23:00 千葉県市原市沿岸部。オマルは一人、モルグ社の所有する倉庫付近で身を隠しながら情報収集していた。そこで判ったことは、彼らは表向きは外資系総合商社を謳っているが、実際には非合法で武器や薬物、果ては臓器の売買までする巨大なブラックマーケットだった。
(今回はいくらなんでも巨大すぎますね・・・しかし、同時に)
持ってきたC4を天然ガスタンクに仕掛け、自分は安全な場所に避難すると、スイッチを押し爆破する。しかし想像以上に爆発し、隣の建物も吹き飛んでしまった。
(は、派手にし過ぎましたね。幸いケガはしてませんが、警備も厳しくなりましょう)
騒ぎに乗じて乗りつけていたセダンに乗り込み、その場を脱出する。
「オマルさん。心配してたんすよ、さっき爆破して」
「ケビンに可能なら爆破するよう指示されてました。武器の割にはザルだったのが幸いでした」
「双眼鏡で覗いたんですが、一部兵士にF2000、MP5って高価にも程があるのでは?」
「確かに。倉庫の中身は武器弾薬ばっかりでしたし、これで多少は敵の脅威も削いだでしょう。それに」
「?」
「軍にいた頃は工作兵でした。ですから慣れているとも言えますね」
翌日。報告書に目を通すケビン。いつも以上に目つきが鋭くなる。
「MP5A4に最新ブルパップF2000か・・・資金は豊富みたいだが、訓練の練度はいまいちねぇ」
「高価なもの使うんですから、施設ももっと頑丈にすればいいと思いましたよ」
「あからさまに頑丈にすれば、明らかに怪しいものがありますよって宣伝するようなものだろ」
宏美が取材から帰ってきた。
「ただいま・・・ふぅ死ぬかと思ったわ」
「おかえり。まぁ休んでくれ」
ソファに寝そべり、だらしなく取材メモを取り出した。
「っで、どうだった?」
「まず一つ。社内には入れなかったわ、厳重すぎるセキュリティーに武装した兵士が数名・・・入ろうとしたら銃口突きつけられたわ」
彼女の表情が真っ青に染まっていることがわかる。
「次に、表から入ってる人間が営業マンとは思えないサングラスを掛けた男達。よく見たら上海の臓器ブローカーの連中だったわ。以前、資料で見た連中とそっくりだったのよ」
トライデント・アウトカムズ研修の一環で資料を読む。その中に危険因子を持つテロリストや商人、闇ブローカー等の犯罪者の写真付き名簿がある。
「闇ブローカー、一般学生、秘密主義企業・・・今後、宏美は俺と組め。オマルと新垣は街の小さな変化を見逃さないために依頼をこなしながら様子を見てくれ」
「了解」
その頃、ミコトは真姫と共に穂むらで和菓子を堪能していた。なんでも、穂乃果の部屋の片づけを手伝ってくれたお礼らしい。
「ありがとう二人共、とっても助かったよ!」
「・・・こんなこと言いたくないけど、受験生でしょ?もっと頑張んないと行きたい学校行けないわよ」
「もっともです。特に英語は壊滅的ですし・・・」
以前、ケビンから英語の特訓をしたのは良いものの、いかんせん、覚えが非常に悪すぎるが故に彼も匙を投げそうになったことがある。
「ごめんなさい探偵さん・・・」
「こうなったら英語を重要視してないか、選択科目で行くのが良いわね。しっかりしなさいよ」
「まぁその辺にしませんか?それよりも、重要な話があるのでは?」
取り出したのは穂乃果の部屋にあった切手の無い手紙。それは、ラブライブ運営委員会から届いた特別審査員の推薦状。話によれば昨日の朝、ポストにあったらしく、その日のうちに友人達に相談したらしい。
「そうなんだけどね、ことりちゃんも海未ちゃんも背中押してくれたんだけど・・・」
「けど何よ?」
「変なんだよね・・・だって、この事をツバサちゃんにも話したら、私には届いてないって」
「今のスクールアイドルにとって、μ’sとA-RISEは伝説的存在。穂乃果さんに届いてツバサさんに届かないってこと、あるのでしょうか?」
「そこなんだよ!だって比べられないもん、みんな頑張ってんだから」
「「そこ?」」
呆れながらミコトは脳内で整理してみることにした。まず、推薦状にはおかしいところがある。それは切手と印が無いことだ。すなわち郵便ではなく直接ポストに入れ、あたかも朝届いたように見せかけた。入れた人間は彼女の実家を知っており、かつポストの前に近づける人間だけであることがわかる。もし、住所だけ知ってる赤の他人ならば近所の人間が怪しみ、動き辛いハズだ。誰が入れ、目的すら不明だが、誘いに乗れば危険であることは確かである。
「・・・いずれにしろ、返事もせずに無視がよろしいでしょう。危険すぎます」
ふとテレビに流れるニュースを見る。
「最新ニュースです。関東地方中心に暴行事件が多発しています。どのケースも久しぶりに会った親しい人間から被害を受け、加害者は無実と主張します」
テレビから目線を外す。
「ことりちゃんもにこちゃんも同じような被害にあったんだよね?」
「にこさんの場合、あれは殺意あったでしょう」
「探偵さんいなかったら大変だったわ。私たちも気をつけましょ」
真剣に話し合っているとき、スーツ姿の冴えない外国人の男が来店してきた。
「ほむまんとお茶くれ」
案内された席に座り、スーツケースを自分の手元に置く。不気味な雰囲気に三人は凝視してしまう。
(初めてのお客さんだけど、こんなに異様な雰囲気の人、初めてだよ!?)
(不気味すぎよ、なにあれホントに人間!?)
(スーツケース大事に持ってるけど、中身なんだろう?)
それぞれ違う思考をしながら、彼がほのまんを食べ終え帰るまで、じっと息を潜めて見続けていた。