山田を縛り上げ、法すれすれの尋問をした結果、フィリピンにあるモルグ本社の社長及びアナコンダは名前を変えた同一人物であり、度々日本に入国しているだけでなく東京中心に多くの新型麻薬を売りつけている。突入許可をもらうため新垣とオマルに防衛省まで足を運んでもらい、ケビンと宏美はマニラ支社と連携しモルグ社の日本本社前で待機していた。
「ケビン。まだここにアナコンダがいるかわからないけど、絶対に成功させなさいよね。私は車の中で監視カメラをハッキングでサポートするから」
「任せとけ・・・ところで二つほど聞きたいんだが?」
「な、何よ?」
「まず、ハッキングなんてどこで習ったんだ?」
「専門学校がコンピューター関係だったのよ、だからどうやって網くぐっていくかなんてお茶の子さいさいってこと」
「なるほど。取材の一環で使ったって認識でいいか?二つ目だが、お前触られるほど胸あるのか?」
「な!?これでも84のFよ!そりゃミコトちゃんや絵里ちゃん、希ちゃんには敵わないけど、自信はあるわよ!」
「・・・悪かった、すまん」
バツの悪そうな表情で謝るケビン。
「まぁいいわ・・・突入準備、出来てる?」
「当たり前だ。お前が着痩せしてるって、他のメンツには黙っておいてやる」
顔を真っ赤にしてケビンの胸板に顔を埋めた。
「もぅ・・・こんなこと言うの、好きな男の前だけなんだから」
「?おい、何ブツブツ言ってやがる」
「何でもないわよ!」
オマルから連絡があった。攻撃の許可だ。
「さてと行って来るかな。宏美、事件終わったら話がある、覚えておけよ」
「ま、まさか解雇じゃないわよね?」
「そうじゃねえから安心しろ。ちょっとした進路相談だ」
そう言うとR5を片手にケビンはクラウンから降りた。
(危うかった・・・これ、渡す時間が欲しいからな)
懐から小さなジュエリーケースを取り出す。中にはシルバーのリングが入っており、K&Hと小さく彫られている。
(死亡フラグぐらい乗り切ってやるからな)
それを仕舞い、裏口付近まで移動し、突入しようとしたその時、ビル内が騒がしいことに気がついた。チャンスと判断したケビンはマニラ支部の数人の仲間達と突入し、すぐに1階のフロアを占拠、次々に制圧していき、最上階にある社長室前まで駒を進めた。
「ケビン、吐き気がしてきた・・・」
「どうした?」
「社長室に生きてる人間がいないわ」
「は?」
「ごめん、無理、一度画像を切るわ」
「わかった。突入する」
仲間の一人がブリーチングハンマーでドアを破り、一斉に突入する。そこには血の池地獄を再現した光景が映し出されていた。だが、遺体の中にアナコンダはいなかった。
「捜査開始、証拠になりそうなものを残らず確保せよ」
ファイルやSDカード、PC本体と言った情報メディアから本物の麻薬と言った物的証拠も出てきた。ケビンは窓にある多数の弾痕を見つけ、驚きを隠せないでいた。外を見ると狙撃できそうな場所は向かいのビルの屋上しかなく、距離も直線で200メートルほどと結構遠い。
(10ぐらいいる護衛を一人残らず始末するスナイパーか。ボルトアクションじゃあなさそうだな、どうしても連射力がお粗末だしコッキング中に逃げられる可能性がある。セミオートスナイパーライフルを使って狙撃したな)
「隊長、これを」
隊員の一人が紙媒体の顧客名簿を見つける。野平の通う大学の同級生や裏の殺し屋、ヨーロッパの富豪の名前が乗っており、それぞれ必要なものも明記されていた。
(ふん、予想通りクソみたいだ)
突入及び捜査を終えたチームは一旦解散し、証拠品を警察に提出することにした。
翌日。宏美と二人でモルグ社の向かい側のビルの屋上に行った。身を低くし徹底的に調べていくと、7.62NATOの空薬莢が多く見つかる。どれもI’m Sniperと彫られているのがわかる。
「俺はスナイパー・・・奴め日本に来やがったな」
「ゴーストが来たのね。見た感じアナコンダの敵みたいだけど、信用できるかしら?」
「俺は快楽殺人鬼と手を組まん。こっちが殺されかねん」
「確かにそうね。・・・ひと段落したんだし、どこかで休みましょ?」
「だな」
東京に戻り、大隅科学研究所に行く前に穂むらで休憩することにした。
「はぁ・・・いい店よね」
「こういうの好きだぜ、風情があって」
「ふぁあ・・・なんか眠たくなってきちゃった・・・」
そう言って本当にケビンに寄り添って眠ってしまった。思わず驚くが彼女が普段、あまり寝ていないことを知っていたため、少しの間だけでも寝かせることにした。寝顔を少しのぞき込んでみた。
(こうして見ると、結構美人なんだがな)
音ノ木坂学院で出会い、多くの事件を一緒に解決した。ケビンは知らず知らずのうちに彼女のひたむきさに惹かれ、結婚まで意識するようになっていったのだ。
(母さんと初めて会った時の親父もそんな感じだったのかな?)
