PMC探偵・ケビン菊地  灰狼と女神達   作:MP5

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36話 平凡と非凡

 ミコトはこの日、ことりや希が働いているメイド喫茶でアルバイトをしていた。週2日ほどだが出勤してきており、彼女が来ている日は繁盛している。もっとも、彼女目当ての悪質な客もいるが隣の探偵事務所の名前を出せば大抵料金を置いて逃げ帰るため、さほど問題ではなかった。

「ふぅ・・・メイド服ってコスプレの仕事でしか着たことないけど、結構ゴテゴテしてないんですね」

「ちょっと走りにくいけど、カワイイ衣装だよねぇ~」

 休憩時間がことりと被ったため、簡単に雑談する。

「まさかミコトちゃんが入ってくれるなんて思ってもみなかったって、店長さんとオーナーさん言ってたよ。でも何があったの?」

「私には親がいません。高校に行けたのは社長と先生のおかげなんです。二人に迷惑かけないためにも、稼ぎを作りたいと思ったんです」

「ここなら探偵さんに相談しやすいし、良い人ばっかりだから安心できるよね。・・・重い過去喋らせちゃってごめんなさい」

「いいんです。それより、受験はいいのですか?」

「もう合格したよ。これでもちゃんと勉強してんだよ?」

 笑顔ではあるが、時折辛そうな表情をする。やはり、この前の暴行事件が尾を引いてるのだろう。

「やっぱり、真実が知りたいですか?」

「そんな人じゃなかったもん。何があったのか知りたいし」

「・・・ことりさん、相手はどんな手を使ってくるかわかりません。催眠術みたいなものを用いて邪魔してくるか、はたまた、堂々と殺しにくるか・・・私は自分で調べるのはおすすめしません」

「穂乃果ちゃんでも同じこと言うかな?」

「さすがに」

 沈んた空気に清涼剤が現れる。

「なんやなんや、そんな元気のない子には」

 希は怪しい手つきでミコトの胸を弄り始めた。

「!!な、なに!?」

「エリチに比べると弾力あるなぁ」

「・・・スケベ」

 英玲奈による悪戯で慣れたミコトの冷静ぶりに希も頭が冷えた。

「さっきの暗い顔、お客様に見せちゃアカンで。探偵さんも、ファンの方も心配するで」

「わかってます。希さん、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 隣のトライデント・アウトカムズでは、真剣な眼差しでテレビを見ていた。昨日あったと思われる、フィリピン特殊部隊NAVSOGによる麻薬王「アナコンダ」暗殺作戦が失敗したと報道されているからだ。チームのリーダーである、エディ・カーマイケル少佐はロバートのかつての部下で、ケビンも面識があった人物が殉職したと報道されている。

「カーマイケル少佐・・・」

「麻薬王ですか。もしモルグと繋がりがあるなら、早速調べてみないといけませんね。確証はないに等しいですが」

 アナコンダの顔写真が映し出されると、宏美が頭を傾げる。

「・・・」

「何だ、腹減ったのか?」

「違うわよ。出入りしてた男に似てる」

 3人一斉に宏美を見る。

「ちょ・・・いい歳した男が一斉に睨まないでよ!」

「新垣、ブラックリストの名鑑持って来い」

 分厚いファイルを机の上に開き、先ほどの男に似た写真があるか確認する。

「・・・あった!」

 白髪でケビンよりも濃い色の肌の男。彼が東南アジアの麻薬王、アナコンダ。

「間違いないわ。彼よ」

「今度の敵は麻薬王か・・・知らずに宣戦布告したみたいだな」

「相手はNAVSOGを裏をかいた男、どうするのよ?」

「新垣、情報を防衛省に送れ。俺とオマル、宏美は大隅科学研究所に行こう」

「?」

「野平の尿からハッシシに似た成分が検出されたんだ。それと奴の売ってるやつと比べんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 3人は大隅所長から渡された書類を目に通す。

「主成分はハッシシ。彼の身体から出たのはそれの強化版だ、かのアナコンダのモノと考えてもいい」

「ケビン・・・だとしたら野平君は」

「悲しいが、もう幼馴染として彼女とは会えない。残念だが」

「・・・ねぇ。彼はどうして会社の写真撮ったのかしら?」

「それなら調べがついてます。彼が通う大学にビリヤード同好会っていうサークルがあるんです、まぁ実際にはヤリサーに分類される危険サークル扱いされるバカの集いですが、その彼らがモルグ社に出入りしてるところをタクシー運転手が見てました。ドラレコの映像にもあります」

