2台の車で沼津に向かった4人。車中でラジオから流れる、5日前宮城県仙台市で起きた、東南アジア系マフィアの会合現場であろうホテルが襲撃されたというニュースを聞く。捜査が終了し、専門家が意見を述べているがケビンにとっては重々承知していることだった。
「首に蛇の刺青をした連中の会合だったらしいわ。おそらくアナコンダの仲間ね」
「襲撃した連中は恐らくゴーストだ、仲間を多く抱えてるだろう」
「・・・ケビン、ひとついいかしら?」
「なんだ」
「実行犯はゴーストで決まりだけど、どうして彼はわざわざリスクを冒してまで攻撃したの?ケビンが彼に威嚇したって話だし、アナコンダは逃げる達人よ。返り討ちに可能性もあったんじゃない?」
「理由は不明だが、依頼されてる可能性が高い。たとえ遭遇しても奴と極力戦闘を避け、アナコンダの居場所及び、奴の組織に関わるモノを全て回収、不可能なら破壊する」
「それがいいわね」
到着後、二手に別れることにする。4人で行動するのはいくら何でも目立つからだ。駅構内、バス停、駅ビルにアナコンダの手配写真が貼られており、情報提供するよう呼び掛けている。
「これじゃ奴に逃げてくれって言ってるみたいだな」
ケビンと宏美は外国人が泊まりやすいホテルをしらみつぶしに探すが、どこも彼を見ていないという。
(そりゃなぁ。変装してる可能性だってあるしな)
ホテルではないとしたら個人宅、もしくはホームレスに混じって暮らしている可能性もあった。
「意外と広い街だ、しらみつぶしじゃ日が暮れるだけじゃなく、人間が足りんから効果が薄いな」
「ねぇ。Aqoursのファンに混じって潜んでそうな場所って、限られてない?」
「なんだ急に?結構ファン多いぞ」
「多くは学生よ、しかも所得がないんだから安宿かどっかにいるんじゃない?」
「1人で入っても違和感がない宿・・・カプセルホテル調べるぞ」
調査の結果、アナコンダと似たような雰囲気の男が泊まったというホテルを見つける。監視カメラも見ると、眼鏡を掛け、髪を黒く染め、サイリウムやコートの下に少々痛いTシャツを着た東南アジア系の男がチェックインしているのがわかる。日付は4日前しかし、確定とは言えなかった。
「どの名前かわかるか?」
「えーと、これですね」
Hunterとサインされている。ケビンはモルグ社にあったアナコンダの筆跡と似てると判断した。
「この名簿、お借りしてもよろしいですか?あと映像を録画してるディスクも」
「え・・・いや、しかし」
「少しの間でいいんです。この街に、アナコンダがいると言ったら信じますか?」
「・・・わかりました、支配人を呼びます」
名簿と録画したディスクを借りるとすぐに大隅科学研究所に送り、改めて捜査に戻る。
オマルと新垣は裏路地にある、チンピラの溜まり場に来ていた。
「少々よろしいでしょうか?」
「あん?誰だ、外人さんの来る場所じゃねぇぞ」
「実はですね。捜査に協力をしてもらいたくて」
「話聞いてんのか!」
殴り掛かってきたところを頭突きで受け止め、そのままアッパーカットでダウンを奪うと、AUGA2を取り出し、銃口を突きつける。取り巻き達も襲い掛かろうとするが、FNC-paraを構えた新垣に制圧される。
「死にたくなかったら、有無言わずに協力しなさい。ここ最近、大勢の外国人が沼津に来てることはご存じで?」
「し、知らねぇ。モルグの連中が来たって話なんて」
「何故私の聞きたいことを?」
「!!」
「洗いざらい話してもらいますよ」
曰く、ここ数日、モルグ社が近隣のビル買占めを行っていたらしいが、犯罪に関わっていたことが判明し、一気に手放し幹部級の人間が四散したという。
「そうでしたか。ここにも合成麻薬を」
飽きたと言わんばかりに遠慮なく顔面を踏みつけ気絶させる。
「地図に書いていただきたいのですが、よろしいですね?」
予約していた旅館に集合し、その一角にある休憩場で捜査報告することにした。
