く、逞しい。

(数日後にはアナコンダ護送作戦が開始される。また俺は戦場に立ち、銃を握る。昔は死んでも構わないと思っていたが、ミコトちゃんや大隅さん、依頼人達、何より宏美と出会って、生き残ってまた会いたいって思える人達が出来て変わった。必ず依頼を遂行し、帰ってくる)

 向かいのビルの屋上から視線を感じ、そちらに向く。

(やはりいたか。俺を殺りたいかもしれないが、まだ死ねないんでね)

 再び目線を前に戻し、事務所に帰っていった。




 男はただ、歩みを続ける

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