「大隅さん、ほむまん食ってください。俺達は大学に足を運びます」

「気をつけろよ、お前の絡むことは大抵危険だからな」

 

 

 

 

 

 

 

 アクアラインを通り、そこから車で30分ほど。学長から捜査許可をもらい、ビリヤード同好会の活動拠点でもあるアミューズメントバーの前にいた。

「ケビン、なるべく穏便にしてね?」

「まぁ何とかなるさ」

 宏美をクラウン内に待機させ、ケビンとオマルはトレンチコートの下にそれぞれアサルトライフルを隠し持ち、店の中に入る。ビリヤード台にいる学生に声をかける。

「ビリヤード同好会か?」

「どうしたんだよお兄さん、まさか興味あんの?」

「リーダーを出せ」

「山田さんに会いに来たの?アンタ何も」

 二人同時にトレンチコートの脱ぎ、アサルトライフルを構えた。

「隠すなら隠してもいいが、もう二度とこの世には戻って来れないぞ?」

「・・・山田さん逃げて!」

 他の台でビリヤードをしていた男達が一斉に武器を抜こうとしたのを見た瞬間、二人は躊躇いなく引き金を引き、素早く確実に頭を撃ち抜いていく。数十秒もすればカウンターに隠れたマスター以外は骸と化していた。

「忠告したのによ、バカ共が」

「学生が銃を持っていた・・・野平君はこれを知ってたかもしれませんね」

「マスター、アンタの知ってること、全部聞かせてもらおうか」

 途端、外から宏美の悲鳴が聞こえた。ケビンは大急ぎで飛び出し確認する。

「どうした!?・・・コイツは?」

「いきなり乗り込んできて胸触ってきたからこれで痺れてもらったわ・・・酷くない?」

 助手席に泡を吹きながら気を失っている男がいた。

「T62スタンガンが役に立ったな」

「このまま人質になると思ったわ・・・ありがと、助けに来てくれて」

 最初に比べるとタフになったと、ケビンは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 任務を終え、他のメンバーが帰宅し報告書を書き終え、銃の手入れを行っていると電話が鳴り響いた。

「はい、トライデント・アウトカムズ」

「あ、わたし高海千歌です」

「依頼かい?」

「いえ、その・・・ちょっとしたお話を」

「・・・話を聞くよ、それも仕事だしね」

「わたし、みんなからよく普通って言われるんです。だから将来、普通怪獣チカチーになるんじゃないかって心配になるんです」

 ケビンは思わず笑いそうになるが堪える。

「続けてくれ」

「探偵さんみたいに身体も動かせて頭もいい人になるにはどうすればいいのですか!?」

 一息おき、落ち着いた声で答えた。

「・・・ねぇ、千歌ちゃん。俺をそう思ってるのは勝手だけどさ、普通のどこが悪いの?」

「え?」

「確かに生きてると他の人にはない非凡さを求めたくなる。でもね、非凡を求めすぎて俺みたいに人に銃口向けて平気な人間になりたいと思うかい?紛争地歩いてきた経験から言わせてもらうと、普通でいることって実は並大抵のことじゃないんだ。だから千歌ちゃん、普通でいることこそが君の魅力なんだよ、誇りに思ってもいいと思う」

「・・・探偵さんって傭兵さん?」

「厳密に言うと違うけど、その認識で合ってる」

 少しだけではあるが、彼の過去を垣間見た千歌は机の上にあるみかんを食べる。

「ごめんなさい探偵さん、いつも通りでいいんだね」

「そう。もう夜も遅いから早く寝なよ、おやすみ」

 電話が切れ、再び銃の手入れに戻る。

(・・・普通でいることこそが魅力か・・・俺には全くないな)

 組み立てて終わり、Px4を構えてみる。

「黒に染まれば白に戻れない・・・が、白のままでいる人を守れるもの黒だけか」




 作風が急に深夜アニメ風になってた・・・

 まぁ最初からですが

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