「なるほど、この街にも」
「そのようですね。駅から少し離れた場所のビルばかりを買い占めていたらしいです」
「そこ全てに訪問したら、多くのビルを手放しており、残っているのは2つだけ」
「さっき解析結果が来たんだが、アナコンダで間違いない。この街に潜伏している」
「会社が潰れた今、彼の目的はなんでしょうか?不明です」
「・・・カムフラージュにしては随分本格的だったわ。ラブライバーの格好」
映像の一部を写真として切り取ったものを見せる。
「ぷぷ・・・いい歳こいたオッサンが何を」
「カムフラージュでも、こういうのはちょっと嫌だな」
「この写真、不自然なところがある。護衛がいない」
ケビンの一言に改めて写真に注目する。確かにそれらしい人間がいないのだ。
「ライバーに化けてんじゃないの?」
「あの無防備な服装で銃を隠し持つなんて無理だ。たとえハンドガンでも、どうしても気休め程度の威力のモノしか隠せん」
「ミニUZIも持てないですね。護衛は置いてきたと、考えてもいいのでは?」
「なるほど、現地で合流ってことか。気まぐれな奴らしい」
横から目の隠れた大型犬がオマルに寄ってきた。そして彼の側に着くと、その場で伏せる。
「すみません、うちのしいたけが」
しいたけと呼ばれた犬を起こすブラウンの短髪の女性。
「いえ。我々もそろそろ部屋に戻る予定でしたから、お食事よろしいですか?」
「はい、かしこまりました」
部屋に戻り、ケビンは早速、隅で銃のメンテナンスをする。
「懲りずにやるわね」
「銃は撃ってなくてもジャムが起こる可能性がある。メンテナンスは大事な仕事だ」
R5を瞬く間に解体し、全てに異常がないと見るや再び組み立てた。
「早いわね。それも軍で?」
「そうだな、レンジャーでなくてもする基本中の基本。修理も出来なくちゃ戦えない」
R5を構え、サイトにガタがないことを確かめ、再び床に置き、今度はUMP-9に手を伸ばす。
「そうやって戦ってきたのね」
途端、玄関側の襖が開いた。料理を持った黒髪の女性が現れる。
「お待たせしまし・・・た」
ケビンの持つUMP-9に目が行ってしまった。
「あ、あのぅ・・・それは・・・」
「仕事道具です、予め自分達の職業を名乗ったうえに持ち物もお伝えしたハズですが?」
「いえ、その、本物の銃を見たことなかったものですから」
淡々とテーブルに料理の盛られた食器を置く。
「驚かれても無理ないですよ。我々特別警備会社が日本に来たのは最近です、しかも馴染みがないでしょう」
「ええっと、先ほど特別警備会社とおっしゃっていましたが」
「言い換えれば民間軍事会社です。政府に特別な許可をもらい、国防及び犯罪者への攻撃に加わることができる傭兵だと思って頂ければいいでしょう。もっとも、トライデント・アウトカムズは一般人から依頼を受け、解決する探偵業も実施しておりますので」
「はぁ・・・」
想像以上に奇抜な客だと思った。
「困ったことがあれば連絡をください。もっとも、今扱ってる案件を終わらせてからですが」
夕飯を食い終わり、宏美は再び持ってきたノートPCを開き情報収集する。
「何かないかしら。アナコンダが出てきそうなイベント・・・」
ネットで調べていると、奇妙な情報を見つけた。
「ねぇこれ見て?」
「?・・・これは、学生映画の撮影か?」
沼津港の大型船舶を停める外港で地方大学の映画同好会が明日、公開撮影するとあった。キャスティングに注目する。
「ほぅ、Aqoursのメンバー全員が主演ねぇ。ジャンルはドキュメンタリー」
「偶然にしては出来過ぎよ。あそこにアナコンダの迎えがいるかもしれないのに」
「もし関わってしまったなら良くて誘拐、最悪フィリピンで内臓売られるな。二人にも教えておけ、ターゲットが現れれば取り押さえ、不可能なら排除するよう言っとけ」
「わかったわ」
ハードなシーンは比較的抑え目です