気配を感じその方向に顔を向けると、穂乃果がこちらを面白そうに見ているのがわかる。
「見世物じゃないよ」
「ご、ごめんなさい。でも探偵さんにしては珍しく、宏美さんに優しい表情で見つめるなんて、ねぇ」
「はぁ・・・俺ってそんなにしかめっ面してる?」
「銃持って歩くときなんかしかめっ面ですよ?」
「警護任務は当たり前だろう、そうじゃなくって普段は?」
「うーん、いつも笑ってはいないですね」
「だろうよ」
白けた表情でほむまんを口にすると、不気味な雰囲気を醸し出している男が入店し、隅の席に座りお茶とほむまんを注文する。
「?見たことないな」
「最近、しょっちゅう来るお客さんです。悪いことこそしてませんが、怖い感じがするんです」
(確かにこの店にしては珍しいな。気になるが、今はアナコンダの調査だ)
宏美が目を覚まし、案の定、大いに驚いてくれた。
「エエエエ!?ちょっ、寝てるなら起しなさいよ!」
「別に寝てても事務所の上にあるベッドに置いてくつもりだったが」
「・・・恥ずかしいじゃない」
大隅科学研究所に持ち込んだ、7.62NATOのライフリングを調べてもらう。
「さっき速報で流れてたよ。モルグ社はもう日本じゃ営業できないだろうな、臓器売ったり麻薬売ったり・・・どうして警察は見逃してたかな?」
「まぁ表向きは外資系商社だったし、つけ入る隙がなかったってことでしょう。ですがボスが分かった以上、相手の戦力は大幅ダウンは確実です」
「そうだろうけど、窮鼠猫を噛むって言うから気をつけて。それと終わったぞ」
結果をプリントアウトし、二人に見せる。
「使用した銃はSR-25Mスナイパーライフル、しかもライフリングを増やしたカスタムバレル。海兵隊を始めとした米軍が使う、セミオートスナイパーライフルの中でも最高の銃だ」
「やはりな。じゃなかったら正確かつ、そんなに速射できん」
「海兵隊の奴が好んでそうだ。市街地戦でこれを使うんだ、重々気をつけてな」
その後、事務所で起きたことを報告し、4人で話し合うことにした。
「ふむ・・・アナコンダはいなかったですか。どこかに潜伏してるでしょうね、主要の空港はもちろん、関東圏の港にも非常線が張られるとのことですから成田や羽田は使えません」
「出国する術は残っている。今度は陸路でどこに向かったか調べよう、もしかしたら関東圏以外、例えば東北や東海地方で外国船舶が入港している場所があったらそこに行く必要性がある」
「しかし多いですね。主要道路も監視対象でしょうに」
オマルは呆れた表情でソファにふんぞり返る。
「網を抜ける方法か」
ケビンはストレートティーを入れ、テレビをつけた。
「おっ今日はローカル線の旅か」
北陸の山間部にあるローカル線の特集が流れる。新垣はそれに食いつく。
「菊地隊長。俺実は田舎で育ちでして、東京に来るのが夢だったんですよ、しかも車窓が故郷そっくりで」
「おいおいそんな偶然あるのか?」
ふとケビンは考える。もし、突入前に既に東京から脱出し、船でフィリピンに逃げる算段だとしたら。
「なぁ新垣、アナコンダって時間にルーズか?飛行機は好きか?」
「山田によれば、会議にはいつも遅刻してて飛行機嫌いらしいですよ」
「そうか・・・彼は思ったより呑気らしい」
本棚にあった新しい時刻表を取り出した。
「みんな聞いてくれ。これは俺の推理だが、アナコンダは新幹線ではなく、在来線、しかも普通列車で東海地方に向かったと思われる。奴は東南アジア系だ、寒さの厳しい東北には行かん。なら自然に東海地方に行ったってことになる。次に目的地だが静岡の伊豆半島、もしくは沼津港といった港のある場所に身を潜めるだろう」
「外国人が目立たずに住める場所が重要ってことですね」
「そうだ。伊豆半島は多くの外国人観光客がいて目立たないが、逆に母国語で何を言ってるのか気づかれる危険がある。したがって、東南アジアが程よく居てかつ警戒心を抱かない都市に潜伏していると思われる」
「だとしたら、どこにいるのでしょうか・・・まさか」
「あそこしかないだろうな。沼津だろう、今一番勢いのある9人組のファンのフリさえすれば、怪しまれないどころか親近感すら湧きそうだ」
ここ最近、だいぶ暖かくなってきた